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悪魔が笑う

午前から始まった交流戦は、休憩を挟み、チームやルールを変えて続いていた。

一日限りだけど物語の能力をまた使うことができる。

始めは戸惑ったものの、命に関わることも無ければ奪うこともない、ただ楽しむだけを目的とした交流戦は純粋に楽しかった。それは、学園祭や体育祭のような高揚感に似ている。

明日になれば消えてしまうのが惜しいと感じるくらいだった。



時間が経つにつれて参加できる人も減っていく。

中西や内藤は仕事があるからと言い、他の者は満足したのかこれ以上の時間はないのか、一言断りを入れて校庭から去っていった。

「先生達はしょうがないよね」

麗は隣にいる凛の顔を見る。

生徒達は春休みでも教師は働いている。時間は限られているのは分かっていた。

「でも、さ…」

麗と話していた凛はちらっと右を向く。

(さやか)と実月から離れた場所に結城がいる。休憩時間を設け、次の試合の組み合わせを決めようとした時、結城が口を開いた。

「私は参加はしない」

それだけ言うと、校庭の中心から離れてしまったのだ。

それを見ていたのは麗と凛だけではなかった。

トウマと滝河も結城の言葉が引っ掛かっていたのだ。

「参加しないけど見るっていうことだろうな」

「だな」

滝河とトウマも結城が参加せず傍観することが気になっている。

結城も教師だ。中西と内藤のように仕事はあるだろう。

あの言葉は何かあると勘繰ってしまう。

二人がそう思っていると背後から声が聞こえる。

「トウマ様、滝河くん」

二人が振り返るとそこにはカズとフレイがいた。

「俺達も用があるのでお先に失礼します」

カズが帰ることを告げると二人同時に頭を下げる。

「分かった」

カズとフレイともっと遊びたかったが、二人にも用はあるだろう。

それに、カズとフレイの関係はこれからも変わらない。

トウマは二人の背中の見送り、残っている人物を確認する。

「(…あいつはまだいるか)」

まだこの場にいるということは戦う意志があるということだ。

戦うこととは別にトウマは高屋を警戒していた。

高屋が使う幻桜術(げんおうじゅつ)は物語とは関係のない能力だ。

他はまだ分かっていないが麗だけを操る力を持っている。麗から聞いた話によると、凛が操られたことはあるがそれは呪文を発動していたらしい。自分がその場にいなかったから確かめることはできないが、どちらも警戒することには変わらない。

「(操られたらきついな…)」

物語と関係のない能力なのに、何故か物語の能力で解放できる。けれど、仲間が操られればその能力を痛いほど感じることになる。

それに戦いといえど、女性に手を出すのはほんの僅かだが躊躇ってしまう。

「(けど、一歩間違えばやられる)」

トウマが考えていると、まるで考えに区切りがついたことを見透かしていたように明が声を上げる。

「それではくじを引きに来てください」

トウマは考えることを止め、くじが入った箱を持つ実月に近づいた。


全員がくじを引き、紙に書かれている数字と相手の顔を見てそれぞれが顔を見合わせた。

それぞれが何か言いたげな顔をしている。

誰かが言葉を発するより先に声を上げたのは明だった。

「今回も十五分後に能力を解放します。戦闘範囲は外。校舎や講堂、体育館など建物に入った場合、行動は可能ですが、力を使ったり戦闘はできません。違反した場合、行動不能とします」

これまでと変わらないルールを聞きながら、誰もがこれからどうしていくかを考えていた。

期待している者、明らかに動揺している者、何も考えていない者、そんな参加者を見ながら明は説明を続ける。

「封印術と禁呪、それに加えて能力以外の力の使用禁止します」

大きく反応しなかったものの明の言葉に反応したのはトウマと高屋だった。

物語の力とは別にトウマは護影法(ごえいほう)、高屋は幻桜術(げんおうじゅつ)という力を使える。

護影法は影を作り出すことができる。トウマの影があれば存在し、影を伸ばしたり意志を持つ人の形を作り出すこともできる。

幻桜術は物語の能力に関係なく特定の人物を操ることができる。

物語の力とは関係ないはずなのに、浄化の力や状態異常回復魔法で解除できる。

どちらも使えば術者にとって大きな力になっている。

参加者全員ではないが、トウマと高屋の能力を知っている者は多いだろう。

身の危険を感じた時など、習慣のように使うことはある。

「(咄嗟にエイコを呼ばないようにしなきゃな)」

「(咄嗟に使わないようにしよう)」

図らずしもトウマと高屋は同じことを考えていた。

慣れというものは恐いもので考えるより先に動くことがある。トウマと高屋はそれを意識しながら、これからの戦略を考えていたのだった。

「また、精霊の干渉は可能ですが、過度に干渉した場合、私達で行動を制限します」

その言葉に何人かが反応する。

精霊を呼び出せる者は何人かいる。魔力の消費は激しいもののその力は絶大だ。

物語では風の精霊シルフは風村悠梨、地の精霊ノームは藤堂渉という人間の姿を作って学園生活を送っていた。

特別な言葉を紡ぎ出せる者を探し、その力を与えていたが、物語が終わった今は精霊の姿ではなく人間の姿のままだ。

他の精霊も学園内に潜み、特別な言葉を紡ぎ出せる者を探していたようだ。

そんな精霊が力を貸してくれるなら心強いが、過度な干渉がどれくらいを表すのかは分からない。

私達というのは明と隣に立つ実月のことだろう。

召喚するタイミングによっては状況が大きく左右されるだろう。

「それでは十五分後に能力を解放します」

これからのことを考えながらも、明の言葉によって麗達は動き出した。


くじを引いて、皆と顔を見合わせてから麗は悩んでいた。

今までに無い組み合わせだ。

それがこんなに悩むとは思わなかった。

同じ番号の紙を持つ人達が自分に向かって歩いていても眉間の皺はよったままだった。

「(高屋さんと月代さんと同じチーム…)」

麗は高屋と月代を見る。

高屋と月代は物語では敵だった。高屋とは学園祭の時に一時的に一緒にいたが、一緒に戦ったといえば微妙なところだ。月代とは一緒にいたことさえ無い。

途中の記憶は無いが、物語と同じで月代は背徳の王と呼ばれる者に意識を乗っ取られ、麗は背徳の王によって一度、命を落としたのだ。

その時は背徳の王としての力を痛感したが、月代としての能力は不明だ。

「(私と同じで翼を出せるんだよね?)」

麗と月代に共通しているのは、特殊な言葉によって翼を出せること。ちゃんと神経が通っていて動かすことができる。梁木と凛も同じだ。

ただ、二人と違うのは自分も特殊な言葉によって翼を出すことができても、覚醒した時は常に出していたいと思わない。咄嗟に翼を出すことはあるし、翼を出して飛べば魔法で空を飛ぶより魔力の消費は抑えられると思うが、何となく普段より動きにくいかもしれない。麗はそう思っていた。

