天御クサナギ・異世界へ⑦
何となくわかっていたことであるが改めて言われると衝撃的で身が引き締まる、そんな俺に更に事実を告げる。
「そして貴方の能力を感知したのは私、そしてこの世界に連れてきたのはやるやろ会の会員の能力によるものよ」
「能力…………」
何回も出てくる能力という単語、先ほどの拳銃の感触を思い出す、あの異形を倒した時に出てきた訳の分からないもの、多分あれが俺の能力というやつだ。
「えっと、イシスさんの」
「イシスでいいわ、敬語もいらない」
「わかった、イシスの能力ってのが、能力を感知する能力ってことなのか?」
「そう、能力者を探し出すのが私の能力、探知範囲は無制限って分析済みだったのだけど、まさか異世界までとは自分でも驚きよ、最初は何かの間違いだと思ったもの」
「じゃ、じゃあ俺をこの世界に連れてきたのが……」
あたりを見渡してもサクヤしかいないけど。
「サクヤではないわ、そして今ここにはいない、というより他の会員たちは気まぐれで余り顔を見せないのよ、本当ならちゃんと活動してほしいものだけどね」
イシスはゴホンと咳ばらいをすると更に続ける。
「そして貴方をこの世界に連れてきたのだけど、異世界から連れてきたせいか場所に誤差があって、異形警報が出ている地区のど真ん中に転生させてしまったの。だから私がサクヤに位置を知らせてここに連れてくるように頼んだのよ」
ということらしい。そうかあの出会いは俺を探しに来たからだったんだ。
「って待ってくれ、初めてのことだって言ってたけど、やるやろ会だっけ? 異世界から連れてきたのは俺だけってことになるのか?」
「そうよ、だから私たちにとってはかなり衝撃的な事だったし、本来この能力は女にしか宿らないはず、だけど男の貴方が能力者なのは異世界出身だからだと思うのよ、断定はできないし推測だけどね」
「ああ、そういえば女しか発動できないって言ってたような……あのさ、根本的な質問なんだけど」
俺の顔を見てイシスは頷く。
「能力とは何なのか、ってことよね。これがなんと説明したらいいか、んー、その前に貴方の世界について教えて欲しいの」
「俺の世界のこと?」
「そう、何でもいいわ、その都度質問していくから」
まあ俺の知っていることなんてたかが知れているけどと思いながらも、思いつく限りとりとめもなく説明していく、イシスは質問を交えながら会話を進めていく。
あまり意識したことなかったけど、かなり長い時間話していたと思う、時々休憩を挟みながら、それこそ政治から風俗まで知っていることは何でも話した。
やっとひと段落ついて、イシスは紅茶に口をつける。
「なるほど、貴方のいた世界は純粋な物質文明なのね、それが最大の違いってことかしら。ということは異形なんてそれこそ摩訶不思議な存在って事ね」
「ここは違うの?」
「ええ、んー、ここはね、貴方の世界で言うと魔力と言えばいいのかしら、それが存在する世界で、その魔力を使って物質を動かしている、と表現すればいいのかしら」
イシスによれば魔力を含んだ晄水と呼ばれるものがあり、その晄水を利用すると魔力が生じ、それを物質に利用するのだという。
魔力の定義はファンタジーものと同じ、機械文明に作用すればそれを動かす動力にもなるし、魔力そのものを使えば魔法使いにもなれる。
だが人に宿る魔力は微量で、実用的ではなく結果機械に使って何倍も増幅させて使っているそうだ。
そして俺とサクヤが戦った異形とは、その晄水を利用する際に出る余分なものが蓄積したものが異形なのだという。
「んー、つまり晄水ってのが俺の世界で言うと石油のようなもので、異形ってのがその廃棄物のようなものなのか」
「そこまで行ってしまうと語弊があるけどね」
つまり異形というのは、不定期ではあるが必ず出現するものであり、人に害をなす危険な生物のようなものらしい。それを専門的に狩って生計を立てているのが狩猟部なのだそうだ。
