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29話 トルス

 エル達は森での昼休憩と作戦会議を終え、またさっきまでいた場所に戻っていた。

 相変わらずシェルは、中央でただ突っ立ているだけなのに隙を微塵も感じさせない。


「今回はちょっとやばいかもねぇ〜」


 三人を見て、シェルは苦笑いしながら言う。


 そりゃそうだろう、エル達はある分だけの天恵ポーションを飲みきりエーフがトルスに支援属性魔法<攻撃増加/アクトアップ>、<要塞化/フォートアップ>、<反応速度増加/レイトアップ>、<心中一撃/クリティカルアップ>を使った。

 この天恵ポーションは、OOPARTSオンラインで言うアキトが持っているSP、MPポーションと同じ役割を持つ。

 だが、一本で両方回復出来る天恵ポーションはSP、MPポーションに比べ、効果が二分の一になる。


 それによりトルスは今これまでに見たこともないオーラを発し、トルス自身の集中力が最大まで達している。

 この緊張感はこの一帯を支配し、仲間のエル達でさえ最初は怯んだくらいだ。


「では、行ってくる」


 そう言うと、ひと蹴りで、シェルの前まで跳ぶ。


「へぇ〜面白いね君達」


 シェルはエル達の作戦など見透かしていた。


「……」


 トルスは集中しており、今は誰から話しかけられようとも一切頭に入ってこない。


 エル達は魔法の準備を始め、いつ隙ができてもいいように二人を凝視する。

 ここのタイミングが命であり、二人は全神経を注ぐ。

 エーフも僕と同じように機を窺っている。


 すると、トルスがゆったりと時が止まったように感じるほど滑らかに動き出す。

 シェルも同様で動きが止まっていた、目の前まで迫まられているのにも関わらず全く動き出す様子がない。


 その瞬間ーー

 トルスはこれまで見せたこともなかった速度でシェルに回し蹴りを頭めがけ放つ。

 支援魔法を受けた今のトルスの身体能力の攻撃は簡単には防げない。蹴りの風圧で砂埃が吹き上げ二人が包まれて少しの間エル達からは見えなくなる。

 今の態勢からの回し蹴りは避けることも不可能、これなら流石のシェルも防ぎきることは出来ないとそう誰もが確信した。


 しかし、現実は違った。


 砂埃が治り二人の姿が現れる……シェルはトルスの回し蹴りを左手で掴み制しており、その状態から二人は動かない。

 シェルはこれまで見せなかった隙をわざと見せることにより相手の油断、慢心を誘う完璧なタイミング。

 初発の一撃を簡単に防ぐことにより三人に与える影響は計り知れない、エル達はまだしもトルスにはかなりの精神的ダメージになる。


 集中を掻き切るには十分だとトルス以外全員が思っていた。

 トルスはこの状況で笑っていたのだ。


 この一瞬に出来たほんの少しの隙、トルスは見逃さなかった。

 掴まれている足とは逆の足で地を蹴り体を捻りその反動でもう一回回し蹴りを放つ。だが、ほんの少しの隙ではシェルにとっては取るに足らぬものだ、もう片方の手で防がれ両足を掴まれた瞬間トルスは岩属性スキル<岩石の氷柱/ロックル>を放つと、トルスとシェル試験の間に地面から円錐型の岩の柱が突き出る。


 シェルは両手を離し、後方に跳び去る。

 岩石の柱もそれに追随するようにシェルを攻撃する。


「やるねぇ〜じゃあ海水属性魔法<雨雫/エキジョウカ>」


 シェルは地面に手を付き魔法を発動する。するとさっきまであった地面が急に泥のようにぐちゃぐちゃになり岩石の柱が押さえ込まれる。

 本来ならこのまま液状になった地面、すなわち泥の波がトルスに襲いかかっていただろう……それぐらいのうねり具合だった。ただ、今回の試験は反撃しないというルール、だから今回はこの程度で済んだ。


 少し経つと液状になっていた地面が元の地面にもどる。


「さぁ次はどうする?」


 そう言われた瞬間トルスは動き出していた。

 シェルの元まで全速力で走り、ある程度近づいた時、トルスは宙に跳んでいた。

 そう両足でのドロップキックの体勢に入っていた。全速力の反動もあってもの凄いスピードで一直線に突っ込む。


 そんな分かりやすい攻撃は難なくシェルは受け流し躱す。

 刹那ーー


「ふんっ!!」


 トルスは岩石属性スキル<岩石暖簾/ロックウォール>をドロップキック中に発動しており、シェルの後ろには岩石の壁が聳え立っていた。その壁を使い躱されたシェルの方へ反動を駆使して接近する、今度はただの拳、そう身体強化された拳を胸元へめがけ放つ。


