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121話 扉の向こうで

レイ・クラウド帝国 城内玉座扉ーー


『今年も無事魔導修練祭を無事開催出来そうだな』


 豪華絢爛な彩色の外壁にこの城一の広さを誇るこの場所では、レイ・クラウド帝国最高指導者、国王バルゼイン・クロ二クスを筆頭に、帝国最強と謳われる国王の息子、レイ・クロ二クスにその弟達が話あっている。

 勿論、帝国の人材はそれだけでは無い、周りには様々な死地をくぐり抜けて来た最強の兵団のトップを務める者達が鎮座しており、重苦しい空気が嫌でも吹き抜けてくる。


 今ここに攻め込む奴は無謀としか言いようがないほどにだ。

 戦闘能力だけではなく、有力な貴族や帝国の頭脳を担う者達など帝国の最高戦力がこの扉の向こうに揃っていると思うとそれだけで鳥肌ものだった。

 一般兵士は扉の向こうから聞こえてくる声を聞くことしか許されないが、このような場所で仕事を出来ることに、帝国兵のゲンは誇りを持っている。


 後ろを少し見上げると、ゲンの腕力では到底開きそうにない重厚な扉……これを見るたび毎回これだけの差が向こうにいる人達とあると思ってしまいゲンは虚しかった。

 それに、今さっき聞こえた声ももう聞こえなくなってしまっている。

 ゲンの属性で少し盗聴しようと試みたが、この扉に弄ばれただけだった。

 盗聴と言っても、本当に大事な案件の時はこの扉も弄んでは来ない。そこはしっかり弁えている。

 ゲンの後ろにある扉は意思があるかのようにあざ笑う。


「なあゲン、もうすぐ魔導修練祭だな。お前は見に行くのか?」

「今は職務中だぞ私語は慎めよ」


 隣から呑気に喋りかけてくるゲンの同僚、ジムはいつもこうだった。

 ジムは周りの空気感というものを感じるのが下手で、喋りたかったら喋る、帰りたかったら帰るみたいな良く言えば自由人、悪く言えば自己中みたいな人間だ。


「いいじゃねえかよ、どうせこの会議みたいなんが終わるまで暇なんだからよー」

「あのなー」

「俺は行くぜ!なんせ、帝国国王様の息子のハル・クロ二クス様が出るんだからなあ!」

「別に去年だって出てたじゃんか」

「あのなー見られるの今年で最後なんだぜ、それに何も見どころはハル・クロ二クス様だけじゃねぇその周りも最強なんだぜ」

「へぇー」

「お前興味ないのかよ」


 別にゲンは、興味がない訳ではない。この職業柄、魔導修練祭の時は国内の警備、ジムのように勝手に仕事サボって抜け出せるほど肝は座っていなかった。


「まあ、偶々配属された場所が観戦スペースだったていう奇跡が起こらない限りは基本仕事さ」

「なーんだつまんねえやつだなー」

「長い付き合いなんだからそろそろ僕のことも理解してほしいんだけど……」

「だってよーお前は真面目すぎんだよ。もう少しはっちゃけたほうが人生楽しいぜ!」


 ジムに言われるとゲンは無性にムカつくが、不覚にもそう思ってしまう自分がいるから答えにつまる。


「でも、どうせ今年も勝つのはレイ・クラウド帝国、レイ・クラウド学園なんだろ。結果が分かる試合見て楽しいのか?」


 ゲンが問うと初めてジムの返しが少し止まる。


「そりゃよ確かに強ぇ奴を見るのは楽しいけど、俺はいつかそれをひっくり返すんじゃないかって奴が出てくるかもしれない期待感も楽しみに含めてるからな」

「そんな奴いるのか?」

「ああ、去年もいたさ、残念ながら勝ちまでは行かなかったがな。だけど、今年はそれを覆す奴が絶対出てくる」

「なんだよその根拠のない自信は」

「へっ!俺の勘は良く当たるんだぜ」

「お前ら職務中におしゃべりとは立派になったもんだな!」


 突如、二人の目の前に女性が現れる。

 その驚きと同時に、ゲンもジムにつられて一緒に喋ってしまったことを後悔し、今日は寝られないことを覚悟する。

 この女性は二人の上司で、いつもは凛々しくまじめな性格で優しいが、二人にはかなり厳しい。


 そして、ゲンの思った通り仕事が終わった後三時間拘束され説教をくらうはめになった。


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