gift8 積み重ねる為の技術
【師匠視点】
ボリュームを調整し、継続出来るサイズの習慣を作り出す。これはやはり成果とはすぐには結び付かぬ。故にその小さな変化に目を向け、自身で気付いていく必要があるのじゃ。
誰かにこれを勧める場合も、如何にその小さな変化に気付かせてやれるかが重要になってくる。成果の出ぬ行動は脳に多大な拒否反応を起こさせてしまうからのぉ。
じゃがそれくらいの変化に留めておかなければ、サイズを間違えば直ちに大脳辺縁系が拒絶を始めてしまう。そこで習慣は簡単に霧散するじゃろう。
それ故に、如何に本人に大した事をしていないと錯覚して貰うかが重要になってくる。
その上で、如何に効率的に力が身に付いているかを理解して貰い、大脳辺縁系を騙しつつノセボ効果を享受して行くのが大切なのじゃ。
仮に自身が監督役となり指導の立場となるのならば、向こうから見れば瑣末な事でも、こちらとしては十分狙い通りに進められておるというのが大切だという訳じゃ。
そうじゃな、対象にとっての辛い事を別の価値観の何かに再定義してやると言い換えても良い。所謂【ジョブ・クラフティング】という考え方じゃな。
今回じゃと……β(ベータ)プランという手法でボリュームを増長出来るというのは先に述べた通り。
これにより今少年ソルダートは腕立て五十回、スクワット五十回、ダッシュ十五本、反復横跳び二分を熟しておる。
しかしながら、これを三セットじゃ。
既にボリュームとしては十分効果を発揮するレベルと言っても過言ではないじゃろう。
それに加えて自ら進んで振っている剣によるトレーニング。儂のフィールドワークの移動速度も徐々に早くしていっておる。
それらに自然と付いてきているうちに、本人としては自覚無しにドンドン成長しておる、という訳じゃ。
それに努力が続いてくると、成果が出始めてくる。これに気付ける事で本人の中に【自己効力感】が芽生え始める。
これは【自分は自分の力で良くしていけるんだ】という自信の力と理解して貰って相違無い。こう言った思考は体内に【テストステロン】という物質を発生させる。
この物質が意志力を強力にし、筋力の飛躍的向上に寄与し、贅肉の燃焼にも影響、更にはチャレンジなどの行動力にも直結してくるというとんでもない物質なのじゃ。これは男性ホルモンの一種なのじゃがとても重要な役割を果たしてくれる物質での。【やらされている】と考えていたのでは発生しない様に出来ておるのじゃ。
習慣を身につけるという事は脳をコントロールするという事。この辺りの仕組みを理解出来れば可能となる動作の幅が大いに広がる事じゃろう。
不安もそうじゃ。
これも捉え方次第で脳内での活用のされ方が大いに変わってくる。
先程のパンを考えるなというアレ。
アレは正式にはシロクマのリバウンド効果と呼ばれており、シロクマについて考えるなと言われれば言われる程シロクマについて考えてしまう、という内容になっておる。俗に言う皮肉過程理論じゃな。
脳とは自然にしておっても儘ならぬ物。
しかし、分かっていればコントロールも可能じゃ。
不安やストレスとは常に厄介な物では無い。じゃが不安が厄介だと思っておる者にとっては誠厄介な物となるのも事実。
そしてその一方で不安とはエネルギーにもなり得ると、挑戦すべき活力になると、この辺りは先に申した通りじゃ。
そしてこれは脳内でも正しくこの通りの現象が起こっておる。
脳の力は血流の量で決まる。つまり鼓動が早まるのは脳の活動エネルギーを大いに作り出している証なのじゃ。これを【チャレンジ反応】と呼んでおる。
そしてその様に捉えられている者の脳内にのみ【デヒドロエピアンドロステロン】という物質が分泌される。これは俗に【若返りホルモン】と呼ばれており、
糖尿病、高コレステロール症、肥満やうつ病まで、凡ゆる負の存在を淘汰する素晴らしいホルモンじゃ。
逆に不安を身体に良くない物、と捉えておる者の脳内に分泌されるのは……もう何となく分かるじゃろう。【コルチゾール】じゃ。これによって……うむ。そりゃ不安やストレスで疲労も溜まる訳じゃわい。
たったこれだけの考え方の違いというアプローチだけで、老化を進めるか、或いは若返るのか、という大きな違いが生まれてしまう。知識とは実に力じゃ。
では何故身体に悪さばかりする【コルチゾール】なる物質が分泌されてしまうのか。これを疑問に思う者もおるじゃろう。
実はこのコルチゾールにさえ良き働きが存在するのじゃ! 要らぬ物などないのじゃ!
コルチゾールは危険を警告し、それに立ち向かう行動力を作り出してくれるのじゃ。故に危険な何かに立ち向かう時は実はコルチゾールがアシストしてくれておったのじゃ!
例えるなら、喧嘩をしてイライラしてくる事。誰にでもあるじゃろう。このイライラがコルチゾールじゃ。誠厄介じゃて。
しかしながらこのコルチゾールが大量に分泌されている時ほど、普段取らぬような驚くべき行動に出たりした経験があるじゃろう。罵倒や罵声、あるいは暴力。
そして深い洞察を生むそれはパートナーの浮気を見抜いたりと……うむ、しばしば間違えた方向性に利用されがちなコルチゾールじゃが、着眼すべきはその驚くべき洞察力と行動力。
これを利用するのじゃ。
コルチゾールが無ければ人はチャレンジをする事が極端に難しくなる。逆に新たな事を始めたい場合は、このコルチゾールを利用するのも一手、という訳じゃな。実に合理的じゃ。
じゃが、やはり可能であれば必要最低限のコルチゾールと付き合いつつ、普段はデヒドロエピアンドロステロンの様な若返りホルモンと共にいたいモノじゃ。
その鍵となるのは【不安やストレスは味方である】という、その優しい思考だけ。これだけの事で若返るのじゃ。
そしてコルチゾールでさえも人は発想次第で幾らでも利用できる、無駄な物など何もないのじゃ。
ほんの一つ、たった一つなのじゃ。
人の脳は儘ならぬモノであり、知識によってコントロールしなければならぬと知ってさえいれば。
それだけで沢山の事が小さく変わり、時間の経過と共にいつか大きく変わる事となる。
その【考え方の変化】こそが変えていきたいと思う行動や努力や習慣、その全ての原点となるのじゃ。