第二十一話 蒼い海での、告白 前編
第二十一話 蒼い海での、告白 前編
四人で始める、新しい暮らし。
新しい家族と織りなす、その新しい日々がやってくることを兄から告げられたとき。それが不知火に与えたのは困惑であり、驚きであったことは否定しない。
だが同時に、不知火の心に芽生えた感情は、罪悪感という一見不釣り合いにも見える三文字でもあった。
どうして。何故という疑問とともに。
無論抱いた祝福も、それらの濃度には負けていた。
不知火は、「私のせいなのだろうか」という疑念を抱かざるを得なかったのだ。
「いいの、私が一緒で。せっかくなんだし、新婚ならふたりきりで暮らしたほうがいいんじゃないの」
冗談めかして、言えていたと思う。胸の奥のちくりとした痛みは、隠しおおせていたんじゃないだろうか。百パーセントの自信はないけれど、声は震えていなかったと、自分では思うから。
この感情ははじめてのものではない。
兄が生業を選んだそのとき、亡き親への尊敬や憧ればかりでなく、その選択の理由に不知火の存在があったように。
またしても、自分が兄の選択肢に影を落としたのではないかと、そう思う自分は、ばれてはいなかったと思うのだ。
大丈夫。こっちもふたりで話し合って、ふたりで望んだことだから。──兄は、電話の向こうで笑いながら言った。
奥さんには、妹さんがいる。
不知火と同い年で、二か月だけ、不知火よりあとに生まれた子で。不知火にとってもこれから、妹となる少女。
仲良くしてやってほしい。そう、告げた。
兄の言葉に対してそのとき、不知火は即答ができなかった。
見ず知らずの、家族が増えるということ。
不知火の中にある人見知りが、そうさせたのではない。
躊躇をしたのは、迷ったのは。不知火にとってほかの理由があったから。
その少女がもし、自分にとって近しい存在となったとき。彼女を自分は悲しませずにい続けられるだろうか。
仲良くする。それはいい。妹ができる。それ自体の、なんて甘美な響きだろう。だけど。
結んだ絆の分だけ、綻びが生まれれば苦痛は倍加する。
傷つけられる、少女にも。
傷つけてしまう、不知火にも。等しくそれはやってくる。
その状況に対し、たった今、兄たちに思ったのと同じく「いいのか」と、疑問を抱いたとして。それを払拭できる自分が、そこにいるだろうか? 自分にも、その相手に対しても。
その疑問は。自分自身への疑念は、兄との電話を終えても消えることはなく。
続いていった。ずっと、ずっと。
はじめて、妹と出会ったあの日にもまた。
兄と、義姉の葬儀の日。雪羽と、はじめての対面を果たしたその日にも、たしかに不知火の心の奥底に、くすぶり続けていたのだ──……。
* * *
その想いを溶かしてくれたのは、ほかならぬ雪羽だったのだ、と不知火は心の中、密かに述懐する。
「お姉ちゃん」
レイアの運転する車は、ふたりをこの島にはじめてやってきた日のように乗せて、海岸線の道を抜けていく。
空は晴れ渡り、水鳥たちの鳴き声が、開け放ったウインドウの隙間から、風と共に車内へ届く。
島の、初日もそうだった。
違うのはふたりの服装と、そして同乗者と。
「ほら、あそこ。海。岩場のあたり、なんかばしゃばしゃやってる。魚かな」
「どこ?」
「あれ、あれ。あそこ」
そりゃあ、魚くらいいる。海だもの。離島だし、ね。
素朴に思ったけれど、とくに口に出すことはない。
物珍しくなど思わないのは、この島で海を身近に生まれ育った不知火にとっての当たり前の感覚であろうから。
海の遠い街に生まれ、そこで育ってきた雪羽ゆえの新鮮な驚きは、彼女自身にとって大事なものに違いないはずだ。
