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天涯孤独の、ふたりだから  作者: 640orz
第三部 秋から、新たな日々へ
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第六十四話 輝きの街を、眼下に望んで

 

 

 出立の日時は決まっていた。

 それは雪羽たちの期末試験が終わる翌日、その日に合わせてリースは三枚の航空チケットを予約した。雪羽と打ち合わせた、その足で。躊躇することなく、三人ぶんを。

 夕方の、一番遅い時間。アメリカへの便。

 彼女たち姉妹とともに、母国へと向かうための飛行機。

 明日の午後八時の便を、チケット三枚、既に確保している。

 

「──はい。なあに、ユキ。明日のことならば大丈夫よ。ちゃんと、夕方の便を押さえてあるわ」

 

 その日がやってくる、前日。すなわち彼女たちの高校の期末試験、その最終日である──リースは雪羽からの電話を受けた。

 既に窓の外は暗く、夜景がホテルの眼下には広がっている。

 その只中に鳴ったスマートフォンに、リースは応答をしたのだった。

 明日についての打ち合わせのようなものだろうと、おぼろげにそんなことを想像し、考えていた。

 不知火にまだ、こちらでやり残したことがあるからと、聞いていた。だから受け取ったその着信に、そう思った。

 けれど。

 なんでもないことのように発したリースの言葉に対し、暫しという範囲ではけっして呼べないほど、電話の向こうでは、雪羽の生んだ沈黙の時間は短いものではなく、長く。

 ──「ごめん」。たったその三文字が、彼女の喉から絞り出されリースの耳に届くまで、果たしてどれほどの秒数を必要としただろう。

 冷たく、憔悴しきった。消え入りそうな、声だった。

 このときまだ、リースはその経緯を、理由を知らない。

 伝えられ、知り。弾かれたように自身のホテルの一室を飛び出していく、そのときまで。

 ここから先は、彼女がそう告げられた、その時点より以前のこと。

 雪羽と不知火が──否、「不知火が」、そうなるに至った、理由のこと。

 

                 *   *   *

   

「やあああっと、終わったぁっ!」

 

 最後の、試験科目が終わって。授業終わりのベルが鳴り響いて。

 思わず雪羽は机上に身を投げ出して伸びをしながら、声に出して安堵感をいっぱいに、そのように表現していた。

 もともと、勉強の不得手な雪羽である。それに加えて、終えた後の予定が既に決まっているともあれば、解放感はひとしおのものがあった。

 そのやりきった、やり終えたことを全身で表すかの如き様相には、座席までやってきた歌奈と彩夜が顔を見合わせて苦笑するのも、仕方のないことだった。

 

「大袈裟だなぁ」

「いやいや、大変だったもん実際」

「大丈夫ですか? 不知火ちゃんが渋い顔しない成績、点数とれてそうですか?」

「う。それは──……その、たぶん」

 

 試験の最終日は、全科目終了してしまえばあとは掃除とホームルームだけ。

 さあ、とっとと終わらせて帰ろう。

 

「ゆきー」

 

 解放感に華やぎ、騒がしくなる教室。

 その扉のところで、開いたそれをノックするようにしながら、不知火が顔を出した。すぐ隣には、詩亜もいる。

 

「あ、お姉ちゃん。なにー?」

「朝も言ったけど、先に帰っていいから。しっかりゆき自身のぶん、明日の準備、しといてね」

「はーい」

 

 それだけ言って、踵を返していく。ひらひらと、詩亜も手を振って。同じように戻っていく。

 その様子に彩夜が、

 

「準備って、アメリカ行きの? 順調ですか?」

 

 小首を傾げて、訊ねる。

 順調──といえば、順調、なのだろうか? 首を傾げ返して、右手をそこに当てながら、考え込むように雪羽は言う。

 

