39話 超人
「そういえば僕達もまだ、ちゃんとした自己紹介まだだったね」
エルがそう切り出し、エルから時計回りに改めて自己紹介をしていく。
「僕は、エルと言います。えっとスルト村出身で、魔法の方が得意です、趣味は……光属性が得意なので自分用の部屋の灯を作ったりすることです、よろしく……」
光属性か……エルっぽいなとアキトは思う。
そんな感じで思い出に耽っていると次のエーフが自己紹介を始める。
「私は、エーフと言います。エルと同じくスルト村出身で、得意なことは歌を歌うことです。あと、可愛いものに抱きつくのも好きです。よろしくお願いします」
次はトルスの番だ。
「俺はトルスという。日々トレーニングをすることが俺の好きなことだ。よろしく」
トルスは短く済ませると、次へと促す。
すると、バルトは勢いよく立ち上がり、元気よく叫ぶ。
「俺はバルト・ベル!!アツタ村出身、好きな食べ物は肉!!それと女の人!!以上!!!」
その瞬間ユイに膝を足の裏側から滑らかに蹴られ、ゆっくりと崩れ落ちる。
膝カックンをバルトは初めてくらったのか、よろめきながら立ち上がる。
「ユイてめぇー!!」
バルトには見向きもせずユイがバルトの自己紹介を強制終了させ、そのまま自分の自己紹介に移る。
「私はユイ・ネイトル、シロシ村出身です、趣味は日光浴で自然と戯れることが好きです。よろしく……」
シロシ村は結構有名らしく皆いろいろ話している。
横ではもう復活したバルトがうんうんと頷いている。
そしてアキトの番が来るーー
アキトは立ち上がると、ごほんと咳き込み一拍置く。
「えーっと名前はアキトって言います、好きなことはアイテムボックスいじり、あと最近は朝にいつもやってるランニングにハマってる。出身村はニホン村というとこから来ました、よろしく」
捻りも何もないそのままの事を言う。皆聞いた事ないのか変な間があく。
だが、そんな事を気にせずアキトは堂々と座り込むと、ホルドがアキトにに視線を向ける。
その視線に気づいたアキトは全てを理解する。
成る程、まだ自己紹介していない奴がいましたねぇ〜
アキトは仕返しと言わんばかりに、自分の影をちらっと見る。
「ごめんみんな、もう一人紹介したいんだけどいいか?」
(おい!!アキトお主やりおったの!!やりおったのじゃ)
勘の良いシロネは影の中でめちゃくちゃ慌てている。
(シロネ、逃げ場はない観念して出てこい)
「もう一人って誰もいないぞ」
トルスが周りを見渡しながら言う。
(ほら、時間かけるとさらに出づらくなるぞ)
(わかったわかったのじゃ行くから少し待つのじゃ)
シロネは観念し、影から静かにみんなの視線の死角から登場する。誰も気づいていない。
「俺が、シロネの方へ目をやるとみんながそちらを向く」
その瞬間、この場にいるホルドとアキト以外全員が息を呑む。
さっきまでいなかった場所に少女が立っているのだから驚くのも無理はない。
不意にみんなからの視線がきて驚いたのかシロネの顔が若干赤いーー
「わ、わわわしはシロネ・ラムというのじゃ。一次試験を突破したもの同士仲良くしてほしいのじゃ……」
そう言って頭を下げる。
すると、見たこともない速さでというかもうシロネの後ろにエーフが移動しており、抱きつく寸前だった。
いつものシロネなら容易く回避するだろうが、緊張していて不意を突かれたのか簡単に捕まる。
そのままエーフはシロネを自分の膝の上に乗せる。
側から見たらお母さんとその子供のようでアキトは笑いのツボに入りかけてしまい、必死に隠す。
「アキトよ今何か失礼なこと考えておったじゃろ」
アキトは咄嗟に顔を逸らす。
それを見て反撃しようとシロネが動こうとしているのだが全く抜け出せない。
「よろしくねシロネちゃんでいいのかな?」
「シロネでよい、そっちの方が恥ずかしいからの」
「僕はエル、よろしくね」
「よろしくなのじゃ」
「俺はトルスという、これからよろしく」
「うむ、よろしくなのじゃ」
シロネは両者と握手を交わす。
ユイやエーフとも挨拶が終わったのを見てホルドは嬉しそうに厨房に向かう。
「それじゃ私はご飯作って来るわねー今日は私の奢りでいいわん」
「アキトちゃん、悪いんだけど倉庫から食材持って来てくれる?」
