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gift11 頑張りたい事が頑張れない、人類に備わってしまった過去からの遺伝

「あ……し、師匠」

「どうしたんじゃ? 確か魔力の訓練をする時間の筈じゃが?」

「あ、あはは。えっと……」

「辛くなってしまったのかの?」

「え、いや、その……色々してたらなんか遅くなっちゃってさ。それでもう時間もないから……今日はもういいかな? みたいな……」

「うむ、ならば仕方あるまい」

「え、いいの?」

「ダメじゃ」

「うっ……」

「じゃが、気持ちはよう分かる。それは人として仕方ない事なのじゃ」

「そんな事ないよ。僕ほんと、こんなにしてもらってるのにダメダメでさ……」

「そのダメダメさはどこから来とるか知っとるか?」

「え?」

「ダメダメの出所じゃ」

「……僕の意志の弱さ?」

「ふむ、正解じゃ!」

「えぇ……僕ほんとダメダメだ……」

「ならその意志の弱さはどこから来とる?」

「……? 意志の弱さが?」

「そうじゃ、出所があるのじゃ」

「え? ……わかんない」

「実は悪いのはお主ではない、その出所が悪いのじゃ」

「えー!!? 僕じゃなくて? え? 僕の事なのに?」

「そうじゃ!」

「え? ……えー? わかんないー!」

「フォーッフォッフォ! では説明しようかの」

「何で何で!?」

「まず意志の弱さと言うのはこう再定義出来る、【衝動性の強さ】とな」

「しょうどう……?」

「目の前にクッキーがあって、ご飯前なのに食べたくなって……つい食べてしもうた経験。似たような事があるじゃろ?」

「……うん、ある」

「あの、つい食べてしまう。それが衝動性じゃ」

「確かに意志が弱いのとおんなじだね」

「そしてその衝動性の強さの半分は育まれた物ではない、お主がどうこうしようとも手の届かない所からお主にチョッカイをかけておる」

「手の届かない所?」

「そう、それは遺伝なのじゃ」

「え、遺伝?」

「そうじゃ」

「お父さんとお母さん?」

「いいや、そうではない」

「……?」

「お父さんのお父さんのお父さんのお父さんお父さんのお父さんのお父さんのお父さんの……」

「えぇ……」

「ずーっと昔、人がまだ太古の暮らしをしておった時代。その頃の習性じゃ」

「そんなの遺伝しないよ……」

「ところがじゃ、人が人の形を取ってから三百万年、その中で人が文明的な暮らしを始めてまた数千年程度。つまり0.1%程度じゃ」

「……そうなの?」

「そして更にここ近代の我々の文明が大きく発展したのはまだ百年程度、更に1/10じゃ」

「……どう言う事?」

「人類はその姿を形どってから99.99%の非近代的生活の名残りを受けながら、今0.01%の生を全うしておる」

「もー! わかんない! つまりどう言う事?」

「人の脳はまだまだ【原始的な考え方から脱し切れていない】という前提を知らねばならぬのじゃ。人体の構造、そのデザインの99%は昔のままという事じゃな」

「それがどう関係あるの?」

「かつて人が太古の昔の暮らしをしていた頃、保存の効かぬ食べ物しかない状況で、人はその【衝動性】の高さを遺憾無く発揮し、生に高い執着を持つ必要があったのじゃ」

「食べなきゃ死んじゃうから?」

「正にその通り」

「やったね!」

「衝動性の低かった者たちはその(ことごと)くが滅んだ。つまり我々は衝動性が高かったが故に生き残れた優秀な祖先をもつ、その子孫たちなのじゃ」

「って事は……」

「そう、みんな衝動性が高くて当然なのじゃ」

「え、みんなそうなの?」

「みんなそうなのじゃ。お主だけがダメではない。この衝動性の高さは皆に遺伝しておる。現代の暮らしにはどうしても遺伝とのミスマッチが生じるのじゃ」

「でも……我慢できる人もいるよね?」

「多少の優劣は出よう。しかし、……例えば。最初から剣を振れる者などそうはおらんじゃろ?」

「うん、いないね。僕も無理だった」

「しかし、練習すれば?」

「……!? え? 衝動性も練習なの!?」

「そう言う事なのじゃ」

「どうやって練習するのさ、そんなの無理でしょ?」

「この場合、知る事こそ練習なのじゃ」

「知る?」

「人は如何に衝動性が強く、またそれは抗えぬ本能に刻まれており脱するは至難であると。これを理解しておらねば何も始まらぬのじゃ」

「……そうなんだ」

「実際、自身が衝動性には抗えると思っておる者は、衝動性に抗えないと思っておる者より遥かに遥かに意志の力が弱い事は既に証明されておる」

「……なんか虚しいね」

「そうじゃ、虚勢を張る意味などない。皆が強い衝動性を備えておる事を受け入れ、対策する事が大事なのじゃ!」

「対策? 対策なんて出来るの?」

「出来る。大丈夫じゃ、人は衝動性の高さは残しつつも知恵を大きく伸ばしてきた。この本能に抗う術を人は既に知っておる」

「どうすればいいの!? 教えてよ!」

「フォーッフォッフォ! 慌てるでない。お主ももう薄々しっておるじゃろうが、事前の対策が大切になってくるのじゃ」

「事前の対策?」

「そうじゃな……例えば。今日は魔力の訓練辛いなと、頑張らなきゃと、そんな日にじゃ。意志の力のみを頼りにチャレンジしたなら、達成率は凡そ50%となる」

「え、半分?」

「そうじゃ、二回に一回は失敗する。それ故に事前の対策が大切なのじゃ」

「事前の対策って?」

「まず【今日は魔力の訓練が辛くて出来るかどうか分からない】ではなく【100%出来ない】と仮定するのじゃ」

「えー、そんな事……無いって言ったら虚しい人になっちゃうのか」

「フォーッフォッフォ! 分かってきたようじゃの!」

「じゃあ無理だったとして、どうしたらいいの?」

「例えば、小屋に入りさえすれば魔力の訓練が出来るのなら、必ず入れる仕組みを用意しておくのじゃ」

「……例えば?」

「お主が魔力の訓練を終えた後、何をする?」

「ご飯食べる!」

「ならばそのスプーンとフォーク、食べるのに必要な物を小屋中に入れておくのじゃ」

「え、そんな事したらご飯……!! 食べる為には小屋に入るしかないんだ!」

「フォーッフォッフォ! その通りじゃ!」

「だから小屋の中にフォーク! そしたらご飯の為に入るよね、入ったら訓練出来そう!」

「そう言う事じゃ、入ってしまえば恐らく今のお主なら訓練出来るじゃろう。入るまでが辛いのじゃ」

「そっか、だから事前に対策なんだね! 意志が弱いのは仕方ないから、前もって対策しなきゃいけないんだ!」

「うむ、負けそうな気がする時は負けるかも、ではなく思い切って100%負けると仮定するのじゃ。そうすれば上手くいく確率が大きく上がるのじゃ!」

「ありがと師匠! スプーンとフォーク取ってくる!」

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