「どうかなぁ。荷物とか、用意はしつつあるけど。いかんせん海外旅行なんてはじめてだし」

「えー。じゃ、不知火は? あいつもはじめてなんじゃないの?」

「うん、そのはずだけど。けど、昨日のうちにもうリビングに荷物まとめて、準備オッケーだって」

「さすが不知火ちゃん」

 

 なんだなんだ、それじゃああたしが事前の準備とか、計画を立ててできない子みたいじゃないか。

 口を尖らす雪羽に、彩夜と歌奈は笑いあって。

 

 ──だって、試験勉強とかもあんましきちんとやらないじゃん。

 ──です。不知火ちゃんが看守になって、見張って。多少真面目にやるようになりましたけど。

 

 そう、ぐうの音も出ない事実をふたり、突きつける。

 いや、看守ってそんな。

 

「やっぱし、楽しみ? それとも、不安?」

 

 リースさんの妹に、会いに行くのって。

 不知火や自分に重なる部分や、あべこべな部分がある姉妹と向き合うのは。

 茶化すわけではなく、穏やかに笑いながら歌奈は言った。

 

「ま、そりゃ多少はね」

 

 それはきっと、お互い様だ。

 彼女たちも、逆に。自分や姉が会いに行くことに不安はないではないのかもしれない──緊張はさほど感じていないにせよ、雪羽自身、そう思う。

 

「でも、不謹慎かもしれないけど。寂しくないなって、あたしもいるんだ」

「寂しい?」

「うん」

 

 他人の不幸を喜ぶわけじゃない。

 だけど、あたしとお姉ちゃんは、世界でただひと組、この世であたしたちだけが「そうなる」わけじゃない、って。

 そういう気持ちも、ある。

 

「だからこそ、行かなきゃいけないんだ。あたしも、お姉ちゃんも」

 

 同じ運命を持った姉妹と、同じ時間を。同じ光景の中で過ごすために。

 

                 *   *   *

   

「視線を感じる?」

 

 スカウトの話について、バンドメンバーたちの間で明確な、統一された回答はまだ、導き出されてはいない。

 夕矢も、ほかのみんなも。それぞれが持ち帰り、考えて決めかねている。

 

「うん、夕矢は、どう? 最近なんか、見られてる気、しない?」

 

 不知火さんは、納得のいくまで皆で考えてくれていい、と言ってくれた。

 自分が歌ったそのタイミングを見て、オーディションの、スカウトの話がやってきたというのはたまたま、そういう巡り合わせだったというだけだ。

 あくまで、自分がやったのはお手伝い。手助け。このバンドはきみたちが主体となってやっているものなんだから──きみたちの意向がなにより、尊重されるべきだから。

 決めてくれて、いい。そのうえで私の力がまた必要になるなら、私も一緒にそこに行く。

 じっくり、考えて。

 結論は私が帰ってきてからでも、全然かまわないから。無論先方を待たせすぎるというのもよくはないけれど。

 アメリカ行きの近付く慌ただしい中にありながら、不知火さんはそう言って、夕矢たち中学生一同を気遣い、待ってくれた。

 

「どうだろう。そういえば、そうかも」

 

 教室移動の、帰りの廊下。音楽の教科書や自身の筆記具を抱えた、バンド仲間、キーボード担当のつばき──姉・彩夜と雪羽がそうであるように、夕矢にとって彼女は同い年の、旧くからの付き合いの幼なじみだった──から声をかけられ、彼はこのところのことを思い起こす。

 見られている、視線を感じる。……そういえば姉も、この間『白夜』でそんなことを言っていたっけ。

 夕矢自身はというと──、

 

「……まあ、言われてみれば、ということならちらほら」

 

 あまりそういうのを気にするほうではない。とくに街中だと、ギターなんてでかぶつを背負って、この長身が歩いていればそれだけである程度人目を引くというのはこれまでの経験上、わかっているし知っている。

 

「やっぱり、『白夜』で? うん、こっちもあそこで一度。あとは──不知火さんの高校の前、通ったときに一度」

「え? 不知火さんの?」

 