「分かりました」
そう言って、アキトは立ち上がり倉庫へ向かう。
「僕も行くよー」
アキトの後をエルも追って来る。
昼なのに少し暗い倉庫の中でホルドに言われた食材を二人は探す。
前回シロネの事を聞いた倉庫だ。
「アキト本当にありがとうね」
突然、エルが言い出すので少し動作が止まってしまう。
「いや、別に感謝される程でもない……俺は俺がしたいようにやっただけだ」
「そうだとしても、やっぱり三人を代表してお礼はしときたかったんだ」
アキトはまた食材探しを再開する。
「それに、まだ合格したわけじゃないだろ。むしろここからだ」
「そうだねーーでも、やっぱり助けられたからさ」
「分かったよその気持ち受け取っておくよ……」
「ありがとう」
それからは特に喋ることもなく黙々と食材を探す。
「なんとか終わったな」
あれから十分少々で全ての食材を見つけ出し、二人は蹴伸びをする。
「んー!終ったねぇ〜」
かなり量があり、しかも殆どアキトは知らない食材ばかりだったので、時間を取られてしまった。
アキトはしゃがんで探すことが多かったので腰も痛かった。
アキト達がみんなの元へ戻るとホルドは料理を半分以上完成させていた。
「これで大丈夫ですか?」
ホルドに持って来た食材を見せる。
網状の籠の中には十種類の元の世界で見たこともない食材が入っている。
ホルドが籠の上から覗き込み、数秒眺める……そして微笑みながら親指を立てこちらに向ける。
ホルドの表情を見て、アキトとエルは合格だと理解し、それと同時にほっとする。
机の上ぎっしりになるほど料理が置かれる。
どれも涎が垂れそうなほど美味しそうな匂いを放っている、絶対美味しいと確信できるのだが、量が六人前を優に超えている。
「どうぞ召し上がれ〜」
「「あ、ありがとうございます」」
そう言われ、黙々と食べ始める一同。
量が量なので皆真剣に食べ始める。なぜか残せないと言う重圧がアキトの属性のように全員にかかっていた。
「こんなに食べられるの久しぶりだな。めっちゃ食うぜ!!」
「当然!!」
バルトとトルスが勢いよく食べ始める。
一心不乱に食べる二人は休憩という言葉を知らないのか一切ペースが落ちない。
結果、バルトとトルスは分量の半分以上を余裕で平らげ、満足げにしている。
「ホルドさんめっちゃうまかったありがとう!!」
「感謝します」
バルトとトルスは食後のデザートを食べながらお礼を言う。
皆で、食後デザートを食べながらこれからどうするかを話し合っていた。
「俺はここに決めた、早速宿を移す準備するぜ」
そう言って、バルトはデザートを口にかきこみ走って行ってしまった。
「私たちもここにする」
女性陣、シロネを除く二人もパイオニアにすると決める。
トルスも同意するといったように首を縦に振っていた。
「僕もここにします」
エルが同意しこれで全員がここに集結することになった。
「最後に聞きたいのですが、ここの宿屋の料金っていくらほどですか?」
エルは一番聞き辛い質問をする。
ホルドは黙って皆を一人々観察するように見る。
「そうねぇまずダブルはシングルの2倍の料金ということだけ抑えてちょうだい〜」
「大丈夫安心して、ダブルは二人でその金額だから〜」
ホルドは皆に向けてウィンクする。
「料金はね一日三食付けて五千ルーエよん」
そう言われみんなおし黙る。
五千ルーエは日本円で五千円だ。物価を日本として見てもかなり安い部類にはいる。
「この辺りの宿屋の相場って一泊三食付きで約一万ルーエが一般的ですよ」
「え?じゃあ半分の値段……」
「私のことは大丈夫よん〜人件費は私一人だし、食料も裏にある畑もしくは近くの森で採集してるの、それに私は冒険者資格を持ってるーーだからこそここまで出来るのよん」
ホルドは根菜系は森で採集し、肉魚系は冒険者の依頼のついでに取って来ると言う形をとっている。
他の宿屋だと商人や冒険者ギルドなどから直接買い取らないといけない。ホルドならではのやり方であり、常人がやると速攻で体を壊すやり方だ。
ホルドの話を聞いた後、無言で全員宿屋パイオニアから出て行くのだった。
そう、ここへ自分の荷物を持って来るために……




