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ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される  作者: とびらの
キュロス・グラナド伯爵は新しい家族に溺愛される

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悪意のゆくえ①

 城門に近付くにつれ、何やら騒がしい気配がしてきた。


「――ですから、国葬の間、エラをおそばに置いていただければ良いと――」


 成人男性にしては少し高めの、耳に触る声。……顔を見ずとも、ダリオ侯爵だとすぐわかった。回廊まで響く声に眉を顰めながらも、歩み寄っていく。

 ダリオ・アフォンソ侯爵は、相変わらず派手な柄の、豪華な衣装だった。喪服にはとても見えないが、これがスフェイン流の喪服ならば咎められることはない。スフェインに限らず、そうした文化の国はめずらしくないからだ。老齢で、穏やかに天寿を全うした公爵様の国葬は、半分お祭りのような催しでもある。だから、朝から無言で顔を伏せているべきということはないけれど――この城では静かにしていほしい。グラナド城の主、キュロス様にとっては実父を送る日なのだから。

 キュロス様は、すでに城門前に居た。国葬の喪主にふさわしく、黒を基調にした厳かな衣裳で、ダリオ侯爵の前に立ちふさがっている。現時点、ダリオ侯爵の方が貴族階級は上だけど、キュロス様は決して頭を下げなかった。毅然とした佇まいで、グラナド城を背後に背負い、宣言する。


「必要ない。貴殿がエラを連れて、会場へと向かってくれればそれでいい。自分の家のことは自分達でする」

「そ――で、ですがご息女は気難しいお子様で……エラのほかに面倒を見られる乳母はいないと……」

「問題ない。リサの世話は俺とマリー、そして母で順番に見る」

「で、ですが……ほら、お三方とも遺族ということで、お忙しくされているでしょう?」

「しつこいぞ。もし他に頼むとしてもうちの人間に任せるよ。日中は機嫌のいい子だ。それに、エラはもともと国葬までの預かりという約束だった。本日付けで、雇用関係は解消されているんだよ」

「そ、そそんな……!」


 わななくダリオ侯爵。そこで、もう近くまで来ていたわたしに気づいたらしい。まるで救世主を得たとばかりに顔を輝かせ、両手を広げた。


「おおっマリー様! ひと月ぶりでございますね、ご機嫌麗しゅう!」

「義父の葬儀に機嫌が良いということはないですが」


 わたしは即座に言い放つ。わたしの冷たい声色に、ダリオ侯爵は少したじろいだ。顔を半分引きつらせて、言葉を選ぶ様子を見せた。


「そ、そうですね……これは失礼をいたしました。しかし先日お会いした時よりも、ずいぶん顔色が良いようすだったので」

「ええ、確かにあの頃はろくに眠れてもいませんでしたので。今はおかげさまで、しっかり休めるようになりました」

「ですよね!?」


 急に元気になるダリオ侯爵。唾が飛んできそうなのを、キュロス様がわたしの前に出てかばってくれる。

 その時だった。不意に、ダリオ侯爵の顔がぱあっと明るく輝いた。わたしの後方に向かって叫ぶ。


「エラ!」


 わたし達も振り向くと、そこにはエラさんがいた。後ろにはぴったりと、ミオとトマスがついて、歩かせている。まるで処刑台に向け二人に連行されていくような形で、エラさんはうつむいたまま、ゆっくりと こちらへ歩いてきていた。焦れたダリオ侯爵が駆け寄っていく。


「エラ! これはどういうことだっ!? 伯爵に見初められて赤子の乳母に任命されたと、伝書ではそう言っていたではないか! あれは嘘か!?」


 問い詰められて、エラさんはヒイイッと泣き声を上げた。逃げ出そうとしたのを、背後のミオ達が阻む。仕方なく震えながら、侯爵に弁明を始めた。


「あっ、ちっ、違、それは、それは本当です、ただリュー・リュー様……が。孫を見たいからって、わ、私は。そしたら私は邪魔で、もう用済みだから――」

「人聞きの悪い言い方はおやめください」


 エラさんの後ろで、ミオが不機嫌な声で言った。


「それではまるで、リュー・リュー様が意地悪な姑のようではないですか。実母をそんな風に言われると、旦那様がお怒りになりますよ」

「ひいっ! ごめんなさい! 失礼しました、許して……」


 震えあがるエラさん。どちらかというとお怒りなのはキュロス様よりミオのようだったけど……それはさておき。

 ミオの言う通り、キュロス様は明らかに眉をひそめ、不愉快そうに顔をゆがめていた。一歩、エラさんに近づくと、低く呻くような声で言う。


「人を悪役に仕立てるのはいい加減にしろ。そんなことをされても、おまえに対し不信感が募るだけだ」

「……ひっ……ご、ごめんなさい……」


 キュロス・グラナドは背が高い。大きくて凛々しくて、目つきにも声にも迫力のある男性だった。ただでさえ体格差があるところを、エラさんが震え上がると、まるでキュロス様が折檻をしているように見える。それを自覚してか、キュロス様はますます不快そうに顔をしかめた。


「今度は俺が悪役か。君と話していると、自分が魔王にでもなった気がしてくるよ」


 それから、ダリオ侯爵へと向き直る。


「まさか不当解雇だなとと言うまいな、侯爵。もともと、エラは四か月だけ預かる約束だった。その日から今日までちょうど四か月――契約解除をして何の問題もあるまい?」


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― 新着の感想 ―
読み間違えで無ければ、雇用契約期間は1ヶ月では。それが4ヶ月に延長されていますが。
[一言] エラみたいな人っているんですよ、実際! 生まれついてのものなのか意図的なのかは別として。 ・・・エラがどの様な処分になるのか、 更新をのんびりと楽しみに致しております。
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