37話 裏口
アキトは今一次試験のスタート地点に立っていた。
本当に合格印付きスクロールを奪うとスタートに戻ると若干半信半疑だったアキトは何故かスクロールに心中で謝る。
少しこのスクロールの事をアキトは怪しんではいたが、意外としっかりしていたのでほっとする。
やはり、チームメイトがゴールしている状態でアキトがスクロールを奪うとアキトだけスタート地点に飛ばされた。
ここまでは予想通りだった。
あとはシロネと一緒にゴールしてウタゲ先生に頭下げて入学許可を得れば完了だ。
そう考えてると、影に隠れていたシロネが姿を現す。
「まさか、わしを入学させる方法がここまで強引だとは思わなかったのじゃ」
「いや、だってあの時咄嗟に思いついたんだからしょうがない。我ながら妙案だった」
「じゃが、残り日数大丈夫かの……こっから何日でーー」
シロネが気にしている日数はこっからは関係ない、というよりこれまではアキト自身の試験だったのでシロネの手助けは受けていなかった。
だが、今はシロネの試験と言っても過言ではないとアキトは考えている。つまるところ、こっからはアキトとシロネの二人でどうにかすることになる。
「シロネの影属性があるじゃないか」
そう言って、シロネも理解したのか悪巧みする子供のようにシロネは笑う。
「確かに、これはわしの試験でもあると解釈してもいいの〜じゃが、一つ聞きたいことがある」
「何かあるのか?」
「いや、このことは別に良いのだが。先程使用したスキル、お主はあそこまで広範囲使ったとこ見たことないのじゃがーーあれはどうやったのじゃ?」
うーむ……アキトは顎に手をやり考えるふりをする。
実際のところアキトのレベルではあの広範囲に及ぶスキルや魔法は発動することができない。
だが、それを解決してくれるものが一つある。
「課金アイテムだよ」
アキトはドヤ顔でいい放つ。
これならば嘘もついていないし、シロネにはそれなりに強いアイテムとだけ言っとけば何とかなりそうだ。
課金アイテムの存在はこちらの世界において、重要な、切り札的存在になるので極力誰であろうと情報は漏らしたくない。
「ふむ……」
シロネはどういうアイテムかを模索しながら唸っている。
今回使ったアイテムは課金アイテムと言っても、始めた頃に買える初心者応援セット的なアイテムなのでそれほど高いレアリティのものでは無い。
「えーっと、このアイテムは俺が元いた国に売っているアイテムでその総称を課金アイテムっていうんだ」
「ほう、アキトの国のアイテムじゃったのか……」
「で、今回使ったのが「範囲の拡大/フォーカスレンジ」って言って範囲魔法、スキルの効果範囲を二倍にするアイテムだ。本来アキトのスキルは自分を中心にして半径五十mまでしか届かなかったが、このアイテムの効果で百m、まで届くようになったんだ」
このアイテムは重ねがけが出来ないのでそれほど強いわけではない。
「因みにあのスキルの効果時間は三時間だ」
これがレベル百になると効果時間は一週間になる。この効果時間はOOPARTSオンラインの時は特に気にする部分ではなかったが、転生した世界では重要なポイントになってくる。
「なかなか便利なアイテムじゃの……理由を聞けてスッキリしたのじゃ、ぼちぼちゴールまで行くとするかの」
アキト達は木の影の上に立ち、シロネがスキルを発動する。
「では、行くのじゃ。影属性魔法<影転送/シャドウワープ>」
その瞬間アキト達は影の中に吸い寄せられるように入って行く。
どこか生暖かい感触が肌に伝わり体が身震いする。
その差零コンマ数秒、気がつくとさっきまでいたゴール地点の近くの木の影の上に立っていた。
今だに、コールデル達はアキトのスキル効果時間内なのであの体勢でずっといたようだ。
それを眺めていると一人の赤い髪を揺らしながらウタゲ先生がアキト達に勘付いたのか一直線で走ってくる。
だいぶご立腹の様子で、顔を真っ赤にして走って来るので、かなり怖い表情だった。
そのまま蹴りでもかまして来るかと思いきや意外と冷静で、アキトの前で急停止し、胸ぐらをつかんでくる。
ウタゲ先生の顔が近く、若干驚いたが、その息の荒さからかなりの焦りと怒りがアキトには見て取れた。
「……gぅどうしたんですか?」
