156話 仲間はずれ
転送地 濃霧フィールド ???地点ーー
日の光がこのフィールドを照らし、夜の異常なまでに下がった気温が元に戻り、比較的過ごしやすい気温、湿度まで上昇する。
一日目の緊張感がほぐれ、緩む二日目ーー
もしくは、一日目の緊張、ストレスが押し寄せ体調や精神が安定しない者などここからが分かれ道となる。
いくら体は鍛えられても精神を鍛えるのは難しい。
それに、二日目からは天候が変化し、地形も書き換えられる。
「で、裏切り者のズ・バイト学園が何でここにいるんだ?」
カルイン学園生徒執行会会長、ハロ・ババロアは本体ではないムルドを軽く睨む。
今この状況でムルドがいるのは相応しくないのは誰が見てもそう思うしムルドも分かってやっていた。
「うちの会長がうるさくてね、偵察だよ」
「偵察ってのは気づかれないようするのが基本だろうが」
「ハロちゃんも、小難しいこと考えるねぇー」
「チッ!お前に真剣に返すのはやめだ」
短い銀髪のツーブロックの前髪をかきあげて、ハロはもう一人の方へ視線を移す。
はっきり言って、今回一番レイ・クラウド学園に近い男だ。
ユニフォームだけでは隠しきれないガタイの良さと、派手な金髪を後ろで結い、なぜか草履を履いている。
目元には大きな傷跡が残っており、ユニフォームの袖から見える素肌にも無数の傷が刻まれており、はっきり言って一対一なら確実に勝てない相手だ。
バハイン学園、生徒執行会会長……ギルガ・オウライ……
ムルドとハロはまだ目的や作戦などが通じるが、この男に関してはただの戦闘狂。
今回カルイン学園についたのもただ戦いたい為だ。
「ズ・バイト学園は何をしたいのだ?返答次第では真っ先にお前を潰す」
「はぁ……今回ダンジョンを作ったのは別にこの同盟を崩すわけじゃなくてね」
「では、なぜルインとレイ・クラウド以外の奴も転送させたんだ」
「それはほら、相手には僕らズ・バイトが裏切ったように見せるためさ」
「そうか……ならレイ・クラウドの奴らを潰すのは同意していると見ていいんだな」
「そうだね」
何か、言い誤魔化そうと思ったが、もし万が一嘘がバレたらムルドの方が危ない。
それに、レイ・クラウド学園を狙うのは同じ意見なので利用するしかない。
「ギルガ、ムルド、ルインの様子はどうだ?」
「一日目はかなり持ちこたえているらしいぞ、今回はタフらしいな」
「僕の方も、何人かやられちゃって少し痛手だけど、このままジリジリ狙ってればいつか崩れるでしょ」
朝霧の中、三人で会議をしていたが、突然地面が湿り気を帯びて突然水かさが増え、沼地のような場所になる。
「へぇ……フィールドがはっきり変わるの初めて見た」
「どうでもいい、で、いつから進行し始める?」
「ギルガ、そっちは何人連れてくるんだ?」
「俺は一人に決まっているだろうが、どうせ他が来ても潰されるのが関の山だ」
ムルドはあくびをしながら目元を擦っているとギルガと目が合う。
その怖さにムルドは少し怯む。
「カルイン学園は俺以外にも数名連れて行くつもりだ。で、ズ・バイト学園は?」
「僕ですか……うーん多分僕は参加しないと思う……代わりに会長が来ると思うから」
あんまり干渉し合いたくないカルアは本当に必要な時しか動かないので、ムルドが出ているわけだが、今回は流石に必要な時にカウントされてるはずだと思っている。
「そうか、ムルド、お前のとこの会長は強いのか?」
「やりあうならレイ・クラウド学園倒してからにしてくださいよ」
「分かっている、聞いただけだ。で、どうなんだ?」
カルアはムルドと女性以外には基本寡黙で引っ込み思案なところがあるが、恐ろしいのは人間の感情を持ち合わせていない悪魔のようなところだ。
ムルドがカルアの属性を調べようと一度書斎に入ったことがあったが、全てバレていたほどだ。
なのではっきり言ってムルドは未知数だった。
「そうですね、少なくともあなたを退屈にはさせないでしょうね」
ムルドがそう言うとギルガはニッと口角を上げ、さっきまでの威圧感が消える。
「で、何時からレイ・クラウド学園とは接敵するんだ?どうせあっちは待ち構えているだろ」
「ああ、今日の午前中には今後の作戦とか色々調整するから昼食べて午後からになるな」
「でも、夜までには終わらんでしょハロちゃん」
レイ・クラウド学園は一日で落とせるほどそう甘くはない。なので夜になる前には一度立て直せるよう動かなければ相手からしたら長引かせれば勝てるところがあるので慎重に動く必要がある。
「じゃ、一旦そう言うことでまた後でもう一度集まるか」
「そうだね」
「僕もいいかい?」
「戦力は多い方がいいからな……だが、今回は許すが次はないとだけ上に伝えておけ」
ギルガは戦闘狂だが勘もいいのでムルドは対処に困る。
「分かったよ、伝えとく」
「ムルド、ダンジョンの方は大丈夫か、バーンを抑えておけるだけの能力はあるんだろうな」
「ハロちゃん大丈夫さ、僕らの計画だとこの魔導修練祭中に突破することは出来ないようになってるから……」
「そうか、ならいいが」
ムルドは嘘をついた。恐らくダンジョンはもって残り一日か二日、規格外を二人も選んでしまった俺の運を呪ってくれとムルドはあまり考えないようにしている。
「では、解散する。じゃあな」
そう言ってギルガは霧の中消えて行く。
気配を完全に断ち切っているので、もう追うことは出来ない。
「で、ダンジョンは残り一日か二日か?」
「あれ?バレてましたハロちゃん」
「ふざけやがって。お前が嘘をつくときは良くわかる」
「あらら、まあほんとだよ」
「どうするつもりだ?」
「うん?まあ一応策は無い訳じゃ無いからどうなるかはお楽しみってことで」
ハロはまだ疑った目で見るが、嘘でないことを悟ったのか何も言わずそのまま霧の中へ消えて行く。
「……ほんとみんな気配消すのうますぎでしょ」




