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6話 死地

十二月二十一日


 けんは、一人ログインし、ジグとオフ会の日程について話合っていた。


「分かりました。十二月二十二日ですね」

「お仕事に差し支えないですか?」

「大丈夫ですよ」


 ジグはにこやかに答える。


「場所はどうされます?」

「場所はちゃんと決めてあります。僕の家はどうでしょう?」


 けんは、一瞬ためらったが即座に切り替えなるべく早く答える


「ジグさんが良ければ、お願いします」


 いつも通りの笑顔を崩さず答える。

 これで、場所、日時が決まった。

 それから、ジグとの集合場所を決め、けんはログアウトしようとした時ーー


「あぁそうそう、ちゃんと二人で来てくださいね。待ってます」


 この言葉で、けんの疑惑は確信へと変わる。


「はい、では明日」


 ログアウトし、けんはベットに寝っ転がる。

 明日は人生最悪の日になるだろうなぁ、そう思いつつもついにやけてしまう。

 ベットから起き上がり、明日の準備を始める。



 次の日、けんは昨日決めた集合場所へと足を運んでいた。

 予定時刻の五分前、すでにジグは来ていた。

 集合時刻は昼の二時ーー

 

「こんにちは、ジグさんですか?ラミルです」


 ラミルはけんのゲームプレイヤーネームになる。


「はい、こんにちは」


 ジグは何かに気づいたのかまるではてなを浮かべたような表情で質問して来る。


「あれ?アキトさんはどうされたのですか?」


 アキトというのはけんの幼馴染、藤重璃屠≪ふじしげあきと≫のプレイヤーネームだ。名前をそのままを使っている。


「ちょっと体調が悪いそうで、今日はパスするそうです」


 いかにも本当っぽく、なおかつ嘘は入れずギリギリのラインで答える。


「そうですか、それは残念です。お大事にとお伝えください」


 ジグは本当に残念そうに表情を曇らせる。


「では、案内しますね。車回してあるのでどうぞ」


 けんはジグの案内に従い、そのまま車に乗車する。普通の車で内装は特にいじってないうえ綺麗な状態に保たれている。


 それから十分くらい車を走らせ、ジグの家に着く。

 かなり大きい一軒家で、まさに豪邸といった感じだ。周りには家が無く、かなり広い土地を買っていることが分かる。

 けんが呆けてると、ジグは家の中へと誘導してくる。


 覚悟を決める。さぁ頑張りますか、けんはそう心の中で言い自分を鼓舞する。

 セキュリティを抜け大きな扉の前に立つと自動で扉が開く。

 ジグはけんをリビングへ案内したあと、お茶を入れに行くといってキッチンへ向かった。


「どうぞ」


 お茶とお菓子が置かれ、ジグはけんの向かいのソファに座る。


「まずは、自己紹介から。私は本名を刹那悠紀といいます、改めてよろしく」


 いきなり悠紀は本名を名乗る。けんも名乗ろうと思った時、悠紀は君は言わなくても大丈夫と言うかのようにけんの前に手を出し静止してきた。


「よろしくお願いします」


 この一言だけ、けんは、返しておいた。

 そして、数泊置いたのち、普段気になっていたことをけんは質問した。


「悠紀さんはOOPARTSの他に何かゲームしてるんですか?」


 悠紀は少し考えるそぶりをみせてから答えてくれた。


「そうですね……OOPARTSの他に一つだけはまっているゲームがあるんですよ。それが課金制度がないのにとてもおもしろいんです、OOPARTSの片手間にやってるんですよ」


 今時課金制度のないゲームがどんなゲームかは気になるところだがけんはその気持ちをぐっと堪える。


「けんさんもぜひやってみてください、後で教えますよ」

「はい、ぜひお願いします」


 悠紀はけんの返事を聞くと、軽く微笑み話を変える。


「僕らも、もう次の結社戦<クラン戦>TOP5入りしそうですね」


「はい、このまま順当にいつも通りに戦えば勝てると思います。もちろん気を抜く気はありませんが」


 結社戦は報酬がいい、それにTOP10とTOP5では報酬の差がでかい。これで上位に入れれば通常なら報酬を何十人規模で山分けだが、けんらの場合は三人での山分けになるので、一人頭の貰える報酬が他の結社の数十倍になる。


