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13話 リ・ストランテ

 初戦闘の後、アキトは悶えていた。


「痛ってぇ……」


 アイテムボックスからロウポーションを取り出し、さっき庇った腕を癒す。

 といってもポーションだからそんなすぐに治らない。


「アキトよそんなもん薬草でも塗りたくっとけば治るのじゃよ」


 そう言うとシロネはとんでもなく深い緑色の磨り潰した薬草をアキトの腕に塗りたくってくる。


「ゔぁあああああああ〜」


 アキトは絶叫し、もう前が見えないぐらい涙が溢れている。


「薬草でそんな悶えてるやつ初めて見るぞ、痛みに弱すぎじゃ」


 'カッカッカ!'と高笑いしているシロネを尻目にアキトは腕をかわりがわりにさする。

 尋常じゃなくひりひりし、なんなら殴られた時の方がまだましなくらいだと思えたくらいだった。

 ポーションをかけた上に薬草を塗ったことにより変な反応を起こしたんだろうとアキトは推測し、次から気をつけようと決意する。


「そういえば、アキトよ。スキルは使えたんじゃな」


 笑い終えたシロネはアキトが戦闘で使ったスキルについて訪ねる。

 そう、あの戦闘時スキルが発現しなければ下手したら死んでいた。

 シロネがあの四人を倒してくれたおかげで経験値が入りアキトはレベル十一へ上がりスキルが使えるようになったので本当にタイミング的にはバッチリだった。

 重力系の魔法やスキルはとにかく威力が強く、アキトのメイン属性となっている。

 状態異常やステータスダウンなど特殊効果は殆ど付いてはいないが、その威力だけで十分だった。


「まあな、さっきの戦闘で使えるようになったばっかだけどな」

「それでも中々の威力じゃったぞ」

「それだけが取り柄だからなぁ……」


 ーーさてと

 適当に話合っていたはいたがアキトはそろそろ眼下にいるジーニスの方へ視線を向ける。


「こいつどうする?」


 ここは、元Sランク冒険者のシロネに決めてもらった方が無難だろう考えアキトは判断を委ねる。

 アキトは冒険者のしっかりとした仕組みもよく分からない、こういった場合はやはり経験者に判断をしてもらう方が先決だと考えている。


「ふぅむ……どうしたものかの〜」


 シロネは片手を顎に添え悩む。


「冒険者ギルドに届けても報酬は貰えん……だからといって街の兵士に渡してものぉ」


 シロネは答えを決めたのか真剣な表情でこちらを見る。


「アキト何も言わずわしに従って欲しいのじゃが……こやつはここに置いて行く」


 ここに置いていくか、それは思いつかなったがどうしてだろうかシロネなりに考えがあるのかそれとも……

 アキトはふと、色々と嫌な想像をしてしまったが委ねると決めたのでここはシロネの考えに従うことにした。


「了解した」



 アキトとシロネは荷物を整え街へ向けまた歩き出していた。

 街に近づくにつれ昨日よりも人通りが多くなり、途中、馬車や冒険者と思われる人達とよくすれ違った。

 道もしっかりと整備されており歩きやすい。

 この世界では国や街に入るためには通行証という物を発行しなければならないが、アキトは転生前に女神からあらかじめアイテムボックスに入れてもらっているので大丈夫だ。

 この世界の通行証は身分証とも使え、平民、貴族、冒険者、兵士、商人、帝国騎士など職業によって色が違う、しかもそれぞれの階級によって縦模様が入る。

 ちなみに、王族は顔パスだ(王族の人はそれが一発で分かるよう、とある王族専用アイテムを持っているらしい……詳しくは知らん)


 アキト達は途中休憩を挟んで夕方頃にリ・ストランテを眼前に見据えていた。

 ともかくでっかい街という簡単な感想しか出ないアキトだった、城門もかなり強固な作りになっていて、簡単には侵入できないようになっている。

 周りには巡回している兵士、雇われた冒険者がおり、街に入るだけでもアキトは変な緊張感があった。

 しかし、街へ入退場出来るのは朝9時から夕方の5時までで、今は夕方の6時、タイミングが悪くしょうがなくすぐ隣にある森で食料を調達し野宿する。

 アキトのアイテムボックスに食料があったが、OOPARTSオンラインの料理がこの世界でどんな価値を持っているのかも分からないので、もう一度作れる環境が整うまでは温存しておくつもりだ。


**


 一夜明け朝早くから街に入るためにアキトは街の入り口の門に並んでいる。

 朝早いのにもうちょっとした列が出来ていることにアキトもだがそれと同様にシロネも驚いていた。

 入り街審査といって、身体、身分証のチェック、軽い口頭質問、入市税を払ったら街に入れる。

 ちなみにシロネは影魔法でアキトの影の中に隠れている。


(影に隠れてることバレたらまずくないか?)


