28話 三者三様
エル達もアキト達同様に少し森がひらけた場所に来ていた。
前を先行しているシェルはエーフを人形のように抱きかかえながら歩き、そしてそのひらけた場所の中央付近に行くと足を止める。
エーフをちょこんと置くと、優しそうな笑顔で告げる。
「それじゃあ試験を始めるわね〜」
相変わらず柔らかい口調でゆったりとシェルは話す。
「お、お願いします」
エルが代表して挨拶をする。
その瞬間ーーシェル先生の目つきが変わる。さっきまでの優しい雰囲気は消え今は恐怖すら感じるまでの威圧感を目つきだけで放っている。
「お題は〜あなた達の魔法、スキルで私に傷をつけるもしくは私の防御魔法、スキルを突破出来たらクリアね〜反撃はしないからいつでもいいわよ〜あ、ちなみに制限時間は日没までだから気をつけてね」
エルは考える。
普通に考えたらいくら試験官、学園の教師だとしても三人がかりの攻撃を日没までの半日間耐えることは相当難しい。
なので、よほどシェルは自分の実力に自身があるとエルはとれた。
エルはメガネのずれを直す。
一旦引いて作戦を練るべきか、それとも今から……
そうエルが考えていると、隣からトルスとエーフガ横から顔を出す。
「エル何を迷っている、こんなわかりやすい試験などそうそう無いぞ」
「そうだよエルくん、一気に決めちゃいましょう」
二人に背中を押されエルも覚悟を決める。
二人も既に覚悟が決まっていたようで、先程までの緩いムードは皆無、目が据わっている。
「どこからでもいらっしゃいな〜」
シェルはにっこりと微笑む。
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エルは焦っていた。
あれから一時間魔法やスキルを撃っては休み撃っては休みを繰り返していたが、全くシェルの防御を突破できる方法が思いつかない。
シェルはまだあの位置から一歩も動いておらずしかもスキルも魔法も使っていない。それにも関わらず無傷なのだ。
これにはエーフとトルスの二人も予想外で、最初始まった頃より口数がかなり減っていた。
「ここまでとは予想外だぞ」
「ほんとですよ……」
「仕方ないです。後半に取って置く分は考えずにやるしかなさそうですね」
「そうだな。温存はもうするだけ無駄。文字通り全身全霊でやるしかなかろう」
「そ、そうだね」
三人で意見を合わせ、お互い一定の距離をとる。
「二度目の作戦会議は終わったかしら〜」
相変わらずシェルはゆったりとした口調で、油断しているのか侮っているのかもそのせいでよくわからない。
人間誰しも何時間も戦闘してればどこかしらに隙はできる。
だが、このシェルにはそう言ったものが一切なかった。
それと魔法、スキルで攻撃しているのに殆どダメージがない。考えられるのはスキル、魔法関係なしに防御できるパッシブスキルだけになる。
恐らく何らかのパッシブスキルなんだろうが、エルは先程からずっと観察しているが全くどういったものなのか検討もつかない。
一時間も見て分からなかったのでもういっそここは思い切って高火力で押し切るという大雑把な作戦で行く。
「エーフ!トルス!行くぞ!!」
「はい!!」「無論だ!!」
エルは光源属性スキル<光原の柱/ライトピラー>を放つ。
シェルの上空に魔法陣が展開されそこから円柱型の光の柱が降り注ぐ。このスキルはSPを消費した分によって威力が変わる、今回は殆どのSPを使い下手をしたら殺してしまうほどの威力になっている。
だがこのくらいやらないと勝てないのも事実、それをエルは承知で放っている。
そのまま、エーフが風属性魔法<突然の突風/ハプニグスコール>を地面に向けて放つ。この技は辺りのものを巻き上げる効果も持つ、地面に放つことで砂や塵芥を巻き込み砂塵となって襲いかかる。
シェルはエルとエーフの攻撃は流石に威力を殺せなかったのか魔法を使用する。
シェルは手を地面に付きそこから己を囲うように水が出現し包む。その水の厚さは尋常ではなく、二人の攻撃を難なく対処する。
エルとエーフが魔法とスキルを放っている間に、トルスがシェルにエルとエーフの魔法、スキルの巻き添えを受けないくらいの場所に移動し、トルスもスキルを放つ。
「ふっ!!岩属性スキル<岩壁暖簾/ロックウォール>」