「(それに鳴尾さん)」

鳴尾は誰かと一緒に戦うということはしないだろう。

とても好戦的で自分の邪魔をされるのを嫌う。

味方と分かれば心強いが、協力して戦うことはできないだろう。

「(手助けしたら私がやられそう…)」

接する機会が少ないものの、物語に関わってから鳴尾に対してなんとなくそう思うのであった。

「レイ」

ずっと考えていて気づかなかったが、いつの間にかトウマ、高屋、鳴尾、月代が麗の近くにいた。

「思っていたより悩んでるな?」

「…うん」

麗の考えていることが分かったのか、トウマは探る様子もなく尋ねる。

虚勢を張っても無駄だと思い、麗は素直に頷いた。

「確かにこの組み合わせだと、あっちは保守的なやつが多い。けど、一歩間違えればあっという間にやられるだろうな」

麗は少し離れたところにいる凛を見た。

凛の周りには梁木、滝河、大野、佐月がいる。

「……」

皆、自分とは違う能力を持っている。何度も助けられたし、交流戦で敵になった時は改めてその能力に辛酸を嘗めた。

「(自分が強いわけじゃないけど油断できない)」

仲間だからこそ考え方や戦い方も少しは分かってきたつもりだが、一筋縄ではいかないだろう。

そう考えつつ、これからのことを話し合いたいと思っているとそれまで何かを考えていたトウマは後ろにいる鳴尾に声をかける。

「彰羅」

「あ?」

突然、名前を呼ばれた鳴尾はほんの少しだけ驚いた顔でトウマの顔を見る。

急に名前を呼ばれるとは思わなかったようだ。

「あいつらの意表を突かないか?」

あいつらとは凛達のことだろう。

それを分かった上で鳴尾は不機嫌な顔をした。

「俺のやり方に口出すのか?」

「いや。俺も面倒事は増やしたくない」

鳴尾は自分のやりたいことに口を出されるのを好まない。鳴尾がどう反応するか分かっていた、

戦闘中に鳴尾に手を出せば、攻撃が自分に向く可能性がある。

トウマはそれを面倒事とはっきり伝えた。

「純哉達は、お前が馬鹿正直に強いやつを狙うことを知っている。その裏を突けばより戦いが面白くなるんじゃないかって思っただけだ」

鳴尾は言い返そうとして、ピタッと動きを止める。

「月代はまだどんな戦い方なのかはっきりと分からないし、高屋は俺の言う事を聞くつもりはないだろう」

思っていたことをその場で伝えるのは、協力して戦うことができないと判断したのかもしれない。

月代は話に耳を傾けてくれるかもしれないが、余程のことがない限り、高屋がトウマの話を聞くことはないと思ったのだ。

普段なら相手が誰であっても自分の考えを曲げないが、鳴尾は俯いて何かを考えている。

「(トウマ兄だろうがごちゃごちゃ言われたくねーけど、確かにそのほうがもっと楽しくなりそうだ)」

どっちが楽しくなるか。そう考えて鳴尾は顔を上げた。

「分かった」

鳴尾の言葉に麗は驚く。

相手がトウマであっても言い返すと思っていたからだ。

「(何かあったのかな?)」

トウマの言うことをだから聞いたのか、鳴尾の心境の変化なのかは分からない。

自分が言っても聞いてくれなかっただろう。

驚いたのは麗だけではなかった。

「(赤竜士が神竜の言葉を聞いた)」

自分達は状況に応じて協力はするが、いつも一緒にいるわけではない。

それに、仲良しごっこは好まない。

トウマが思っていたことを隠さなかったのは、この組み合わせでは協力して戦うのは難しいと判断したのだろう。

自分が指示をしても聞いてもらえそうにないし、特にトウマに指示をされて従うつもりはない。

それぞれがどんな戦い方をするかを考え、状況を見て判断を変えていくしかない。

高屋は顔には出さず、自分なりにどう行動するか考え始めた。

そうしている間にトウマと麗は話を続けていた。

「相手は俺達の動きや考え方についても相談してるだろう。レイは何か考えてるか?」

トウマの言葉に麗は考える。

今まで通りの行動をすれば自分達の行動は読まれているだろう。

「多分、最初に凛は私、滝河さんはトウマか鳴尾さんを狙うと思う。大野さんと佐月さんはサポートして……」

そこまで考えて、あることに気づく。

「そっか…。だから、トウマは意表を突こうって思ったんだね」

「そうだ」

麗がそれに気づいたことにトウマは頷く。

物語の能力者として過ごしてきた時間は長い。誰がどんな能力を持っているか、どんな戦い方をするから分かっているつもりだ。

一緒にいる時間が長いと、なんとなく見えるものはある。

だが、戦いにおいてはそれが裏目に出ることがある。

麗ならどう動くか。それは凛達も考えてるはずだ。もしも、それと逆の行動をすれば相手は驚くかもしれない。

「じゃあ、凛達を驚かせないとね」

トウマが何を言いたいか理解した麗はトウマの顔を見て口角を上げた。

「では、僕は貴方のサポートに回りましょう」

麗の言葉に反応を示したのは高屋だった。

高屋は麗の顔を見て笑う。

思わぬ一言にトウマは高屋を睨む。

それに気づいて臆すること無く高屋も睨み返す。

「意表を突くと提案したのは神竜では?」

「…お前が俺の言うことを聞くとはな」

自分の言葉に反応するとは思わなかったトウマはほんの僅かに驚きながらも態度に出さないようにしていた。

「まさか。ただ、貴方達の行動が読まれやすいなら僕らしくない行動を取ろうと思っただけですよ。それとも、気に入らなければ影を使って僕を見張りますか?」

「術以外でもお前を監視する方法はいくらでもあるからな」

皮肉には皮肉、挑発には挑発を返す。

睨み合う二人に見えない火花が散っているような雰囲気だ。

「(トウマの術がエイコさんを呼び出して、高屋さんの術が人を操るんだよね)」

高屋の術によって操られた時の記憶はない。

幻桜術を使われたら自分がどうなるか分からないし、高屋は行動不能になる。

「(行動不能になったら二人いなくなるから勝ちたいけど…)」

麗は不安げな顔でトウマと高屋を見る。

二人は睨んだまま一歩も引く様子はない。

「(…協力は難しいかも)」

トウマと高屋を見ながら麗はこれからのことを考えるのであった。



一方で凛は考えていた。

「(姉さんには言ったけど…やっぱり勝ちたい)」

一緒のチームになった時は勝っていたが、別のチームで戦った時は負けていた。

誰と組むか、その時の状況によって変わるものだが交流戦の中で凛は麗に勝ったことがなかったのだ。

今までとはまた違う組み合わせに思考を巡らせていた。

くじを引いて真っ先に麗が持っていた紙を見て落胆した。

また負けるかもしれない。そんなことが頭をよぎる。

「凛」

皆が集まってもずっと考えていたのかもしれない。

滝河の声で凛はハッとする。

気づけば自分の周りに梁木、滝河、佐月、大野がいた。

「組み合わせについて考えていたな?」

滝河の言葉に凛は頷く。梁木、佐月、大野の顔を見ると自分と同じような顔をしていた。

「どちらかといえば、こっちは補助に向いているやつが多い。高屋、月代、彰羅がいて連携が取れるか分からないが、警戒するに越したことはない」

凛は少し離れたところにいる麗を見る。

麗の周りにはトウマ、鳴尾、高屋、月代がいて何を話している。

鳴尾は突然、勝負を挑まれてその強さに辛く苦しい思いをしたが、高屋と月代がどんな戦い方をするのか分からない。

「(高屋さんはルト、月代さんはマリスの能力を持ってるんだよね)」

月代をはじめ、物語は終わっても実際に能力を見たことがない人もいる。

凛は高校二年の二学期に透遙(とうよう)学園に編入した。

WANDER WORLDというゲームは編入する前に麗から聞いたことがあった。

高校生になってゲームにハマった。麗からのメールでそれを知った時は話題の一つとして捉えてなかったが、ゲームの登場人物と同じ能力が使えると知った時は疑った。

絶対に有り得ない、と。

透遙学園に編入した時は知らなかったが、図書室にゲームと同じ内容の本があり、何の条件かは分からないが余白のベージに新しい物語が書き込まれていった。

最初は自分だけがこんな事に巻き込まれたと思っていたが、実際は双子の姉である麗を含めて身近な人物が物語に関わっていたのだ。

色々な出会いがあったし、今でも信じられないくらいの体験をしている。

勉強も交友関係も、非日常なことも含めて透遙学園での一年半は今までの人生で大きな変化があり、たくさんのことを学ぶことができた。

凛は梁木と話している滝河を見つめる。

改めて、自分以外がどんな能力を持っているか思い直す。

「多分だけど、姉さんはあたし、トウマさんか鳴尾さんは滝河さんを狙うと思う」

鳴尾は強い人に勝負を挑んでいる。今回もトウマや滝河を狙うと考える。

精霊を呼べるかもしれないということを考えれば自分か大野だが、滝河のほうが強いと思っている。

凛の意見に四人が頷く。同じような考えだったようだ。

「…でも」

何か違う気がする。

ふと、そう感じた凛は少しだけ俯く。

それに気づいたのは梁木だった。

「凛さん、どうしました?」

梁木の一言で凛はハッとする。

自分の考えていることを説明するのは難しいが四人は自分を見ている。凛は伝わるように説明する。

「なんとなく、なんだけど何か違う気がするの」

「例えば?」

今度は大野が尋ねる。限られた時間の中でできるだけ意見を共有しておきたいと思ったのだ。

「姉さんはあたし、トウマさんか鳴尾さんは滝河さんを狙うと思うけど…、あたし達が考えてることは姉さん達も考えてそうっていうか、それと逆のことをしたら勝てるかもしれないって…」

