第六十二話 雪羽の、決めたこと
「──え? あの赤ちゃんが?」
センターテーブルの紅茶はもう、すっかり冷めていた。
この部屋に招いてくれたレイア先生が、せっかく淹れてくれたそれはまったくの手つかずで、……もとより、なにかを口にするという気分でもなかった。また、改めて彼女から与えられる知り得なかった新たな情報に翻弄されて、カップへと手を伸ばすことすら忘れていた。
「ああ。どうせもう、ここまで知ってしまったんだ。ひかりのことも、全部伝えてしまったほうがいい。そう思ってな──ショックだったら、すまん」
「そん、な。あの姉妹は、あの姉妹だけじゃなくって──……それなのに」
情報。それは、リースに新たな、また絶望的なまでの罪悪感を生む。
告げたレイア先生を恨むか? 否、知らせてくれたのはきっと、優しさだ。
知らないままだったら、自分は更にこれ以上なにか、無神経で配慮に欠けた行為を、知らず雪羽たち姉妹にぶつけてしまっていたかもしれないのだから。
万一にもそんなのは、いやだ。
雪羽について、ではない。
不知火についてでもない。
知ったのは彼女たちの連れる、ひとりの幼い少女のこと。
「それじゃあ……シラヌイは。あの子はユキの生きる世界を喪うばかりか、これから先──……」
「あまり自分を責めるな。悲観的にばかり物事を見るものじゃない」
未来に、光を喪う少女がいる。世界を、見れなくなる少女が。
その少女には誰より大切な妹がいて。血がつながらなくても、同じ世界をずっと生きていたい相手で。
光を喪えば、その姿を見れなくなる。それだけでなく。
彼女の兄と。愛する妹の姉が育んでいこうとしていた、大切な幼子がいた。
その、小さな生命はしかし、父母となるべき者たちに遺されていき。それは一家の長となった少女にはかけがえのない、護るべき、触れ合い続けるべき存在であったはずだ。
なのに、その幼い少女は声を発せられない。つまり、音を介してのコミュニケーションが、かなわない。
「私は、ミラージュだけでもつらいのに。死にそうなくらい、悲しくて。耐えられないと思ったのに」
けっして遠くない先、不知火のひとり残された、音の世界に。幼子が踏み込んでくることはない。
その未来の提示は──ただ、幼子への認識を「小雨の遺した養子である」という以上に持たなかったリースに対し、あまりに大きな衝撃となっておそいかかる。
「私、どれだけ彼女に酷いことを」
それこそ、初見では、「雪羽が旅立っても、その子が一緒にいるんだからいいだろう、顔なんていつでも見に来ればいいのに、甘えるな」くらいに思っていたのだ。ああ、──なんて、酷い。
酷い人間だ、私は──……。
「全部、不知火は知っているよ。知ったうえで受け容れている。ユッキーに対して申し訳ないとさえ。だから自分が彼女を掣肘することには、なりたくないって願っている」
そんな。たとえ自分が真っ暗な世界に、誰より大切なふたりを喪って、そこにひとりぼっちになったとしても──……?
