82話 幕引き
「ここは……痛っ!」
バルトは目を覚まし起き上がると自分の部屋のベットの上にいた。
ゲルルージとの戦闘以降の記憶がなく、いくら過去を遡ってもどうしてもそこで止まってしまう。
「もう少し寝ていなさいバルト」
「父さん……」
ベッドの横には血だらけの父が座ってバルトを心配そうな表情で見つめている。
「助けが遅れてすまんなバルト。アギトは生きているしあの魔物は何処かに逃げられてしまった。父さん達が到着した時には既に斬り落とされた両腕とお前達二人の姿しかなかったんだ」
バルトの父、シルバ・ベルは、バルトとアギトを運んだ際に付着した血がついて血だらけになってしまった。
「村の人達の力も借りて魔物を探し出そうとは思ったんだがもう日も落ちているからな捜索は明日になったよ」
「ありがとう父さん。心配かけてごめん……」
「いいんだ……お前達はまだ子供だ親には遠慮なくていい。それにな、村の人もみんな躍起になって抑えるのが大変だったんだぞ」
シルバは優しく微笑むとバルトの頭を撫でながら当時の様子を語ってくれる。
「兄ちゃんの様子はどう?」
「まだ、意識は回復しないが命には別状は無い。ただ……」
シルバは神妙な面持ちで形相が険しくなる。
「もしかすると今後お兄ちゃんは魔法やスキルを使えなくなるかもしれない。使えても攻撃系の魔法、スキルの威力は下がっていく一方だろう」
その事実を聞かされ胸が焼かれるように熱くなり今日の戦闘時よりも強い痛みが心を襲う。
「ど、どうしてだよ!」
つい、バルトは声を荒げてしまいシルバを驚かせてしまうがこれだけは譲れなかった。
「実を言うとアギトの攻撃系統の魔法、スキルの威力の低下は今日だけの原因では無いんだ。一ヶ月前ぐらいからスランプに陥ったっておアギトから相談を受けててな実際に見てやったんだ。父さんは魔法は使えないが魔法が使える母さんよりも詳しいからなまじかで見てやれば原因が分かると思ったんだ。そして、お兄ちゃんが放った攻撃系の魔法やスキルは全て威力が下がっていた。補助系、いわゆる付与系のものや身体強化系の持続時間も著しく落ちていた」
「それって……」
「そうだ、父さんと同じだ。父さんも幼少期の頃は魔法やスキルを周りの子達よりも使えていたがいつしかアギトと同じように威力が落ちついには使えなくなってしまった。父さんが発症し始めたのがアギトよりも若い時だったからまさかお父さんと同じとは思いもしなかった」
「じゃあどうすれば!!」
バルトは必死に訴えかけるがシルバは何も答えない。
シルバの魔法やスキルが使えない原因は未だに分かっていない。持続時間は短いが付与系、身体強化系の魔法やスキルを駆使し戦闘技術はかなり秀でていたのでシルバは国で騎士までの地位を築いた。
なのでシルバは、もし魔法やスキルを使えていたらもっと上にいってもおかしくは無い実力の持ち主だ。
「父さんなりにどうにかしてはやりたいがこれはアギト本人の問題でもあるしあまり他の人が言うのも逆に危険だったりする。だからなお父さん達と村の人達でルーエを募ってなアギトを魔導学園に行かせることにしたんだ」
バルトは自分が行ってみたかった所に先に行かれ嫉妬心が強くなると思っていたが、案外実際こうやって理由を聞いてしまうとどうも思わず、むしろ歓迎していた。
「村の人達はいいの?」
「ああ、村のみんなは全員一致でルーエを払うといってくれたんだ」
「でも……試験は……」
「大丈夫だ父さんの仲の良い冒険者が結構いてなその人達から推薦してもらうつもりだ」
バルトは安心と疲れからそのまま眠ってしまった。




