62話 寮
「おーい……大丈夫かー」
さっきのジルが放った殺気でアキトとシロネ以外全員膝をつき、バルトとエルは頭を地面に付けて蹲っている。さっきまで一番気を抜いて喋っていたのがこの二人だった。
アキトはバルト、シロネはエルを支えながら起こす。
二人は息が荒くちゃんと会話できるレベルではない。ユイとエーフ、トルスは自分達でなんとか起き上がり未だ余韻が残るのか三人とも頭を抑え苦渋の表情をしている。
「シロネこっち頼む」
「了解したのじゃ」
シロネはエルをアキトに預けまずは症状が軽い三人に回復魔法を施そうと思った時ーー
「大丈夫か〜」
試験官、今となっては正式な先生の立場となったウタゲが近づいてくる。
そのまま、三人に近づき回復魔法ではなくアイテムボックスからポーションを取り出して三人を通常時までとはいかないがある程度動けるレベルまで回復させる。
「こう言った精神的に来たダメージは回復魔法よりポーションの方が効く。覚えておくと良い」
試験官の時とは打って変わって先生の雰囲気を醸し出すウタゲに皆驚く。
「お前ら二人は気を抜きすぎだ次は注意しろよ」
ウタゲはバルトとエルにはお高いハイポーションを二人に浴びせる。
二人は自分で立てて喋れるレベルまで回復し、なんとか医療棟に行かずに済みそうだった。
「申し訳ないです。ありがとうございましたウタゲ先生」
「サンキュなウタゲちゃん」
「へぐぅっ!!!」
「ウタゲ先生だ!」
バルトがウタゲにボディーブローを受け悶えていた。バルトのちょうど右下脇腹に直撃した痛みは尋常ではないようでしばらく釣られた後の魚みたく跳ね、結局バルトだけ医療棟に搬送されて行った。
室内闘技場を最後に出たアキト達はこれから住むことになる寮に向かっていた。
ただただ広く、豪華絢爛な中庭を抜け歩くこと十分、ようやく目的の寮に着く。因みに男子と女子は棟が違うのでシロネ達とは途中で別れている。
そして、アキト達は着いてそうそうアホみたいに口を開けその寮の大きさ、美麗さに圧倒され案山子のようにぼーっと突っ立ていた。
アキト達はぐうの音も出ず、この学園というものにどれだけ帝国、国が力を入れているかがよく分かる。
男子の棟は五つありそれぞれ一階に共同スペースがあり二階に一年生、三階が二年生かと思いきや共同スペースの二年生用が設けてある。三年生も同様だ。
六階建で、長方形のマンションのような外観で外側がレンガ造り、棟はそれぞれ白、黒、黄、灰、茶の色で区切られている。
玄関、入り口には教師が一人立っていた。
「みんな〜久しぶり〜」
いつものやんわりとした口調でアキト達をシェルは歓迎してくれる。
玄関はとても広くダンスが踊れそうなくらいの大きさで、その一角に監視員が常駐しており、結構いかついグラサンかけたおっちゃんがどっしりと構えている。
安心感はあるが毎朝ああの顔を見るとなるとかなり重いなぁとアキトは思っているとシェルが説明を始める。
「じゃあ、まず自己紹介からっていらないか。じゃあまず君達が暮らす寮はこの黒い棟になるから間違えないようにねー」
シェルに着いて扉の前に立つ。
アキト達の寮だけじゃなくそれぞれの寮が三メートルくらいの外壁に囲まれており、玄関を潜るとまず庭を通る。
小さな池や軽いガーデニング、食物を育てられそうな畑があり、木々も生殖しておりその下にベンチが置かれバーベキューでも出来そうな程綺麗な芝生に整っていた。
そして一分ほど歩くと学生寮が見えてくる。そして、寮の入り口でシェルが止まる。
「じゃあまずここに登録します」
シェルは言いながら指をさす。その先には歪な円の形をした直径二十センチくらいの魔法陣が描かれた石がある。
「ここにまず君達の学園カードの登録をします。ここに登録してあとはその学園カードをこの魔法陣にかざすだけで扉が開く仕組みになってるのです!」
セキュリティ面は思っていた以上にしっかりとしており、安心出来る設計になっていた。
アキト達は一人々登録していく。といってもただ数十秒間魔法陣に学園カードを置くだけなので特殊なことは一切しないのですぐに終わる。
「この学園カードはこのようにこの学園至るところで使うので絶対に無くさないようアイテムボックスなどにしまっておいてくださいね〜」
認証を済ませちゃんと反応するかどうかテストし、中へ足を運ぶ。
「うわぁ〜」
エルが思わず息を漏らす。
まず入り口を入ると目の前に一直線の通路が見える。その壁面には魔法的な絵画やオブジェクトが置いてあり、下には高そうな真っ赤な絨毯が敷いてあり、明かりも全てアイテムによるもので、自然に消える心配がない。
一階には食堂やトレーニングスペースに娯楽施設まで豊富に揃っている。
まずは部屋の説明があるのでアキト達は二階に上がる。
アキトは少し期待していたエレベーターがなくちょっと残念だったりもしたがエレベーターの代わりに転送魔法の応用で魔法陣の上に乗り好きな階を想像するだけでそこに転送されるもはやエレベーター以上の機能を備えたものがある。
階段にもしっかりと絨毯が敷いてあり段差一個々に滑り止めがついており、しっかりとしていた。
二階に上がると左右に廊下が広がっていて、右奥から順に201号室、202号室と順々に210号室までと十部屋ある。
アキトはてっきり相部屋かと思っていたが一人一部屋だ。
それぞれ部屋を割り当てられ、トルスが201号室、エルが202号室、アキトが203号室になった。
「あ、あと部屋に入るのも学園カードの認証が必要だから忘れずに持ち歩くこと。もし忘れた時は常駐してるあの人に言ってね〜」
学園カード=部屋の鍵の役割もこなす。
さっきの出入り口の認証で各部屋の分まで済ませてあり登録作業は省きついに部屋の中へと入る。




