好きなものと楽しいこと、見つけました
本日は二話連続更新しています。こちら二話目です。
思わず、クスッと笑ってしまった。
そして回答は、すぐに出た。
「イプサンドロスの物語」
キュロス様は、オッと小さく歓声を上げた。
「そうだ……それがあったな。うん」
「……はい。ありました……」
「あとで、図書館に行ってみるといい。きっとマリーの好きなものでいっぱいだ」
「はい。ありがとうございます」
「うん。とりあえず今はしりとりだ。ものがたり、りー……リコッタチーズ」
「ズッキーニ」
「二胡。楽器の」
「東中央大陸のものですね? 音を聴いたことはないけど」
「あれはいいぞ。見目は華奢だが、じいさんの鼻歌のような、ご機嫌な音がする」
「どんな例えですか。ふふっ――こ……小麦粉」
「コーンミール・ポテトプディング」
「グリーンピース」
「スフレ」
「レタス」
「またスか? ス……ストロープワッフル」
「ルイボス」
「またスか!? マリー、勝ちに来てるな?」
「だって、勝負ですもの」
拗ねたようなキュロス様の顔が、可笑しい。わたしは笑ってしまうのを必死でこらえていた。しかし……彼の次の回答で、いよいよ大笑いしてしまった。
「……スイーツ」
「ぷっ――あははははっ! キュロス様、さっきからお菓子ばかり!」
言われて初めて気がついたらしい、小恥ずかしそうに後ろ頭を掻き、彼は反論してきた。
「いや、それでいうとマリーこそ、農作物ばかりだぞ」
「ええっ、嘘? 本当?」
「本当。さっきから、せめて果物や花じゃないのかって、笑いをこらえるので必死だった」
言ってから、とうとうこらえられなくなったらしい。彼も吹き出すと、そのまま腹を抱えて笑い出してしまった。
わたしは笑いながら、怒ってみせる。
「仕方ないでしょ、花の苗って高いんだもの! 果物は生るのに時間がかかるし。野菜は色んな料理に使えて便利なの! 美味しいし!」
「ははははは、そういう問題じゃないだろう、ははは」
「もう笑わないで、もうっ! しりとりが終わってないわ、えっと次、次は?」
「ツだな」
「ツ……つばめ」
「目玉焼き」
だめだ、また笑いそう。キュロス様ったら、お菓子を外してもまた食べ物って。
それにキュロス様から、素朴な単語が出てくるのが可笑しい。だってこれってただのしりとりじゃなく「好きなもの」縛りルールだもの。端正なお顔からボソリと出てくるのがまたシュールだわ。
ああでも笑ってばかりじゃゲームが進まない。
次はキね。キ……キ。キで始まるわたしの好きなもの――
「キュロ――……キ。…………」
「ん?」
キュロス様が、黙ってしまったわたしの顔を覗き込む。ものすごく機嫌のいい表情で。
「今、なんて言った? 最後の音……また、スで終わった気がしたが」
「き……き、す。キスって、言い、ました……」
上手に誤魔化せたと思ったのに、キュロス様はさらに目を細め、クックッと喉を震わせた。
「そうかそうか。マリーはキスが好きなのだな」
あああああ。
「……しかしまたスか、難しくなってきたな。食べ物はもう思いつかない。ス――土産」
「あ……亜麻……」
「マリー」
あああああああ。
そうして、わたしが悶絶したりまた大笑いしたり、キュロス様が何度か「またスか!?」と慟哭したりしながら、回答の数を重ねていく。
どれほど時間が経っただろう、夜も更けて……ひとつ答えるのに考える時間が必要になったころ。キュロス様が、「マリー・シャデラン」と、色んな意味でアウトな回答をしたところでお開きになった。
ちょうどそこへ、ひょっこりミオが顔を出す。
「まだやっていたんですか。私、とっくに食べ終えてしまいましたよ、おかわりまで。お茶、もう冷めてるんじゃないです?」
わたしたち二人、同時にアッと声を上げた。
キュロス様が慌ててポットの蓋を開け、小さなグラスにお茶を注ぐ。
本来、お湯で埋めるのはせいぜい半分くらいらしい。しかしぬるく、ほとんど真っ黒になった茶にはそれで全然足りなくて、味見したキュロス様は、思い切り眉をしかめてのけぞった。
「だめだ、煮詰めすぎた。……渋い」
わたしも好奇心で、分けてもらう。うっ、これは……苦い。
「仕方ない、ミルクと砂糖で誤魔化そう」
キュロス様はそう言って、ミオを厨房に遣わせたけど、置かれたのはミルクだけだった。首を傾げるわたしたちに、ミオはいつもの無表情。
「甘い砂糖ならもう、お二人とも十分ご堪能なさったでしょ」
顔を見合わせるわたしたち。
わたしは意味が分からなかったけど、キュロス様は何か、理解したらしい。顔を両手で覆って、なんだか悶えていた。