「ああ。あれ、イルカよ。魚の群れ、見つけたんじゃない。よく見てたらそのうち水面に顔出すはず」
「イルカ? この辺、イルカいるの?」
「うん。普段はもっと沖合にしかいないけど、ほんの、たまーにね。船の上では見れなかった?」
「あー……船では雪羽も私も、ぐっすりだったから」
「ま、朝早かったろうしねぇ」
だから、同じく後部座席に並んで座る、みっちゃんが、雪羽の率直すぎる感想を否定せずにいてくれたのはありがたかった。
ハンドルを握るレイア。助手席のチャイルドシートにひかりを乗せて。後部座席に、女子高生三人である。
みっちゃんはもう、上半身水着に着替えていた。いや、彼女だけではない。
不知火も、雪羽も。それぞれにTシャツやタンクトップの下に、既に水着を着こんでいる。下も、同じ。
水着の上からホットパンツだとか、ジーンズだとか。足許はビーチサンダル。
レイアにしても、ひかりにしても変わらない。三人ほどに遊びまわるための装いではないにせよ、海遊びに向いた、軽装の格好に身を包んでいる。
とくにひかりは、幼いその身体に、小さなワンピースと、麦わら帽子とがよく似合っていて、ああ、小さな子ってかわいいな、と不知火からも見ていて、思えた。
あの、葬儀の日。
雪羽に、ひかりと同じように庇護すべき対象である少女に抱いた感情は、けれどそれとも違う。
「あ。ソフトクリーム屋さん? かな?」
「え、うそ。どこどこ」
桜舞う木の下。葬送の日。はじめて顔を合わせた彼女に、きっと自分は無意識、ひとめぼれをしていた。
「ほら、あれ。赤と白のビニール屋根の。開店したばっかりみたい」
「うわ、ほんとだ。こんなとこにいつの間に。こんな過疎化の進んだ島で、海水浴客向けのお店とは強気な」
「みっちゃん、それ島民本人が言うことじゃないよ」
もちろんそれは恋愛感情とか、即物的な意味合いではなく。
そばに、いたいと思った。
護るべきではなく、護りたいと願った。
彼女を、好いていた。
誰より不知火自身が、自分自身の欲求としてその気持ちを抱いたのだ。
「寄ってくか。食う?」
ほんとうにいいのかと引き留める、自分自身を心のうちに承知したうえで。
喪われたふたりの遺した生活を、遺されたふたりで営むこと。それを望んだ。そして雪羽もまた、望んでくれた。だから不知火は、踏み出せた。
永遠になんて不可能だ。
それでも。自分に出来うる、その限りに。
彼女がそこに立っていてくれたから、不知火と共有をしてくれたから。
「食べるー」
三人揃って、頷きあう。
そう。こんな光景を、この数か月の間、雪羽は一緒に作り出してきてくれた。
永遠なんて、無理でも。たとえいずれ、彼女を悲しませ、困らせるとしても。抑えられなかった衝動がもたらしたものは、不知火だけでなく、雪羽にとっても有意義なものだったと信じたい。
縋りたかった、自分のわがままだったとしても。
終わりがいつかやってくること、それを知りながらの、おぞましいくらいの自分勝手だとしても。
雪羽を笑わせることができた、そこに無駄はなかったと思う。
だからこそ今日、ちゃんと伝える。
すぐにじゃなくとも確実にやってくる、終わりのこと。
わかっていながら求めてしまった自分を、謝罪しなくてはならない。
いつか、彼女を悲しませてしまうこと。
ううん、いつかじゃない。これから先に。
アイスクリーム……ソフトクリーム屋の人が、過疎化の島にて開業するその無茶、無謀をわかっているであろうように。不知火は全部、既にわかってしまっている。
ソフトクリームが儚く、いつしか溶けてしまうように──目の前のやすらぎは消えてしまうということ。
「ユッキー。買ってきてくれ。ワタシはバニラな。ひかりにも分けてやるからできたら、カップで。スプーンもらってきて」
