245話 別れ
宿屋パイオニアを出ると、柔らかく心地よい風が間を抜けていく。
いつもならうるさいバルトも少し遠くの方を見て少し寂し気な表情をしていた。
ここからは、皆それぞれの道を歩んでいく。
もしかしたらこれが最後になるかもしれないのだ。
流石に三年も一緒に苦楽を共にしただけあってアキトもこういう感覚は新鮮だった。
OOPARTSオンラインが終わるあの時みたいだな……
アキトは、ウタゲから貰ったシュガースティックを歯でポキッと折り、食べる。
物凄い糖分が口内を満たし、一回噛むごとに水一リットルは飲みたいぐらいの甘さだった。
だからウタゲ先生は口の中で舐めてたのか……
ウタゲがやっていたようにアキトもシュガースティックを咥える。
「それじゃあ、僕達はそろそろ行くよ」
「そうだね」
エルが切り出すと、トルスとエーフもそれに応じる。
「あーあーシロネちゃんを愛でれなくなるのは痛手だな〜」
「う……」
シロネは警戒してアキトの後ろに隠れるが、今日はしないよと手でジェスチャーする。
その動作を見てシロネは安心してアキトの後ろから出ると、一瞬でエーフに捉えられる。
いつも思うがこの時のエーフの反射神経はここにいる誰よりも早い。
「エーフもう良い?」
「うん!またねみんな!」
エーフはシロネから英気を養うと、トルスとエルを先導するように行ってしまう。
「全く、嵐のようなやつじゃのエーフは」
「……」
「なんじゃその目は」
「いや、このやりとりも当分見れなくなると思うと違和感が凄いなと思ってね」
「まあの……」
シロネも少し悲し気に言う。
シロネにしてみればせっかく出来た友達と一緒にいられないのは悲しいのかもしれない。
「って何言わすんじゃ!」
「うげぇ!」
シロネに尻を蹴られたアキトは涙目になりながらこれなら大丈夫そうだと追撃から逃げながら思う。
「よっし!俺達もそろそろ行くぜ!」
「おっ!もう時間か」
「おうよ!」
「そっかーうるさいのが居なくなると寂しくなるな……」
「俺も頼りになるやつが居なくなるのは寂しいぜ!」
何故か変な流れに流されたアキトとバルトは握手を交わす。
バルトとユイは時間が決まっているので元々長居は出来なかった。
ユイもいつもならツッコミを入れる所だが、これからの事もあるのか少し緊張しているような面持ちだった。
ユイとバルトが入るのは国に仕える帝国最高戦力、’歪’を軸とした軍だ。
入る前に適正検査や実力も見られるし、ライバルも多い。
少しでも油断すれば落ちていく……そんな世界だ。
さらに、これまで以上に死と隣り合わせとなり、変な力が入るのも無理もなかった。
ちなみに、隣にいるバルトは清々しいほどいつも通りを貫いていた。
「シロネもありがとな!」
「うむ、ユイもバルトも精進するのじゃぞ」
「ありがとうシロネ、アキト」
シロネもさっきのアキト達同様ユイの手を取る。
すると、さっきまで少し緊張気味だったユイも表情が柔らかくなる。
「全く、まだまだじゃのユイ……」
「ありがとう」
「バルト、ユイの事頼むのじゃ」
「えっ!」
「えっ!じゃないのじゃ」
しっかりバルトにも鉄拳を制裁してシロネは最後の役目を終える。
「心配なのは分かるがほどほどに」
「うるさいのじゃアキト」
アキトは、シロネに軽く小突かれる。
「そんじゃあなアキト、シロネ」
「ああ、じゃあな」
「うむ、一旦の別れじゃ」
「じゃあね」
ユイとバルトは、リ・ストランテから帝国に移るので門の方へ行ってしまう。
さっきまで賑やかだったのに一気に静かになる。
「……うむ……わしらも行くかアキト」
「そうだな」
アキトとシロネはバルトとユイの逆方向へ向かう。
目的地は一番初めにこの街に来た時に行っている場所。
冒険者ギルド リ・ストランテーー




