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112話 再来

「眠い……」


 結局朝起きても夜見た光景が変わることはなく、さらにはアキトの体調は寝不足で最悪だった。

 寮の外からは生徒の悲鳴や叫び声がこだまし、あの地獄絵図が再び起きていると思うと二度寝したいくらいだった。


 別にアキトだけの問題なら辛いだけで終わるが、周りのあの姿を見てしまうと気分が下がる。

 そんなことを朝食を取りながら思っていると、階段を駆け下りてくる大きな音がする。


「やっっべー!!寝坊した!!」


 一切悪気がなさそうにバルトが入ってくる。

 そして、アキトを見つけると軽く安堵し向かいの席に座り食事を始める。


「おはようバルト」

「おう!おはようアキト。何か今日肌寒いよなー」


 そう言いながら、バルトはありえない量をありえない速度で朝食をたいらげていく。


「そんな食べて大丈夫か?」

「ん?大丈夫大丈夫もう慣れたからな!」


 呑気にバルトはおかわりをする。




「lぐtぇえおえぇえ」


 最悪だ……

 隣でバルトが朝ごはんを地面に撒き散らしているがそんなことを気にする余裕はアキトにはなかった。


 夜見たとおり、校内の各地で天候が切り替わり、それも軽い雨や雪、猛暑や湿気ではなく、異常とも言える気候で、雨は体が痛くなるほどの勢いの大雨で、雪なら触れるだけで火傷するレベルのものが降ってくる。


 それに加え、加重された制服。

 さらにさらに、今日からは各担当の教員が戦闘訓練を実施し始めた。


 アキト達黒聖一年のクラスは勿論ウタゲが担当で、たった今バルトが腹を思いっきり蹴飛ばされ吐瀉物を吐き散らかしたところだった。

 別にこれはバルトだけには止まらずほとんどの生徒がバルトと同じようにあちこちで倒れていた。


 なお今、居る場所には大きな雹が降っており、体に刺さったりして、ところどころ流血している。


「バルトはもう終わりか……んじゃ次アキトな」


 薄ら笑いを浮かべながらウタゲはアキトの名前を呼ぶ。

 流石に、この加重でこの今のレベル四十五では太刀打ち出来ない。

 だが、勿論そんな事を理由に辞退する事もないし、勿論ウタゲが許してくれるはずもない。


 一緒に特訓していたルナもボコられて気絶して倒れている。

 シロネはうまくウタゲの攻撃を往なし唯一同等に渡り合った、これにはウタゲも驚いていて、シロネは終始得意げだった。

 アキトは加重には慣れたと思っていたが、今日さらにプラスされ、それに早く慣れるために時間を割いていた。


 アキトはウタゲ先生と約二十メートルの間隔を空け上半身の力を抜き腕を垂らすように構える。

 ここでは、魔法やスキルは使えない。体術だけの戦いだ。


「いつでもいいぞアキト」

「一つ聞きたいことがあるんだが」

「なんだ?」


 ウタゲは面倒臭そうに返してくる。


「この天候操作はどんな意味があるんだ?」

「ああ、まあ確かに一年なら分からないか……魔導修練祭の会場のステージは様々なマップが生成されるんだ、だからどんなステージが来てもいいようにちょっと過激に設定してある」

「成る程……」


 アキトは上空から降る雹がウタゲの上空で溶け蒸発するところ見ながら納得する。


「ふぅー」


 呼吸を整え、緊張を緩和する。

 ウタゲはいつでも来いというような立ち構えだった。


「……」


 前回戦った記憶があまりいいものではないのでここで少しは払拭したかった。

 一歩で体を深く沈ませ踏み込んだ一歩の反動で二歩目を大きく進む。

 やはり普段より加重がかかっているので体が思い通りに動かない。

 アキトはもう太ももが痺れるのを感じるがここで緩めてはウタゲに勝つ事は出来ないので無理やりにでも進む。


 思いの外一歩が大きかったのか、ウタゲは驚いたように目を大きく開くとすり足で右足を一歩下げ半身をアキトに向けた状態になる。


 アキトはそれを目で見て理解した時にはすでに遅かった。

 もうすでにアキトはウタゲの目の前まで到着しており、上手く懐に誘い込まれてしまった。


 こうなればもう次の段階へ移るしかなかったーー

 アキトの顔面へ目がけ放ってくるウタゲ先生の膝蹴りに手を合わせ勢いを利用し上空に出て往なす。

 が、これは一時的な回避にしかならないーー

 上空に逃げたアキトを追うようにウタゲも飛び上がる。


「やるじゃねぇか!!」


 ウタゲ先生の目に火が灯る。


「空中の回し蹴りなんて聞いてないんですけど……」


 ウタゲはアキトが居るところまで来たと思ったら地面があるかのように回転しそのままアキトの横腹に回し蹴りを当ててくる。

 なんとか腕で防ぎはしたが衝撃までは殺せずそのまま地面に叩きつけられる。


「痛つ!!」


 地面には雹が散りばめられており、さらに衝突した衝撃、加重がかかっている分の重さが加わるので身体中いたるところが傷だらけで尚且つ、雹が体に突き刺さるように攻撃する。


 っ!!


 アキトは上からの気配を察知し、すぐさま横へダイブするように回避する。

 さっきまでいた場所にウタゲのかかと落としが炸裂する。

 ウタゲを中心に地面が放射状に割れ、巨大な円形状に凹む。

 辺りは、地響きが起こりその衝撃のせいで落ちていた雹が飛び散り、他のクラスメイトも被害を受けていた。


 みんなすまん……

 アキトは心の中で謝りつつ、追撃に備えて即座に立ち上がる。


「危ないですよ」

「避けるなよーアキトー」


 ウタゲは冗談が感じられないようなトーンで言ってくるので本当に怖かった。

 戦闘になるとウタゲは本当に豹変する。


 OOPARTSオンラインではとんど魔法やスキルに頼っていたのでアキトより経験値的には明らかにウタゲが上、しかも威力やら何から何まで格上だ。


 分かっていたが想像以上に難しい。


「先生……手加減してるんですか?」


 アキトは最大限の挑発をウタゲにぶつけ、何やっているんだろうかと己に問いかけるが応答は無かった。


「いい挑発じゃねぇかよ!!」


 ウタゲはさらに一段回ギアをあげる。


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