やるやろ会の女性騎士、サクヤ・コンゴウ③
「はっ!」
目にもとまらぬスピードで剣を横払いにニセサクヤに胴をめがけて薙ぎ払い、それを予想していたかのように剣を受け止め、文字通り返す刀で薙ぎ払い、その反動で距離を取る。
しかしニセサクヤも逃さない、距離を取らせないように追撃を仕掛けた時だった。
「ちょっと待って!!!」
突然木霊するサクヤの声にニセサクヤの動きが瞬時に止まった。
ん、どうしたんだろう、急に剣を鞘に戻すと、手をそのまま虚空に手をわちゃわちゃと動かしている。
なに、なんなの、と思う間にそのままふらふらとこっちに近づいて、1メートル、50センチ……。
最終的に10センチぐらいの位置で凄いメンチ切られる形になった。
「…………あの、なんでしょうか?」
「ごめんなさい、私ド近眼なの、コンタクト落とした」
「あ、そうなの、つければいいじゃん」
「つけられない」
「え? なんで?」
「怖いから」
「…………」
チラッとイシスを見る。
「私がいる時はつけてあげているのよ」
ああ、コンタクトが怖くてどうしても駄目っていうのは聞いたことがあるけど、サクヤがそのタイプなのね。
「ほらサクヤ、クサナギが困っているわ、こちらへ」
サクヤの手を取るイシスに不安げに従うサクヤ。
ふむふむ、つまりこうあれですね。「イシス、私、怖い」なーんて怯えて涙目サクヤに「ふふ、大丈夫よ、痛くしないから」とSが入ったイシス、そんなちょっと百合百合した女の子のキャッキャウフフの感じになるわけか。
うんうん、おじさん好きよ、思わずニヨニヨしちゃうのね、むふふ。
「ふん!!」
という夢はイシスのサクヤにヘッドロックをかけた瞬間に崩れたわけだが。
「むぅー! むぅー! むぅー!」
「我慢なさい! 抵抗すると余計に時間がかかるわ!」
俺に後ろを向ける形になるからサクヤが壁に頭をめり込んだ状態で手足をじたばたさせている。
必死の抵抗虚しく、無事にコンタクトをはめ終わったのか、顔を真っ赤にして涙目のサクヤ。
「なあ、これだけの大事になるんだったら、メガネのほうがいいんじゃないか?」
「彼女が剣をするうえで頑として聞かないの、眼鏡をかけると腕が鈍るって」
「そっか、ならコンタクトをつける練習はさせないのか?」
「うん、それがね、そのもちろんね、させたのだけど、こうあの子ね、一応学院では美少女で通っていてね、そのー」
言い淀むイシスではあったがその事実を告げる。
「美少女がしちゃいけない顔になるのよ!!」
「……そうなの?」
「具体的に言うとね、こう白目をむきながら掌で頬を下に引っ張るようにそれでも指が目に向かうんだけどそこから逃げようとするから、地団太を踏みながら壁に向かって突進していく形になって、挙句の果てに壁にぶつかって痛みで七転八倒したの、今みたいな奇声を発しながら」
「うわぁ……」
「だから殿方相手はもちろん女相手でもちょっと忍びなくて、だからコンタクトをつけるのは私の指示がないと許可しないようにしているのよ」
なるほど、わかった。んーそれにしても、サクヤ、最初は神々しい美貌をもるミステリアスな感じ、なんて思っていたけど、ひょっとして。
「クサナギ」
と珍しくサクヤから話しかけてくれた。
「失礼した、私の能力はこれだけではないの、見て」
と言った瞬間に即座に剣が10本に増えてそれぞれの指間に挟む形で持つ。
「これが私の能力の真骨頂、能力距離を活かし、投擲に必要な形にして出現、投擲後即座に新たな剣を出現させ、再び即座に投擲、それを繰り返すことによりひたすら攻撃することができるの」
「おおー!」
凄い、つまり簡単に言うと「ずっと俺のターン」ってことだ。
「そしてそれに王国剣術の女性剣士のみ舞うことを許された剣舞をミックス、アレンジを加えて編み出した私の必殺技、その名も……」
腰を落とし手を交差させる。
(ん? 確かあの剣は相応の重さががあって、所謂能力で生み出された「本物の複製品」ってことだよな、しかも剣舞って踊りのことだから……)
(やばい!!)
と地面に両腕を頭に挟み込む形で避けた時と
「剣舞大乱闘!!」
サクヤが舞を始めたのは同時だった。
「あぶねぇー!!!!」
当然踊りながら投げているから飛ぶ飛ぶいろんな方向に刃物が飛ぶ!!
「わかったでしょ?」
いつのまにか鉄の板を盾に、体育座りでどや顔のイシスがいた。こ、こいつ、自分だけ!
四つん這いで慌てて傍に来るが、ガンガン鉄の板に刃物が当たっている。こ、こえ~。
「彼女はね、さっきも言ったとおり剣術の天才、学力優秀、そしてその神々しいまでの美貌と雰囲気から学園では一目も二目も置かれている存在なのだけど」
とここでガンガンという音が聞こえなくなって、恐る恐る覗いてみると、明後日の方向に様々な剣が突き刺さっており、能力を解除したのか消滅、完全に消えたところで満足気に「フンス!」と隠れている俺たち2人にやりきった笑顔を見せている。
「見てのとおり、ハイスペックハイパー天然残念女なのよ!!」
「盛りすぎだろ!」
「近接戦闘では無敵なのだけどね、だから普段は私の侍女的ポジションで黙って従うことってなっているから、なんとか誤魔化せている状態なのよ」
「大変だなぁ」
「あら、何を言っているのよ、これから貴方も加わるのよ」
「え!?」
「サクヤが初対面で私に言われる前にこうやって本性を見せたことってないのよ。自分の本性を明かしてもそこらへんは上手に甘やしてくれるって思ったのね」
「ろくでもないな!」
「でも心を許しているってことになるの、あの子のああいうところって意外と馬鹿にできなくてね、貴方とサクヤは気が合うと思うわ。それに……」
突然近づくと、ふわっといい香りと共に耳元に囁かれた。
「やるやろ会に恋愛禁止なんて規則は無いからね、私も含めて、ね?」
「ふえっ!」
「あら、そこら辺の反応は初心なのね、可愛い、さて、私は貴方の能力を学院長に報告してくる、えーっとでも貴方はまだここの学院生ではないから、何処かに行きたいときはサクヤと一緒にお願いね。サクヤ、頼んだわ」
サクヤは頷くとそのまま後にして、俺とサクヤの2人だけになった。
「…………」
がっくりと項垂れる。びっくりした、いきなりあんなに近づくんだもの。くそう、完全にキョドってたよな俺、シクシク。
「はぁ、疲れた……」
それにしてもサクヤの必殺技のせいで刺さっていたら危なかったよ本当に。
「能力発動はそんなに疲れないはずなのだけど」
と当の本人にまるで自覚は無いけどね。まあいいけどさと、額を拭うと汗の感覚、そういえば全身が汗ばんでいる。
はー、風呂入りたい。そういえば仕事で三日ぐらい入っていなかったから体が気持ち悪くてしょうがないのだ。
確か自室にも風呂があったが、あれはシャワーだけだったんだよな、出来ればこう、湯船に入りたいノンビリしたい。
「なあサクヤ、風呂ってあるか、出来れば大きな湯舟がある、共用浴場みたいなのがあれば」
「ある、とても広くて快適な大理石でできた広い湯舟がある」
「マジか! いや~色々あって疲れていたんだよ! 案内してくれ!」
――続く
次回は7日です。