言い終わる時には声が小さくなってしまったけど、四人の顔を伺うと言いたいことは伝わったと感じた。

今までの戦い方なら負けるかもしれない。

けど、相手の予想を裏切るような行動をすれば、もしかしたら勝機が見えるかもしれない。

初めから負ける気持ちで戦いたくない。

「確かに俺達が考えてることはあっちも考えるだろう。無理をすれば元も子もないが、相手の不意を突けばいけるかもしれない」

「あたし達が持っている能力を知っている分、考え方を変えれば隙を作れるかもしれません」

滝河の言葉に佐月が同意する。

何度も助けられたし敵になった時はその力に圧倒された。

無理をすれば一気にバランスが崩れてしまう。けれど、やらないで負けたくない。

負ける気持ちで挑みたくないのは四人も同じだった。

凛達は限られた時間の中で話し合う。

「そろそろ時間だ。移動しよう」

滝河の一言でそれぞれが動き出す。

麗達がいた場所には、もう誰もいない。

「……」

どうなるか分からないけどやるだけやろう。

そう思いながら凛も移動しようとしたその時、ふわりと柔らかな風が吹いた。

「…えっ?」

今日は良い天気で適度に風が吹いていて動きやすいが、それとは違う何かを感じて足を止める。

振り返っても誰もいなかった。

まだ覚醒はしていない。

でも、確かに彼女が自分に声をかけたような気がした。


約五分後。

始まりを告げるブザーが鳴り響く。 


梁木は人気のない校舎裏にいた。

ブザーが鳴り響くと、梁木は背中にそれがあることに気づく。

特殊な言葉を発動させなくても自分の背中には真っ白な翼がある。

可能な限り相手の予想を裏切る。

そう決めた後、梁木は気配を消して空から偵察と攻撃に回ることにした。

有翼人(ゆうよくじん)の能力者は翼を出す時に魔力を使わない。

もしかしたら、他の人は違うかもしれないが自分は魔力を使ったと感じたことがない。翼があることを有意義に使いたい。

「(翼を出せるのはレイ、凛さん、月代さん。飛空呪文を使えば誰でもできるけど僕は僕なりにやろう)」

誰がどんな手を使ってくるか分からない。

梁木がゆっくりと翼を広げようとした時、やや遠くから声が聞こえる。

「ショウ!」

梁木が振り向くと、シルフが悠梨の姿になって近づいてきている。

今回の試合では精霊の干渉については何も問題はない。

風の精霊シルフとしてか風村悠梨として人間の姿でいてもどちらでもいいはずだ。

自分に用事があって現れたのだろう。

「ユーリ、どうしました?」

梁木が名前で呼び捨てにする数少ない相手の一人である。

最初に物語に関わった時にいたのが麗、悠梨、トウマの三人だ。物語に関わるようになってから今でも話し方や関係性は変わっていない。

風の精霊シルフの時は柔らかく、静かな雰囲気だが、風村悠梨の時は元気で明るい。風村悠梨が作り出された姿ならば、どちらが本来の性格なんだろうか。

そもそも、精霊に人間と同じように感情があることに驚くが、またこうして悠梨と接していると気にならなくなっていた。

「ショウにさ、これを渡そうと思って」

悠梨はスカートのポケットに手を入れるとリップクリームを梁木に差し出した。

「これは?」

「え?リップクリーム」

「それは分かりますよ」

梁木は即答した。

自分は使わないが、クラスメイトや家族が使っているのを見たことがある。五センチくらいの手の中におさまる大きさのものだ。

自分には必要ないし、どうしてこれを差し出したか分からない。

「あたしのなんだけど貸してあげる」

「えっ?」

「ショウなら一番、意外かなって思ってー」

悠梨の言葉に梁木は驚く。

こんな時に何を言っているのだろう。梁木がそう思うのと同時に悠梨はスッと梁木に近づいた、

「………」

誰にも聞こえないように囁いたその言葉に梁木は耳を疑った。

それが本当なら大きな力になる。

「レイを驚かせよーよ!」

梁木から離れた悠梨はいたずらを企む子供のような顔をして笑っていた。

同意するように梁木が頷くと、悠梨は風のように消えていった。

「(佐月さんはあっちにいるはず)」

梁木はリップクリームをズボンのポケットにしまうと、なるべく音を立てずに翼を広げて屋上へ向かった。


屋上は誰もいなかった。

空を見上げても誰もいないが気配を消しているか魔法で姿を消しているのかもしれない。

書いている途中で襲われる可能性も充分に考えられる。

梁木は警戒しながらもリップクリームを使って着実に床に書いていた。

「(書けた)」

リップクリームを使いきるとスッと消えていってしまった。

屋上と校庭は遮るものが少ない分、攻撃を当てやすい。

狙われやすいという欠点もあるが、戦う場所に屋上を選ぶ人も多いだろう。

「(後は佐月さんを探せば)」

試合前に話した通りに佐月を探そうとした時、不意に突き刺さる殺気を感じて咄嗟にその場から離れる。

それが誰なのか判断する前に梁木は魔法を発動させた。

「プロテクション!!」

魔法を発動させると、梁木の前に円形の盾のようなものが現れ、梁木の身体を覆うように包む。

それと同時に腕に痛みが走る。

「ちゃんと避けたな」

目の前にいたのはトウマだった。

トウマは梁木が避けたことに驚かず、梁木と距離を置いて着地する。

「(違う。避けやすいように攻撃したんだ)」

梁木は気づいていた。

梁木とトウマの力の差は大きい。

トウマが自分の殺気だと気づかせるつもりだったのか、本当に不意を突こうとしたのかは分からない。

考える間もなく物理的な攻撃を軽減する魔法を発動させて正解だった。

梁木は翼を広げて地面から離れる。

「屋上に行けば誰かいると思ったが、ショウだけか」

トウマは翼を広げて宙に浮く梁木を睨む。

「フレアブレス!!」

魔法を発動させると、トウマの周りに炎と風が吹き出し、それが左腕に集まり渦を巻くと、腕をなぎ払うようにして放った。

炎は勢いを増して加速し、梁木に向かっていく。

トウマが魔法を発動させたと同時に梁木も魔法を発動させていた。

「フレアブラスト!」

梁木の周りから無数の炎の刃が現れてトウマに向かって加速していく。

炎と炎がぶつかり、あっという間に消えると砂埃が起こる。

砂埃が揺れ、トウマは目の前の殺気に気づいて後ろに下がった。

その気配が誰のものか気づいていた。

「純哉もこっちに来たか」

ゆっくりと砂埃が消え、トウマが視線を向けるとそこには滝河がいた。

「やっぱり気づいたか」

滝河はトウマが避けると分かっていて蹴りかかった。

魔法を発動させてからトウマは考えていた。

「(ショウも分かってるな)」

屋上はファーシルの能力を持つ暁と火の精霊サラマンドラがいた場所であり、他の場所より火の魔法の効果は大きい。

トウマは梁木が同じことを考えていると思い、距離を詰めようとする。

「(純哉の間合いに入るか)」

自分は今、屋上の出入口近くにいる。

今のところ気配は感じないが、誰かが来る可能性は十分にある。動き次第ではあっという間に不利になってしまうだろう。

トウマが新たに魔法を発動させようとした時、まるで自分の場所にだけ風が吹いたように感じた。

ステップを踏むような足音に気づいた時、背後から声が聞こえる。

「スロウダンス」

トウマの真下に青く光る時計のような魔法陣が浮かび上がり、描かれた時計の針が反対側に動いていく。ゆっくりと針は動き、魔法陣は消えていってしまう。

「…佐月」

トウマが振り返るとそこには佐月が立っていた。

誰かが背後にいることに気づかなかった。

気配を探れなかったことに驚いている。

佐月は軽やかに距離を置くとトウマを見つめる。

「この魔法をかけられるのがトウマ様だと思いませんでした」

佐月も驚いているようだが更に魔法を発動させる。

「フェザーハイド」

魔法を発動させると、佐月の頭上に白い魔法陣が描かれ、そこから白く輝く光が降りかかる。

光は佐月に降りかかり、佐月の姿が少しずつ消えていく。

滝河は意識をトウマの方に向ける。

「(気配すら探れない魔法なのか?)」

物音も聞こえず、佐月がいる気配もない。

その魔法を初めて見たトウマはもちろんのこと、梁木と滝河も目を見張る。

自分の力を過信しているわけではないが、佐月が魔法を発動してから姿を消すまで一分もなかった。誰かと合流するために姿を消したのだろう。

「(姿を消す魔法か?)」

トウマも佐月の気配を探している。

今度こそ佐月の気配は無い。

佐月だけに意識を集中させれば気配を探ることもできなくはないが、今はそれが難しい。

トウマはそう考えながら次の手を考えていた。

また、梁木も佐月の魔法に驚いていた。

「(一時的に姿を消す魔法は知ってたけど、それとは違う魔法…)」

梁木は一時的に姿を消す魔法は知っていた。しかし、今、見た魔法はそれとは違う。

前に見た魔法は、一時的に姿を消すことができるが少しでも動いたり声を出せばその効果はなくなってしまうものだった。

あの魔法がどれくらい持続するかは分からないが、恐らく佐月は動いている。

佐月は自分達の中でも、一緒に行動したり戦ったりすることは決して多くはない。それは、まだ自分達が知らない手があるということだ

「(多分、レイのとこかもしれない)」

試合前、佐月は提案していた。

屋上に隠れて誰かが来たら動きを止める。その後、移動して他のメンバーのところに向かう、と。

そう聞いた時はどんな手を使うのか考えたが、佐月は時の属性の魔法も使える。

恐らく、時の魔法で相手の動きを遅くしたのだろう。

それによってこちらが動きやすくなるが、相手はトウマだ。攻撃の威力が変わったわけではないし、多少の動きが変わっても速いことに変わりはない。

砂埃によって屋上の地面に描かれた魔法陣が見え始める。

(少しでも油断してる今なら…!)

それに気づいた梁木は滝河が立っている場所を確かめる。魔法陣を描いた場所にいるがトウマより離れた場所にいるので反射的に避けてくれるだろう。

トウマに気づく前に手は打っておきたい。

梁木は言葉を発動させた。

「風よ!!」

その言葉と同時に地面に描かれた魔法陣が光り、そこから強風が吹き荒れる。

強風は球体状に覆っていく。

「?!」

トウマと滝河は驚いて魔法陣から離れようとした。滝河は魔法陣の端にいたからすぐ避けることができたが、トウマは魔法陣の中心から近い場所に立っていたため球体状の強風の中に取り残されてしまう。