「あ、うち抹茶。不知火は?」
「じゃあ、モカ。いい? 雪羽」
「ん、オッケー」
「ほい、お金。千円で足りるか」
大丈夫。私にはもう、覚悟は出来てる。
トレーラーハウスを改造したような、ソフトクリーム店に向かって走っていく雪羽の背に、独り不知火は、細めた目を投げかける。
これで、いいんだ。
* * *
道中に買った、抹茶味のソフトクリームの、最後に残ったコーンの一番下のひと切れを頬張る。
アイスの部分はずいぶんともう、溶けていたけれど、それでも小気味よく、さくさくとした歯触りで、それは口の中で砕けていく。
「レイア姉は、知ってるんですよね。全部」
味覚に広がっていく、コーンの香ばしさと、抹茶の風味。それらを感じながら、観月は先を行く義姉妹の背中を追う。
ともに、ふたりのあとについて歩く金髪の女性に、語りかける。
「んー、まあな。どこまでが全部かはともかく、たぶん概ね」
観月の知ってる、不知火のこととか。
その分野を超えた、……たとえばあいつが、ユッキーに言えていないこととか。逆に、言えてる範囲とか。大体把握してはいるつもりだよ。
「そっか。……どう、思うの?」
どう、って。レイアは観月に聞き返す。
「不知火の決断は、正しいのかな。雪羽ちゃんは、それをどうするのかな、って」
訊いた観月に対し、一瞬、レイアは間を挟んで。
やがて苦笑交じりに、返す。
「それ、訊く相手間違ってない? ワタシが解答を用意できることかね」
たしかに、と思った。
不知火の行動の正誤も。それを受けた雪羽がどうするかも。いずれもが、第三者には論評もできないし、決められるものでもない。
すべては本人たちが決めて。
本人たちが受け容れるべきこと。レイアの諫言は、ぐうの音も出ないくらいに、正論だった。
「なんにせよ、今日は伝えるだけだ。不知火自身にだってそれ以上は、やりようがない」
あの姉妹が乗り越えるべき未来は、それが実際にやってくるのは、もっと先なんだから。
「……はい」
「その頃には、ひかりも小学生か、中学生か。そんくらいかなー」
ただ、今の時点で言えることは。
「大変なのは、不知火だけじゃない。むしろ気持ちの上では、ユッキーを支えてやらなくちゃ、って思うよ」
彼女が、潰れてしまわないように。
レイアが言うとほぼ同時、前方でふたりの足どりが、不意に加速する。
不知火が、雪羽の手を引いて。ビーチサンダルに砂を巻き上げながら、駆け出していく。
そう、国道沿いの駐車場から続く道はいつしか、アスファルトから砂利交じりに、砂利交じりから、砂のざくざくとした踏み心地に変わって。
「ほんと、ありがとな。不知火に代わって礼を言うよ。この場所、まだ健在か。探してくれたんだろ」
今度は観月が苦笑をする。
礼というなら、既にもらっている。不知火たちが島についたその日に、不知火自身から、ふたりきりになったふとしたタイミングに。
「それ言うなら、レイア姉にでしょ。ここに来るの見越して、わざわざレンタカー借りてきたんでしょ」
うちは、昨日のうちにチャリを飛ばして、確かめに来ただけ。
ここ来るの、小学生以来だもん。
「不知火?」
と。先を行く水着のふたりが、パーカーの紐を、フードを揺らして駆けていく。
少し小高い、坂の道。その先へ。
ひと足先に、ふたりの姿がそこに消えていく。
「行ってこい」
入れ替わるように、観月たちはゆっくり、足を止める。
ほんの、ほんのひととき、ふたりがふたりきりであれるように。
──ああ、行ってこい。
そのために、来たんでしょ。大切な妹さんと。ねえ、不知火。
一緒にその目に焼きつけて、あげて。雪羽ちゃん。
その先に広がる……きれいな、蒼を。
* * *
