41話 公爵
ゾルデ公爵家、本家は帝国内にあるがこの街リ・ストランテにも家を持っている。
リ・ストランテの中央にはこの街のシンボルとなる高さ四十mある教会の横に位置している。
ハヤト・ゾルデは無駄に豪華絢爛な門を潜り、ハヤトにとっては不要な執事を従え、ただただ広いだけの何の面白みも無い庭を歩く。
その辺から魔物でも湧いてこればいいのに……とため息をつきながらハヤトは自室につく。
「ハヤト様、お食事のご用意が出来ております。お父上様もお見えになっております」
「分かった」
ハヤトの中で一番話しやすい執事パセルは頭を下げ扉を開けてくれる。 パセルはゾルデ家では一番最年長であり執事長だ。
ハヤトは子供の頃、リ・ストランテで過ごしていたのでよく相手をしてもらっていた。
ハヤトは用意を済ませ、いつも食事をする部屋の扉の前に立つ。
自分の身だしなみを再度整えパセルにも確認してもらう。
扉を開けそのままいつも食事時に座っているハヤト専用の席に着席する。
何でこんな事しないといけないんだよ……
ハヤトは心の中で愚痴を吐きながら、笑顔を作る。
「お久しぶりです父上」
「……久しぶりだなハヤト」
ハヤトの父親、ガルド・ゾルデは軽くハヤトと言葉を交わし、食事を開始する。
それに続いてハヤトも食べ始める。
ハヤトもいくら堅苦しいのが嫌だと言ってもこの美味しい料理にありつけるという事には感謝していた。
「一次試験突破おめでとう。なかなかやるじゃないか」
「ありがとうございます父上」
ガルドは滅多に褒める人では無い。
故にいつも怒ってるような表情でいるもんだから周りは終始緊張しっぱなしだ。
だが、こういう要所々で飴をくれるので何でも褒める人に褒められるよりも、こうやって普段褒めない人から褒められるというのには、ハヤトも嬉しさを感じていた。
ハヤトは銀の皿を音を立てないよう気をつけながら次のメイン料理に手を出す。
「二次試験も抜かりなくな」
「はい」
そう言って先に食事を終わらせたガルドは自室に戻って行った。
ガルドが居なくなった後は空気が五段くらい軽くなる。
周りもそうなのか執事やメイドは安堵の息を吐く。
ハヤトもさっきはゆったりと優雅に食事をしていたが今はそんなの気にせず食べたいものを喉にどんどん通していく。
ハヤトは腹八分目辺りで食事を止め一週間後の二試験のための調整、レベル上げをやるために敷地内の訓練場に出向く。
ハヤトが動くときは基本執事一人メイド二人は絶対についてくるのであまり派手にやると制止される、それが嫌なのでハヤトは自分の部屋を経由してから行く。
ハヤトの部屋にはパセルしか入ってこないので、その旨を頼み込んで許しを得ている。
ハヤトは三階にある自分の部屋の窓から下に誰も居ないことを確認してから飛び降りる。
慣れた手つきで着地した瞬間に受け身をとり流す。
そのまま誰にもバレないように別の棟にあるテニスコート約五面分の広さの訓練場に到着する。
今回は運が悪く、数名のメイドと執事が戦闘訓練の真っ最中だったーー
レベル上げで磨り減った地面、その激しさで巻き上がった砂埃、金属武器同士がぶつかりあう金属音その全てがハヤトは好きだった。
帝国にある訓練場もいいがハヤトとしてはやっぱり子供の頃に使った思い出の方が強い。
久しぶりの訓練場で懐かしさを噛み締めていると一人のハヤトより少し背の低い若干太った金髪オールバックの青年が執事とメイドの元へ向かって来る。
「……兄上」
ハヤトの二歳年上十七歳の兄、タリ・ゾルデだ。
ハヤトは三人兄弟で一番下で一番上の長男、ルキナ・ゾルデはもう成人しており家の後継として父のガルドの元で経験を積んでいる。
ルキナは戦闘能力面では劣るが頭の回転が早く、父のガルドを凌ぐ。
学園でも戦闘能力面以外の成績は常にトップにいた。
そしてタリは頭はルキナに負け戦闘能力ではハヤトに負けている、ザ・普通である。
ただ、ハヤトに負けるのがよっぽど悔しかったのかハヤトにはかなり陰湿ないじめを繰り返してきた。
だが、ハヤトとしてもそれによって何くそと、精神的にも強くなれたので今は感謝していた。
そして、いつものようにタリは何か勘に触ったのかメイドと執事に当たり散らしている、特に女性のメイドに対しては一番強く当たっている。
そこだけが唯一ハヤトは嫌いだった。
その光景を見てるのにも嫌気がさしてハヤトは偶然を装い出て行く。
「お久しぶりです兄上」
タリは急に声をかけられ肩が少し跳ね上がるが驚いたのを隠したいのか何もなかったように振る舞う。
「久しぶりじゃないかハヤト。聞いたぞ一次試験突破したそうじゃないか」
「はい、突破しました」
「なるほど、二次試験の特訓か……精が出るな」
タリもまた珍しくハヤトを褒めるのでハヤトは少し驚いていた。
「ふんっーーま、どうせ次で落ちるだろうがな」
ハヤトは基本こういった類の挑発に関しては全く反応は返さない。
「はぁ……つまらんやつだな……よしっ!俺が特訓に付き合ってやるよ……俺もお前が帝国に行っている間かなり強くなったんだぜ」
タリはにたっと笑いながらハヤトを誘う。
「いいですよ」
ハヤトも練習相手は欲しかったのでちょうど良かった。それに家族という事なら遠慮もいらず、心置きなく出来る。
「よし、じゃあいつもやっている時と同じでいいな」
「はい、問題ありません」
二人は練習用武器を取りに武器倉庫へ向かう。




