はじめての登校と異形討伐④
「危ない!!」
と台詞と同時にドスンという音が響き、見上げると。
「ここ!!??」
今まさにという事で、異形が薙ぎ払う形でサクヤが吹き飛ばされた。
「サクヤ!!」
ドスンという凄い音ともに壁にめり込んでいるが、気を失っている。
「あ、う……」
良かった、ギリギリ頭の部分を身に着けていたおかげで気を失っただけだった、しかし耐久性が10階の高さからと言っていたな、となるとこの攻撃は普通の人間ならミンチになってってことか。
なるほど、確かに危険なレベルじゃない、異形はサクヤに攻撃をした後、無力化できたことを確認したのかこちらを見る。
再び異形と目が合う、三対の鋭く感情の無い目が俺を射抜く。
さて、次に俺が取る行動。
(ああ、そうだ、こういう時は)
そう、イメージとすれば、そう、これ。
――「頭の一部分が氷のイメージ」
普段は別に慌ててもいい、大事なのは慌ててはいけない時を見極めること、そしてその時を見極めたら、そのイメージをすることだ。
本気でキレているように見えて、頭の一部分が氷だと、キレていることすらも利用できるようになる。
そうすると、最初はあんなにも怖かったのに、まるで怖さが無い、死ぬ気がしない。体が凄い熱いのにそれに反比例するかのように頭が冷えていて、それが頭に広がる感じ。
冷たいオーバーフローを起こした状態といえばいいのか。
だから異形の動きが何故かスローモーションのようだ、俺は静かにリボルバーに手をかけてまず振り下ろしてきた手をめがけて射撃、右前足が吹き飛ぶ。
まさか反撃されるとは思わなかったのかバランスを崩して、それを補うためにたたらを踏む形になる異形。
致命的な隙だ、続いてそのまま照準を両後ろ足をそのままそれぞれ一発で射撃すると命中して吹き飛び、最後に、もんどりうつ形でそのまま地面に倒れ込む異形。
その眉間に照準を合わせて、俺は最後の引き金を引き。
そしてあっけなく、異形の頭がはじけ飛び動かなくなった。
「はあ……」
熱っぽく吐き出す息、鳩尾の部分が凄い熱くて、自分の息の音がやたら響く、拳銃に手が吸い付くようだ。
「お?」
頭を失った異形はそのまま星となって天へと召された。
「綺麗だ……」
最初の時はあんなに余裕がなかったのに嘘みたいだ。そして天に召された後は宝石、ソフトボール大の宝石が転がっている。
「ってそうだ! サクヤ!」
俺は宝石を回収するとサクヤの下に向かうと。
「う、うう……」
ふらふらになりながらもかろうじて立っていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫、ごめん油断した、でもクサナギは凄かった、早打ちとしか表現のしようがなかった」
「まあ的が大きかったし、近かったからさ、あれならパニックにならない限り当たるし、当てれば勝てるのはサクヤと出会った時に分かっていたからな」
「本来なら私が助けなければならないのに、頼りになる相棒で良かった」
「いや、1人だったらやばかったよ、それにほら」
俺は自分の足を指さす。
「足が震えてる」
俺の指摘にフフッと笑うサクヤ。
「って見てくれよ、宝石、前より大きいぜ」
と宝石を取り出すとサクヤが見る。
「運がいい、これで当分の暮らしには困らない、リッチな生活が送れる、これは貴方の物」
「え? いやいや、山分けだろ?」
「仕留めたのは貴方、だから貴方が受け取って、当面の生活を考えると必要なのはクサナギの方」
「……ん、そっか、分かった、だったら遠慮なく受け取る、じゃあさ、今から飯でも食いに行かないか?」
「え?」
「こういう時は、飯を食って親睦を深めるのさ、俺の元いた国じゃな、もちろん俺の奢りでな」
「分かった、でもいいの、奢りだなんて」
「分かってないな、男はプライドが高くて見栄を張る生き物なんだよ、そしてそれを理解して、感謝しつつ、遠慮しないのがいい女って奴だ」
俺の言葉にサクヤが微笑む。
「分かった、ならば私はいい女になろう、いい店を知っている、美味しい店」