球体状の強風の合間から幾つもの風の刃が吹き荒れている。

梁木が描いた魔法陣は幾つもの風の刃を起こすものだ。

それがシルフによってどんな効果があるか梁木は驚いたが、滝河も驚きを隠せなかった。

それは鏡牙(きょうが)を探している時、食堂横にある鏡に描かれた魔法陣と同じだった。

あの時は分からなかったが、同じものをもう一度見ることができると思わなかったのだ。

それが誰のものか、ずっと気になっていた。

滝河は空を見上げて梁木に問いかける。

「梁木!この魔法陣は何なんだ?!」

驚きと焦りが混じった滝河の声に梁木は答える。

「これは風の精霊シルフ…ユーリの力です!」

説明すると長くなる。梁木は簡単に伝えた。

梁木の言葉を聞いて、滝河は驚きと同時に納得した。

今回のルールは精霊の干渉は可能である。過度がどれくらいかは理事長が決めることだが、この強大な力がシルフのものなら納得できる。

「(あの時、鏡に描かれた魔法陣もシルフの力だったのか)」

いつから精霊が動いていたかは分からない。けど、あの時、シルフが鏡に魔法陣を描かなければ鏡牙を見つけるのが遅くなっていたかもしれない。

疑問は二年以上の時を経て、解決された。

「(これだけ強大な魔力だ。誰かが駆けつけるかもしれない)」

佐月の魔法の効果がどれくらい続くか分からない。

滝河もトウマに攻撃を仕掛けようとしたその時、背後から無数の風の槍が梁木と滝河に襲いかかった。

それに気づいた二人は無数の風の槍を避ける。

「月代!」

無数の風の槍が放たれた方を向くと、月代が翼を広げて宙に浮いていた。

「(月代が兄貴のサポートに回るとは)」

相手の意表を突く。どうやら相手のチームも自分達と同じ考えのようだ。

滝河はそう考え思考を巡らせる。

空から現れた月代は、何が起きているか推測しながら梁木と滝河を見た。

「(物語では全員、敵対していた)」

月代は試合前のことを思い出す。

作戦を練っていた時、麗は月代に問いかけた。

「月代さんはマリスの能力者なんだよね?」

どうして、今、そんなことを聞くのか分からなかったが間違っていなかったので月代は頷いた。

「物語でマリスとミスンは同一人物って書かれてたけど、月代さんはミスン…橘さんの能力は使えるの?」

麗の言葉を聞いて月代は考える。

能力者は物語の内容を知っている。つまり、自分がマリスの能力者であり、橘がミスンの能力者であることも知られているだろう。

物語の過去でマリスは元々はルマという名前で、ラグマによって生まれ変わって新たな力と名前を与えられた。

その反動で生まれたのがミスンだ。ミスンは元に戻るため、マリスは元に戻りたくないために戦い、結果、二人は一人になった。

この時間を通して、橘の存在や能力について考え、また自分にも橘のような考え方があったのだと感じる。けれど、橘と同じ戦い方ができるかどうか分からない。

「あいつと同じ魔法は使えるかもしれないが、俺の中にあいつがいる感覚は正直、分からない…」

橘は自分が知らない魔法を使うし、自分と扱う武器が違う。

自分は長剣、橘はワイヤーのようなものを使う。

もしかしたら意識すればできるかもしれないが、それを試したことはない。

月代は思ったままの言葉を伝えた。

「そっか」

麗は期待したり残念がる様子もない。

ただ、自分がどんな力を使うか確かめたかったようだ。

そんなことを思い返しつつ、試合のことに意識を向ける。

「(俺は俺、あいつはあいつだ。けど…)」

ほんの少しだけ右手をきゅっと握る。

月代の右手にうっすらと光る糸のようなものが見えた。


開始を告げるブザーが鳴り響いた時、凛は校舎の一階にいた。

「(力を使わなければいいんだよね)」

建物の中に入った場合、行動できるけど戦闘は不可能。違反した場合は行動不能になる。

理事長からのルールだと校舎にいることは問題ない。誰かに会う可能性はあるが力を使わなければいい。

「(そろそろかな)」

四人と別れた後、凛は校舎の一階の角、下足場の端にあるロッカーの影にしゃがんで隠れていた。

ここは外からも中からも死角になっている。

それは、麗のチームに見つからないようにするためだった。

凛は立ち上がると軽く足首を回した。しゃがんでいたのは少しの間だが、これからだ。

外に出たら翼を出して空から偵察する。最初は大野と同じ場所に向かおうとしたが、校庭のほうが遮蔽物が少ない。校舎に沿って並ぶ木々が難点だが、そこさえ抜けて校庭に出れば戦いやすく死角から狙われにくいだろう。

「よしっ!」

凛は小さく意気込むと校庭の中心に向かって走り出した。

扉に差し掛かり、その言葉を発動させようとした時に視界の端で何かを捉える。

「煙?!」

校舎に出た瞬間、どこからか煙が吹き出した。

驚いて別のことをしようとしたが、それより先に頭の中で考えていることを口にしていた。

「隠された真実よ!」

その声に反応したように凛の背中は白く光りだして白い翼が現れる。

凛は翼を羽ばたかせて飛翔する。煙が出た場所から離れるためと煙を散らすためだ。

煙はいっせいに広がり凛の周りは煙で覆われた。

「(あたしが校舎にいるところを見られた?)」

まるで、自分が校舎にいることを知っていて仕掛けてきたみたいにタイミングが良かった。

視界が遮られると狙われやすい。凛はシルフの力で煙を散らそうと考え名前を呼ぼうとした。しかし、それと同時に気配を察知すると咄嗟に首にかけられているネックレスに触れた。

ネックレスはぐにゃりと形が変わり大きな盾に変わっていく。

盾を握ると目の前で構えた。

その時、凛は気づく。

「(煙と、霧……?)」

煙に気を取られていたが周りに霧も発生していた。

だが、目の前の気配に意識を前に向けた。

次に聞こえたのは剣と盾がぶつかる音だった。

煙と霧で顔は見えないが、その剣と構え方は覚えがある。

「(姉さん!)」

霧で顔や動きが見にくいが、髪型や顎のあたりの部分だけでもそれは麗だと判明した。

「(やっぱり姉さんはあたしを狙いにきた)」

相手のチームが意表を突くと思っていたが自分の予想は違っていたようだ。

凛が攻撃を避けながら次の手を考えていると何かに気づく。

「(姉さんらしくない…?)」

動きは必ず同じにはならない。けれど、凛の中では違和感を覚える動きだ。

確証ではないが、なんからしくない。そう感じたのだ。

煙と霧が濃くなり目の前の視界が遮られていく。

「(シルフを呼ぼう!)」

凛がそう決めた時、再び目の前に気配を感じて盾を構えた。

さっきとは違う感覚と盾にのしかかる重みに耐えながら凛は確信する。

「(姉さんだ!)」

顔や動きが見えないのはさっきまでと変わらないが、今のほうが確かなものを感じた。

「シルフ!!」

凛が翼を羽ばたかせながらその名前を呼ぶと、凛の頭上に白と水色を合わせたような淡い魔法陣が描かれる。

そこからシルフが現れると、両手を大きく広げた。

シルフの周りに風が巻き起こり、煙と霧を吹き飛ばしていく。

あっという間に煙と霧が晴れていくと、そこには凛と同じく翼を広げて空中にいる麗の姿が二つあった。

「…姉さんが、二人?」

一人は深い水色の瞳、もう一人は赤色の瞳だ。分身する魔法を使ったのか誰かが麗に姿を変えたのだろう。そう思っていると、凛から近いところにいる瞳が赤いほうの麗が濃い紫色の霧に包まれていく。

霧が晴れていくと、そこには高屋の姿があった。

「えっ?!」

高屋は地面に降りる。

麗の姿に変えていたのが高屋と知った凛は声を上げて驚く。

「(高屋さんってルトの能力者だよね?姉さんは高屋さんに操られたことがあるって言ってたし避けてるんじゃないの?)」

麗とのわだかまりが解けて物語のことについて話した時、元生徒会の高屋がルトの能力者であり、過去に麗を操っていたことを知った。神崎や結城を含め、生徒会の役員は全員が能力者で襲われることも何度もあった。

元々、生徒会の役員と接点はないが、いつ何が起こるか分からないので警戒していた。

凛以外もその認識だった。

それが今、麗と高屋が協力している。

物語は終わり、これは交流戦だと分かっていても元生徒会の能力者と協力するということは考えていなかったので試合中だと分かっていても驚いてしまう。

凛の様子を見て、高屋は表情には出さないものの驚いていた。

「(…本当に動揺している)」

試合開始前、麗から提案があった。

私に変身して凛を驚かせないか、と。

麗から自分に提案したのも驚いたが、麗に変身したところで自分の能力が知られているのは変わらない。驚くことはないと思った。

けれど、凛は動揺している。

「(僕と麗さんが一緒にいるということか)」

自分が麗の姿に変えたというより、麗と一緒にいるということが驚かせている要因なのだろう。

ほんの少しだけ考えていると高屋の後ろから声が聞こえる。

「高屋さん、ありがとう!!」

高屋は麗の声に頷く。

凛が油断しているうちに高屋は動いた。

「フレイムフォール!」

高屋が右腕を上げると、手のひらから紅蓮に輝く炎の球が現れる。高屋が右腕を下ろすと、炎の球から炎が吹き出して凛に襲いかかる。

凛は動揺していたが、意識を切り替えた時には炎が自分に向かっていた。

「ディーネ!!」

凛が名前を呼ぶとネックレスが光り、頭上に青い魔法陣が描かれる。そこから水の精霊ディーネが姿を現し、ディーネが両手を前に突き出すと凛の目の前に巨大な氷の壁が生まれた。

