gift13 とんでも訓練も熟せてしまう不思議で楽しいエブリデイ
【少年視点】
あれからそこそこの月日が経過した。
飽きっぽくて何も長続きしなかった僕は何だかんだで今は色々な事をやっている。不思議な物で気付いたら結構な事になっているのに続いてしまっている。
腕立ての流れの訓練はご褒美に釣られて今は二百回を熟せている。何というか……不思議だ。回数が飛躍的に増えているのは魔力の訓練を丁寧に続けているそれが良い影響を与えているとか何とか。
お陰で基礎筋力、剣技、魔力が、さり気無くバランス良く向上しているらしい。
剣技に関しては師匠はそれ程詳しい訳ではなかった。けれど元々知っていたんだ、訓練の方法くらいは。やらされていたからさ。
毎日毎日、ツマラナイ訓練だと思ってたそれを思い出しながら、確かあの時こう言っていたな……とか。
師匠が教えてくれるのは実践的な立ち回りとその考え方、及び捉え方だ。剣を振る時は動作の中に【引き】が組み込まれる様に立ち回り、イメージした位置を【通す】様に振る。
そして教官に教わった訓練、その剣の振り方を徹底的に叩き込み、最終的にその教えを忘れ、感覚のみで振れる様になれって言っている。覚えて忘れるってさ、師匠ったら時々無茶苦茶言うよね本当。
そういえばさ。元々は腕立て訓練は一日に三セットしかやっていなかったんだけど、もし四セット目を熟せたならその後には剣プラス魔法補助訓練をしてくれると、半年が過ぎた辺りで提案してくれてさ。
それがまた楽しくて楽しくて。
そこからは師匠が飛ばしてくる岩の塊を回避したり、受け流したり、斬ったりと、より実践的な訓練もさせて貰っている。というかやりたくて四セット目を毎日頑張っている。
うーん、おかしいな。確か凄く少ない訓練で文句ばかり言ってた気がするのにさ。
気付いたら普通に凡ゆる訓練を結構な量で熟していて、しかもそれが凄く自然で。ただただその先にある特殊な訓練をやりたくて、やらせて貰える様に毎日頑張る自分がいる。
あ、それとさ。
時々なんだけど、忘れた頃に師匠はいつも突然【百二十三日連続訓練記念日じゃ!】とか【毎日連続腕立て伏せ五万回記念日じゃ!】とかって言い出してさ。僕は全然数えてないからいつも寝耳に水でさ。
土の属性魔法を応用したゴーレム戦をやらせて貰えたりもして。アレがまた楽しいんだよね……。
師匠が作ってくれるゴーレムは岩の塊なんかじゃなくて、まるで本物のドラゴンみたいな巨大な龍や、絵本でしか見た事ない様な悪魔の軍勢、飛行系魔物四天王とかって順番に強くなる空飛ぶ魔物みたいなゴーレムだったり。
兎に角、頑張ってたら急にご褒美が貰えたりもする。だからさ、サボる理由がないんだよね。毎日楽しいし、全然飽きたりしないしさ。
腕立て伏せとかのトレーニングの時間がかかる様になってきたら、しんどい時だけ隣で昔あった面白い話をしてくれたりさ。
あーそうやって立ち回ったら剣が届くのかーとか。あーそこでそんな事したら助かるんだーとか。まるで戦闘の予習をしてるみたいな感じなんだけど、師匠ってば結構なピンチとか激しい戦闘もしてるから話が面白いんだよね。気付いたら二百回の腕立て伏せが終わってたりするんだよ、びっくり。
で、僕も師匠みたいにカッコ良く戦いたいなーって思いながら訓練でその時の師匠たちをイメージしながら剣を振ってたら、ご褒美訓練にその時の敵が出てきたりしてさ。
もう嬉しくて仕方ないよね。
あ! えっと……こいつなんだっけ! 確か弱点が……とか考えたり、ピンチになった時には、確かこういう時は落ち着いてまずこれだ! って上手く凌たりさ。
