やるやろ会の電脳妖精、ツキヨミ・ソウギョク④
「ぜー! ぜー!」
くそう、走って逃げるが一向に突き放せない、しかもなんで電脳空間でこんなに疲れるんだ。これも視覚化デバイスなのか、よくわからんけども、それにしても。
「なにより早い! このおっさん凄い足早い!」
このバイオハザード3のタイラントぐらいの絶妙の早さがまた意地悪だ。
「はううあ!」
と振り下ろしたドスンという音と共に、棍棒が振り下ろされる。そしておっさんが振り下ろしたところが跡形も無くなくなるが、すぐさま修復される。
なるほど、あくまで外部に対しての攻撃ってことから、ああやって関係ないところは修復される仕組みになっていて、んでいわゆる異物である俺は殴られたら消されるってことか。
逃げ回る俺は結構な割合で他の生徒達から目撃されているが、誰も近寄ることなく、主な視線はおっさんだけに向いている。
そうか、ツキヨミが例えた他校の不良生徒は言い得て妙、関わり合いになりたくはないよな、こういった時に頼りになるのは、あんな感じの強面の生活指導の先生だよな。
だが、こう走ってばっかりだと、当然……。
「はあ! くそう、もう限界!」
と廊下の突き当りで振り返り、おっさんと対峙する。おっさんも俺が対峙するのが分かったのか、俺の動向を伺うためかピタリと止まりお互いに睨み合う形にある。
はあはあと息が切れるのを必死で整える、高校時代は仕事で走るなんてことは無かったからあっという間にスタミナが尽きた。
それに無尽蔵なスタミナを持つこのおっさん相手に走って逃げるのは最初から不利なのだ。
なら何で走ったかという事なんけど……。
(疲れた甲斐はあったな、なんとなくわかってきたぜ)
まずおっさんが持っているあのこん棒が攻撃手段なのは間違いないってことだ。何を言っているのかと思うかもしれないが、ツキヨミの言った「視覚化デバイス」という意味を考えると答えが見えてくる。
つまり俺の攻撃は。
(おっさんが棍棒を振り上げ棟とした時!)
「はっ!」
それを狙い棍棒を振り上げると同時におっさんに体当たりする。ドスンという衝撃と共に相手が体制を崩して怯み、それをみて距離を取る。
(よし! やっぱり俺の体は無事だ!)
これで確信した、この世界において「姿はそのまま種類」を表すのだ。
どういうことかというと、おっさんが持っているあのゴツイ棍棒はそのまま攻撃手段の視覚化であるということだから攻撃力はすさまじい、だがおっさんの攻撃手段がひたすらに「殴打する」という行動パターンのみしかとらない。
つまりベールシッチ学院のセキュリティシステムの性質は「攻撃力は強いがパターン化されている」ってこと、分かりやすく言えば筋肉馬鹿ってことだ。
となればあのこん棒だけ気をつけておけば後は安全ってことになる。
となれば対処方法は今みたいに難しく考える必要はない、後はツキヨミが終わるまで時間を稼げばいいだけの話と、気合を入れなおした時だった。
「っ!」
おっさんはピタッと止まるとそのままキョロキョロあたりを見渡す。次に目の前に俺がいるのに踵を返してそのまま更衣室の方向に戻っていった。
あのおっさんの様子だと、明らかに俺の姿が見えなくなってるよな、ってことは。
「お待たせ、ミッションコンプリート」
という言葉と同時にふわりと姿を現したツキヨミ、彼女は更衣室に戻るおっさんを一瞥すると俺をジロジロと見てきた。
「少しの間見させてもらったよ」
「やっぱりな、タイミングが良すぎると思った、んでどうだった?」
「いや、驚いているよ、やっぱり普通の高校生ってのは嘘だったんだね、喧嘩慣れもしているようだ」
「…………喧嘩慣れじゃなくて、場慣れしてるってだけ、喧嘩はそんなに強くないよ、まあ喧嘩に限らず、相手の観察は基本中の基本だからな」
「カッコいいね~」
「かっこよくなんかない、相手に許してもらうために、土下座だって何回もしたぜ」
びっくりして固まるツキヨミ。
しまった、ここまで言う必要はなかったか。これは流石に情けないと思われたか、じーっと何故か熱を帯びた目で見上げるツキヨミ。
「やっぱり色々と面白い人だ、さて、早く帰らないとね、このままここにいるとまずいよ」
「どうかしたのか?」
「ボク達の不審な動きが感づかれて一般から通報が入った、エージェンシーが動いているね」
「エージェンシー?」
「いわゆるこういった電脳空間の官憲だね」
「まじかよ! 捕まったらどうなるんだ!?」
「大丈夫だ、拷問は禁止されているから」
「ってずいぶん余裕なんだな」
「ことは終わったからね、後はここから立ち去ればいいさ」
「立ち去ればって、普通なら通報が入った場所が場所だから出られないようにロックがかけられるとかはないのか?」
「大丈夫なの、まあ見てなよ」
とツキヨミの体がオーロラ色に包まれる。そうか、能力を使って脱出するのか。
「さあ、ボクの手を取って」
「あ、ああ」
と差し出される手をまじまじと見る。
手を取るのか、女の子の手、いやいやここは疑似空間なんだから、変な意味なんてものは無い、それに別にて、てて、手を握るぐらいなんでもねーし。
大丈夫だよな、汗ばんでないよな、気持ち悪いとか思われないよなと、腰が引けた状態で震える手で、いや震えてないけどね、とすっと握る。
「次に空いた左手にボクの腰に手をまわしたまえ」
「こ、ここ、こうかか?」
ち、近い、ふわっ、柔らかい、いやいや、これはこれは疑似空間疑似空間、ぎじくうかんなんだ、そう、イエスイエス、クール、クールよ。
「そして右手を放して、ボクの顎を軽くクイっと上げて」
「お、おう! こうか!?」
柔らかい! 必然的に密着する! 近い! 近いよ! ツキヨミ、何気に可愛いし! 別に好みじゃないけどね! ぷん!
「それで「お前は今日から俺の女だ、他の男に心も体も唇も絶対に許すな、いいな?」とキメ顔でお願いする」
「おおおおお前は今日から俺の女だ! ほほほほ他の男に、こここ心も体も唇も絶対に許すな! いいいいいな!?」
「…………」
「つ、つつ、つぎは!?」
べ、別に俺は平静だし! ツキヨミは年下だし後輩だし! 俺は年上で先輩だし! 余裕があるし! 頼れる所見せないといけないし! 別にいい匂いで騙されないし! なんかツキヨミ俺こと見てるしぃ!? これで騙されるほどちょろくないしぃ!?
「いやぁ、うん、可愛いなぁ~、そっちにドキドキしたよ、先輩、帰ろうか」
「ふえ!?」
とパッと離れると手をかざすと何もない空間にどこでもドアみたいに出てきて、ふつうに扉をがちゃりと開けてその場を後にしたのであった。