炎の球は氷の壁にぶつかって水蒸気に変わっていく。

水蒸気で視界が良くないが、凛は矢を構える。

炎の球と氷の壁が小さくなり水蒸気が消えかかるその時、地面が激しく揺れだした。

「!!」

凛と麗は翼を広げて地面から離れていたためにバランスを崩すことはなかったが、地面に降りていた高屋はバランスを崩してその場に膝をついてしまう。

「(地震?!)」

激しく揺れ、凛と麗がいる場所の真ん中あたりの地面が大きな音を立ててそこから巨大な岩の壁が盛り上がる。

やがて揺れはおさまり、巨大な岩の壁が音を立てて崩れ落ちてしまう。

巨大な岩の壁の中から現れたのは大野と人間の姿に変わった地の精霊ノームだった。


遡ること約数十分前。


「まさかここに貴方が来るとは思いませんでした」

目の前にいる相手に大野の表情が険しくなる。

「お前はここなんだな」

鳴尾は特に気にすることもなく答えた。

待ち伏せするわけでもなく、たまたま通りかかったようには見えなかった。

大野は最初から礼拝堂に向かおうと決めていた。

礼拝堂の中は行動範囲外だが、礼拝堂の前なら戦うことは可能だ。

ここは清らかな空気が流れているような気がする。

本に出会ってから礼拝堂を意識するようになり、用事がなければ毎日、お祈りをするようになった。

誰が来るか分からないが、ここなら鳴尾と高屋は来ないだろう。そう思っていた。

鳴尾は戦うことが好きで強い相手に挑む。絶対ではないが、自分は鳴尾に狙われることはないと思っていた。

大野は考える。

戦えば自分が負けるのは目に見えている。

攻撃的で性格で魔法は使えないのに骸霧(がいむ)という魔剣を扱える。

人の生気を吸い取り、切りつけられたら毒に侵される。剣から出る衝撃波のようなものに近づいただけでも目眩や貧血に似た感覚に陥ってしまう。

「(どうしよう…)」

すでに、鳴尾の右手には骸霧と呼ばれる大剣が握られていた。

力の差は見えている。誰かと合流したほうが良い。

そう判断した大野は名前を呼ぶ。

「ノーム」

名前を呼ぶと、大野の頭上に緑に輝く魔法陣が浮かび上がる。そこからノームが現れると光に包まれた。

「悪くない判断だね」

人間の姿に変わると地面に降り立った。

振り返って少しだけ口角を上げる。

「力の差は目に見えている。でも、それだけじゃない」

藤堂は骸霧を見る。

「君、というよりそれなんだよね」

軽い口調で他人事のように呟くが、目は笑っていない。

ほんの僅かに何かを恐れているようにも見えた。

「有るものを無きものにする(そんざい)。それによってあの世界の風と僕は力を失った」

藤堂の言葉に大野は息をのむ。

物語の世界が現実であり、過去のものだとは考えられない。けれど、藤堂は自分が地の精霊ノームとして見てきたかのように呟いた。

藤堂は鳴尾というより骸霧(がいむ)を危惧している。

「ま、根拠はないし物語の一部が記憶として根付いているかは分からないけど、その力の前では風は姿を出すこともしたくないだろうね」

空気を変えるように笑うと、藤堂は大野の前に立つ。

それまで様子をうかがっていた鳴尾は骸霧を構えている。

「僕は僕なりに守ってあげなきゃね」

鳴尾が剣を構えながら走り出すより先に藤堂は軽く手を振り上げる。すると藤堂と大野を囲うように巨大な岩の壁が地面から盛り上がる。

鳴尾が巨大な岩の壁を斬りつけると、そこから亀裂が走り巨大な岩の壁は音を立てて崩れ落ちてしまう。

「ん?」

そこには藤堂と大野の姿は無かった。

「(どっか行ったか?)」

積み上がった岩の塊を見た鳴尾は顔を上げて辺りを見回す。

「(トウマ(にい)と純哉は多分、屋上…。なら)」

あの時、どうしてトウマの言う事を聞いたのか分からない。

例外はあるものの、今までなら誰の言葉を聞いても耳を貸さなかった。自分の直感を信じているが、どうしてかトウマの言うことに納得できたのだ。

それが自分の変化なのか。

相手がトウマだからか。

「ま、いっか!」

考えるより先に鳴尾は校舎に向かって歩き出した。



あの時、お護りすることができなかった。

大天使はあたしに転移魔法を発動させた。

この場所にいたら貴方まで捕まってしまう。

そう言い残し、悲しく微笑む大天使のお姿が最後だった。

幻精卿から転移されて、あたしは咽び泣いた。

大天使はその身と引き換えに終わらせるつもりだ。それに気づいた時、己の無力さを後悔した。

生まれたばかりの双子を人間界に預け、大天使は滅ぼされた。

まるで、大天使は全てを見据えているようだった。


「(この記憶はきっとフィアの記憶)」

この能力に目覚めた時、自分が体感した記憶のように思い出すことが多くなった。

ある日、偶然、図書室で見つけた本を開いて物語に関わった。

初めて読むはずなのに、懐かしくて自分が知っている世界のようだった。

本の中の出来事が現実に起きているなんて考えられない。そう思っていても次々と奇妙なことは起きていた。

偶然が重なり、音楽を担当する内藤先生が自分と同じ境遇だったことを知る。

内藤先生も図書室で本を見つけて物語に関わったらしい。

不思議なことに図書室にある本は厚さに対して内容が少なかったが、月日の流れとともに物語の続きが書かれていった。

同じ境遇を持つ者として時間が合えば音楽室に足を運び、内藤先生と情報を共有していた。

もしかしたらこの物語に出てくる人物も私達と同じ境遇でどこかにいるんじゃないか。

内藤先生にそう言われた時は半信半疑だったが、果たして、能力者は学園内にいたのだ。

転機は二年の二学期。トウマ様とレイナ様の能力者に出会えた。

レイナ様の能力を持つ水沢麗様にも双子の妹がいて、今学期、透遥(とうよう)学園に編入したようだ。その時は物語に関わっていなかったが、凛様はあたし達の知らないところで覚醒していた。


それから物語も学園生活も進み、物語の出来事が現実に起こるなんて今でも不思議だけど、色々なことを経験したと思っている。

特に物語を通じて出会えた人は多い。

初めは同じ境遇を持つ者同士で助け合ったり情報を共有すればいい。それでいいと思っていた。

誰かと長く一緒にいると自分が自分でいられなくなるかもしれない。そう思っていたのに、いつしかそれが変わっていった。

その気持ちが自分の気持ちなのかフィアの気持ちかはまだはっきりしない。不安なのか寂しさなのかも分からない。

恐れずに変わりたい。後悔したくない。

物語に関わらず、そう思ったのだ。



突然、大きな音を立てて激しく揺れ巨大な岩の壁が盛り上がった。

揺れがおさまり、巨大な岩の壁が崩れ落ちていく。巨大な岩の壁の中から現れたのは大野と人間の姿に変わった地の精霊ノームだった。

「大野さん!」

大野と藤堂が現れて凛と麗は驚き、その場に膝をついた高屋は驚く間もなく背後からの僅かな気配に気づく。

高屋は立ち上がり、瞬時にその場から離れると自分がいた場所には針のようなものが複数刺さっていた。

高屋が振り返ると、そこには佐月がいた。

「佐月さんも!」

凛は二人が来たことに胸を撫で下ろす。

一対二ではなくなった。それに加えて大野と契約した地の精霊ノームもいる。ノームが協力してくれたら有利になる。凛はそう考えた。

佐月が現れた時、全員の意識が佐月に向いた。

それを見た大野は意識を集中させ、目の前から本を生み出す。

「大地より目覚め、空を仰ぐ聖なる御心よ。その光で我らを包み込み、護りの風を与えたまえ」

左手で本を持ち右手を前に出すと祈りの言葉を紡ぐ。胸元から淡い光が溢れだし、その光は本を包むと大野、凛、佐月、藤堂の身体を包んでいく。

それに驚いたのは藤堂だった。

「人間の祈りの言葉をこの僕にまでかけるとはね」

精霊に人間の力が施されると思っていなかったのだろう。大野の前にいた藤堂はくるりと振り返ると意味ありげに笑った。

「貴方が言った有るものを無きものにする(そんざい)、きっと、あの剣の属性は闇ではない…いえ、属性という言葉さえ無いのかもしれません。私の力が役に立つか分かりませんが、もしものための対処です」

それに対して、大野は特に意識をすることなく答える。

大野は何かに気づいていた。そう思った藤堂の目つきが変わる。

「(僕に人間の力は意味を成さないと思うけど、その言葉がどんな効果を持つか…)」

佐月に意識が向いてることに気づいたのは大野だけではなかった。

「(今なら行けそう)」

翼を広げた月代が屋上にいるのを見た。

残りのメンバーも屋上だろう。

トウマがいるから大丈夫だと思うが、合流したほうが良いかもしれない。

そう思った麗は僅かに視線を屋上に向けた。

それに気づいた高屋は凛達に聞こえないくらいの声で麗に声をかける。

「屋上が気になりますか?」

他の人から見て分かるくらい屋上を見ていたのかもしれない。

麗は少し驚いたが、嘘ではないので小さく頷いて答えた。

「ここは大丈夫なので行ってきてください」

高屋は麗の顔を見ていなかった。

大野が発した言葉は恐らく、彼女特有の力だ。どんな効果があるか分からない。

けれど、彼女の意志を汲み取ったほうがいいと高屋は考えたのだ。

「ありがとうございます」

自分が離れたことによって形勢が変わるかもしれないが、高屋と鳴尾なら大丈夫だと思うことができた。

麗は翼を広げると屋上へ向かって翼を羽ばたかせた。

凛は麗がどこを見たか気づいていた。

「姉さん!!」

屋上に他のメンバーがいる。そう思った凛は麗が屋上に向かうことにも気づいていた。凛は翼を広げて麗の後を追う。

それを見ていた佐月は靴のズレを直すように右足のつま先で地面をトンと突く。

「主よ。我らにご加護をお与え下さい」

両手の指を組んで祈ると、佐月と大野の真下に光の環が生まれ二人を包みこむ。

佐月は物語でフィアの能力も、自分の能力もあまり知られていないことを有利だと考えていた。相手のチームは戦いに慣れていることを分かっていた。だからこそ、一瞬の隙も見逃したくなかった。