「戦闘力を上げとかないといけませんねぇ」


 悠紀は頭をかきながら目をキラキラしたような表情で答える。

 数時間もの間、OOPARTSの話に花を咲かせ、各々の部屋の内装のこだわりや、趣味(OOPARTS内の)だったりと長い間喋っていた。


 時計を見るともう夕方の六時、時間的には頃合いだろう。悠紀もそう思ったのか目が合いしばしの間静寂が広いリビングを包む。


 先に言い出したのはけんだった。


ーーここからがけんにとっては一番の勝負どころ。

 けんは、震える足を押さえつけ、噛みすぎた唇は赤みがまして真紅に染まっている。


「ここに僕たちを呼びつけた理由を知りたいのですが。嘘なしで答えてくれませんかね」


 ここで、表情を一瞬で切り替え相手を見据える。睨むでもなくただ見るだけでもなく、相手を威圧するように。

 ただ、悠紀はそれをものともせずに、ただたんたんとけんに淡々と笑いかけるだけだった。


 背中から溢れる脂汗を感じながらけんは息を飲む。


「嘘って……僕はただゲームについてお話したかっただけですよ?」


 とぼけるように話すが悠紀の顔下半分は笑っているが上半分は笑っていない。

 もはや隠す気もないーー


「この部屋の状況を見て正常でいられる方がおかしいと思いますけどね」


 この部屋中血だらけで、その血液もどろっとしていて新しいし、匂いも酷い。地獄のようなこの部屋の現状で平常心を保ってけんは、爪で震える足に思いっきり突き刺し、震えを強制的に排除する。


「ふ、ふふ冗談ですよ!いやぁ最初入った時に声をあらげようとしたらやっちゃうつもりだったんですけどねぇ、流石ですよ」

「よく言うよ」

「いつから、お気付きで?」

「最初会った時は気付きませんでした、ただ僕らと長くいたのが悪かったですね。僕は大抵の嘘は少し付き合えば分かるので。あなたが、所々に嘘と真実を散りばめていたのは気づいてたのですが、その目的が読めなかったです……今日まではね」


 まさかけんもここまでとは考えてはいなかった。悪くて、詐欺や、個人情報、お金関係等々だ。


「まさかここまで酷いとは思ってもいいなかったですが……」


 悠紀はなるほどと言ったように頷き、すぐさまさっきの笑顔に戻る。


「いやいやここまで感のいい人だとは思いませんでしたよ」


 テーブルの上に並べられているコーヒー、お菓子を悠紀は見定める。

 その様子を見て、けんはやはりこの出されたものにも何かあると、手をつけなくて良かったと自分の勘を褒める。


「この家も、借屋かなにかだろ?」


 正解と言わんばかりの笑顔を見せ、喜んでいる。


「素晴らしい、そうです、ここはただ借りてるだけ……一年前からね」

「こんな生活感ない家はなかなか見ないですからね」


 けんは引き気味に答えると、すぐさまズボンのウエストのあたりに隠してあるものに手を触れ臨戦態勢を作る。


「まぁそんなに怖い目をしないで。ゆっくり話でもしましょう、どうせ今日で終わりですから♪」


 悠紀は血に染まったソファに染まったまま、遠くを見据え話を始める。まるでけんが眼中にないと言わんばかりに。


「僕はね、ゲームが好きなんですよ。OOPARTSはたまたま適任者を探す為に始めたのですがね徐々にはまっていって僕も驚きました」


 けんは常に気を張りいつでも大丈夫なように、警戒する。


「ああいうゲーム昔は好きじゃなかったんですがね……」


「一年前から私はさっき紹介したゲームをしててね……実は、それ自分で作ったゲームなんですよ。私はゲームには刺激をいつも求めていたんです、ただ最近のゲームは刺激がありませんでしたからね、だったら自分で作っちゃおうと思いまして、OOPARTSにもう少し早く出会って入ればこうなることも無かったんでしょうねぇ残念ですよ」


 悠紀ちっとも残念そうには思えない表情で悲しんでいる。

 ただ、刺激があるゲームなんてそんなに簡単い作れるもなのかとけんは思うが、意識を戻す。


「そのゲームというのがですね……九十九人を殺害するまで終われないという内容でしてね。なかなか大変だったですよ。あ、今から説明しますね」


 ゆっくりと腕を組み、目を閉じ思い返しながら話出す。


「えーと、まず1から99というこの数字はですね、人間の年齢を表しているんですよ。この1才から99歳までの人間をその年齢1人ごとに殺していくんですね。殺し方も99通りで……それと男女は問わず、期限は1年……なのでちょうど今日になるね。どの年齢から殺していっても構わない、ただ誰かに知られたり捕まった場合はGAMEOVERでその場合は私が死ぬ」


