gift19 見守る者
ふむ、厄介なのが出てきた様じゃな。
炎将ガンディス、XXか。
今出て行ったのでは話がややこしくなる事請け合いじゃて。ここは、静かに退散じゃの。
それに最早……ソルダードには儂は必要なかろう。
人には大きく分けて二種類のタイプがおる。
硬直マインドセットの者。
成長マインドセットの者。
この二種類じゃ。
前者、硬直マインドセットは読んで字の如く、挑戦する事を恐怖と捉え、脳の指示に従うままに変化を拒絶する者の事。大多数の者はこちらじゃろう、仕方のない事じゃ。何故なら脳がそれを欲するのじゃから普通にいけば自然とそうなる様に出来ておるのじゃ。
じゃがそれではいかんのじゃ。
如何にここから脱し、成長マインドセットへと自身を昇華出来るかが鍵となってくるのじゃ。
成長マインドセットとは、挑戦を楽しむ者の事。
これがダメだったからアウト、ではなく。コレがダメだったなら、これは? 或いはこれ? 成る程こうなるのか、だったら……と。
そのダメだったという事実を【失敗】と捉えず【チャレンジの結果残った情報】と捉え、次に繋げ続けていけば、実は必ずその先に成功が待っておるのじゃ。
諦めたら終わりじゃが、逆もまたしかり。
諦めなければ成功するもまた是であるのじゃ。
ソルダードは見事にその精神を体得しておる。
顔を見ればすぐに分かるのじゃ。
奴は己が頑張らない、努力の続かないダメな奴などと称しておったが……これが全てじゃろう。
やはり努力が潜在的に出来ぬ者などおらんのじゃ。
ここは敢えて断言しよう。
努力が出来ぬ者など、おらぬ!!
全ての行動は【脳】に始まる。その構造と行動理由を知らねば、人は意志力だけで己を律するなど不可能。呼吸を止められぬのが生を繋ぐ本能であるように、努力が続かぬのもまた命を守るべく働く本能であり抗うは困難の極み。これに気持ちや意志だけで臨むというのがそもそも無謀なのじゃ。
じゃが、人は自身の幸せを追求して行動した時が最も活発かつ魅力的になる生き物。そこに正しき努力さえ導入すれば、皆が今よりも少しだけ良い場所にいける筈なのじゃ。その小さな変化を積み重ねる事こそが、人の成長における奥義にして全て。
そしてこれも習性故に仕方のない事なのじゃが、人はしばしば失った物に目をやりがちでの。例えば今日は本を十ページ読もう、と決めていた者がそれを達成出来なかったとする。
するとその者は翌日こう考える、【昨日の分も含めて今日は合計で二十ページ読まなくちゃ!】と。何を失ったかを優先的に考える様にデザインされた人の脳はこの失った部分に着眼させ、そこに恐怖を感じさせる。そして翌日それを取り返そうとしてしまうのじゃ。
じゃが、ここまで儂の話を聴いてくれた者であれば理解もできよう、これが如何に愚かであるかが。大脳辺縁系が一日に十ページは危険だと判断し、凡ゆる理由をつけて拒絶している以上、翌日二十ページを熟す事など尚の事困難、困難の極みじゃ。そして次第にその身の丈に合わぬ習慣の重さに耐えられなくなり、結果人は努力や習慣が身に付かなくなってしまうのじゃ。脳が拒絶しておって続かぬなど当たり前なのじゃ。
意志が弱いのではない、知らぬだけなのじゃ。
脳は主として変化を嫌う。同じで在れと常に自分を維持しようとする。つまりあの手この手で脳は変化を起こさなくて済む様に巧みに誘導してくるのじゃ。
故に、本来はどうすれば正解だったかと言えば。
十ページ読めなかったのなら、翌日はダウンサイジングするべきなのじゃ。大脳辺縁系が拒絶を示さないサイズに、つまり五ページか、或いは三ページか。
そして続けて行く中で少しずつ脳を騙しながら、六ページ、八ページと増やし、そして十ページに辿り着く。これを丁寧に熟すしか辿り着く道はないのじゃ。
この変化を嫌う脳の性質に支配されたままでは、人は【緩やかな劣化を愛する生物】になってしまう。努力を許容出来ず、変わる事を恐れるのじゃ。
これこそ【硬直マインドセット】の典型的な姿そのもの。じゃが、それではいつか後悔してしまう。
失った時間は取り戻せぬが、それを理由に未来の時間まで失うなどナンセンス。昨日まで出来なかったのは【今日から始める為の布石】だったと考えて、まずはやり始める事が大切なのじゃ。
どうやらソルダードには、それが伝わった様じゃの。
フォーッフォッフォ!
儂の……仕事もこれまでの様じゃの。
さて、家を引き払うとするか。
良くやった、ソルダードよ!