236話 ルタ=ジグ
ウィルビル=トルマール強制収容所ーー
朝から雨が激しく振りかざし、静かな収容所内には雨音がうるさいくらいに響き渡っていた。
檻の壁に小さく作られた格子のついた穴からちらちらと雨が降り注ぎ室温が低下し、霜焼けするほどだった。
フレイス連邦国は一日の寒暖差が激しく、朝は寒く、夜が暖かいという特殊な気候で、雨が振るだけでも朝はとても寒くなる。
横たわるルタにはランプが持っていた大きな白い布を被せてあり、その下でルタは安らかに眠っていた。
そんな中、じっと一点だけを見つめ、ランプはどうやってここにいる兵を一網打尽に出来るか考えていた。
そもそも檻の中ではまともに属性は使えないので、一人目はランプの身一つで……ただでさえ身体能力の化け物である異口同種に立ち向かわなければならない。
「ランプ、少しは寝ないといざという時動けないぞ」
「……」
目の下に隈が出来たランプを見たアーバンがランプに色々話しかけはするが、基本ランプは応えなかった。
というより、集中して考え事をしているので何も聞こえない状態になっていたという方が正しい。
完全に怒らせてしまったと思っているアーバンはやれやれと言ったようすでアイテムボックスから紙を取り出し、起こった出来事を記していく。
再び朝、昼と闘技場で試合が行われ人間が二人……やられてしまう。
やはり、昨日のルタのような事は高頻度で起こるものでない、あっけなく二人共やられ今回は殺されずにアーバンと同じようにいたぶられただけだった。
「あの二人は、もう出荷の時間か……」
日が沈みかけ夜がやってくる直前……アーバンは独り言を漏らす。
ランプが相手してくれないので独り言が多くなったアーバンは、思っていたことを逐一言葉にしていた。
「そうですね……ちょうど私も同じ事を考えていました」
朝、昼とずっと無言だったランプはとうとう夜の前になってアーバンへ口を開く。
「そうか!ならランプ、お前も同じようには」
アーバンはランプが心を変えてくれたと思い話しかけるが、ランプは朝昼の時間を全て使い最終的な答えを導き出し完結したので、アーバンの話にのっただけだった。
「いえ、私は変わりませんよ」
朝と昼同様に種族カンターが通路を歩いてくる。
足がないので、体をするような擦り音が徐々に大きくなり、近づいてくる。
それと同時にランプはアイテムボックスから大きな太刀を取り出す。鞘に収まったその太刀を片手に携えると、息を整えて構える。
属性攻撃は使えない。
ならば、自分が一番使う武器の一太刀目で息の根を止めればいい話。
「おいおいおい!嘘だろ!」
アーバンも無謀だと驚くが、今のランプを止められる者はこの場に誰一人いなかった……
**
近づく種族カンターのゔいる=かーもなぜ今回あの瀕死の状態、しかも死にかけのルタという人間を試合させる意味が分からず移動中ずっと考えていた。
昨日、ルタとエーリの試合を見て何とか引き分けに終わったがこれまでの経験上確実に死ぬと思い次は誰になるだろうかと考えていたが、まさかの再戦だった。
基本、死に際まで行ってしまった人間と言うのは保存食や高位の人物の買い付け、もしくは超高級な飲食店に回されるかのどれかになる。
さらに、死にかけの人間は死んでしまっては価値が落ちるので高レアのアイテムで傷を直され何とか生きながらえさせられるが、ルタにはそう言った行為も一切されなかった。
そして、そんな思いを抱きながら自分の宿舎へ向かう途中、’咎罪’最強の七名の一人、他六名をとり仕切るリーダー格の中のリーダー、この国唯一の種族、竜人のシンランがそこにいたのだ。
フレイス連邦国では、’人’がつく種族は忌み嫌われる。だが、竜がつくと言うのは人がついていたとしても別格で、最強種族として謳われている。
そんな高位な方の命令で、今回のルタの再戦が決まったと知ったゔいるは、それ以上何も言う事はなかった。やれと言われればやる、ただそれだけで良いのだ、ゔいるにはその選択肢しかない。
だが、ゔいるはなぜそのような命令をだしていたのかずっと考えてはいたが、一向に答えは出なかった。
そのまま思考しているとゔいるはルタがいる檻の前に到着する。
そして、横を向くとルタと同室にいたランプが大きな太刀を構え、鬼のような形相でゔいるを睨みつけていた。
考えごとをしていたゔいるは反応が少し遅れたが、檻の中で属性も使えない人間に出来る事などないと冷静になる……だが、その太刀を構えるランプからは嘘やハッタリではない、ここから扉越しにゔいるを屠ることが出来るという強い意思を放っていた。
ランプのとてつもない覚悟と、意思だけでゔいるを圧倒した。
戦闘能力がそこまで高いと言う訳ではないゔいるは距離を取ろうと動こうとするが、それすらも許さない攻撃範囲……
「まさか……この場所一帯ごとっ!!」
「はぁあああああ!!!!」
属性を使えないのにも関わらず、ランプはこの硬い檻ごと周りにあるもの全てを一太刀で斬り落とすつもりだった。
ここまでかと思ったゔいるは突如、ランプの後ろから太刀の柄に手を置き静止する。
突然、何の前触れもなく触れられて集中力が切れてしまい、反射的にそちらの方へ顔を向ける。
そこには、死んだと思っていたはずのルタの姿があった。
突然の事で理解が出来ずランプは気の抜けた声を放つ。
「ルタ……」
「おはようございます。おや、隈が酷いですよしっかり寝たほうが体のためです。久しぶりに隈の深い人を見ましたよ」
ルタが生きている事に涙が溢れるランプだったが、どこか雰囲気が違った。
「貴様っ!!!」
ゔいるは今起きたことをに腹を立てランプへ報復しようとするが、ランプの前に裸のルタがアイテムボックスから羽織れる布を取り出しながら立ちはだかる。
その布はルタの体へ勝手にサイズを変え、表裏が赤と黒のロングコート、さらに青黒い半ズボンに黄色の革靴といったカラフルな服装に変化する。
「これから試合なのでしょう?行きましょうか」
その声は、幼い少女とは考えられないほど冷たく、ゔいるの本能がこれ以上動く事をやめろと強く訴えかけてくるほどだった。
ゔいるはぐっと堪え、我慢し、これ以上下手に動く事をやめ仕事に徹する。
「あ、ああ……」
そして、その少女を闘技場のある場所まで連れて行くのだった。