 頷く幼なじみに、怪訝の表情を隠さず投げかける。

 気のせい、だよね。不安げな少女に曖昧に頷くより、ほかに夕矢には対処の方法を思いつかなかった。

 具体的になにか起こったとか、そういうことでもないのだから。

 それもまた、無理もないことだった。

 

                 *   *   *

   

 あなたから、クリスマスプレゼント。欲しいんだ。

 不知火が、隣に立つ彼女へそっと差し出した掌を握り返しながら、彼女もまたやはり、そっと微かな声で、囁くようにこれからのことを告げる。

 試験が終わり。簡単な、部活のミーティングも終えて。こちらと同様にこれからデートだという、詩亜たちとも分かれて。

 ふたりきりになったら、……行き交う人々の喧騒の中では未だあったけれど、そうやって互いを求め、甘えるふたりだった。

 

「今日はとことん、付き合ってもらうからね」

「そんな、飲み会のサラリーマンじゃあるまいし」

「この半日デートで我慢してるんだからいいでしょ。だって、これからほぼ一週間、雪羽ちゃんにあなたのこと、独占されちゃうんだもの。遠くに、行っちゃうんだもん」

 

 楽しみたいよ。満喫したい。

 指を絡めた掌を、星架は不知火のほうから、自分の側に引き寄せる。

 冬の寒空の下、触れ合った掌を通して伝わる互いの体温が、あたたかかった。

 

「いいですよ。きちんと自分の荷物は、準備は済ませましたし。……ゆきにも、今日は遅くなると思うって、言ってありますから」

 

 その発言が不用意で、無防備だという自覚は不知火にはない。

 星架も今は、そこを深く掘り下げようという気はなかった。

 

「──?」

「不知火?」

 

 その中で、不知火はふと向けた視線の先に、「なにか」が目に留まった。

 会話を切って、一度外しかけたその目線を再度そちらへと向けて、感じたものの正体を探す。

 雑踏の風景は、横断歩道の先にあるそれらに、残念ながら不知火の探し求めるものを掴ませることはなく。

 

「どうしたの」

「いや、今なにか──気のせい、かな」

 

 あった、というより。向いていた。ひとりだけ? あるいは、ひとつだけ?

 明らかに他と違うものがあった。あるいは、いた?

 なんだろう。この言いようのないもやもやとした、はっきりしない感覚は。

 不知火は視線を巡らせる。しかし既に、これといって目につくものはなにもない。せいぜいがそういう時間帯なのだろう、夕矢くんと同窓の、中学生たちの姿がちらほら、行き交う人々の中に紛れ始めたな、というくらいだ。

 誰しもが、各々の興味にしか目を向けていない。

 きょろきょろとする不知火のことなど、気付いてすらいないのだ。

 そしてまた、不知火も知らない。

 自身の抱いた違和感、その「なにか」の正体が。

 彼女だけでなく、彩夜や、中学生の少女が気付き、感じ。周囲に目を向けさせたものと同質であるということ。

 気のせいなどでは、それはけっしてなかったのである。

 

                 *   *   *

   

「──こんなモンで、いいのかなぁ。着替えと、予備と。あっちって寒いのかな」

 

 居間の片隅に寄せられた、姉の荷物を見遣りつつ雪羽はぼやく。

 腕組みをして俯瞰するその足許には、実姉からのおさがりのスーツケース。かつて譲られるだけ譲られて使ったことなどまるでない、広げられたその中には衣服の山。まだ細かに畳まれてもいない、ひとまず必要と思われる数をそろえただけの衣類が雑多に、折り重なるようにして積まれ、置かれている。

 旅行の日程はおおよそ、一週間弱。それよりは多めには用意はしたのだけれど。

 

「わからん。海外って、どのくらい余裕もって用意していけばいいんだろ」

 

 なにしろ海外旅行なぞはじめての雪羽である。

 いや、旅行じゃないんだけど。真面目な、真剣な理由のある旅だ。物見遊山じゃあない。

 とにかく、このスーツケースだって埃を被ろうとしていたのを引っ張り出してきた。そしていそいそと準備を始めたのだけれど。

 はじめてで、感覚がわからなすぎる。こういうとき小雨姉さんはどんな準備をしてたっけ。……してたんだろう?