「リース。そんなにも責任を感じなくていい。あいつは、大丈夫だ。アレで、十数年、自分の未来と向き合い続けてきたんだから。お前とはそれこそ、逃れようのない未来への覚悟って点では、年季が違う」
お前が思うほど、未来に対して弱い人間じゃない。レイア先生は自身の紅茶を啜ると、研究室の応接ソファから立ち上がる。
「夕方からな、あいつらが来る」
「え……」
「ユッキーが、全部知りたいって。きちんと教えてくれって言ってきた。逃げるつもりはないんだよ、あいつら姉妹」
答え、出したって言ってたんだろ。だったらあいつらは、大丈夫だから。
「お前も、もっとしゃっきりしてないと。せっかくユッキーが考え抜いて答えを出してくれたってのに、そんな弱々しい感じでいたら、逆に心配されるぞ」
リースは、冷めてしまった紅茶の水面に目を落とす。
自信や、強気といったものとは無縁の冴えない表情が、そこにはあった。
* * *
その日、ひかりを連れて。
学校帰り、市内の病院へ、レイアと眼鏡の青年医師を、姉妹ふたりは訪ねた。
訊きたかったのは、ふたつのこと。
これからの未来。その、展望。それをふたつ、「それら」として。不知火のこと、ひかりのこと。その、ふたつ。
それは雪羽の、たっての希望。
彼女が望み、不知火もまたそれが、妹にとって判断のために通過する必要のある儀式なのだと、理解をした。
だからともに、耳を傾けた。自身の知っていること。その範疇を大きく超えるものではない、医師たちの言葉の数々を。
レイアはそのことについて、不知火に「すまない」と、短く謝罪の言葉を向け、頭を下げた。
「いいんだ」
そんな、年上の、姉代わりのようですらある友人に、不知火は微笑を返す。
謝られるようなことではない。もとよりそんなのはわかりきっていたことだ。
十六年。そう、この十六年だ。不知火にとって、己が双眸に訪れる未来は常に、不可避のものという認識としてともにあった。
アメリカにレイアが戻ってほんの数か月。たったそれだけの期間で覆せると楽観視できるほどに、不知火とてお気楽な性分はしていない。
なにも、変わっていない。
変えていけるような材料はまだ、得られていない。──レイアは悔しいかもしれない。けど、そんなことで謝ったりする必要なんて、不知火としてはなにもないと思った。
そして不知火はまた、聴いてもいた。伝えられて、いた。
「そう。──ウン、そう、ですよね。やっぱり」
やはり彼女にとっても予測の範疇の内であったのであろう、医師たちの言葉に頷いてみせた、妹の意志を。
告げられていた。
きっと、まだなにもわかっていない。きょとんと、彼女や不知火を見るひかりをその膝の上に載せて、けっして絶望に満ちたそれではない眼差しをレイアたちへと返した、雪羽の気持ちを。やりたい、ことを。これからの、こと。
「じゃあ、ひとつ。ううん、ふたつか。あたしから付け加えて、訊きたいことがあるんです。ふたりに」
その意志は、不知火にとってなにより尊重すべきものであり。
また同時にそれは、誰かに忖度するものでもなく、遠慮をした結果でもない、彼女自身の願いによるものであったから、──姉としてなにより、喜ばしいと思えるものだった。
* * *
「──あれ? きみ、たしか……白鷺ちゃんの、弟クン?」
学校の、裏門のところ。
ふたり並んでそこを出たとき、先にその存在へ気付いたのは、星架以上に彼への面識が薄いはずの真波だった。
見れば、確かにいる。知っている制服の、知っている長身。知っている顔の、中学生。
「ああ、『白夜』の──夕矢くん、だっけ。お姉さん待ち?」
顔見知りではある。しかし正直、気安い間柄と呼べるようなものでもない。
というか。彼と不知火の間になにがあったのかを、もちろん星架だってずっと以前に聞き及んで知っている。知ってからも幾度か、『白夜』を訪れる際に顔を合わせてもいる。
そのうえで、……やりにくさを感じない関係性がそこにあるわけではなかった。
なにしろ彼は、不知火に告白をし、願いを果たせず。