 反動を利用しドロップキックと同等の威力の一撃を打ち込むーー


 だが、その拳は巨大な水の壁に阻まれ、トルスの攻撃は全ての威力を殺される。

 そう、シェルもまた自分のすぐ後ろに海水属性スキル<海水の盾/ソルドシールド>を発動していた。


 びしょ濡れになり重さを持った衣服をトルスは脱ぎ始める。上を脱ぎ下着だけとなる。


「いい覚悟だよ〜」

「当然だ!!」


 トルスはまた全力でシェルへ突っ込んでいく。


**


 あれから二時間以上経つがいまだに肉体戦は続いている。

 何度も攻撃を躱されては突っ込みまた躱されては突っ込みの繰り返しだ。


 トルスも流石に疲労が見て取れる。

 対してシェルは最小限の動きだけで躱し、いなす。スタミナの差は歴然だった。


「そろそろ疲れてきたんじゃない?」

「冗談だろ」


 明らかに疲れているとトルスに対しシェルは挑発をする……だが、トルスは負けじと食らいつく。

 エル達も相当疲れていた、常にいつどこで隙ができるか分からないこの状況で一瞬たりとも集中力を切らせる事ができない。そういった攻防が続く。


「早く決めないと日が落ちちゃうよ〜」


 そんなことは分かっている。

 だが、ここで焦ることは絶対にしない。それは今一生懸命に戦ってくれているトルスへの侮辱だ、絶対に集中力を切らさない。


「じゃあそろそろ決めさせてもらおう」

「へぇ〜散々躱してきた君の攻撃はもう私には通用しないよ〜」


 ふんっとトルスは鼻で笑う。


「俺が何もしないで何時間も戦うわけなかろう」


 トルスはシェルと距離を取っていた。


「じゃあ見せてもらおうかなーー」

「いくぞ!!岩石属性スキル<岩石龍創造/ロックドラゴンクリエイト>」


 エルも聞いた事ないスキルをトルスは発動する。

 すると、地面から巨大な岩が出現し、どんどん同じ岩が地面から出現しそれが次々に合体していく……そして、巨大な龍へと変貌を遂げた。


「ぐぁガガガガガガガ!!!!」


 全長四十mはあるその龍は咆哮を放つ。

 大地は軋み、揺れ、割れ、もの凄い衝撃がこの場にいる全員を襲う。

 これにはエーフも言葉が出せず、ただただ口を開けてその龍を見上げていた。


 このスキルはSPを消費しない代わりに体力を消費し発動するスキルだ。

 発動までかなり時間がかかりその間スキル、魔法をトルス自身は一切使用出来なくなる。

 さらに、このスキルが発動するのはトルスの実力的に約二分が限界だ。


「この二分間は俺は強者となるーー」

「敵にそんなこと言って大丈夫なの〜」


 この龍を見てシェルは全く動揺するそぶりを見せない。


「これを知ったところで関係ないここで終わらせるからな」


 そう言うとトルスはシェルの元へこれまで通りに突っ込む。

 だがひとつ違うのは後ろの岩石龍が放とうとしているスキルだ。


 岩石龍は岩を食べ、口に岩を貯めスキルを発動する。

 すると、その溜め込んだ岩が一つの巨大な岩となり岩石龍はそれを右側からシェルめがけ放つ。


 その岩は最初にはなったトルスの岩石属性スキル<岩石砲/ロックブラスト>と同じスピードで向かっていく。トルスとの違いは明らかに岩がでかい、バス二台分くらいの大きさだ。


 放たれた岩石は真っ赤に染まり地面を抉りながら突き進む。焼け焦げた匂いが漂い、あたりが明るくなるそれほどまでに熱されていた。

 トルスは左側から攻め込み一か八かの大勝負に出る。あの岩石砲に当たれば終わりだが、これなら最大の隙が生まれるはずだ。


 シェルは初めて焦りの色を見せる。


「これは聞いてないんだけどぉ〜」


 海水属性スキル<海水の盾/ソルドシールド>を放ち二つ分の攻撃を防ぐつもりだ。さっき放ったものとは比べ物にならないくらいの大きさの水の壁が出現する。その分厚さ大きさから簡単にあの岩石砲を包み込めるレベルだ。

 だが、トルスは防がれる事は承知の上で放った。

 後は、二人に任せればいいからだ。


「光源属性スキル<聖光源の柱/サテライトピラー>!!!」「風属性魔法<異次元の突風/ディメンションスコール>!!!」


 待っていたかのように二人は全く同じタイミングでスキルと魔法を放つ。

 上空、雲の間から光の柱が降り注ぎ、周りから刃のような突風がシェルを襲う。

 耳を劈くような音を響かせ、あたり一帯を吹き飛ばす。木々や草花、さらにはその近くにいた魔物や地面を破壊する。


 岩石砲と水の壁がぶつかり水蒸気であたりが真っ白になり、さらに魔法を放った場所は焼け果て、見るも無残な姿に代わりこの辺り一帯は森ではなく更地となっていた。


 さっきまでいた岩石龍は消え、エル達も全てを出し切り倒れ込んでいた。

 なのに、トルスはピンピンとした姿で立っている事が収まりつつある水蒸気の中でも視認できる。


「化けモンかよ」とトルスを見てエルは心の中で叫ぶ。


 トルスは水蒸気で真っ白になった視界の中警戒していると人影が見え徐々に近づいてくる。


「なぜ何ともないんだ?」

「危なかったわ〜少しずれたたらあなた死んでたわよぉ〜」


 現れたシェルは最初と変わらない口調で淡々と言う。

 トルスは一瞬臨戦態勢の構えに入り半歩下がった。


「あぁ〜もう終わり終わり、試験は合格だよあとはゴール目指して頑張って〜」


 そう言ってすぐに三人の怪我を回復させ、アキト達が向かって行った方角へ早々に行ってしまった。

 トルスは腑に落ちなかったが、これ以上やると本当に死人が出てしまうので今回はやめておくことにした。

 トルスの唯一与えたダメージが最後、攻撃を掠らせて折った小指だけだ。

 だが、その折った小指も実は、トルスがシェルに二人の攻撃の巻き添えを受けないよう守ってくれた際についた怪我だった。

 なので、トルスの中では敗北に等しかった。


「大丈夫かトルスー」「大丈夫?」

「ああ、だい……」

 トルスは回復した二人を見て、返答途中に膝から崩れ落ち気絶してしまう。


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