何だか最近じゃ普通のゴーレムが出てこないから楽しみで仕方なくて。次にいつご褒美が来るのかなって思うと連続訓練記録を壊すのが怖くなってさ。訓練がいよいよサボれないよね。
あーあー、なんでこんなに出来ちゃってるんだろ。木を斬って驚いてたのが凄く前の様な気がするよ。
最近じゃ一振りで木がスパって何本も斬れちゃうからね。師匠に渡される剣も【また重くしたのじゃ!】って言われるけど普通に振れてるし。
ふふ、そう言えばさ。最近訓練中に剣をつい握り損なってすっぱ抜けちゃった時にさ、そのまま飛んで行った剣がその投擲先で岩壁をバコーンってめっちゃ砕いてて笑ったよね。この剣、今どれくらいの重さなんだろう? でも何か今となってはそんな事どうでも良いよね。
「ふっ、ふっ、ふっ」
今僕が一番興味がある事はさ。
剣を振り上げて、振り下ろす。
「ふっ、ふっ、ふっ」
だだそれだけの動作に集中する事。前に師匠が作ったとんでもない硬度の岩を偶然斬ってしまった事がある。
あの時のあの感覚。
スッと振り上げて、力を入れた訳でもなく、殆ど無意識に振り下ろしていた。なぜ斬れたかは分からない。少なくとも普段はまだ斬れない。意識して斬ろうとしても斬れなかった。つまり、考えて振ってもあの領域には入れないんだ。
「すぅーっ、ふっ」
だから僕は、感覚で剣を走らせる。
「すぅーっ、ふっ」
違う、もっとあの時はこう……。
剣を通す様に振っていた様な。
……いや、違う。
剣はただ紡いでいた……みたいな。
こうさ、何というか。目的地への道をさ。
……。
それなら振り上げる時は?
「すぅーっ、ふっ」
目的地に対して、今自身の身体から最も自然に道を紡ぐにはどこに力を入れながら振り上げる?
こう、スッと?
いや、ヌッと?
いや、むしろこう、なんというか。
すぬぅーっと引いて……こう、シャッて。
あ。これか。
……これか。
成る程、すぬぅーっと引いて、シャッ。
あ、しっくりくる。
これだ、多分これだ。
……なんか鳥肌が立ってるよ。
「ねぇ師匠」
「どうしたんじゃ?」
「あの……前にさ、たまたま斬れた硬いやつあるでしょ?」
「ふむ、確かにあったの。沢山剣をダメにしながらも直向きに努力を続けた……辿り着けなかった岩じゃな。アレがどうした?」
「斬れそうな気がする。今斬りたいんだけど……」
「ほぅ……良かろう」
そう言うと、師匠は僕の前に真っ黒な綺麗な岩を生成してくれた。そう、この……黒い塊だ。
あの時の僕には偶然でしか斬れなかった。けど、確かに斬れた。って事は……学べば斬れる筈なんだ。
今なら……よし。
「ふぅぅ……」
ラインが見える。
考える必要なんてない。
自然に、ただ紡げば良い。
あの岩の形ならあの位置からこの角度で。
すぬぅーっと引いて……シャッと、……っ!!
き、斬れた!
「や、やったよ師匠! 僕……斬れたよ!」
「ほぅ、もうこの岩を斬るか。お主やはり剣に於いては特に……。なんともはや……これは天賦の才があるやもせんのぉ」
「そ、そんな……それは言い過ぎだよ」
「フォーッフォッフォ! 次からはもっと硬い敵を出さねばならぬな! 敵が動いておっても同じ様に斬れるかの?」
「むぅー斬れるよ! だって結局ラインを紡ぐだけじゃん、別に動いてたって一緒だよ。馬鹿にしちゃってさー」
「フォーッフォッフォ! そんなアッサリ斬れるものでもなかろうて! 斬れたならば認めてやろう!」
「よーし、それならかの感覚忘れない様にもうちょっと振ってくる!」
師匠はあぁ言うけど、別にそんな変な事じゃないよね? 重い良い剣を使ってて、しかも斬ったのも結局はただの岩だしさ。
本当はもっと硬い敵を斬らなきゃいけなかったりするんだから、まだまだしっかりやらなきゃね!
この感じ、忘れないうちに身体に叩き込んでおかなぎゃね!