「この景色を、見せたかったんだ」
不意に駆け出した姉は、雪羽の手を引いて。
それに引っ張られるように、雪羽もまた走り出す。
緩やかな上昇のカーブを描いた、砂道、坂道。その上りきったそこからは、砂浜に、水平線広がる海へと眺望は続いているのだろうと、雪羽は予想をした。
「──え、──……」
けれどそこにあったのは、その想定という、思考上に用意していた準備を超えるものだった。
こんなの、身構えきれるわけ、ない。
ああ、こんな。
どこまでも広がる、『蒼』。
「ここよりきれいな海を。蒼い、蒼い海を、私は知らない」
そうだ。だって、
こんなにも、蒼い。
晴れ渡った空の色が上にも、下にも一面に広がっているような、どこまでも美しく透き通った『蒼』なんて。
こんなの、見たことない。
「海外の、南国の海とかなら、あるのかもしれないけど」
ああ、確かに。この光景を形容するなら、それが一番近いのかもしれない。
海外旅行の、パンフレットや。コマーシャルや。
そこに映し出された、水着姿のモデルやタレントたちがはしゃぐ様相。それが連想される。
白金のような、さらさらの砂浜。
スカイブルーという色はきっとこのことを言うのだろう、蒼い、蒼い海。
でも、そんな映像上の、写真のうえだけの平面ではない。
今まさに、ここにある。圧倒的に鮮烈に、美しく。
連想されるものより、けれどそれらはいずれもずっと、色鮮やかで、眩く。なのに、遥かに自然で当たり前にそこにある。
脚色も演出もなにもない。
ただそれ自体が美しく、蒼く透き通る、海。
雪羽が直面するのはそんな、瞳を奪われて当然の、想像の範疇を超えて現れた光景だった。
「この海の蒼の色を、雪羽に見せたかったんだ。雪羽と一緒に、見に来たかった」
その『蒼』を臨む砂浜に、水着姿の姉妹ふたり、佇んでいる。
手と手、握り合って。姉の声を聴いている。
優しい、いつもの姉の声はほんの少し、今はその成分に感慨深げな響きを含んでいる。
その横顔に、雪羽は目線を向ける。
「ここが……お姉ちゃんの、はじまりの場所?」
「うん。この故郷の島が。この蒼い海が、私にとってのはじまり。この島から、私は始まった。はじめて、この世で一番美しいって、こういうことを言うんだろうって思った」
海の、水の美しさを知った。そこと一体になれる人になりたいと思った。だから、水泳を始めたんだ。
話している間も、そのどこまでも広がる美しいブルーには陰りはなく。
ただ雪羽は、その光景を呆けたように、再び目線を戻しては見つめ続ける。
きれい、だ。
ほかの感想なんてない。どんな形容をして、どんな称賛をしたって、それは蛇足で陳腐であるように、雪羽には思えた。
余計な言葉なんていらない。
そこに佇む海は、ただきれいな蒼に満ちていた。
「この場所で。私の一番の、この蒼い輝きを、雪羽に──ゆきに、見せたかった」
ほかの誰でもなく。
かけがえのない、存在だから。たったひとりの、妹だから。そう言ってもらえた自分が、なんだか誇らしくて、……こそばゆい。きっとそこには、はじめて姉から呼ばれた愛称も、心のむずがゆさを引き起こす原因として、加わっているのだろうけれど。
「ありがと、お姉ちゃん」
あたしをここに、連れてきてくれて。
お姉ちゃんの特別の『蒼』を、あたしにも、分け与えてくれて。
感謝とともに、絡めあった指先に、包みあった掌に力を込める。
「──お姉、ちゃん?」
けれど不意に、あちらの側から、ゆるやかにその手が離れていく。
強く握り合うのは、雪羽の側から一方的なものとなる。
一歩、一歩。雪羽の指先から離れて、姉は砂浜に進んでいく。
さくり、さくりと、姉のビーチサンダルが、真っ白な砂のキャンバスに足跡を刻み描く。
