キミを見つけるお話
書き途中
俺の親父は少し特殊で、それはどうにも息子である俺には止める事が出来ない案件だった。
生粋のモンゴロイドである親父は日本に生まれながら、性の対象はコーカソイドに向いていた。
有り体に言ってしまえば洋物が大好きだった。
そして有ろう事か、親父の念願はついに叶ったらしく、えらく色素の薄い髪や青い目などの日本人離れした容姿の俺が爆誕した。
周りとは違う【目の色】とくすんだブロンドの髪はやはり珍しいようで、面白がって近づく人が多かった。
しかし全く友達が増えることはなかった。理由としては、転勤族である父はしょっちゅう引っ越しを繰り返すため、友達が出来ても続かなかった事にある。
また、高二になった今でこそスマホを持たされているが、以前までは情報端末の類は一切厳禁だったため連絡手段がなかったことが大きい。
そして今、俺はまだ慣れない通学路を通い、校門をくぐって学校へと足を運ぶ。
「ねぇ、あの人いるじゃん」
「今日も金髪キマってるねー」
背後から恐らく俺のことを話しているのだろう、二人組の女の子のが聞こえてくる。慣れた――とは言い難い。都会では割と俺みたいなのは多くなってきていると聞く。インバウンドとかで訪日する人多いし。
けれど今俺がいる場所はコンクリートジャングルではない。通学路は田圃道を横切り、古い石橋を渡り、緑豊かな景色を楽しんだ先にある自然味溢れる学校だ。
やはり珍しいことは珍しいのだろう。まぁ害が無い限りは放っておいていい、と思う。
季節は九月の終わり頃。今年は残暑もそこまで続かず、日中以外は冷える天気となっている。
そう言えば転校初日もこんな天気だった気がする。まだ夏と呼べる時期なのに、やけに肌寒かった。
あれからおよそ一月くらいが経過しただろうか。
中途半端な時期かつ、ブルーアイズとブロンドヘアーをぶちかました転校生も、中身は普通の高校生であることがある程度知れ渡っている。
「青桐君おはよー」
下駄箱で上履きに履き替えていると、同じクラスの人に俺の名前を呼ばれた。
「おはよ」
こんな感じで、クラスのメンバーの大多数はもう普通に接してくれる。
転校当初こそ【手探り】状態で不安だったが、隣の席がクラス委員長だったらしく、いろいろと教えて貰った。
今では学食も普通に行くことができるレベル。
あ、学食で思い出した。
「ところでキミの学食のお気に入りってある?」
「え、あたしに聞いたの?」
「あ、いや、今これを見ている人に聞いたんだけど」
「ん? 何言っとるの? 青桐君って時々そういうのあるよね」
「まじで?」
「気をつけた方がいいよ。ちょっとキモいし」
「キモいは流石にひどくない?」
「そこ直したらモテると思うんだけどなぁ」
「……ちょっと頑張ってみる」
「おっけーおっけー」
HRの時間では文化祭の話が行われていた。
俺はこの学校での文化祭は未経験だったから、正直蚊帳の外――だと思っていたが。
「青桐君、参考までに聞きたいんだけど、前の高校ではどんなのやったの?」
教室の壇上に立つ委員長が俺を指名してくる。
口を開こうとすると、横槍が入った。
「パツキンメリケンの青桐だぞ? マジで俺らの想像もつかない事やってるって!」
そう茶化すように言ったのは尾崎だ。クラスの中心的存在、クラスカーストの登頂者とも言える。
「ハードル上げんなよ。あとメリケンでも無いし」尾崎にそう言って、視線を委員長に向ける「前のはやる気なかったな。地域の歴史とかを調べて展示で終わったよ」
「展示とかショボすぎじゃん。てかそれ英語で言ってみたらどうなんの?」
更に絡んでくる尾崎。
「英語のとき大概俺のスピーチ披露してるじゃん。その度にお前ら笑っててちょっと傷ついてるぞ」
「お前どう見てもセンセーよりペラッペラな見た目なのにな」
また笑いが流れるように起きる。委員長も僅かに表情を緩めたが、すぐに取り戻した。
「話を戻します。青桐君は参考にならないので、何かやりたいものを幾つか出して多数決で決めます」
参考にならないってひどくない? いや、事実なんだけど。
キミもそう思うよね?