自分達の得意なことをする。そう考えたのだ。

大野と佐月の目つきが変わったのを見て、高屋はほんの僅かに警戒する。

「(地司の能力はある程度分かっているが、彼女の力はほとんど分からない)」

佐月が大天使に仕えていた者の能力者ということは知っていても、どんな戦い方なのかは未知数だ。

「(さっきのは、どちらも信仰の言葉…)」

何を信仰しているのか分からないからこそ、注意しなければならない。

滞在能力も魔力も目には見えない。

手を抜くつもりはないが、一つ間違えたら簡単に形勢が変わる。

そう思いながら、高屋はこれからどう動くかを考えていた。

大野の変化に気づいたのは高屋だけではなかった。

一通り周りを見た藤堂はくるりと振り返ると、大野の頬に触れる。

「じゃあ、頑張ってね〜」

優しく笑うと、すっと右手を上げた。

すると、大野と佐月は緑色の淡い光に包まれ、淡い緑の球体が二人を包む。

大野と佐月の間に緑に光る壁ができると二人の中にすって消えていく。

それと同時に藤堂の姿は消えていた。

緑に光る壁を見て顔色を変えたのは鳴尾だった。

それを身をもって体感した鳴尾は高屋に呼びかける。

「おい、あの緑の壁に気をつけろ」

それを聞いた高屋は、鳴尾が他人に気を配ったことに驚いた。

「(他人に気を配ることもそうだけど赤竜士はあの緑の壁を知っているのか?)」

自分が知らないところで何かあったのかもしれないが、注意したことに越したことはない。

思考を巡らせている中、最初に声を上げたのは大野だった。

「ゴーレム!」

大野の声をきっかけに目の前の地面が盛り上がり、そこから人の形をした大きな岩が現れる。それはゆっくりとしゃがみ大野に手を差し伸べると、大野はその手に乗り、ゴーレムの肩に座った。

ゴーレムは大野が座ったことを確かめると両腕を横に伸ばして壁のように立ち塞がった。

佐月はスッとゴーレムの前に立つと両手を前に突きだした。

制服の袖口から見える青翡翠色のブレスレットがキラリと光る。

「メギドロンド!!」

佐月の両手から吹き出した炎を帯びた光の球は螺旋を描くように回り、高屋と鳴尾の周りを囲み始める。

ゴーレムの肩に乗る大野の手には大きな鎌が握られていた。

大野と佐月の目つきが変わった。

それを見た鳴尾は犬歯を見せながら笑い、骸霧を構えて走り出した。


戦うだけが強さじゃない

護るために戦うんだ。



数十分後。

校庭からドンと大きな音が聞こえたと同時に屋上の中心の空間が裂け、そこから鳴尾が現れた。

空を飛んでいた麗と凛は一瞬の隙を見て校庭に視線を向ける。

校庭には三つの光の壁が見える。

「高屋さん!」

「大野さん!佐月さん!」

光の壁の中で倒れているのは高屋、大野、佐月だった。

傷を負っているのか確かめたかったが、あの壁が発生したということは気を失っているか戦線離脱とみなされたのだろう。

『!!』

視線を逸らした隙に麗の真横に風の刃が通り過ぎ、凛は鋭い殺気を感じて翼を羽ばたかせて避ける。

二人がよそ見をしている隙を狙って梁木は麗に、トウマは凛に攻撃を仕掛けていた。

「レイ、よそ見していると危ないですよ!」

梁木は翼を広げて空を飛ぶ麗に向かって魔法を放つ。

「凛!逃げるなよ!」

トウマは魔法で空を飛んで凛を追いかけている。

トウマは凛に興味を持っていた。

鳴尾や中西のように魔法は使えないのに魔力は高く、召喚術を使える。また、凛の意志で自由に形を変える金色のネックレスは自分には無い力だ。

「やっぱりレイに似てるな」

凛が焦っている様子を見てトウマは笑っている。

「(トウマさんがあたしを狙ってくるとは思わなかった!それに、さっきまでと動きが違う。速い!)」

凛はトウマの標的が自分に向いたことに驚きながら距離をあけて構えている弓を引いて矢を放つ。

麗と凛が屋上に来た時はトウマの動きがいつもより遅いと感じた。それでも動きが速いことに変わりはないが、恐らく佐月の魔法でトウマの動きが遅くなったのだろう。佐月が倒れているのを確かめた後にそれに気づいた。

また、ダメージを負っても回復していたことも疑問を抱いていた。

「(これは多分、大野さんの力だ)」

麗を追いかけて屋上に向かう時、大野の声が聞こえた。その後、自分の身体が淡い光に包まれ、そこからダメージを負っても傷が癒えていた。

大野が倒れてから傷が癒えなくなったので間違いないだろう。

そう思いながら懸命にトウマと距離をとる。

屋上にやって来た鳴尾は酷く傷ついていた。

一つ間違えればやられるとこだったと鳴尾は思い返す。

攻撃しても大野と佐月の傷は回復し、骸霧の能力も今までの手応えが無かったように思えた。恐らく、大野と佐月が持つ能力の効果だろう。それに加えて地の精霊ノームが放った緑の壁だ。あの緑の壁は前に見たことがあるし、ノームの力を身をもって痛感した。

緑の壁の効果を知らない高屋は隙をついて大野に接近して攻撃しようとしたが、大野に触れようとした時、目の前に緑の壁が現れて魔法陣が浮かび上がった。

危険を察知した高屋は急いで離れようとしたが、緑の魔法陣から眩しいくらいの電撃がほとばしる。

電撃が高屋を覆い、高屋の声が掻き消される。

鳴尾は骸霧の力で大野が呼び出したゴーレムを粉々に砕き、大野と佐月を倒した。

大野と佐月の力は自分と相性が悪い。

試合が始まる前の直感は当たっていた。

鳴尾は自分が傷を負っていることに気にせけずに辺りを見回し、トウマから逃げている凛に狙いを定める。

骸霧を構えて走り出そうとした時、視界の端で何かを捉えて瞬時に向きを変えて剣を振り上げた。

「純哉!邪魔すんじゃねーよ!」

「お前が凛を狙うのは分かってるんだよ!!」

鳴尾の力も骸霧の効果も分かっていて滝河は鳴尾の死角を狙って攻撃を仕掛ける。

剣と剣がぶつかり、骸霧から黒い衝撃波が噴き出す。

「うっ!!」

頭を揺さぶられたような目眩と吐き気に襲われるが滝河はそれを堪えて意識を保とうとする。

「フリージング!!」

滝河が魔法を発動させると、滝河の周りに青い光が生まれ、幾つもの大きな氷の柱が現れる。

至近距離で放たれた氷の柱を避けることができず、鳴尾に直撃して吹き飛ばされてしまう。

それぞれの様子をうかがい、機会を探っていたのは月代も同じだった。

僅かに視線を動かし、凛、梁木、滝河が離れていることを確かめると両手を前に投げ出すように指を動かした。

月代の両手にはワイヤーが握られていてあり、それを器用に操るとワイヤーは無数に伸びて凛、梁木、滝河の身体に絡みつく。

『!?』

それに気づかなかった三人は避ける間もなく身動きが取れなくなってしまう。

月代は指に力を入れたまま翼を広げてさらに上空へと移動する。

ワイヤーはきつく食い込み、三人はさらに動けなくなってしまう。

「(今ならいけるかもしれない…)」

相手のチームは全員捕らえた。

機会を狙っていた月代は息を整える。

空気の流れが変わろうとした時、凛が声を上げる。

「セイレーン!!」

凛の声と共に屋上に海が現れる。

海は広がり、中央に淡い光が浮かび上がると上半身は人間、下半身は魚のような女性に姿を変えていく。

それがセイレーンだと気づいた麗達は両手で耳を塞いでセイレーンから離れようとする。

セイレーンは小さなハープを手にして音楽を奏でて歌い始めた。魅惑的な優しい歌声に麗達は驚いたものの、耳を塞いでいても聞こえる歌声と自分の意思とは反対にセイレーンに引き寄せられることに抵抗する。

セイレーンを知らない鳴尾と月代がセイレーンの歌声に気づいた時は遅く、身体が勝手に動いていることに驚いている。

「身体が勝手に動いてる…?」

鳴尾は骸霧を構えたまま力強く踏ん張っている。

月代も抵抗しているが引っ張られてしまい絡みついていたワイヤーが緩んでしまう。

ワイヤーが緩んだ隙に凛、梁木、滝河はワイヤーをほどいていく。

セイレーンがまだ消えていないことに気づいた梁木は素早く上空に移動すると攻撃が届かないように距離をとった。

「ライトエッジ!!」

梁木が魔法を発動させると、目の前に光り輝く魔法陣が描かれ、そこから無数の光の刃が飛び出した。光の刃は分裂して加速すると麗、トウマ、鳴尾、月代に襲いかかる。

「!!」

梁木が魔法を放つと気づいた麗も魔法を発動させた。

「リフレクト!」

声に反応して麗、トウマ、鳴尾、月代の四人の周りにはガラスのような光の壁が現れた。梁木の放った光の刃が光の壁にぶつかると跳ね返り、軌道を変えて梁木達に襲いかかる。

梁木と滝河は跳ね返った光の刃を避け、凛は首にかけられたネックレスを前に出した。ネックレスが盾の形に変化すると襲いかかる光の刃を弾く。

一人一人を狙うよりいっせいに攻撃したほうがいいと思った凛は翼を広げて屋上からさらに離れた。

「ディーネ!」

凛が名前を呼ぶと、消えかかる海の水が霧のような蒸気に変わり人の形に変わっていく。

霧は人の形に変わりディーネが現れた。

ディーネは凛の周りをくるりと回ると、手のひらを上にして両手を広げた。すると、ディーネの周りに巨大な水の塊が生まれ、そこから水の槍がいっせいに飛び出して麗達に襲いかかる。