「GAMECLEARの条件は誰にも見つからずに殺しきる。その場合でも私が死ぬ。誰かに知られGAMEOVERになった場合警察に自首をする。年齢を間違えて殺してしまった場合はその場で自害とまぁこんな感じさ他にもいろいろあるけどもう言っても無意味ですからね」


 あっけらかんに答えているが頭がおかしいとしか言いようがないとけんは思う。

ーーただ、人を殺して満足するだけでは飽き足らず自分までそのまま死ぬなんて、ふざけてる。


「だから、君に知られた時点でGAMEOVERなのさ。あとアキトくんが来ない時点でもね。君たち二人を殺せばちょうど揃ったんだけど」


 そう言うと机の上に置いてあったアルバムを開いてくる。

 そこには一才から九十九歳(けんらを抜いた)人たちの死亡したことがわかる写真と死亡時刻が記入されていた。


「というより、君に負けたといったほうがいいのかなぁ」


 そう言うと思いっきり顔を近づけてくる。

 けんは震える唇をなんとか開き喋る。


「そういうことだと思うよ。とっとと自首したらどうなんだい?」


 小さな抵抗だが、相手を挑発する。さっき言ったことが本当なら大丈夫なはずだ。


「そういうことになるね……」

「君を殺したあとでね」


 彼の笑顔は消え失せる。

 悠紀はそう言った瞬間ーー机にあった中身の入ったコーヒーカップを掴み、けんめがけて投げつける。


 それをけんは間一髪のところで右側に飛びつきかわす。


 そして悠紀はすでに机を踏み台にし飛びついてくる。手には隠し持っていただろうナイフを持っていた。


 そこにけんは蹴りをかます……が、そこを間一髪で受け切られ足にナイフを思いっきり刺され大量の血が滲む。


 悠紀は蹴りの反動を受け後ろのソファにぶつかる。


 「アァつい」


 けんはなんとか堪える。だが、アドレナリンが出ているのか、じんじんする熱さは足から感じられるが何故か立って動けていた。


「言い忘れてたけど、私のゲームを邪魔したやつは問答無用で殺しますよ!」


 悠紀はすぐさま今度は新たな包丁を持ち出し、飛びかかろうとした瞬間、けんは机をさっきナイフで刺された逆の足で蹴り上げぶつける。


 けんは悠紀一瞬ひるんだ隙にズボンのウエストのあたりに隠しておいた草刈り用の鎌を手に持ち、起き上がり立っている机の左側から悠紀めがけて鎌を振りかざす。


 しかし、そこには悠紀の姿は無かった。


 刹那ーー


 後ろにあったはずの立ち上がった机がけんに向かって飛び、直撃したが、なんとか払いのける。

 

 悠紀はけんが左からいった瞬間、感だけで右側に飛び机の裏側にいるはずのけんめがけて包丁をふるった、さらには机の裏側にけんがいないとわかった瞬間、すぐさまこのことの逆のことを考え、さっき自分がいたであろう場所に飛んだと予測し後ろにある立ち上がった机を蹴り飛ばしてきたのだ。


 そして、倒れたけんに飛びかかり悠紀はけんの首を掻き切ろうとしたが、けんがとっさに左手を出したため腕が切れる。


 大量に出血し、それだけでも重症だが、もう悠紀にマウントを取られている状態、けんはのどを再び狙われ包丁が突き刺さる。

 だが、最後の抵抗として、けんは動かせる手でナイフを持ち、上に振り上げるーー


 それがたまたま悠紀の右目に当たり、出血する。


ーーざまぁ見やがれ

 けんは、薄れる意識の中、やり返せたことに悦楽する。


 悠紀も確実に死んだと思ったのかこれ以上の追い打ちはなかった。

 そりゃそうだ喉に包丁が突き刺さってるんだから。


「今のは楽しかった。やっぱりこういうスリルは現実でしか味わえない。フフ、ふふふ……」

「また、やろう」


 悠紀は笑い、そのまま扉を開け出て行ってしまった。

 けんは薄れる意識の中、血でべっとりとコーティングされた手で携帯を取り出しメッセージを打つ。


「ごめん」


 その数十秒後……けんは絶命する。


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