「青桐君、また誰かと喋ってない?」
「あれじゃない、イマジナリーなんちゃらみたいな」
「なにそれ」
後ろの女子達が何事か言っている気がするが、無視をすることにした。
その後、出し物は喫茶店と相成った。俺のいるクラスは女子の比率が高く、見た目だけなら良いというのも割といる。
男連中は軒並み裏方となり、俺もケーキの作り方を知っていたためそれを担当……プラス見た目から数少ないウェイターをやることが決定した。
日が経つごとに、ようやく見慣れてきた学校の風景がまた様変わりし始めた。
ポスターや小道具などが廊下の端やロッカーの上に積まれ、慌ただしく動く生徒も増えてくる。
俺のクラスも例外ではなく、昼の時間や放課後はもっぱら文化祭の作業に充てられる。
委員長がよほどの凝り性らしく、集まった材料も一際多い。
「私、ちょっと寂れた喫茶店に憧れてるの。少し壁の塗装が剥がれてたり、店主が奥でタバコ吸いながら新聞広げてる感じの」
とは委員長の談だ。
当日のクラス内装としては、まず教室内の四割ほどを仕切ってそこを調理場とする。残りはホールとなるらしい。
椅子やテーブル、衣装等はすでに目処をつけているらしい。
順風満帆とはこの事を言うのだろう。トントン拍子に完成までスムーズに流れていく。
今日も今日とて作業だ。時刻はすでに夕方、全ての授業が終わったので教室に残って下校時刻まで作業を行う。
「喫茶店とか洒落たとこってさ、なんかちっさい黒板みたいなの外に置いてるよな」
「あー、あるね立て看板」
「あれうちでもやんね? 今日のオススメみたいなん書いたりさ」
「そいや学校でて右まっすぐ行ったとこさ、カレー屋あんじゃん。あそこの看板見たことある?」
「いやねーけど、何かあんの?」
「すげえ何だろ、啓発? みたいなん毎日書いてるんだよ」
「啓発? どんなよ」
「今こうしてここにいる事が奇跡なんですーみたいな?」
「うっわ、さっむいわー」
「あれうちでもやんね? 目引くの間違いない」
「絶対イヤだわ。一人でやってろ」
「俺もやだよ」
そんな会話を聞きながら、俺はスチロールレンガを何枚か持って教室を後にする。
ただ買ってきただけのスチロールレンガでは委員長の眼鏡にかなわないようで、ペンキと刷毛と砂や目地剤を混ぜて真に迫るレンガを表現しろと言われた。
その作業をするため、俺は教室の外にあるロッカーの脇にある道具を拾って屋上へと足を運ぶ。
割と大きな音がなる扉を開くと、外の空気と共に風が室内に入り込んでくる。
誰もいない作業も気楽で良い――と思っていたが、先客がいた。
「なんでここに委員長が?」
屋上に上がってすぐ。視界の端あたり、フェンスに手をかけて向こうを見る委員長がいた。
委員長を俺を見て、少し逡巡したような表情を見せた。
一拍遅れてドアが閉まる音が背後から響く。
「私も手伝おうと思ってね。こっちこっち」
そう言って委員長に手招きされるままに屋上の端っこへと移動する。
すでにブルーシートが引かれてあった。適当な重しを乗せて風邪に飛ばされないようにしている。
「助かるけどクラスの方はいいの?」
「尾崎くんに頼んでるし」
なるほどあいつなら大丈夫だ。
「それにレンガの出来もその場で確認したいし」
あ、そっちが本命だな。
「まぁ、とりあえずやってみる」
まずブルーシートにスチロールレンガを敷いていく。
白いペンキに砂を混ぜ、適当に塗って見る。うまいことかすれ具合が出るように薄く伸ばす感じで塗りたくる。
塗りすぎたと思ったら乾く前に別の刷毛で拭き取ったりしていく。
全部やるのは結構な作業になるぞこれ。
「委員長は手伝ってくれないの?」
「汚れそうだし」
「まぁそれもそうだな」
終わって帰った時に委員長の制服が汚れてたら、女の子に手伝わせたのかって言われそうだし、手伝ってもらわないのは正解か。
「あ、そこ塗りすぎ」
「あぁ、ごめん」
指摘箇所を修正しつつ、どれだけかかるかを考える。
このペースでやっていくと二日、いや三日くらいはかかるだろうか。
「キミが手伝えたらいいんだけどな」
コレを見てるキミはどうせただ文字を見てるだけなんだろうしさ、こっちに来て一緒に手伝ってくれないか。
「誰に言ってるの?」
「いや、集中すると独り言結構多くなるっていうか、ね」
「そ、そう」
「とりあえず真剣にやったら明後日くらいには完成すると思う」
「うん、十分間に合うんじゃない?」
「オッケー」
それ以降、委員長はチェックして指摘するだけの人になった。
俺はペンキを塗る人になった。
ミステリーにしたかった作品です。