対する自分はその真逆で。不知火と、その想いを結びあった。そんな対極に位置する存在同士なのだから。
「いえ、不知火さんを」
「えっ?」
そういう思考に脳裏が埋め尽くされていたから、彼が不知火を出したことに対し、間抜け極まる、調子外れの声を思わず出してしまう。
男女の関係じゃない。別に、家族ぐるみの付き合いのある相手だ。そりゃあ待ち合わせだってするときはするさ。声を発した口許を押さえてから、自身の抜けっぷりに思わず頬が熱くなる。
「フラれなかった側が、フラれた側にやきもち妬かないの。わかりやすすぎだって。──ゴメンね、こいつ単純で」
ぺしり、と音を立てて、真波の右手の甲が軽く、星架の後頭部をはたく。
いや、その言い方もどうなんだ。デリカシー、十分に欠けてる部類の物言いだと思うのだけれど。
打たれた後頭部をさすりながら、星架は友をうらめしげに、睨む。
星架の反応に、そして真波の言葉に。少年は困惑気味の表情で、曖昧に首を左右へと振った。
「でも、もういないんじゃない? 不知火、もう帰ってるでしょ?」
「え」
「そもそも、あの子とは待ち合せてたわけじゃないの? 私たちは、真波の生徒会の仕事があったから残ってただけで──水泳部も、もう誰もいないわよ」
少年は一瞬意外そうに、眼をぱちぱち瞬かせて。明らかに、驚いている。
一応メッセージは送ったんですけど。既読にもならなくって。電話も留守電で。だから一応、こっちで待っていれば来るかなって。
頬を掻きながら、たどたどしくそんなことを言う。
見落としたのかな、と呟く少年。部室の場所といい、家の場所といい。たしかに裏門から帰ることも多い不知火だけれど──残念ながら、今日は絶対に違う。
「少なくとも、今日はこっちの門から帰ったってことはないと思うよ。今日は、雪羽ちゃんと行くところがあるって言ってたから」
「えっ。……ゆき姉と?」
「うん。ひかりちゃんの病院だって。聞いてない? ──まあ、顔合わせる予定もなかったなら、言ってもないか」
そして不知火がメッセージを見落とした結果、……あるいはまだ見れていない結果、少年はひとり勇み足でここでずっと待っていたわけだ。病院だから当然、電話にも出られない。
ん? いや、今はいいんだっけ。よく、ないんだっけ? 子どもの頃なんかは親からも壁の張り紙からも、携帯の電源は切るように、って。──いやいや。それはどうでもいい。
「なに? ひょっとして、きみたちのバンドのこと? スカウトされてオーディション受けるかも、っていう」
「ああ、ええ、はい」
かいつまんで、程度ではあったけれど、星架もそのことについては、不知火から聞かされて小耳にはさんでいた。
「みんなと話して。こうしたい、っていうのを、不知火さんとも話したくて」
それで取り急ぎ、不知火を探していたっていうことか。
「メッセージか電話、もう一度してみたら?」
あるいは、
「詩亜にも訊いてみようか? 親友同士だし、今どこか知ってるかも」
真波が、携帯の画面をぽちぽちやってくれていた。
「好きな人が多忙だと大変だね、おふたりさん」
なんて、言いながら。
生徒会と部活と、家の手伝いとが忙しくって、詩亜と一緒の時間がとれないってぼやいていたの、どこの誰だっけ。
そのせいで、詩亜も生徒会に引っ張り込んで。
あと、私も手伝ってるんだけどなぁ。そんなつっこみも星架の心には浮かんだ。
けれど、言わないでおく。
今は少年へと協力したい、という気持ちが、星架にも真波にも先にあったから。
暗い晩秋の夕暮れに、三人と。三人のもの以外の、すべての影が、今にも夜の闇と同化しそうに濃密に、黒いその色を揺らめかせていた。
* * *
ピアノの、演奏椅子に腰かけて、膝にひかりを抱く。
耳を傾けるのは、妹の奏でる、ヴァイオリンの演奏だ。
音楽のよくわからない不知火である。自分の歌声を求められ、賞賛されてもそこに実感を持ち得ぬほどに、それは実感の薄さを実感として持つ。
