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110話 淡白な戦闘

ルイン魔導学園第二魔導書館地下ーー


「これでどうだぁあああああああああああ!!!」


 ルナは最初に出会った時に戦っていたゴーレムに対して右拳を叩き込む。それだけでゴーレムの外皮が少し欠けそこから亀裂が入る。

 アキトやルナなど動きはかなり滑らかになってきていた。


 ここまでくるのに結局三週間かかった。


 他の人達もこの辺りから個人差が大きく出て来る。

 アキト達ほど動けるのがハヤトやシロネ、基準で言えば速度規定を超えて走ることが出来るってレベルだ。

 バルトやエーフ、ユイなど他のいつものメンバーは早歩き程度まできている。


 ランニングの課題も終わらしてあり、あとはこの重さを通常レベルの感覚に持って行くだけ。

 案外あっさりと慣れてしまったので最初抱いたインパクトが今思うと薄く感じる。


 すると、ルナが息を切らしてこちらに近づいて来る。

 赤いツインテールが汗で湿っていたのでアキトはタオルを渡してあげる。最初は組手などを二人で行なっていたが、途中から魔物を導入して、代わりがわりでやっている。


 この特訓になったのもつい二日前なのでまだまだ弱い魔物だ。

 これで、一日のルーティンワークが完成した。


 アキトはぼーっとそんなことを考えていると間違えてパン粉のついた手で眠い眼を擦ってしまい、赤く充血してしまう。


「いてっ!目が!!」


 アイテムボックスから水を無造作に取り出し、そのまま顔面にぶっかけ難を逃れる。


「あんた、何してんの?」


 ルナが横で同じく水分補給をしながらアキトを呆れた目で見る。


「いかんな俺の天然の可愛いところが出てしまった」……と、今この瞬間口から出そうになったが、改めて考えてみるととんでもなくバカっぽいのでアキトはすぐに頭の中で亡き者にする。


「……水浴び」


 苦し紛れで出た言葉がこれだ。


「そう、斬新ね」


 疲れているのであまり頭が回らないのかルナの返しはいつもより適当だった。

 それを見て、アキトは立ち上がる。


「じゃ、次は俺の番だな」

「そうね、じゃあ私は一休みー」


 ルナはぐでーんとベンチに横たわり、さっきまでの集中力は一転、気の抜けた炭酸のように休憩に入る。

 ルナはいつもそうで。オンとオフの使い分けが上手いのか、別人のよように思えるほど変わり果る。


 アキトはアイテムボックスから「ランダム魔物の卵」レア度Dを取り出し、中央のさっきまでルナが戦闘を行なっていた場所に投げ捨てる。

 コロコロと転がる様を見てると、つい何が出るかな何が出るかなと口ずさんでしまう。

 そして勢いがいきなり0になり、立ったまま卵が静止するヒビが入り、中から魔物が現れる。


 レア度Dの魔物、オーガだ。

 レア度Dなだけあって体格は人間の中でも背が高いと位置づけされる百八十後半くらいだ。だが、オーガの中ではかなり小さい部類になる。


 今目アキトの前にいるオーガは体色が深緑だが、レア度SSになると真っ白になって気持ち悪さが増幅する。

 体格も小さくなるので、攻撃速度、敏捷性、判断能力……いわゆる知性など全ての能力が桁外れになる。

 確かに不人気ではあったが使い勝手は一番だった。


 アキトは、レア度Dのオーガを見やると近くまで歩きながらどう攻撃しようか思案する。

 すると、感知範囲に入ったのかこちらをゆっくりとオーガは見定めるように、不敵に笑いながらアキトの方を見る。


 この段階のオーガは飯か飯でないか、繁殖の母体となるか否かの二種類しか判断出来ないのでおそらく前者でアキトを見ている。

 後者だった場合は……まぁなんだ……

 アキトはこれ以上深く考えるのをやめる。


 オーガは棍棒を持っているのでそれさえ気をつけていれば生身でも十分戦える。

 素の防御力でなんとかなる相手だった。

 アキトはゆっくりと走り出し、オーガと対峙する。


 アキトはオーガが振るった棍棒をギリギリで躱し、隙が出来たオーガの横っ腹に蹴りを放ちすぐに距離をとる。


「ぐががががあがっがが!!!」


 効いているのか、声を荒げて腹を抑さえながら憤怒した表情で、オーガはアキトへ迫る。

 これのずっとこの繰り返し、オーガの攻撃は大雑把でしかも大きい動作なので一回一回の硬直時間が長い、なので攻撃を躱して殴打しすぐに距離をとるという戦法を取れば楽にオーガを倒せる。


「しまったな……」


 アキトは少し安全策を取りすぎて、レア度を軽くしすぎてしまった。前回はレア度Dでやってちょうど良かったのだが、出て来る魔物によっては楽になってしまうので次はレア度Cでやろうと考える。

 ため息混じりに目の前から棍棒を振り下ろそうとしているオーガの腹に拳をめり込ませ吹っ飛ばすとHPが尽きたのか血が出るわけでもなく、どこか折れるわけでもなく星屑のように四散する。


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