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ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される  作者: とびらの
キュロス・グラナド伯爵は新しい家族に溺愛される

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244/325

失敗してしまいました

 お風呂を終えて、部屋に戻ると、エラさんがいた。


「お帰りなさい、マリー様。今リサ様はご機嫌で遊んでいますよ」


 リサと遊んでくれていたらしい、床に座り込んで、何かおもちゃを囲んでいた。それはとても微笑ましい光景だったけど。


「ぐすっ……くすん」


 どこからか小さな泣き声が……。声の主を探して部屋を見回すと、窓辺のカーテンが不自然に膨らんでいるのを発見。泣き声も、そのあたりから聞こえる。近づいて、そうっと開いてみると、ツェツィーリアが、カーテンを体に巻き付けてクスンクスンと泣いていた。


「ツェリ?」

「マリー!」


 声をかけた途端に叫び、わたしに抱き着いてくるツェリ。


「マリー! マリー、マリー、マリーぃぃ、ううーっ」

「ツェリ、一体何が……」


ツェリはわたしのスカートにしがみつきながら、なんとかわたしに説明しようとしたけれど、言葉にならないようだった。ツェリはその幼い年齢らしく、なんなら年よりもちょっと天真爛漫な性格の子だけど、こんな風に泣きじゃくるなんて初めてのことだ。本当に一体何が……。


「――エラ、が、エラが……!」

「エラさんが?」


 ツェリが指さすほうに視線をやる。と、エラさんが何かを手に抱えて、立ち上がっていた。さっきまでリサと遊んでいたオモチャだ。それを見て、わたしはアッと声を上げた。

それは、木製の細工物だった。鳥籠に似た物の中に、五つの玉が閉じ込められている。あれは……姉のアナスタジアが。わたしにくれたもの。見習い職人――といってもわたしからはプロ顔負けにしか見えない――姉の手作りで、この世にたった一つしかない、大切なもの……。

ツェリはわたしのスカートに顔を埋め、泣き叫ぶ。


「あたしダメって言っただけだもん! ダメだもん、それはマリーのお姉ちゃんがくれたの、だから勝手に使っちゃダメって、あたしだって、ダメなのに……!」


 あっ――わたしは言葉を失った。

 そうだ。少し前、ツェリを叱ったことがあったの。「この玉ってどうやって入ってるの?」って、籠を乱暴に開こうとしたから、ダメだよって。それはただ乱暴にして壊さないでという意味で、ツェリに触らないでと命じたわけではないけど……。ああでも、これは大切なものだから、わたしが居ない時は触らないでねと言った気がする。

 エラさんはおもちゃを持ったまま、不思議そうな顔をしていた。


「ごめんなさい、私なにか間違ったことをしたでしょうか? 丁寧な細工物だとは見てわかったので、乱暴な子どもに触らせないようにしながら、リサ様と遊んでいただけなんですが……」

「ツェリは乱暴な子どもなんかじゃないっ!」


 エラさんを睨んで絶叫するツェリ。どうしよう――わたしにはどちらの言い分も分かる。ツェリの気持ちも分かるし、エラさんの言うことは正しい。わたしはかなり悩んで、言葉を選んでから、ツェリの前に膝をついた。視線を合わせて、ゆっくりと諭す。


「ごめんねツェリ、わたしの言い方が悪かったのね。大丈夫よ、乱暴にさえしなければ、誰が使っても……。エラさんは乳母をやってくれているの。リサのおもちゃを使っても、エラさんは何も悪くないわ」


 わたしの言葉に、ツェリは涙にぬれた目を見開き、わたしの顔を見つめた。『裏切られた』と、ショックを受けたような表情。

わたしはそれで、慰める言葉を間違えたのだと悟った。慌てて何かフォローしようとしたけれど、正解の文言が分からない。


「ツェ……」

「マリーの馬鹿!!」


ツェリは子猫のように素早く、部屋を飛び出してしまった。


「ツェリ!」


 呼んでも止まらない。わたしは追いかけようとしたけれど、後ろで大人の泣き声がして、足を止めた。


「ごめんなさい! ああ私、また何かいけないことをしてしまったのですね。ごめんなさい、どうやって償えばいいか、ごめんなさいごめんなさい」


 エラさんが涙を流して謝っている。違う、エラさんが悪いわけじゃない。わたしは泣くエラさんの手を握って、ありがとうとごめんなさいをたくさん言った。


 エラさんを慰めながら、ツェリに言うべきだった言葉を模索する。


 ツェリは……あのおもちゃを、『リサのものだからダメ』とは言わなかった。『マリーの大事な物』と言っていた。

 ツェリは、守ろうとしてくれたんだ。わたしとの約束だけじゃなく、わたしの大事な物を、エラさんから……。


 ……八歳児のツェリにとって、エラさんはほとんど見知らぬ大人で。彼女に意見をするのは、怖くて、勇気のいることだったろう。わたしは――ツェリに謝るべきじゃなく、褒めて、お礼を言うべきだった。わたしの大事な物を、守ろうとしてくれてありがとうって……。


 エラさんが泣き止む頃には、ツェリの可愛い足音は、もうはるか遠く……聞こえなくなっていた。


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