「ここで、伝えたかったんだ。私の、一番の場所で。一番大好きな、ゆきに」
背中を向けたまま、砂浜を下りゆく姉は雪羽への言葉を紡ぐ。
「──私たち。この蒼の色を何度、あと見に来れるかな」
「え?」
「そうそう、頻繁には来れないよね。やっぱり。学校だってあるし、どうしたって遠いし」
今回だって、大変だった。
「別に、休みのときなら何度だって。これから先、ずっと」
たしかに、それは事実だけれど。
なんだか、彼女の言はらしくもなく、場違いに思えた。今、交わすようなものには感じられない。
そんな勿体付けなくったって。お姉ちゃんの里帰りに合わせて、何度だってこれる。そりゃあ毎週とか、毎月とかは無理かもしれないけど……。
「何度だって、か。……これから先、か」
あとになってから思う。その言葉を発したとき、姉は背中の向こうでどんな表情をしていたのだろうか。
けれど振り返ったとき、姉は確かに笑っていた。
いつも穏やかに、静かに。ほのかに笑う姉だけれど、今は屈託なく、満面に。顔いっぱいをつかって──雪羽に向かい、やわらかに笑ってくれていた。
「ほんとうに、なんでもないことなんだ。私にとっては、もう。今の時点ではもう、私は受け容れてしまったこと」
「え……?」
「だから、お願い。このことで、傷つかないでほしい。思い悩んだり、しないでほしいんだ。ゆきには、私の見えている間は、笑っていてほしいから」
繰り返しになるけど。私は、大丈夫なんだ。──って。言った。
それは、前置き。
姉にとってほんとうに、なんでもないことだからこそ、雪羽にもそう受け取ってほしいと思ったのだ。だから。そうやって、雪羽のためだけに彼女はひと呼吸を本題の前に置いた。準備を、整えてくれた。
「十年後。たぶん私は、そのときにはもう、ゆきと一緒にこの蒼い海を見ることはできない」
それだけのことを姉はしてくれたのに、発せられたその言葉を最初、雪羽は理解できなかった。
「単なる目安なんだ。だけど大体、二十代の半ばくらい。おおよそ、あと十年。あと、その十年くらいで──私の目は、見えなくなる」
この世界の光景と、お別れしなくちゃいけないんだ。
ゆきと見ている、この世界を。
私は、なくす。
──姉の紡ぐ、それらの言葉が耳から脳に、入ってこない。
言っていることが、わからない。
どういう、ことなの。
「生まれつき、なんだ。小学生の頃には、もう知っていた。自分の目が、見えなくなること。だからもう、そういうものなんだとわかってる」
わからないよ。
こんなにも、姉の表情はやわらかで。
こんなにも、姉は笑いかけてくれているのに。
「最後に見る世界の中で、ゆきには笑っていてほしい。ゆきの笑顔を、最後まで見ていたい」
わがままで、ごめん。──とても真摯な言葉を、姉は投げかけてくれているというのに。
こちらこそ、ごめん。
わからない。
お姉ちゃんが、なにを言っているのか。
呑み込めない。
出会って、数か月。
いろんな時を、一緒に過ごしてきた。
お姉ちゃんが、大好きと言ってくれるなら。雪羽だって、お姉ちゃんのことは大好きだと、躊躇せず言いきれる。血のつながりはなくとも、そんな姉妹にふたりはなれたはずなのに。
それなのに、こんなにも。
はじめて、思う。
どうしてこんなに、お姉ちゃんを。お姉ちゃんの、声を。すぐそこにあるお姉ちゃんの、存在を。
こんなにも遠くに、感じるのだろう──……?
「ごめん」
姉の表情はしかし、変わらず雪羽に向けられた笑顔だった。
まるで見えなくなる自分の代わりに、雪羽に己が笑顔のかたちを、憶えていてほしいと願っているかのように。
(つづく)
次回、後編。
1月20日更新予定。




