買い出しの日常、後編
「…………」
俺に下着を選んで欲しいらしい。
ニヤニヤしながら話しかけてくるイシス、よーしわかった、そっちがそう来るのなら俺にも考えがある。
「エロい下着がいいな」
「あら、殿方は清純の代表色の純白が好きなんじゃないの?」
「純白も良さは否定しない、だが男ってのは女が自発的にエロい下着履くのは引くけど、自分で選んだエロい下着はかせるのは浪漫なんだよ」
さあ自分でも本当に女相手によく言うなよ思うぐらいの言葉、言われた女からすればキモい&ドン引きもいいところだろう。
と思ったらこのお嬢様はこうのたまった。
「あらそうなの、なら選んで持ってきてちょうだい」
「え!?」
「自分が選んだエロい下着を吐かせるのが男の浪漫なのでしょう? なら叶えてあげようと思って、買い物に付き合わせた礼よ、さあ、早く」
とニヤニヤしながら俺に話しかけるこの自称お嬢様。しまった。そう返されるか、そうだ、そういう時こそサクヤを巻き込んで。
「zzzzzz」
と思ったら立ちながら鼻ちょうちん膨らませて寝ていた、漫画か。
「え? なんで寝てるの?」
「この子はやることがないと寝る子なのよ」
「子供か!」
とここで鼻ちょうちんパチンと破裂して目が覚める、漫画か。
「よしサクヤ、イシスが下着を買うそうだから選んでやってくれよ」
「下着? 分かった、どういうのがいいの?」
「クサナギの好みと伝えてあるから、2人でいってきてね、それまで待っているから」
「ちょ!」
俺の抗議する間もなく、イシスは店員に連れられてサロンへと消えたのだった。
●
女性下着売り場、男が入れない場所で言えば間違いなくトップ3に入る場所であることは言うまでもない。凄いよね、この圧倒的男子禁制感が。
「どうして入ってこないの?」
「察して」
「だけど貴方がいないと買い物が終わらないのだけど」
「だから察して」
というやり取りをもうすでに3回もしているのを見かねたのか、クスクス笑いながら店員さんが話しかけてくる。
「そうですね、男性は入りづらいですね、でもお客様、遠慮なさらずにどうぞ、女性のお客様と共に男性のお客様も訪れたりもしますよ」
とにこやかに話しかけて入りやすい雰囲気を作ってくれる。おおう店員に話しかけられるのって向こうは仕事なのはしょうがないけど実は結構うざい、だかどこういったフォローは助かる。
「じゃ、じゃあ、えっと、入ろうかな、サクヤ、頼むから俺から離れないでくれよ、ほら、こう1人取り残されるとさ、不審者になると思うのね、男はね」
「分かった、それと店員さん」
サクヤは店員に話しかける。
「彼の要望のエロい下着がここには売ってないけど、何処に行けばいい?」
はい終わった、すぐに終わった。
「お前寝てたじゃん、聞いてたの?」
「うん、随分正直に言うなって感心した、女にエロい下着を履かせるのは男の浪漫だって」
「おおう、ちょっとお口にチャックプリーズ」
「あらあら、とっても仲がよろしいのですね、羨ましいです」
ほらー! にっこり笑っているけど微妙に距離開いたよこれ!
●
「疲れた……」
結局、普通にサクヤに選んでもらった。色は普通に水色、水色が普通かどうかは分からない、デザインも分からない、男にとって大事なのは色とか、どれぐらい食い込むのとかそんなところしか見ていないのだよ。
今、イシスが試着室でごそごそしている、するりと衣擦れの音がするが、気にしない、気にしないぞ、気にしないぞー!。
「クサナギ、似合っているのかどうか見てもらいたいのだけど」
「はいはい、サクヤ、イシスが見てほしいってさ」
と横を見ると再び鼻ちょうちんを膨らませて寝ていた。
「…………」
「昨日は、貴方が来て嬉しかったのね、今日の買い物が楽しみでロクに寝てなかったみたいなの」
「子供か、まあ、そんなに嬉しいってのは、こっちも嬉しいけど」
「だからクサナギお願いね」
「おう、っていうと思ったか! 見たら変態とかチカンとか言うんだろ、分かっているのだからね」
「こちらが頼んでいるのにそんなことを言う訳がないでしょう、それに、その……」
「貴方になら、別に見られてもいいかなって」
その艶やな声に少しだけ胸が高鳴った。
「だ、だけど」
「別に似合っているかどうかだけでもいいのよ、それに貴方は紳士、見てもそれ以上のことはしない、ちゃんと信用も信頼している、ひょっとして、信用も信頼もしてはいけない?」
「み、見損なうなよ! 何もしない! 約束する!」
「良かった、ならアドバイスだけ、ね?」
しょ、しょしょ、しょうがないな、そそそそそそそこまで言われては確かめないわけにはいかない、心の準備をしないといけない。
まずは鼻の下が伸びないように、エロい目にならないように、似合っているかどうかでちゃんと判断するようにクールになれ。
「恥ずかしいわ、できれば、その、早く」
でも動揺しているのを悟られるのはカッコ悪いから、ほ、ほんと、手が震えるけど、試着室を開いた先には。
「うっそ~♪」
と制服姿のイシスがいた。
「…………」
舌を出して、可愛いじゃねえかチクショウ、もう馬鹿、男ってほんとバカね! そのくせホッとしている自分もホントにヘタレね!
はーとため息をつく横で、俺のその姿を見ていつの間にか起きていたサクヤは首をかしげる。
「下着姿を男の人に見てもらうわけないと思うのだけど、クサナギは天然なのね」
「HAHAHA! そのとーり!! トゥギャザーしようぜ!」
やけくそ気味に叫びながら、実はまだ異世界に来て2日目だということにびっくりする。
(そっか、この女性陣に振り回される日々が続くのか……)
まあ、エキセントリックな女子達に囲まれて「こんな生活も悪くない」ってのは全ての喪男の夢だよね、そんな風に考えるだけまだ余裕があるような変な感じで強引に締めたのであった。