「そして能力者というのは、その魔力がそれこそ「愛された」というレベルでノーリスクで無尽蔵に使いたい放題の人物をさすのよ」
出現する能力は、それぞれの人によって違うそうで、その出現したものについてチートの威力を発揮するらしい、イシスの能力探知がそれこそ異世界にまで届くように。
それをノーリスクというのが信じられないが、本当に体に異常はないらしい。
過去の文献を調べてみたところ能力者は「生まれ持った才能」という解釈が適切らしく、能力者もいたそうだ。
そして能力には完全ランダムで突然目覚めるものらしい。
「なるほど、何の努力をすることなくチート級の能力に目覚めるわけか、なら自分が能力者ってことは絶対に口外しちゃいけないってことだよな」
「察しが早くて助かるわ、だから発動する時は細心の注意を払ってちょうだい」
「能力者は何人いるんだ?」
「とても貴重よ、現時点で確認されているだけでもここにいる3人を含めて5人だけしかいないのだから」
「5人しかいないのか!?」
「そう、ちなみにその5人全員が、我がやるやろ会の会員なのよ」
にっこりと笑うイシス、そういえば能力者を感知るする能力って言ってたよな。
「私は今から1年前に自分の能力にある日突然目覚めて、自分の能力が能力者を探知できる能力であること、そしてサクヤも能力者であると知った時、能力者を集めて組織を作り上げることにしたのよ」
組織を作り上げるか……。
「イシス、このやるやろ会ってのはどの程度なんだ?」
「どの程度、とはなにかしら?」
「能力についてノーリスクなのはわかったが、組織を作る上では違うだろってことだよ」
「…………」
「そうだな、例えば」
俺はあたりを見渡す。
「この時計塔とか、俺はこの世界のことは何も知らないけど、特別扱いって思うんだが」
イシスはここで目を細めて薄く笑う。
「ふぅん、貴方は色々と面白いことを考えるのね、そのとおりよ、能力についてはノーリスクではあるけど特別扱いに対価は生じているの。とはいっても特別扱いされていることは能力とは半分半分といったところかしら」
少し含んだ言い方のイシスの言葉。
「その対価がやるやろ会の活動になるのだけど、簡単に言ってしまえば、何でも屋、かしらね」
「何でも屋?」
「そう、何でも屋よ、別に営利活動をするわけじゃないから依頼内容は選べるのよ」
活動内容は選べるって、それは対価って言えるのかってこともあるし、何より。
「なあイシス、どうしてイシスは能力者を集めるんだ?」
そう、単純にそう思う、その疑問に対してイシスは初めて悪戯っぽい笑みを、年相応の笑みを浮かべてこう言った。
「楽しくやるためよ」
「へ?」
ポカーンとしてしまう。
「折角人として生を受けたんだもの、楽しまないと損よ、人生は辛いことも多いけど、楽しくて仕方がないの、だからもっと楽しみたいの、分かる? 楽をしたいというのと楽しみたいのは意味が全然違う。その立場にいることに感謝を、楽しめる能力があることに感謝を、だからどん欲にね?」
「…………」
トラックに飛び込んで子供を助けたところで終わったと思った俺の人生、その人生はこんな形で続くことになって。
目の前でイシスが言い放った人生を楽しむってことは俺にとって……。
叶えたい願いでもあったんだ。
「ははっ! 面白いね!」
俺もつられて笑ってしまった。
「クサナギ、どうかしら、ここでの生活は悪くないと思うのだけど、ひとまずということでやるやろ会にどうかしら?」
手を差し出してくる、答えは決まった、俺はイシスの手を取る。
「こちらこそ、どうせあの時死んでた命だし、行く当てもないし、人生を楽しみたいって言葉凄い響いたよ、これからよろしくな」
「こちらこそ」
固く握り返してくれたイシス。
こうやって俺の異世界生活はスタートしたのだった。
――第1話・完
作者のGIYANAと申します。
異世界高校生活をよろしくお願いします。
今回のような形で連載を続けていきます。
次回は「やるやろ会の女性騎士、サクヤ・コンゴウ」を4日に投稿予定です。