 アキトは率直に思っていた質問をぶつけてみる。

 もし、たまたま強者がいた場合バレてしまうというリスクがあった。


(わしの影魔法を見破るやつなどこの街にはおらんのじゃ、それに街に入れたら影から出るつもりじゃ)

(じゃあ別に入り街審査普通に受ければよかったじゃん)

(わしの年齢を見られたら少々困る、ちょっとした騒ぎになってしまうからの)


 バツの悪そうな感じでシロネは答える。

 この世界の平均寿命は男女共に六十歳、だが別にこの年齢は人間の限界が来て死亡するということではない。

 単純に、この世界で人間は寿命の前に殺されるという死因の方が多い。


 列の中には人間種以外の奴もちらほら見えるんだが……

 アキトはシロネも別に大丈夫なんじゃないかと少し思ってしまう。


(あと言っておくが他に見える人間種以外の種族は大抵は奴隷じゃ、よほどの功績をあげた奴じゃないと人間の街には入れん)


 アキトが考えていた事を見透かすようにシロネは一つ付け加える。


(成る程な、ちょっとどころか大騒ぎになりそうだな)


 それから、アキトは入り街審査をつつがなく終わらせ街に入る。

 入り口の門を抜けると、まず見えるのが露店だ。門から直線上に沢山の露店が左右に別れ並んでいる。

 食べ物の露店だけでなく、怪しげなアイテムから武器等様々な種類の露店が出店している。

 アキトはその露店での欲を抑えつつ、まずはシロネがこの街でよく使う宿を紹介してくれるらしいのでシロネの案内に沿って街を歩いている。

 シロネは少し近道を使うとのことで裏路地に入り、狭く細い道を進んでいると男たちが言い争っている声が聞こえた。

 ちょうど進路にその男たちがいるのでアキトとシロネはそいつらが退くまで遠目から観察する。


 男たちは二対一という構図で、二人の方はいかにもって感じのガラの悪そうな連中で一人は細身でもう一人はがたいがかなり良い。

 一人の方もガラの悪さは負けておらず、金髪で特徴的な赤い瞳、背丈はアキトより少し小さいくらい……だから170cmちょっとか。

 ヤンキー崩れみたいな奴で、何か粋がっている中学生みたいなシュールな感じが面白いのでアキトは面白半分で最後まで見ていくことにした。


「お前、これで何日滞納してると思ってやがる!」


 がたいが良い方の男がそのヤンキー崩れの男に怒鳴る。

 どうやら借金系の話だった。

 声がでかいからよく聞こえるのでわざわざ耳を立てなくてもいい。


「いやぁ〜あと少し待ってもらえれば先月分払えるんですがねぇ」


 ヤンキー崩れの男は申し訳なさそうに答える。


「俺たちは先月分と今月分両方の話をしてんだよ!それに先々月のやつもまだ半分残ってんだ!!」


 今度は細身のやつが怒鳴った。


「あと一週間待ってくれ、そうすれば絶対払えるから」


 ヤンキー崩れのその男はその怒鳴りに怯み、手を合わせて懇願する。

 なんか長くなりそうだから、アキトは道でも変更するかとシロネに相談しようと思った矢先。

 シロネが影の中に隠れ、石を二人いる男の片方に投げた、中々の速さでそいつの頭に石がぶつかる。

 こいつ、やりやがった。

 アキトはシロネの方を向くが既に影に隠れておりアキトは何も言えなかった。


「痛ってぇ!誰だ石投げた奴!!」


 二人はアキトのいる方向を向く。

 片方の奴がアキトを見つけ鋭い目を向けてくる。

 バレてしまったので作り笑いを浮かべながら両手を上げて二人の前に姿を現す。


「今石投げた奴おまえか!」


 アキトはその問いに素直に答えようとした瞬間ーー


「ナイスアシストぉおおおおおお」


 ヤンキー崩れの男が思いっきり二人の後頭部めがけラリアットをかます。

 ラリアットを受けた二人は顔面を石でできた地面にとんでもない勢いで強打する。

 二人は気絶して泡を吹きながら倒れていた。


 なんだか知らぬ間に終わっているんだがーー

 一瞬で事が全て終わってしまいアキトは困惑したが、そのヤンキー崩れの男は何事も無かったようにアキトの横を通り抜けようとする。


「お、お前が意識をそらしてくれたのか!助けてくれてサンキュな」


 ヤンキー崩れの男はめちゃくちゃ馴れ馴れしく話しかけてくる。


「俺の名前はバルト・ベルってんだよろしくな」


 バルトは手を差し出し握手を求めてくる。


「あ、ああ。俺の名前はーー」


 アキトも手を出し握手しようとした瞬間バルトは何か思い出したかのような表情になり、握手しようとした手を引く。


「あっいっけね、こうしちゃいられないんだった。じゃあまたな、助けてくれてありがとよ」


 そう言うとバルトはそうそうにこの場から立ち去っていった。


(かっかっか。どうじゃったアキトよわしの投擲力)


 こいつ……あとで説教だな。

 シロネにどうやって仕返ししようか考えながら、再び歩みを進める。

 アキトはたまたま近くを通りかかった巡回している兵士に喧嘩していた人が倒れていると伝えておき、道を戻りそのまま裏路地を抜けると意外とすぐに宿屋に着いた。


 宿屋が目に入るとアキトの体に疲れがやってくる。

 お腹も空いているし、何か宿屋で食べよう。

 そう思いながらアキトは楽しみな気持ちで宿屋の扉に手をかける……






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