「お、それは楽しみだな!」
とその時、横から声が聞こえてきた。
「私も一緒でいいんでしょ?」
物陰から出てきたのはイシスだ。
「来てたのか?」
「心配だったからね、何事もなかったようでよかった、やるじゃない」
「ま、なんとかなったよ、能力はチートではあるけど万能ではないって意味はよく分かった。サクヤも大丈夫そうで良かったよ」
「それでさ、さっきの続き」
「え?」
「ごはん、奢ってくれるんでしょ? 感謝すればタダでご飯を食べられるのだからだなんて、いい話を聞いたわ」
ちゃっかりそんなことを言ってのけるお嬢様。
「ったく調子がいいな、もう」
「でもサクヤのお勧めは期待していいわ、あの子ね味覚は確かよ」
「へー、それは楽しみ!」
●
さて、サクヤのお勧めの店についてだが、まず味は最高だった。客の味の好みを聞きコースを提供、濃い味付けが好みだった俺には濃いめ、薄味が好きなイシスには薄味と言ったもの。
それだけではなく、常連になればなるほど自分の好みの味に近づくのだという、ちゃんと作った料理について客の反応をちゃんとチェックしているのだからそのプロ根性には恐れ入る。
まあ当然そこまでしてくれるから値段は高価であり高級店なのは言うまでもない。
しかも高級店ではあるが、一言で言えば懐が広いのだ。客がちゃんと店側が敷いたルールとモラルを守る限り、それ以外は許容してくれる。
それが例え……。
大食いであってもだ。
「ふう……」
と漫画のように膨れたお腹を満足気にさするサクヤ。目の前に皿が無い、皿が無いが、食事に誘って1時間半だろうか、ひたすら黙々と食べ続けたのだ。
店側も大食いだと知っていたのだろう、皿を片付け更に料理を持ってくるのに淀みは無かった。
確かにガツガツと下品に食べたわけではなく、だけどスピードがまさに吸い込まれていくようだった。
「お腹いっぱい、ごちそう様」
開いた口が塞がらない、俺はイシスに視線を送る。
「痩せの大食いなのよ、彼女、羨ましい限りよね」
「いやいや限度があるだろ! ドラゴンボールの孫悟空じゃないんだから!」
「そんごくう? 誰それ? それにしてもたくさん食べたわね、サクヤ」
「ここまで食べる必要はないのだけど、遠慮をしないのがいい女だと言われたから遠慮しなかった」
そうか、お嬢様なんだよな、だからこういった高い店に慣れているというか、躊躇が無いのだ。
しかしこれは……。
「なあイシス(小声)」
「なにかしら?」
「ここって会計システムはどうなっているんだっけ?」
「後日請求、値段は時価よ」
「じ、じか? あの、経験でいいんだけどさ、これだけ食べるとどれぐらいかかる?」
「んー、貴方が持っている異形の宝石が二つぐらいかしら」
「うそ、足りないじゃん、どうしよう……」
とイシスはニヤニヤ笑っている。
当然サクヤがこれだけ食べるのは知っているよな。んで話の流れからこういうオチになるのは分かっているわけで、それを見届けるためについてくると言ったのか。
「さあ、いってごらんなさい、私に何をして欲しいの?」
ぐっ、心の底から嬉しそうなイシス、だけど、これはサクヤには言えない、男の子だもん。
「…………お金……貸してください(小声)」
「え? なんだって?」
くっ難聴系か! 難聴系のラノベ主人公か! 絶対聞こえているだろう。
「あの、だから、その、お金を、貸してください(小声)」
「え? なんだって?」
クイっと手で顎を上げると俺の目の前にドSの笑みを浮かべるお嬢様がいた。
「駄目よ、もっと私に媚びを売る感じで、上目遣いで、懇願しなさい、イシスお嬢様、この哀れなルンペン学生に、お金をお恵みくださいって」
「い、い、いしす、おじょうさま、このあわれな、るんぺんがくせいに、おかねを、おめぐみください」
屈辱の俺の言葉にゾクゾクっと体が震えるイシス。
「はぁ、萌えたわ、いいわ、その姿に免じてお金を貸してあげる。利子は無利子、返済期限は無期限で結構よ」
「シクシク……」
と異形討伐したものの、借金を背負う羽目になったのだった。
――第4話完




