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13.ポーカーフェイス

***


「僕に、融資をして欲しい」


 人払いをしたクラブの一室で、エドワードは開口一番にそう告げた。

 煙管からゆっくりと赤い唇を離し、イザベラが白煙を吐き出す。


「…どうなさったの?急に呼び出したかと思えば」


 イザベラは面白がるように、けれど簡単には乗ってやる気はないと背を椅子を付けたまま、試すように言った。

 エドワードも下手に出る気はない。これは、対等は取引などだと、わからせてやらないと。


「退屈なさっているのでしょう?」


 エドワードの言に、イザベラの呼吸がひとつ止まる。


「ええ、死にそうなほどにね」

「僕もです」


 エドワードは口元でにこりと笑って、ニックに合図をした。

 エドワードとイザベラの前にある大理石のテーブルの上に、ニックは、鞄から取り出した品物を高級洋品店の店員のように、ひとつひとつ丁寧に並べて行った。


「…これは?」


 イザベラはようやく椅子から背を離す。

 興味を惹かれたのか、黒パールのイヤリングのひとつに、手を伸ばした。


「全て僕の知人の作家が作ったものです。まだ無名ですが、ご覧いただければわかるようにかなりの腕前だ」

「ええ、そうね」


 素敵だわ、とイザベラは夢見るように呟いた。

 エドワードも身を乗り出す。


「彼女を、売り出したい」

「女性なの…?」


 イザベラの視線が、イヤリングからエドワードに移された。


「あらあら。そういうこと」

「勘違いしないで欲しい。彼女に特別な感情があるのは否定しません。ですが、それとこれとは別に、ひとりの作家として、彼女には才能があるのです」


 イザベラもそれには同意した。


「そのようね」

「…ええ。でも、残念なことに、彼女本人には商才はなくて。今も、悪質な商店に安価で買いたたかれているというのに、全く気付いていないのです」

「なるほどね」


 イザベラはイヤリングをテーブルに戻して、別の作品を眺めた。


「わたくしの知り合いの店に置くのもいいし、一点ものとして、オークションに出すのもいいわね」

「では…」


 エドワードは腰を浮かしそうになった。イザベラは、くすりと笑う。


「ええ、良くてよ。喜んで出資させて頂くわ。あなたの家も、大変そうですし」

「…ご存じでしたか」

「言ったでしょ?わたくし暇なの」


 いつだって退屈しのぎを探している女は、楽しそうに笑っていた。


「でも、わたくしはてっきりエルゼンデと婚約するのかと思っていたわ」

「まさか」


 顔をしかめたエドワードに、イザベラは「その顔よ」と笑った。


「あなた、いつだって腹が立つくらいすまし顔なのに、あの子の前では砕けていたでしょう」

「それは…」


 公衆の面前であんなに叫ばれたら、誰だってそうなるだろう。


「あなた、思いっきり迷惑そうな顔をしてたじゃない。わたくしも驚いたわ。ポーカーフェイスが崩れたのねって」

「本気で迷惑だっただけですよ」


 恋愛感情など微塵もない。

 けれどイザベラはくすくすと笑う。


「面白かったわ」

「それは良かった」

「でも、もっと面白い物をみせてくれるのよね?」


 イザベラが、長い脚を組み替える。

 エドワードは「無論です」とニックに目配せして、あらかじめ用意しておいた契約書を持ち出させた。イザベラはそれを受け取り、サインをする。


「-それとね、今思ったのだけど…そこのバッグ」

「ええ、これが何か?」


 エドワードも気にはなっていた、クラッチだ。

 サインを終えたイザベラは言った。


「似たようなものを、エルゼンデの侍女が持っていた気がするのよね」

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