やるやろ会の女性騎士、サクヤ・コンゴウ①
やるやろ会の部室、これは居住場所でもあるのだけど、時計塔の丁度文字盤の上の最上部分に当たる1フロアを丸ごと使っている。
正面の扉を入った先に共有スペースがあり、そこからそれぞれの部員の個室へとつながる。
個室、なんて表現だけど実際は2LDKのマンション位広い、ここで全て生活できるぐらい揃っているのはたまげた。
「すげーなー」
と部室の説明を受けて後に出た俺の感想はそんな言葉しか出ない、こうお金持ちの家って感じと言えばいいのか。
「えーっと、生活に必要なものは全て揃えてつもりだけど、男の人がどれぐらいの物が必要かどうかわからないから、必要最低限の物しか用意していないの。だから明日、必要なものの買い出しに行かないとね、私の行きつけの店があるからそこで買いましょう」
「あ、ああ、ありがとう」
「それと買い出しの前に、制服については既に仕立て屋を手配しているからね出発前に計測をしてね、明後日からここの生徒として授業を受けてもらうわ」
「仕立て屋って、しかも計測してもらって当日中に仕上がるものなの?」
「ええ、私が言えばそうなるの」
「はー、凄いね」
「一応こんなものなのだけど、まだやることがある、だからもうひと踏ん張りお願いね」
「やることって?」
「あら? 貴方をスカウトした理由を忘れたのかしら?」
「あ……」
「そう、貴方の能力を測らせて頂戴、学院長に報告する関係上これだけは今日中にしないといけないから」
●
能力の測定、この世界の機械がいわば魔力の増幅装置であることを考えれば、機械を通さずに能力を使うことができるってことだ。
俺の場合は異形の時のことを考えると拳銃ってことだけど。
俺たちはやるやろ会の部室を出てエレベーターに乗り、丁度2階ほど下にあるフロアに出る。ここも造りは上のフロアと一緒で、出てすぐ扉あるところまでは一緒だったけど。
ただ広い、窓一つないがそれだけの場所、密閉空間の筈なのに何故か空気の流れを感じる奇妙な空間だった。
中にはただ一つ、中央に少しだけ円盤のような盛り上がっただけ。壁も見えているのに、広さの感覚がつかめないような感じを受ける。
「ここでは能力をいくら使っても耐えられるように設計されているの、ここはサクヤの能力訓練場なのだけど、まだ貴方の訓練場は出来ていないから、ここを臨時に供用という形にするわ、さあ、まずは拳銃を出してちょうだい」
拳銃を出すか……。
「ごめん、あの時は無我夢中で、どうやって出したかまるで覚えていない」
俺の答えにイシスは顎を手に当てる。
「うーん、そう言われても私は物理攻撃ではないから、同じ系統のサクヤの方が分かるかしら?」
イシスの問いかけにサクヤはこくりと頷く。
「ガッとやってバッとなるとグッとなって出る」
「天才か! 普通に分からんわ!」
もういい、えっとこう、あれだ、ようは物を具現化するんだったらハンターハンターの念の要領で出るんだろう、知らんけど。
と手を握ったり開いたり、色々試していたところ、ちょうど銃を握る手をして「出ろ」と念じて集中したところ、数秒の間、徐々に点と線を結ぶ形であっさりと拳銃が出た。
「……本当に出た」
間違いないリボルバー式の拳銃が出てきた。外観についてはコルトパイソンとM19の間のようなデザインがまた趣味丸出し、ただその中でレーザーサイトが付いているのが特徴的だ。
そしてグリップを持った瞬間にすぐに分かった。
「なにこれ、軽い、まるで水鉄砲のように軽い!」
重さというのは存外に馬鹿にできない、構えた時の負担が大きいと手に銃口を無意識に下げさせてしまうのだ、だから軽いというのは拳銃を扱う上で大事なことの一つなのだ。
パッと見は凄い重量感も存在感もあるのに、俺は2人の位置を確認しながら弾倉を外すと弾が込められていた、そのまま拳銃をひっくり返して、同時に右手に皿をつくり弾を抜くとポケットに入れる。
そのまま弾倉を開いたり閉じたりしていて具合を確かめる。
「なあ、これって撃っても問題ないか?」
「構わないわ、あなた専用の射撃スペースは作ってもらう予定だけど、今は私も見たいから壁に向かって撃って頂戴」
そのまま俺はポケットから弾を取り出し弾倉に込めると、半身の態勢になり拳銃を体の中心線に持ってくるとそのまま一直線に前に突き出し、拳銃を持った左手首の付近に右手を添えて、照星と照門を合わせる。
そして用心がねの中に指を入れて、呼吸を止めて、そのままゆっくりと力を入れて引き金を引いた。