胸ぐらを掴まれているのでうまく声が出せず、ダミ声になってしまった。
「どうしたもこうしたもねえ!!何だあれはすぐに解け!!」
「解くことは出来ますけど……」
ウタゲ先生の顔とアキトの顔はかなり近いのでウタゲ先生が怒鳴ることで、唾が顔にかかり若干の不快感と、若干の満足感を味わいながらもアキトは答える。
「じゃあ、解け!!」
ウタゲ先生にそう言われ、せっかく課金アイテムを使って効果時間もカサ増しした無意味さを惜しみつつアキトはスキルを解除する。
アキトはもう一つ課金アイテムを併用していた。
「効果時間の増幅/タイムアンプ」というアイテムで現状このスキルをアキトは一時間半しか持続出来ない、なのでこのアイテムを使って効果時間を二倍に増やしていた。
OOPARTSオンラインでは、効果時間があるものにはこう言ったアイテムと併用して使うのが一般的で、アキトとしてもあってもアイテムボックスをゴミ屋敷にするだけなので、お試しで使ってみたという所がある。
ただ、このアイテムは一日に三回までしか使えず、なおかつ次使うまでに効果時間と同じだけ待たないと使えない。
レベル百までいくと一回使うと一週間以上のクールタイムがでてしまうので基本的に効果時間が短いスキルや魔法の時間を伸ばすのがベターになっていた。
スキルを解除されたコールデル達受験生は、のそのそと起き上がる人たちもいれば全く起き上がる気配がないものまでいた。
「何人かは窒息しかけてる状態で何とかそれを死なないようシェルが回復属性魔法で持ちこたえているってかんじだ」
アキトの疑問を解消してくれる答えをウタゲ先生が言ってくれる。
「他にも、女達は自分のメイクが剥がれ落ちて今の顔を他のやつに見せたくないとか、単純に意識がないやつもいるし、死の恐怖で失禁したやつだっている」
「私も極力助けようとは思ったんだがな、あいつらに近づくと私まで重くなるんだ。シェルの回復が遠くからでも効果があってよかったよ」
言いたいことは言ったのかウタゲ先生の掴む力がさらに増す。
アキトは抵抗することなくウタゲ先生の気が済むまで無抵抗でいる。
すると、アキトの後方にいるシロネを見てウタゲ先生が眉を動かす。
「そいつは誰だ?」
「やだなぁ〜今回の受験生の一人じゃないですか〜」
アキトは何とかごまかしてみる。
「そうだっけか?」
本当に騙されているのかウタゲ先生は首を傾げる。
「はい!」
アキトが普段したこともないような笑顔を見せる。その刹那ーー
「んなわけあるかぁあああああ!!!!」
「ふぐぅう」
アキトの右腹にボディブローが打ち込まれる。もろに入り一瞬息が出来なくなり、そのまま放り投げられる。
そのまま、アキトはうずくまりつつ無言で静かにスムーズな動きで土下座のポーズをとる。
「な、なんだよ?」
これには本当に驚いたようで、ウタゲ先生もじゃっかん動揺している。
「いえ、ここにいるシロネにも入学を許可していただきたくーー」
「なるほどな、そういうことか……」
すると、アキトの意図がわかったのか、ウタゲ先生は頭を抑え考え出す。
「はぁ〜分かった分かった別に構わん、だからそのスキルを再度発動させようとするのは寄せ」
そう、アキトは最終手段にコールデル達を人質に交渉しようとしていたのだが、それはウタゲ先生も分かっていたらしく、降参と言ったばかりに了承してくれた。
「ありがとうございます」
「ま、私も最初は受験生を削る気でやってたけど今となっちゃもうどうにでもなれって感じだし、別にいいよ……」
ウタゲもあの学園長にしてやれると考え、心の中でほくそ笑む。
「ょしっ!!」
その高揚のせいでウタゲは最後に凄く小さな声が漏れてしまう。
「そんじゃ、スクロールは持ってるんだろうし一応手続きだけはしといてくれ。さっさとゴール行け、後のことは私達がやっとく」
そう言い残して、ウタゲ先生はシェル試験官の元へ再び戻って行った。
「すまんのわしのためにお主に嫌な役を押し付けてしまってーー」
しょんぼりしながら、後ろにいたシロネが言ってくる。
「気にしない方が良いぞ、ほら早く一次試験突破だ」
ちょうど夕日が綺麗に見える時間帯になり、辺りが紅葉のように木々草花全てが赤く照らされる。
アキトは気恥ずかしさの余韻に浸りながらゆったりとゴールに向け歩き出す。




