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87話 午後

 アキトは本棟を出て適当な売店で食料を調達して昼ご飯を綺麗な庭を眼前に柔らかい日にあたりながら木の幹に寄り添う形で座っていた。

 

「優勝商品か……」


 魔導修練祭のトップの学園には様々な優勝特典が付く。

 一つ目がその年卒業の生徒への破格の優遇制度だ。

 卒業後は帝国の騎士として従事したり冒険者をやったり商人や旅人など生徒それぞれやりたいことは分かれる。例えば帝国騎士ならいきなり上官を任されたりなど優遇されたり冒険者ならいきなり高いランクから商人なら帝国お墨付きとして売り上げの数パーセントを国から支援してもらえたりなど他にも山ほどある。


 ただそれも実力がなければ続いていかないのでこれをうまく使っている生徒はかなり少ないと言われている。


 確実なのは他の人達よりは成功する確率が高いということだけだ。

 これは、学園側にも当然メリットはあって、学園運営資金の補助が国から支給されさらに先生の給料が上がるとウタゲは豪語していた。


 ウタゲは主にそれ目的でやる気満々だった。

 まだまだ他にもあるみたいだが全部が毎回全部確実にあるわけではないので分からないが、これだけ優勝商品が揃えられると嫌でもやる気は出る。


 野菜サンドを頬張りながらアイテムボックスに冷えて入っているトマトジュースを取り出しちびちび飲む。


 アキトは昼ごはんを食べ終えてそのまま魔導書館へ向かう。魔導書館ではハヤトと待ち合わせしているが時間がまだ余裕があるので先に寮に戻って返したい本を持ってくることにした。


 そして、意外と早く魔導書館に到着する。


「なんだか見るたび来るたびに寂れてないかここ……」


 何度来ても不気味な味を出している魔導書館を見て、アキトは心の中で改善案をいくつか候補に出すが即座に撤回する。


 アキトは待ち合わせ時刻より早めに着いたので先に借りていた本を返すことにした。

 カウンターに置いてある魔法陣の描かれた開いた本の横にある返却口に本を入れる。


「う……うみゅ……む……」


 アキトはカウンターの奥に置いてある見るからに柔らかそうな赤いソファの上で以前出会った少女が気持ち良さそうによだれをソファに垂らしながら昼寝していた。


 しばし様子を見ていると真上を向いて寝ていたのだが寝返りを打とうとしてソファの背の部分に顔を埋める。

 数秒後息苦しくなったのか大きく回転してソファの背の反対側へ移動するが体の半分がソファからはみ出しそのまま体重を支えきれなくなり顔を下にしてその流れに任せ落下する。


「ふべっ……すー……す……すー」


 この状況で起きないとはすごいなとアキト関心しながら仕方なくその少女を抱きかかえソファの上に少女を置こうとした時ーー


「やあアキト久しぶりだね!」


 アキトは突然現れたハヤトに気づけず少女を抱きかかえたまま静止してしまう。


 この姿を見たハヤトも笑顔のまま静止していた。

 アキトはこの状態の何秒かで頭をフル回転して言い訳を考えるがこんなことそうそうあることではないので都合の良い言い訳が思い浮かばなかった。


「いや、これは……なんだ……なんだっけ?」

「いやいやそれは僕が聞きたいところだよ!アキトがまさかロリ……」

「おい!それ以上は言うな。ーー断じて違う!」


 アキトは最後のところを少し低いトーンで言うことで真剣さをアピールしてみたが無駄に終わった。

 ハヤトは冗談だよと言うように肩をすくめアキトと同様に本を返す。


 アキトはその様子を見てからこの少女をソファの上にそっと慎重に置く。


「で、その子は?」

「名前も知らん……」

「え?」

「いや、本当に」



「へぇーそんなことがあったのかー」


 あれから二人はソファのある場所に座りアキトがトマトジュースをご馳走しながら少女との出会いの経緯を説明していた。


「でも不思議だねこの時間帯何もしてないと教師にいちゃもんつけられるのに」

「ああ、それは俺も思ったんだよ」


 アキトとハヤトはそれ対策で図書館で一応本を並べてページを開いたり閉じたりしている。


「クラスは黒聖だしアキトはひょっとしたら同じクラスかもしれないよ」

「冗談はやめてくれなんか本当にありそうだから怖い」

「まあ、あの少女のことは一旦置いといて本題に入ろうか」

「そうだな」


 アキトはトマトジュースを一口、口内に含め喉の渇きを潤し本題に入る。


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