スキルを放った瞬間、地面からトルスの目の前に岩壁が出てくる。トルスよりも高い壁は本来防御に使うものだ、エルが一瞬焦ったところを見るとトルスは目をつぶり第二のスキルを放つ。
「岩石属性スキル<岩石の大砲/ロックキャノン>!!飛んでけぇええええええええ!!!!!」
岩壁の周囲がオーラを纏う。
トルスは大きく振りかぶり腰を屈め息を思いっきり吐き叫びながら、岩壁に向かって渾身の拳の一撃を叩き込む。岩壁は一瞬で崩れ崩壊していく中ーー殴った部分の岩が抜けてぽっかりと穴が空いていた。
エルはシェルの方を見て驚いた。
その抜けた部分の岩がとんでもない速度でシェルの方へ飛んで行く。しかもその岩は空気との摩擦で熱を帯びており今にも発火しそうで岩とは思えないほど赤くなっていた。
シェルは目を見開くと瞬時にスキルを発動し、体を横にした態勢で飛ぶ。そこをギリギリのところで岩石が通過し奥の森へ突っ込んで行く。
エルが突っ込んで行った方を見ると森の木や草は燃え尽き、通っていた道は無残な姿になっていた。約二km程飛んだところで威力が付き、急に爆散する。
岩石にかけたスキルが限界に達し、その刻んだ道はただ、綺麗に禿げいてた。
シェルは先程まで毅然とした物腰だったのが、急に代わり今ではもうさっきまでの余裕はない。
今のがダメージを与えられる最大のチャンスだった。
エルはそこの駆け引きに負けてしまった。
その悔しさ、自分の情けなさに唇を血が出る程噛んでしまう。
もうあのトルスの技は通用しないしあの威力だ、トルスはもうスキルを使い果たしてしまったはず……
エルは色々考え、次の作戦を思考するが殆ど出てこない。
そして、さっきの攻撃でシェルのパッシブスキルの大体の予想はついた。
エルとエーフのあの威力の技をシェルは魔法で防いだ。
ある一定ダメージ量以下の攻撃は無効となるもしくは極限まで威力が弱まるなどそんなところのパッシブスキルだろうとエルは予想していた。
あのトルスレベルの攻撃ならシェルにダメージを与えることは可能。トルスには肉体攻撃に専念してもらいその隙にエルとエーフの攻撃を当てる、もしくはその逆をするしかなかった。
だが、これにはお互いにリスクがある。
少しでも制御を間違えば殺してしまうという恐怖、殺されるかもしれないという恐怖。
その両方をクリアしなければこの作戦は無理だった。
エル達は一旦シェルから距離を取り、休憩しつつ作戦を練る。
どちらにしようかどうしようかとエルが考えているとトルスが先に口を開く。
「俺に作戦があるんだが聞いてくれるか?」
トルスが自分から作戦立案するのは珍しい、いつもはエーフかエルが案を出し合っていた。
基本いつも聞いているだけだったトルスがどんな作戦を出すのか少し期待している自分がいた。
エーフも続けてと頷く。
「俺はお前たちみたいに頭を使うことはできん、だからこそ単純な作戦。俺が試験官と肉弾戦に持ち込む、お前たちはその隙にありったけの攻撃をしろ」
トルスが作戦を言った時、一瞬、場が静寂に満たされる。
一拍おいたあとにエルは、はっとし今何を言われたのか理解が追いつく。
「その作戦に私はのるよ」
その作戦を真っ先にエーフが肯定する。
「いいのかその作戦で?僕達が一歩間違えれば死ぬかもしれないんだよ」
エルはあえて疑問を直球でぶつけるが、トルスは表情を一つ変えない。
「何を言っている。俺は目的を果たすまでは死なん!それに俺は鍛えてるからなエル達の二人から攻撃を受けてもノーダメージだ」
怒りでもなく叫びでもなくいつもの通常時のトーンではっきりとした口調でトルスは言う。
「僕はそんな話をしているんじゃない!気合いどうこうできる問題でもーー」
そう言いかけた時、エーフが割って入る。
「私はトルスを信じるよ!!」
普段あまり強く意見を言わないエーフがこんな強い口調で言ったのは初めてだった。だからこそ、その真剣さがよりエルの心に響く。
「エルよお前が言いたいことは分かる。俺がやられればチーム自体が試験不合格になり、下手すれば俺が死ぬ。お前たちはいいやつだ、その責任感で再起不能になってしまうかもしれん……だが、俺はあの村からここまで引っ張って来てくれたお前たちを信じたい」
こう言われてはもう後エルも後には引けなかった。
「それじゃ度肝抜いてあげますか」
「当たり前だ」「そうだね」
二人はエルに対し、昔のような笑顔でそう答える。




