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70話 土を培う


 さて、どう降りようかーー


 バルトは、天井のさらに上、真裏の外壁の部分に立っている。

 下を見下ろすとあれだけ大きかったトレインがかなり小さく見える。

 バルトは考えていた。

 この高さから降りたら間違いなく無駄にダメージを負う。落下途中にさっきみたいに魔法かスキルでも放ってその反動で凌ごうかと考えたが、そんな細かい制御をした記憶が無いので再びここに戻ってくるのがオチだった。

 

 バルトは腕を組み座り込みながらどうするか目を閉じて思考する。


「ガッハッハ!!!!おーい大丈夫かー!!!」


 闘技場全体に響き渡るくらいな大声でトレインはバルトを心配する。

 トレインは嬉しそうにバルトを呼びつけ、その姿からは隙しか感じさせないほど無防備だった。


 バルトは思わず笑みがこぼれてしまう。

 トレインは今もバルトに手を振って安否を確認している。

 まるで子供の頃の自分を見ているようでバルトは懐かしく感じる。


「俺も昔はもっと純粋さに磨きがかかってたんだけどね……」


 バルトは壊れた天井に出来た穴の縁に立ち、下を見据える。

 トレインも暇なのか、砂地を整地していい感じのクッションを作っておりそれを見かねたウタゲが一旦試合の中断を宣言してくれたことにより安心して降りられるようになる。


 バルトは開けた天井の穴から垂直に飛び降りる。


 この高さから降りた経験など無いので若干の恐怖があったがあまり長い間試合の中断もよくないのでさっさと恐怖を捨てる。

 そんな簡単に恐怖を捨てられるかといったら出来ないだろうがバルトにはそれを直ぐに克服出来る一つ簡単な方法があった。


 まず、頭を真っ白にして何も考えない、目を瞑り三秒数え、深呼吸を二回ほど追加して終了。

 これで大体の恐怖は打ち消すことができ、バルトは幼少期からずっと使っている。


 バルトは垂直落下の中で考えていると砂の中にすっと突き刺さるように埋まる。


 下にある土や砂はいい感じのクッションになっていて土の中は羽毛の中にいるような感覚でこのまま寝てしまいそうになるほど気持ちよかった。


 バルトは砂山から顔を出しなんとか砂山から抜け出す。結構奥深くまで埋まっていたので抜け出すのに時間がかかってしまう。


「ガッハッハ!!大丈夫かバルトよ!」

「うるさいぞトレイン。だが、ありがとう!!」


 トレインに手を差し出されバルトはその手を取り起き上がる。手を握る際、力加減を知らないのか思いっきり握られる。


 痛ッででで!!

 バルトのプライド上、痛いと声を上げたくないので必死に我慢するがかなりの激痛だ。


 ウタゲに警告をだされ、次場外になったら即失格という二次試験のようなルールが追加される。


 さっき避けた砂山の上にバルトは立ち、トレインはウタゲのいる中央付近からの再スタートだ。


「ガッハッハ!!いくぞバルト水属性魔法<華水流月/ドラフティングムーン>!!!」


 開口一発トレインは片腕を下から上に振り上げそれを追随するように魔法陣が出現し斬撃と化し、圧縮された水が地面を削り轟音を立てながらとんでもない速度でバルトへ迫る。


 バルトはその攻撃に合わせ火属性魔法<火達磨落下/ダルマフォール>を放つ。水の斬撃の方向に合わせて上空から狙いを定め大きな火の玉を打ちおろす。

 方向は自分に飛んでくることが分かっているのでバルトは簡単に合わせる。


 だが、トレインの水の斬撃とバルトの火達磨が衝突する寸前トレインの斬撃が直角に曲がりそのまま直進して観客席の壁(結界)に衝突する。

 バルトの火属性魔法とトレインの水属性魔法が少し掠っただけでも水蒸気が発生し辺りに充満する。


「ガッハッハ!!曲げられると思ったんだが全く無理だったわ!!」


 トレインが急に水の斬撃の角度を変えたが、一切ブレずにバルトの放った火の球は地面に落ち、足場となっている石版を溶かし、穴を作る。


「ガッハッハ!!バルトよそろそろ本気行かせてもらうぞ!!」

「いいねぇ〜俺もそのつもりだよトレイン!!」


 そのまま両者一斉に走り出す。


 今度はお互い属性を纏う。

 バルトは火属性魔法<豪火羽衣/ファイアベール>で全身を火で包み込む。体が軽くなったと同時に血液の循環が良くなったのか体が火照り始め、力が毛穴から溢れ出てくる。

 それと同時に拳の傷の出血もようやく止まる。

 制服の上から一枚フード付きの上着を着用したような感覚で、そのベールによって、感度が増し俊敏性が上がる。


「ガッハッハ!!土属性魔法<土砂降衣/ソイルベール>!!」


 トレインはバルトの土属性バージョンの魔法を放つと、背中から土砂で出来た人型の魔物が右上肩ぬるっと現れそのまま全身を這い出し人型の頭がちょうどトレインの顔を半分埋めたところで侵食が止まる。

 制服の上から人が抱きついているような形の衣が完成する。


 バルトは若干気持ち悪くて引いたが、その人型の形をした魔物からはかなりの量の天恵を感じ取れた。


 両者利き手の拳を覆う衣が膨れ上がりそれ以外の部分の衣量が減少する。

 走り込んだ勢いで両者拳が触れる距離になった途端ブレーキをかけそのまま腰を捻る。その反動のまま腰から腕、そして拳へ捻りを伝達するように放つ。


 一直線の軌道を描きバルトとトレインの拳が正面衝突する。


 試合開始時に打ち合った時は魔法、スキルを使わずにあの威力だった事を今頃になってバルトは思い出し利き手が疼く。


 怪我していた事を忘れいてたバルトとトレインだったがそんな事御構い無しに流れるよう拳を放つ。

 属性魔法の羽衣で覆っているので直接よりはまだましだが、だからと言って無傷で済む問題ではなかった。


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