トウマは何かをする素振りも無く、ただ襲いかかる水の槍を見ている。

トウマの右手は赤く光り、足元には赤く輝く大きな魔法陣が描かれていた。

「サラマンドラ!!」

トウマの声に応えるように魔法陣が強く光ると、そこから炎の渦が噴き出した。炎の渦は人の形に変わるとサラマンドラが姿を現す。

サラマンドラの周りに炎の球が生まれ、それを投げつけると襲いかかる水の槍にぶつかって蒸発していってしまう。

サラマンドラは次々に炎の球を投げつける。

ディーネは凛の前に移動すると両手を前に突き出す。ディーネの目の前に大きな氷の壁が立ち塞がり、襲いかかる炎の球は蒸発して消えていってしまう。

鏡牙(きょうが)!」

滝河が声を上げると、構えている剣と同じくらいの水晶が何本も現れ、それは滝河、凛、梁木の周りを囲んで巨大な水晶の壁に形を変えていく。

炎の球は水晶の壁に反射すると軌道を変えて麗達に直撃する。

「(トウマさん…やっぱり強い)」

凛が屋上に来た時はトウマの動きがいつもより遅いと感じたが、強さは変わらない。

詠唱無しで魔法を発動させても、精霊を呼び出しても疲れている様子がない。武器の攻撃も魔法の攻撃も強いし、こちらが攻撃しても避けられてしまいほとんどダメージを負っていない。

凛達の攻撃は当たっているが、ダメージも大きい。このままだと試合が終わる前にこっちが倒れてしまう。

「(鳴尾さんがいるからシルフは呼べない)」

凛はシルフの力で傷を癒そうと考えて止める。

前に鳴尾と手合わせをした時、シルフの名前を呼んでも応えてくれなかった。物語に関係しているか分からないが、名前を呼んでも応えてくれないだろう。

「ケットシー!お願い!」

少しだけ考えるとその名前を呼んだ。ネックレスが強く光りケットシーが現れる。

ケットシーは凛の肩を伝ってよじ登ると両前足を伸ばした。ケットシーの両前足が淡く光り、凛、梁木、滝河の傷が癒えていく。

魔力の消費が大きいのか身体が重たく感じる。梁木と滝河を見ると呼吸が乱れて疲れているようだ。

凛は大きく息を吸って吐く。

今の状況は有利とは言い難い。

「(多分、後十分くらい)」

時計が無いからどれくらい時間が経過したか分からないが、そろそろ時間になりそうだ。

体力も魔力も限界が近いのかもしれない。このままだと負けてしまう。

チームが分けられた時、負けるかもしれないと思ってどこかで諦めてたところもある。でも、やっぱり負けたくない気持ちが芽生えた。

凛は翼を広げて滝河の近くへ降りた。

「滝河さん…無理するかも」

名前を呼ばれた滝河は凛の顔を見て気づく。

迷いのある目をしているが、何かをやろうとしているような顔をしている。

凛が何をしようと考えているか分からないが、滝河も戦いながらこの状況をどう打破するか考えていた。

凛の召喚術は名前を呼ぶだけで成立しているが、もしかしたら詠唱して呼び出すものも存在するのかもしれない。

より高位のものを呼び出すのか、それとも何かに賭けているのか分からない。

「分かった」

やることをやるだけだ。そう考えた滝河は頷いて答えた。

凛は深呼吸をする。

「(前に呼び出そうとした時は力が足りなくて感じたことのない痛みや恐怖だけ残った…)」

あの時、呼び出してみたいと思ったがやろうとする前に身体が拒否反応を起こした。

「(今ならできるかもしれない)」

恐怖と緊張が高まっていく。

凛は再び大きく息を吸って吐く。

ほんの僅かに目を閉じた時、突然、空が暗くなる。

周りがそれを見て驚いている中、凛は目を開いて意思をはっきりと定めた。


その時、悪魔がにやりと笑った。


「ディアボロス!!」

凛の足元に真っ黒な魔法陣が浮かび上がり、魔法陣から大きな力の波動が流れ、風が音を立てて吹き始める。

その強い風に思わず両腕で顔を防いだ。

凛の目の前にも同じような魔法陣が浮かび上がり、魔法陣から徐々に何かが姿を現した。

黒い翼に獣のような身体、そして左目には古い大きな傷がある。

その姿に誰もが驚きを隠せなかった。

物語の中でマリスが召喚したディアボロスだ。ディアボロスはラグマの本来の姿であり、ラグマの能力を持つのは結城である。

前に感じた恐怖や痛みはあるものの呼び出すことに成功した凛でさえ驚いている。

驚きつつ、ふと、ケットシーに出会って少し経った頃の言葉を思い出す。

「おいら達はお前の魔力の強さに惹かれる。ある程度、意志を汲み取ることはできるが意志や力が強くないと召喚に応じないし、召喚者をねじ伏せて力を暴発する奴もいる。自分の力が上なんだというのをおいら達に示せ!そうじゃないと、凛が潰れるぞ」

潰れるという言葉を聞いて咄嗟に浮かんだ時は図書室で彼を呼び出そうとした時だ。あのまま強引に呼び出そうとしていたらどうなっていたか分からない。

「どんなものでも自分が従わせる。それを忘れるなよ!」

あの時の言葉を思い出し、凛は意識を集中する。

精霊を制御するのは自分の力次第だ。ディアボロスを呼び出したことによって乱れた呼吸と意識を整えようとする。

「(少しでも集中力が無くなったら多分、あたしが襲われる…)」

呼び出せたことにも驚くが、それ以上に緊張していた。

魔力の消費は大きいけれど、とにかく集中するしかない。

ディアボロスは何をすることもなく凛を見ている。

物語に関わるようになってから何度も見ている宝石のような瞳。見ているだけで魅入ってしまうのに、今はそれに加えて恐怖を感じる。

どっちが本当の瞳なのか分からない。

呼び出せたということは、ある程度、考えを汲み取ったり言うことを聞いてくれるのだろう。けれど、普段、精霊達にかけるような言葉でいいのだろうか考える。

この姿は初めてだが、学園生活の中でずっと見ていた人だ。ほんの少しだけ考えたが凛は顔を上げてその瞳を見つめた。

「(後から何もないといいけど…)」

大人の、しかも教師に向けて呼び捨てにするのはどうかと思うが、今は考える余裕はない。

普段、他の精霊達に対して名前は呼び捨てで声をかける時は敬語を使わない。自分の意志を読み取って行動してくれると思うが、恐らく言葉にしないと分かってもらえないだろう。

