主人公?
横たわる天使を見つけ、蓮はその場で固まっていた。
天使を見るのは人生で初めてな蓮はどう対応すればいいのか、今眠っているのか、動く気配がないのが幸いとも言える。
「ど、どうしよう。これ、死んでる……のか」
顎に手を当てその場をグルグルと回っていた。そして、考えたのか、蓮は天使に近づいた。
(…生きてるか、まずはそれを確認しないと)
横たわっている天使は蓮と同じくらいの子供。身長は157程だろうか、蓮よりは低く、蓮とは真逆の闇を表す純黒の黒髪に一部だけ染まった赤髪が目立つ。背中にある翼は汚れなのか、時が経っているのか、凄く錆びるように汚れ、苔や蔦がまとわりついている。
ゆっくり呼吸はしているのか、お腹が膨らんだり、縮んだりしている。
(生きてる…と、とにかくサシャ達を)
そう思い、蓮は立ち上り天使に背を向けた。その時だった。
「………!?」
違和感を感じ、振り返った。蓮の服の裾を何者かが掴んでいた。
あの天使が裾を掴んでいたのだ。
「っな…なんで……」
戸惑う蓮だが、天使がまだ目を明けていないことに気づいた。蓮の頭はますます混乱する。
(と、とにかく、振り解いて……!)
焦る蓮、目が泳ぎ、汗が出てきた。天使の手を少し躊躇ぎみにほどく。
「…………どこに、行くの…?」
「……………!」
蓮は天使と目があった。起きたばかりのような半開きな目。髪と同じ驚くほど黒い目だった。
「…な、なんで………………は、離してよ」
「………………」
そう言うと天使は蓮の服の裾を離してくれた。
天使から一歩離れると、蓮は自分の心拍数に気づいた。
胸に手を当て、荒くなった呼吸を整えようとしていた。
そんな様子を天使は黙って見ていたが、
「…………っえ、」
バタンと、蓮を掴んでいた手が落ちていった。もう動くことがなかった。
天使は目を開けていたが、何も話さない。
(害はないのか、天使って初めて見た)
蓮は誰かを呼ぶことを忘れ、天使に近づいた。
「……ねぇ、聞いてもいい?」
蓮は上から天使を見下ろすように動き、尋ねた。天使は力なく頷いてくれる。
「………君は誰?それと、なんでここに?」
「……僕は……………“シュウ”
なんで、ここにっていうのは……分からない」
気力のない気弱な声に、まるで、もうすぐ息耐えそうな様子だった。明らかに弱っているのは明白だった。
「……なんか…似てる」
聞き取りづらい言葉と似てるという疑問に蓮は聞き返す。
「……なんか、ぼくの…………仲間、に、似てる…」
「………あ、なんか」
蓮はその時、違和感に気がついた。
(この子、僕は知ってる……どこかで)
また心拍数が上がる音がした。
「……最後まで…向かえに、来て、くれ、なかったね、レン……」
そう言って天使、シュウと名乗る少年はゆっくりと目を閉じた。
「…あ、眠ったのか…………」
うつむいている蓮の顔は誰も見ることはなかった。
「……蓮様!」
そのあと、蓮の従者たちが来たのはすぐのことだった。
彼らも天使の事は初めて見たらしく、初めはホンモノかどうかを確認していた。
生憎、天使やその他、獣人などは1000年前の天地戦争から見ることはほとんど無くなり、今では存在事態が幻扱いされているのだ。
彼をリューブ帝国へ連れていくだなんて、誰も思っていないだろう。