エピローグ
深夜のバーに懐かしい顔を見つけて、ヒューバーツは腰をあげた。
「やあ、エドワード」
隣に腰かけていた女が、色めきだつ。
「エドワード様?」
少し前までは店の常連だった男は、今や婚約者に骨抜きにされてしまっていた。嘆くものと、面白がるものとで、社交界は持ち切りになっている。かつての悪友は、どこにいても話題の的だった。
女には席を外してもらって、ヒューバーツは右手を差し出す。
「婚約、おめでとう」
「ありがとう」
「ようやく君が隠していた花に会えるな。嬉しいよ」
「僕はあんまり一目に出したくないけど。父が披露しろとうるさくてね」
友人は腰に手を当てながら、軽く息をついた。
結婚披露宴は二週間後に執り行われる。
「正直、初めからこうなると思っていたよ。君、最初から目の色が違っていたからね」
「結果論だな」
小突き合いながら二人してソファに腰を下ろし、ちょうど運ばれてきたグラスをあわせる。
確かに、結果論だった。
やけに入れ込んでいるとは思っていたけれど、まさか本当に婚約をしてしまうとは思ってもみなかった。なにせ、エドワードは恋愛を馬鹿にしていたのだ。恋は遊びだと豪語していたし、あれほどメアリー嬢のことも暇つぶしだと言っていたのに。
ヒューバーツは、ソファに縁に肘をつきながら首を傾げる。
「つまり、退屈とは折り合いをつけたのかい?」
「退屈?」
エドワードが笑う。
ヒューバーツは、おや、と思った。
こんな笑い方をする男だったろうか。
唇で柔らかな弧を描き、悪友は平然と言ってのけた。
「そんなもの、とうに縁を切っているよ」
ヒューバーツはあきれ返りながら、羨ましくも思った。
自分も、そんな恋がしてみたいものだ、と。
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