私が呼び出したんだ。

そう決意すると目の前で佇むディアボロスに対して声を上げた。

「ディアボロス!お願いします!」

それに応えるようにディアボロスが笑うと瞬時に月代の前に移動した。

凛がディアボロスを呼び出したことで月代は麗達とは違う感情を抱いた。

「(俺が魔力を使いきって召喚したのに、あいつは……!!!)」

自分ではない誰かの記憶が流れてくる。

それは紛れもない嫉妬と怒りだ。

試合の最中に他のことに気を取られていた月代は、目の前にディアボロスがいることに気づかなかった。

「ひっ!」

気づけば至近距離でディアボロスに睨まれていた。

黄金色に光る瞳が月代を捕らえる。

「(いつも見ているはずなのに…全然違う…怖い!)」

覚醒した結城の瞳は何度も見ているはずなのに、今、ディアボロスに見られてるだけで身体が震えてしまう。

「(それなのに、どうしてこんなにも目が離せないんだ……?!)」

恐怖を感じるのに今まで以上に目が離せない。

足がすくむくらい怖いはずなのに、それ以上に感じる胸の高鳴りとぞくぞくするような感覚が身体を突き抜ける。

背中から伝う汗と身体が疼くような感覚、それが何かが分からなかった。

ディアボロスは笑っている。

「嫉妬か?」

その言葉に月代はどきっとする。

「……どうして?」

心の中を暴かれた気分だった。

その時、月代の身体に衝撃が走る。

ディアボロスの尻尾が伸びて月代の腹部を刺していた。

それに気づいた時には遅く、腹部から血が吹き出して激しい痛みと同時に倒れてしまう。

月代の周りに光の壁が現れた。

「微弱だが悪くないな」

ディアボロスはぽつりと呟くとくるりと振り返り、両手を広げた。

突然、麗、鳴尾、トウマの真下に赤い魔法陣が描かれると地面から幾つもの炎が噴き出した。

炎は勢いよく燃え、三人は炎に包まれる。炎と煙が消えていくと、全身に火傷を負った三人が立っていた。

麗は息を整えつつ魔法を発動させる。麗達の身体が淡く光ると火傷が癒えていく。

麗が魔法を発動させたのと同時に鳴尾は凛に向かって走り出していた。

「(鳴尾の力は理解している)」

行動は単純だが、鳴尾が持つ骸霧が問題だ。

目眩や貧血のような感覚、心臓を掴まれるような痛み、徐々に体力を奪われていく感覚、それが攻撃を受け止めていなくても発生する。

「(水沢の魔力がどれくらいか分からないが、私を呼び出したからには魔力を使い切らせよう)」

ディアボロスが右手を空に伸ばすと、麗達の頭上に巨大な氷の壁が現れた。それは麗達を叩き潰すように落下しようとする。

巨大な氷の壁が落下する直前、トウマが魔法を発動させる。

「フレアゾーン!!」

トウマの右手が赤く光り、渦を巻く炎の球が生まれる。それは三つに分裂すると、トウマ、麗、鳴尾の頭上に落ちようとしている巨大な氷の壁に直撃する。

水蒸気が発生して視界が遮られる中、誰もがディアボロスの力に驚いていた。

圧倒的な力を見せつけられた後、凛に異変が起こる。

意識を集中しているはずなのに運動をしたように息が乱れる。

「(結城先生の力…すごい。けど、魔力の消費も激しい…)」

倒れそうなほどではないが疲労感と身体の痛みが凛を襲う。

そんな中、耳元でディアボロスが囁いた。

「もっと力をよこせ」

「ひっ!!」

今まで聞いたことのないような声が耳元で聞こえ、凛は胸の高鳴りと恐怖を覚える。

怖いはずなのに胸が高鳴るのは何故だろう。

そう感じたが麗、トウマ、鳴尾の標的が自分とディアボロスに向けられていることに気づいて意識を元に戻した。

「(少しでも気を抜くとやられちゃう!)」

ディアボロスを呼び出した効果は大きい。

魔力の消費を取るか、ディアボロスに引いてもらうか考えたが、負けなくない気持ちが勝る。

もっと力があれば転機が訪れるかもしれない。

ふと、凛の中でケットシーの言葉を思い出した。

「ピクシーはいたずら好きだ。お前の力になる時もあるが、お前にいたずらする時もある。いたずらがどれくらいかはおいらにも分からない。風の属性は友好的なやつも多いが、そこだけ気をつけろよ」

何度かピクシーを呼び出して分かった。

魔力の強い人を探してといえば探してくるが、教えてくれたら役目を終わったとばかりに消えてしまう。また、呼び出しても現れて、またすぐ消えていったこともあった。

友好的だが気まぐれな性格なのかもしれない。

ピクシーが今の状況を超える何かをしなければ、凛の魔力が尽きて倒れてしまう。それでもこの状況で賭けてみたくなったのだ。

凛は意を決してその名前を呼んだ。

「ピクシー!」

声に反応するように凛の周りに四つの小さな光が生まれ、濃いピンクの髪に緑色の服を着て蝶のような羽が生えた小人が現れた。

「お願い!!」

凛の言葉を聞いた四人のピクシーは頷くと、散り散りになって飛んでいってしまう。

ピクシーはトウマと鳴尾の元に向かうと胸に両手を押し当てた。

トウマと鳴尾はピクシー達が自分に向かっていることに気づいていたが、特に何をするわけでもなく胸に両手を当てたことに驚く。

その時、トウマと鳴尾の胸からやや透明で赤いハートの形のものが現れた。

ぷるんと揺れそうな赤いハートを両手で持つと、楽しそうに凛の元へ運んでいく。

何が起きたか分からない。

そう思った瞬間、トウマと鳴尾は急にその場に膝をついてしまう。

トウマと鳴尾はもちろんのこと、麗達も驚いている。

「なんだ、これ……」

「力が出ねえ…」

何が起きたか分からず二人は攻撃の手を止めてしまう。

ピクシー達が赤いハートを凛に差し出すと、凛の中にスッと消えていく。

「!!!」

それまで魔力の消費で立っているのも辛かったが、ハートの形の何かが身体の中に入っていった瞬間、力が満ち溢れ身体の痛みや怠さが薄れていく。

ピクシー達は満足したように笑うと消えていってしまう。

「(もしかしたら、あのハートは二人の魔力なの…?)」

凛も何が起きたか分からなかったが、ピクシーがトウマと鳴尾から赤いハートを取り出したら二人は疲労感に襲われ、反対に自分は力がみなぎっている。

ピクシーのいたずらはもしかしたら魔力を抜いたのかもしれない。

攻撃する力が鈍くなっていたような気がしていたディアボロスも力が戻ったのか笑みを浮かべている。

「(いける!!)」

魔力が回復したと感じた凛はネックレスを握る。

凛が呼び出したピクシーによってトウマと鳴尾が膝をついた。

時間は迫ってきている。負けられない。

そう思った麗は空から魔法を発動させる。

「バースト!!」

麗の右手には赤い球が生まれ、それを地面を叩きつけた。地面にぶつかるといっせいに煙が巻き起こり広がっていく。

視界が遮られている中、同時に滝河も動いた。

「リヴァイアー!!」

その名前を呼ぶと滝河の頭上に青く光る大きな魔法陣が描かれ、そこから巨大な水の蛇のようなものが現れた。

それは威嚇するように声を上げるとトウマに襲いかかった。

立ち上がったトウマは魔法で迎撃しようとする。

「ブレイク!」

トウマの目の前でリヴァイアが五匹に分裂した。三匹は麗、トウマ、鳴尾に襲いかかり、残りの二匹は凛と梁木の体内に入り溶け込んでいった。

凛と梁木は自分に向かってきたリヴァイアに驚いたが、さらに力が戻っていることに気づく。

麗と鳴尾はリヴァイアによって身体を拘束され、トウマはすんでのところで魔法で防いだ。

「(凛とショウに向かったあれは物語で見たな)」

ロティルの力に圧倒されたレイナとカリルの元に到着したマーリが放った召喚獣だ。ロティルには攻撃、レイナとカリルには魔力の回復をした。

恐らく凛と梁木にも同じ効果を与えたのだろう。

「(やるか)」

トウマの目の色が変わる。

ディアボロスの力にも圧倒されたが、トウマは凛の能力に驚きを隠せなかった。

手を抜いていたわけではないが本気を出さなきゃいけない。

そう思ったトウマは名前を呼んだ。

「ウィスプ!サラマンドラ!」

トウマがその名前を呼ぶと、上空に巨大な輝く魔法陣と赤い魔法陣が浮かび上がり、辺りに奇怪な音が響き渡る。

トウマの背後には光の精霊ウィスプが現れ、赤い魔法陣から吹き出した炎の渦は人の形へ変わっていく。

上空に描かれた魔法陣が輝き、雷が鳴ると槍のように降り注ぎ、サラマンドラが両手を広げると炎の波が凛達に襲いかかる。

今までに感じたことのないトウマの気迫に危険を察知した梁木は急いで魔法を発動させた。

梁木、凛、滝河の目の前には大きな光の盾が現れる。

煙が少しずつ消えていくとディアボロスは凛の前にいた。

ディアボロスの右手から青い魔法陣が浮かび、そこから数多の氷の針が飛び出した。

数多の氷の針は不規則に動き麗を狙う。

「!!」

一瞬の隙を狙って鳴尾がディアボロスの死角に入る。

赤い瞳がディアボロスを捕らえた。

黒い衝撃波と炎を纏った骸霧を振り下ろす。それに見覚えがあったディアボロスはほんの僅かだが後ろに下がってしまう。

その時、ディアボロスの前に金色の盾が現れた。

金色の盾の一部が伸びている。ディアボロスが一瞥すると、それは凛の右手と繋がっていた。

恐らく凛が持つネックレスが盾に変化してのだろう。

ディアボロスは笑う。

ディアボロスの両手から氷の刃が生まれ、風が巻き起こると氷の刃は次々に分裂していく。

サラマンドラの放った炎の波にぶつかると水蒸気が発生して晴れてきた視界を再び狭めていく。

魔法と剣がぶつかり合い、爆風と煙、冷気が混ざり合って屋上に広がる。

やがて、終わりを告げるブザーが鳴り響いた。

水蒸気と煙が晴れていくと三人の姿が見え始める。

トウマと滝河は息を切らしてその場で必死に立ち、凛も大量の汗を流しながらしゃがんでいた。

自分が今、光の壁に覆われていないことを確かめると拡声器を通した明の声が聞こえた。

「終了です。勝ったのは…2のチームです!」

明の声を聞いて耳を疑う。

「あたし達が、勝った…?」

凛は信じられない様子で滝河の顔を見る。凛の視線に気づいたのか滝河はゆっくりと凛に近づいて右手を差し出した。

「勝ったな」

負けるかもしれない。けど、負けなくない。

何度もその気持ちが行ったり来たりしていたけど、自分達のチームが勝ち少しずつ喜びが込み上げてくる。

「はい!!」

滝河が差し出した右手をとって立ち上がる。

トウマも勝ちたいという気持ちはあったものの不快な顔はしていない。

凛と滝河の笑顔は晴れやかだった。



結城が笑っている。

試合が終わり、校庭にいる実月は理事長の(さやか)に話しかけようとして結城に気づく。

「結城先生、何だか嬉しそうですね」

結城は自分が笑っていることに気づいたが実月の言葉を否定しなかった。

「そうですね」

それだけ答えると校舎に向かって歩いていく。

怯えているが何かを期待しているような顔。

あの顔を見て、胸が高鳴った。

教師ではなく一人の人間として何かの気持ちに動かされたのかもしれない。

初めての感情ではないが、不思議とそれが嫌だとは思わなかった。



変化が訪れたのは生徒達だけではなかった。

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