だから不知火にとって、妹の演奏はただただ美しい、また愛する者が奏でる大切なものとしてひたすらに耳に響く。
たとえそれが、積極的に他者へ見せるようなものじゃない、日常のひとつとしての練習の音色だとしても。不知火にとってはかわらない。いつだってきれいな、いつもの雪羽の演奏。ひかりとともに不知火はそのメロディへと耳を傾ける。
きっとそれが最後のひと小節だったのだろう、細く伸びた高音を、小さく、小さく余韻に変えて、あとに残していきながら。彼女の手にした弓が、ヴァイオリンの弦を離れれていく。
ふう、とひと息を吐いて、雪羽は楽器を下ろした。
ひかりの両手を使って、音のない拍手をしてみせる不知火に、妹は相好を崩し苦笑をした。
「大したこと、してないよ。とくに演奏に復帰してからは──なにか、新しい曲に挑戦してるわけでもない」
知ってる曲を、自分が演奏できる曲を思い出して、確かめるように弾いているだけ。雪羽はそう言って笑う。
「リースみたいに、なにかを求めて。前を見て弾いてる、前向きな演奏じゃないんだよ」
自嘲してるわけじゃないよ。でも、違うんだ。あくまでこれは私にとっての音楽、演奏。それをやっているだけなんだ──、って話。
「音楽の、違い?」
「うん。結局、そういうことなのかなって」
今の自分と、今のリース。
気持ちが揺れ動くのって、誘われた音楽と、今手にしている音楽。そこにギャップがあるから。
「それぞれが別々に、好きに弾いているような。同じ曲を二重奏しているのとは、かけ離れている、そんな感じ」
雪羽の喩えが、不知火には生憎と、よくわからなかった。それでもおぼろげに、リースと雪羽、ふたりの演奏が交わっていないということを言いたいのだろうということだけはわかった。
「あ。そーいえば、音楽と言えば。ゆーやに返信した? 星架先輩、あたしにも連絡くれたんだけど」
そんな妹が、楽器を置きながら。思い出したように、言う。
わかっている──大丈夫だと、不知火も頷く。
「さっき、送った。……夕矢くんには悪いことしちゃったな、待たせてしまって」
「やー、まあしょうがないんじゃない? ずっと病院いたし。あたしもお姉ちゃんも、携帯見れてなかったんだし」
少年は、話し合いを求めている。
彼は、その仲間たちは舞い込んだチャンスに──それとも単に、唐突な困惑の種だろうか──どのように思い、不知火へとどのような言葉を向けるのだろう?
「ね、ゆーやたちがやりたい、って言ったらどうするの?」
「んー。どうしようかな。実はまだ決めてない」
そう、まだ決めてはいない。
ほんとうに自分に、それは決定権を与えられるべきものなのか。わからずにいる。自分の意見に左右されるべきものだろうか? と。だから答えも、まだ出せていない。
「年上として無責任かもだけど。夕矢くんたちがやりたいなら、そのとき自分じゃなきゃダメだっているなら、そのとき選べばいいかなって」
「ふうん。肩の力、抜けたんだ」
「かもね。──それを言うなら、ゆきもでしょ。ゆきの場合は逆に、どうするか、どうしたいか決めたから、かな」
「そだね。……うん、そうだと思う」
ヴァイオリンのケースを閉じてそう言った、妹の表情は穏やかで、気負いや、重くのしかかるものをそこに感じさせない。
そんな妹が不知火には頼もしく、また羨ましく。彼女の決断を信頼できるものに思わせる。
まだ、知らない。聞かされてはいない──ただ、彼女がどうすべきか、どうしたいか。どうするか、「決めた」ということのみを、告げられて。
ともに、待つ。告げるべき、相手を。
「──お。来たみたい」
そして呼び鈴が告げる。その相手の、来訪を。
「準備は?」
楽器をしまい、楽譜立てを隅に押しやる妹に、ひかりを抱え立ち上がった不知火は、わかりきっている質問をふと投げてみる。
「あたしを誰だと思ってるんですか」
こと、料理と食事の準備において、雪羽が抜かるはずもない。誰よりそれは、不知火が一番近くで見てきて知っていること。
「さすが」
全部、ばっちり終わってるよ。