 海外未体験というのなら、お姉ちゃんだってはじめてで、一緒のはずなのに。

 あっちは昨日のうちにさくっと準備、終わらせてしまった。

 今日帰ってきたら改めて再チェックするよ。ひかりのぶんの荷物はふたりで一緒にやろう。──なんて言って、余裕たっぷりだったのがまた、姉としての余裕を見せつけられたようで、妹としては置いていかれたようでちょっと悔しい。

 

「お。出来たか、はいはーい」

 

 キッチンから、セットしてあったタイマーが電子音を奏でて雪羽を呼ぶ。

 今日は夜、寒くなるだろう。だからあったかい、グラタンだ。

 姉の帰り時間もわからないから、遅くなってもいいように──最悪、そのまま器ごと冷凍にまわしてしまえばいい。そのためのペンネ・マカロニを茹でていた。そのタイマーだ。

 あとはエビを剥いて、ホワイトソースを作って。……まあ、時間はまだたっぷりとある。

 

「それよりこっちだよね」

 

 うーん。さすがにマント一枚や短パン一枚で海外に行くわけにはいかないし。

 海パンだけなんてのも論外だしなぁ。軽装にしようとしたってできるもんじゃない。意外と、荷物多いぞ。

 

「寒い前提で行ったほうがいいか」

 

 インナーだけ、薄手や半袖を多めにするとして。

 

「んで、お姉ちゃんが帰ってきたら相談しよう」

 

 わからんものは、もうわからん。

 全部、気持ちの上で多めに用意をしておいて。それで、姉が帰ってきたらふたりで相談しながら最終的には詰めていこう。

 うん、それがいい。それで行こう。

 

「お姉ちゃんと、ひかりと。三人で海の向こうに、旅に出る」

 

 そう、それは真剣な理由によるもの。

 だけれどそのときが近付くにつれて、わかる。自分の心がそれを楽しみにしているということ。

 華やいでいる──そう、自覚できる。

 実姉・小雨が活躍していた、海の向こうへ。

 義兄・晴彦が彼女と出会った、その日本の外側という場所へ。

 待っているのは、自分や不知火と同じ姉妹。だからだろうか、不安より、どきどきや期待のほうが大きく心の中に膨らんでいる。

 この旅は、きっと大切なものになる。

 大切な旅に、する。その、確信があった。

 

「前に進むよ、姉さん。お姉ちゃんと、ひかりと。一緒に歩いていくために」

 

 だから明日。雪羽は旅に出る。

 大好きな、ふたりとともに──。

 

                 *   *   *

   

 地方の、家電量販店やショッピングモールに押され寂れつつある傾向にある百貨店でも、夕方や夜の時間、しかもそれが飲食店街となっている高層フロアともなれば人出で賑わっている。

 その、夕食のために訪れた客足の波間を抜けて。不知火は、星架とともに屋上に出た。

 かつては小さな遊園地などもあったのだろうそこはしかし、今は簡素なつくりで、藤棚の屋根と、その下のいくつかのベンチが片隅にあるばかり。あとは店内に続く階段のところに、自販機が二、三台置かれている程度だった。

 階下に比べれば無論、時間帯に対しそこを訪れる者も少ない。

 だから今、高空の冷たい風に吹き晒されてこの場にいるのは不知火たち、ふたりだけだった。

 

「──……ん……」

 

 そうして、ふたりきり。クリスマスの近い、華やぎライトアップされた街々の夜景を眼下に、ふたりじめをしながら。たったふたりの独占を満喫し見下ろしながら──不知火と星架は、キスをした。

