ふれる
ぴったりしたダメージジーンズ、
かかとの高いミュール。
駅前の人ごみを抜けると、
待ち合わせ場所で待つ理が見えた。
長身の彼の横で、わたしのギターが小さく見える。
どうもありがと。
こちらこそ、祭りの日って忘れてて。
ほんと、ごめんね。
人混み疲れたでしょ。
この近くに、彼がいつもギターを練習する河川敷があるらしい。
そこは工場がポツポツ立っているだけで、普段寂しいところだけど、
今日は年に一度だけにぎわう花火大会。
とりあえず、近くの混み合うカフェのカウンターで、
彼から、ギターの状態なんかを聞く。
隣り合う互いの腕の太さ、指を見比べる。
理は、少し怖いような筋張った腕。
でも、手は2人ともよく似ている。
内に薄暗さを持つ白い肌、音楽的だと言われる細長い指。
趣味仲間で、花火見えるマンション住んでるやつがいてさ、ほんとによく見えるんだよ。
気使わなくていいタイプだし、
話してて居心地悪い奴でもないし。
のこのこと、こんな夜になるのに、ここまで来たわたし。
理のテリトリーで、どれだけ淑女として振る舞えるか、これが今日の密かなミッションです。
いいですよ。いきましょうか。
彼の後ろにならないよう、カツカツと歩く。
まるで道を知っているみたいに。