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208話 最後の一滴

 その花びらの剣からは考えられない程の量の花びらがルナの周りを渦巻くように舞い上がり、巨大な台風のような形に花びらが軌道を取る。

 本来、このスキルはアキトに特訓の成果として見せるものであり、温存していたがセナの退場でそんな事がどうでも良くなった。

 いつも自分の前を行っていた人がこれだけ手も足も出ず、目の前でやられるという事自体初めてで、いつもどうせ自分よりも強いからと本気で向き合ってこなかったにも関わらずルナはそんな事よりも妹が今傷つけられ横たわっているという事しか頭になかった。


 早く助けたい、早く傷を癒してやりたいというルナが普段あまり見せまいと無意識に蓋をしてきた感情が爆発するーー


 怒りという感情が前にあるのにも関わらず、後ろにある感情は冷静で自分を自分で俯瞰するような感覚だった。

 大きく右足を踏み込み、剣を構える。

 巨大に渦巻く花びらはさらに膨れ上がり、反時計回りに回りながらルナを隠す。


「これはこれは、面白いっ!!」


 シャーロットは怒り狂ったルナには先程セナに撃たれたような属性魔法程、警戒する必要は無いと踏んでいたが、それを一気に百八十度変えられる。白い歯を見せながら子供っぽく笑うとシャーロットは右手を突き出す。


「超睡蓮属性スキル<物質催眠/メタリアルスリープ>……これならどうじゃね」


 シャーロットに襲いかかるルナの放った花びらの大群は次々と眠りに落ちたようにただの花びらに変わって行く。

 次次々と大量のルナの花びらが襲いかかりそれを次次々と眠らせて行くシャーロット。

 次次次々と大量の花びらを生み出すルナ、それをさらにシャーロットは次次次々と眠らせて行く。


「まだまだぁあああああああ!!!!!」


 鬼気迫る表情で、シャーロットに向け剣を振るう。ルナは縦横斜めに斬りかかるが全てシャーロットが眠らせて行く。

 だが、花びらの枚数も大量なので徐々にシャーロットにも綻びが出始め、全身を花びらが傷つけて行く。


「私と根比べとは良いじゃ無いか!!気張るのじゃぞ!!!」


 全身が次々と傷ついているのにも関わらずシャーロットは直す余裕が無い。いや、直す気などそもそも無いのだ。

 どれだけ己が傷つこうとも、それを感じさせないほどルナの動き、攻撃、視線など全てが美しく、可憐でこの花びらの中で一番綺麗に輝いていた。

 それに見惚れるようにシャーロットは次々と眠らせて行く。

 だが、そのルナにも限界があり、その時は刻一刻と迫る。


「はぁああああ!!!」


 ルナが斬り込んだ所をシャーロットは間一髪のところでかわし、そこへ睡蓮属性をルナに放とうとするがすぐさまそれを邪魔するように後から花びらが追撃する。

 辺りには無数の花びらを展開されシャーロットは下手に動く事も出来なくなっており、さらに寝かした花びらをルナがさらに属性を上書きし起こすので、再利用される形になっているので寝かしても寝かしても起きてくるという状況になっていた。


「もう、とっくに限界迎えておるのに良くやりよるっ!!」


 他の二人も加勢したかったが、花びらが無数に辺りを舞っているので近づく事も出来ず、姿も捉えられない程なので遠距離からの攻撃もルナに当たってしまうとうリスクがあり動けなかった。


「あなただけは……ここでっ!!落とす!!」

「ーーやってみよっ!!」


 ルナの天恵はもう底を尽きているはずなのに一向に動きが鈍らない。それどころか、徐々に徐々に動きキレが増しており、シャーロットは今まで見たことの無い強さを目の当たりにして興奮して仕方がなかった。


 ルナは大きく切り返し、再び剣を振りかざしシャーロットへ迫る。それを簡単に避けるがシャーロットはシャーロットで攻撃する余地が無い。


「ーーなんじゃと!!」


 だが、今回は違った。

 上から振りかざしたルナの剣は空を切ったが、その軌道を沿うように追撃してきた花びらはシャーロットが思っていた大きさでは無くなっていた。

 今まで舞っていた花びらの大きさの二分の一以下にまで小さくなっていた。

 しかも、その一枚一枚が元の大きさレベルの威力を持っているので単純に量が二倍以上に避けるのが二倍以上難しくなったのだ。


「まだ……まだ……まだぁああああああ!!!」


 それに気づかないまま、ルナは一心不乱に、剣を振るうことを一秒たりとも止める事は無い。

 避けるのがさらに難しくなり、シャーロットの体をさらに削って行く。


「ーーくっ!!」


 流石のシャーロットも焦りの色が出始める。

 細かくなった事でさらにルナの属性範囲が広くなり、もう超桜蘭属性スキル<桜花絢爛/ゴウジェ・ル・ド>、超属性の攻撃範囲では無くなっていた。


「はぁああああああ!!!!」


 シャーロットの一瞬の隙をついて最接近し、睡蓮属性を当てられる覚悟で迫る。

 剣の柄を地面すれすれまで下げ、そこから上に振り上げる。

 うねりを上げ、花びら一枚一枚に意思があるかのように、シャーロットへ一斉攻撃を仕掛ける。一枚一枚の花びらが傷を抉り、その傷をさらにい他の花びらが抉る、その奥にある骨に到達した花びらは骨を断とうとし、外に出ている人間の弱点、目や鼻、口、首元や手首には一層花びらが集中する。


「ここまでとは……」


 シャーロットもその威力に賞賛を送りたい程の気持ちになり、最初はルナの属性も追加しようと考えたがそんな事をさせてくれる暇などルナは一切与えなかった。


「ーーっ!!!」

「舐めるなよ、私を……」


 振り上げられた剣の柄をシャーロットは手を血だらけにしながら無理やり押さえ込み、睡蓮属性を発動させ剣にかかっていた桜蘭魔法<春うらら>を眠らせ、剣と花びらを切り離す。


「そっちこそ!!私を舐めるなぁああああ!!!!」

「うぐぅぁああっ!!!」


 その瞬間ーー

 シャーロットは思いっきり腹をルナに蹴り飛ばされる。

 既にシャーロットが抑えた剣をルナは持っておらず、はなからこれを狙っていたのだ。

 その蹴りはこれまで受けてきたどの攻撃よりも重く、シャーロットの腹に重くのしかかる。全身傷だらけだったが、そのどれにも値しない痛みが全身を駆け巡る。


「まだ……まだぁぁぁ……まだぁあああああああ!!!!!」


 強烈な蹴りに吹き飛ばされたシャーロットを追うようにルナは、最後の最後の最後の力を振り絞りありったけの花びらを属性で作り出し、シャーロットを狙い放つ。

 その光景は既に超属性を超え、威力は時代級属性にまで達しており、周囲にある木々や草花おも巻き込み取り込み、超巨大な花びらと草木の渦が再び出現する。

 地面を砕き、空間を軋ませるその威力は、近くにいたシャーロットを噛み砕くかのように包んで行く。


 そのままルナは気絶し、力尽きたように地面に顔から落ちて行く。


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