 見慣れた街並みが広がっているだけのはずの、足許に広がる輝きの光景は、びっくりするくらい、美しかった。それらに照らされながら、ふたりはふたりきりのこの瞬間を、得た。

 口づけを重ねあい、やがて離れていく。互いの頬が紅く火照って熱いのは、寒空の下の、夜の気温だけが原因ではない。

 

「やっと、くれましたね。ご褒美」

「ええ。──それと、いってらっしゃい、もね」

 

 手の甲で口許を押さえる不知火。

 星架の指先もまた、たった今重ねられていた星架自身の唇のところにあった。思い思いに互い、余韻をかみしめていた。

 

「そこは、まとめちゃうんですか。別口でも私はいいんですけど」

「贅沢言わないの。次は、そうね。おかえりなさい、かな」

 

 言って、星架は鞄をまさぐる。取り出したのはきれいなラッピングをされた、緑色の包み。

 それを見て、不知火も同じ動きをする。こちらが取り出すのは──紅い包装の、やはり同じくらいの大きさの、四角形。

 

「ありがと。クリスマスプレゼント」

「いえ、こちらこそ。……嬉しかったです、星架さん」

 

 クリスマスに帰ってきたら、これを開けてすぐに星架さんに会いに来ますね。

 不知火が言うと、星架は柔らかな嬉しさを隠すことなく表情に浮かべ、小さく頷いた。

 そうやってふたり、語らっていた。

 彼女たちがともに上り、やってきた階段をひとり、少女がやってくる中。

 そしてふたり押し開いた、店内より続くガラス戸が、第三者の細腕に開け放たれたその先で──、だ。

 

「わ」

 

 ひと際強い風に、ふたりの長い髪が大きく揺れ、乱れた。

 不知火は自身の髪を押さえつけながら、星架の眦に張り付いた彼女の横髪を、指先にて掃ってやる。

 数に乏しくも、ひとつひとつの輝きは強く放たれる屋上の照明たちに照らされて、彼女の愛する女性は美しかった。思わず、不知火は目を細めて、いた。

 

「あの。──駒江さん。駒江、不知火さんですか」

 

 じゃり、と。経年に細かく砕けた床材を踏みしめた、スニーカーの音があった。

 振り返れば、少女が、いた。

 ひとり。ソバージュの髪を、やはり屋上の強い風になびかせて。

 

「……きみは?」

 

 見たことのない少女だった。しかし、どこかで見たような気もした。

 あるいはその身につけているのが、夕矢くんの通う中学の、バンドメンバーのつばきちゃんと同じ、その女子制服だったから抱いた印象だったかもしれない。

 

「──どうして」

「えっ?」

 

 その中学生の少女は俯きがちに、ぽつり言葉を絞り出す。

 星架も不知火同様に首を傾げ、その正体を測りかねている。

 少女に向かい、不知火は一歩前へ出た。見ず知らずのこの子はいったい──、

 

「どうして全部、持っていくんですか」

 

 思考の途中で、強い言葉が涙の瞳とともに、向けられた。

 

「私のもの、全部。──ひどい。ずるいよ」

 

 不知火に「見えた」のは、そこまでだった。少女が右手に、隠すようになにかを持っていたことだけは、辛うじて認識できた。

 直後理解したのは、反射的に閉じた瞼に、その奥の双眸に。自分がなにかを浴びせかけられたということである。

 その冷たさが、液体のひやりとした感覚が、瞼を、粘膜を刺激して。

 ──そして、熱さと痛みに変わった。

 その苦痛の噴流に押し流される感覚の中、思わず発した自身の悲鳴を、不知火は聴いた。

 世界が。

 なにも見えなく、なった。

 

 

          (つづく)

※海パン一丁やマント一丁で海外に行く羽目になった人間は存在します。(いろいろ台無しな注釈

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