自慢げに片目を閉じて、彼女は親指を立ててみせた。
* * *
夕刻の時間帯の街は、季節柄既に肌寒く、冷たい風が吹き抜けていた。
その中を歩いてきた。だから当然、身体は寒風に晒されて冷え切っている。
否。身体の冷たさがなんだ。心はもっと冷え切っている──自分のやってきた、冷酷で配慮のない行為への、自覚と自責によって。自業自得に。
「あの……これ、は……?」
そんなリースの前に、ぐつぐつと音を立てて煮えている、あたたかで豊かな香りの湯気を発し続けるものがある。
電気調理器の上に載せられたそれは、出汁と、野菜と。その他いくつもの具材からにじみ出る複雑な味わいを、煮込まれ続けるその中に満ち満ちさせている。
「鍋。一般的な範囲なら、とくに日本食の具材で嫌いなモノ、なかったよね?」
数日前、雪羽から連絡をもらった。
これから、どうするか。どうしたいのか。決まったよ。そう、告げられて。その時点で打ちのめされていたリースは、指定されたこの日と、待っているという彼女の言葉にただ、頷くしかできなくて。
残念ながら今朝、その深い自己嫌悪はレイア先生との対話で一層濃密なモノとなってしまった。
無論それは医師の意図ではない。
レイア先生は肩を叩いて、元気を出せと言ってくれたけれど。まだ当分、リースは自分で自分を許せる気分にはなれそうになかった。
「ない、けど。……じゃ、なくて。あの。これは」
四人掛けの、椅子の食卓。真ん中に置かれた鍋料理を、四人囲んでいる。
座席は、ひとつだけぽっかり空いて。不知火の手が伸ばせる位置で、五つめの椅子として、幼いひかりの、テーブル付きの椅子が置かれている。
「だいぶん夜は冷えてきたからさ、やっぱりみんなで食べるなら鍋かなって」
骨付きの鶏肉を、鍋の中でひっくり返しながら雪羽は言う。
なんでもない、さも当然の状況がここにあるかのように。
「じゃなくって。どうして私と、あなたたちっ」
「へ。どうして、って?」
向かいの雪羽。その隣の、不知火。きょとんとふたり、こちらを見ている。不知火は、幼子の口許のよだれを拭ってやっていた。
「嫌だった? 鍋」
「違うっ。──私には、あなたたちと夕食の団欒をともにする資格なんてない」
あんなに無神経で、あんなに酷いことを言った。やった。
はじめに雪羽へと向けた提案も断られて当然だ、誰が一緒に来る気になどなるものかと思っていた。
今日呼び出されたのは、面と向かってその断りを入れるためなのだろう、と。
罵声を浴びたって仕方ないと、思っていた。
「なんで。あたしたち、友だちじゃん」
「でも、私にはそんな──」
「リースさん。資格とか、そんなのはいいんじゃないかな」
はっきりルールとか、そういうものが決まったものでは、ないでしょう?
ポン酢の蓋を開けて、リースの器にまで注いでくれながら、不知火も雪羽の言葉に同調をする。
「こないだも言ったじゃない。仲良くなりたいって。私の気持ちは今もそこから変わってないよ」
「シラヌイ……」
「友だちの関係性って、結局気持ちでしょ?」
それと。
「姉としては、妹がわざわざセッティングしたんだから、彼女の返事をきちんと聞いてあげてほしいわけですよ」
──でしょ? 目を伏せつつ、不知火は黙々と鍋奉行をやっていた雪羽に言葉を向ける。
野菜や、豆腐。それに肉といった具材たちの火の通り具合を見ていた雪羽は小さく頷いて、菜箸を手元の小皿に置いて。
「うん。──リースに、きちんと伝えたくて。その先で、リースと一緒に笑ってたくて」
一緒にあったかいものでも食べられたらなぁ、って思ったんだ。
椅子から浮かせていた腰を下ろし、ひと口お茶を啜って、雪羽はまっすぐにこちらを見る。
「リース」
真剣で、だけど柔らかい表情。
その隣で両者を見守る不知火の目もまた、あたたかな眼差しでふたりを映す。
「あたしを、連れて行ってほしい。──ヨーロッパにじゃない。アメリカに」
あなたの妹が、いる場所へ──……。
(つづく)
Q:なんで鍋?
A:寒いだろ(食べたかった




