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191話 ぼっちダンジョン

魔導修練祭 ダンジョン最深部ーー


「はぁはぁ……はぁ……」


 バルトはダンジョンに入ってからずっと走り通していた。夜の戦闘禁止時間以外はずっとだった。

 途中いくつもあった部屋や罠、魔物などを無視出来るものは無視し、強制的に戦わされる場面ではなるべく早く決着をつけるため、一撃に全てを込め大体の相手をその一撃で仕留めていた。

 ずっと暗いので今何時で、本来のフィールドでの戦況など一切分からないがそれでもバルトは一心不乱に走っていた。

 いくら特訓しているからと言ってもう朝から約五時間はずっと走りっぱなしなので、太ももや脹脛など足の至る所が悲鳴をあげていた。


 だが、バルトはそんな自分の体に鞭を打ちながら走り続け、さらに一時間走り、最深部に一番のりで辿り着く。

 最深部も、ダンジョン最初の分かれ道の数だけあり、様々だ。


「でっけぇな……」


 バルトは見上げるほどある巨大な扉の前で息を整えながら心の中の感想を漏らす。

 するとその巨大な扉は自分からバルトを迎え入れるように鈍い音をダンジョン内で響かせながらゆっくりと開く。

 そのままゆっくりとバルトは進む。

 扉を潜るとそこは、一面真っ白な部屋で縦横百メートルほどの大きさのある部屋だった。

 扉の対面端にある直径十メートルはある魔法陣を見てバルトはこれが元のフィールドに戻れるものだと考え、一直線に進む。罠があったり、魔物が突然出て来たりと色々な想定できるリスクはあったが、バルトにはそこまで考えられるほど冷静ではなかった。

 ただ、早く元のフィールドに戻りたいという気持ちがバルトの足を進めている。


「なんだ?」


 バルトがちょうど部屋の中央辺りまで進んだ頃、魔法陣が突然光だしそこから一人の女性が姿を現す。

 メガネをかけた凛とした女性で、腰まである長い黒髪に、真っ赤な髪飾りを着けている。


「はぁ……全くもう最深部に来られてるじゃない……」


 その女性は少し苛立たせながらバルトの方を睨む。女性の表情には呆れと怒り、それと驚きも混じっていた。


「あなたが最初のお客さんね。ちょうど良かった、今回は良い事が無くてイライラしてた所よ、私のストレスのはけ口になりなさい」

「ああ?!!」


 バルトは何も聞く気も無かった、バルトもこのダンジョンに転送されその女性よりも元からイライラしている。

 それも、ダンジョン内でずっとバルトのストレスが晴らされる事は無かった。


「私は、ズ・バイト学園生徒執行会長、カルア・コルク。覚えておきなさい!」

「うるせぇ……バカが……」


 バルトは目の前にいる相手が誰であろうと、そんな事はどうでも良かった。

 ただ、元のフィールドに戻り兄をぶん殴りたいというその欲求だけがバルトを動かしている。

 欲しいのカルアの後ろにある転送用の魔法陣だけだ。


「あっそう……後悔しないようにね!!」


 カルアもストレスがその瞬間最高値を突破し、それと比例するように集中力が一気に上がる。

 バルトは、一切そんな事は気に留めずまるでカルアがいないかのように、ただただ魔法陣に向けて歩いていた。


「ほんと!今日はイライラする!!超本属性魔法<獄炎本/フレイアブック>」


 カルアは近づいてくるバルトの方へ向けて手を伸ばすと手元に真っ赤な本が出現する。


「はぁ……また邪魔かよ……」


 バルトはカルアの固有属性を見て深いため息をつく。

 実際、カルアは戦えはするが、もう天恵を殆ど使い切っていた。レイ・クラウド学園のピルチとコウザンの二人と戦った際、早々にハロが脱落し相性の悪すぎるその二人から逃げるようにダンジョンに来た。

 そして、天恵を回復をすべく休みたかったがちょうどそこへバルトが来たのだ。


「くらいなさい!!本属性魔法<複製/コピ>」


 超本属性魔法<獄炎本/フレイアブック>によって出した本が複製され十冊にまでなる。

 カルアへ向けて歩くバルトの周りに複製された本が漂い、一斉にバルトへ向け火炎放射器のように火が吹き荒れる。

 カルアの視界は一瞬で真っ赤に染まり、真っ白な部屋が彩られる。

 温度も一気に上がり、バルトの姿は一瞬火で消え去るとカルアは思っていた。


「風呂だな……」

「なっ!!」


 バルトはその隙をついてカルアとの距離を一気に詰める。 

 その勢いで右腕を後ろに引きそれに合わせ腰も回す。そのままカルアの顔面を狙い右拳を振り抜こうとするが、途中で止めフェイントをかける。

 殴られると思ったカルアは一瞬体を強張らせ、筋肉が硬直する。そのせいでカルアはバルトの動きについていけない。バルトは体勢を急降下させ太陽属性スキル<小太陽/プチトマト>を発動する。

 バルトの手元に小さな火の球が現れ、それを握りしめる。すると、バルトの手から腕、肩まで真っ赤に燃え盛り、その拳でカルアのみぞおち辺りを下から上に振り上げ殴り飛ばす。


「うgぅっ!!!」


 魔法陣の方へカルアは吹き飛ばされ、さらに腹は大火傷しユニフォームが焼けた匂いが辺りに漂う。


「ぁがっ!!おえぇっ……」


 カルアはすぐに起き上がろうとするが、バルトの一撃は相当深く入っており胃液を口から吐き出しながらうずくまった状態から起き上がれないでいた。

 うずくまっていて長い髪が邪魔で表情が読めないバルトだったが、そんなことを気にすることなく魔法陣の上に乗る。


「……あなた……どこの……学園……」

「ん……ルイン……」

「そう……」


 バルトから学園を聞き、カルアは今回の作戦がそもそも意味が無かった事を悟る。

 実際に意味があったかどうかなど誰にも分かる事ではないが、カルアはこういう勘には長けていたのですぐにわかった。


「はぁ……魔法陣に天恵を流しなさい……」


 ジリジリと痛む腹を抑えながらカルアはバルトに使い方を教える。

 口元を拭い、メガネの位置を調整する。


「敵なのに優しいんだな」

「行くからには勝ちなさいよ……」

「当然!」


 バルトは、最後に笑うと眩い光に覆われ消える。

 その姿を見て、カルアは倒れこむ。

 魔法陣を起動させるにはカルアの天恵が必要だったので、最後の数滴あった天恵を使いカルアは起動させていたのでもう動けなかった。


「とんだ、ルーキーね……」


 カルアは目を閉じながらリタイアを宣言する。


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