神様に執着されてるけどのーせんきゅーです。
邪神様。それは神様の類い。崇め、奉られるべきもの。
邪神様は神のくせに世界に降り立つ。それは愛しの神子を捜すため。何十回、何百回生まれ変わっても、神子を自分から逃がさないため。
何を隠そうその邪神様が執着してる神子は私のことである。
1度目の人生は平凡だった。退屈で代わり映えのない毎日。最期は交通事故で死んだ。
2度目の人生ははっちゃけた。平凡だった人生を覚えてたから、どうせ死ぬならはっちゃけようぜ!みたいな。一番の黒歴史ならぬ黒人生だ。はっちゃけすぎて、神様にも逆らったところ気に入られた。捕まった。
3度目の人生は黒人生を思い出して悶えて心機一転真面目になろうと頑張っていた。前世の神様がやってきて捕まった。
4度目の人生は記憶がなかった。簡単に捕まった。
5度目の人生であの神様もしかしてやばい奴だったんじゃないかと思い当たった。今世は関わらないと意気込んで細々と山奥で暮らしてたところ捕まった。
6度目の人生は男だった。記憶の中の奴は総じて男だったので、これで逃げられるぜと思って冒険者をしてたら、女になった奴に捕まった。
7度目の人生は逃げ続けるだけの人生だった。結局捕まった。
8度目の人生では本格的に神に捧げられる神子として担ぎ上げられるようになった。周りの監視もあって逃げられずに捕まった。
9度目の人生で前世うんぬんかんぬんの話はヤバイと思ったので阿呆を装って暮らしてた。無理だった。捕まった。
10度目の人生は一周回ってすごい悪になろうと黒人生再び。周りの人たちに申し訳ない気持ちでいっぱいです。捕まった。
他にもいろいろあるけど、2度目の人生で神様に目をつけられた私は今までの人生すべて神様に捕まってる。なんて可哀想な私。
こいつからは逃げられないなって30回目くらいに悟った。
ちなみに今回の人生で通算100回目。アニバーサリー突入なんて嬉しくないのである。
きっと敗因は2度目の人生で異世界なんてところに生まれ変わったことだと思う。チート級の魔法を使えたのも敗因。前世平凡で今世がチートだったらそりゃあはっちゃけるよね。
だけど所詮は人間。神様とかいう本物のチートには勝てない。
そもそも神様が実際にいる世界ってなんなの?アホなの?ていうか偉大なる神様が人間に執着ってバカなの?アホなの?死ぬの?神様と人間の間に子供ができるとかなんなの?地獄なの?
通算100回目の私は結構疲れてる。
今回生まれ変わった私は島に流された。
曰く、ほとんど見たことない父親がクズだったらしい。反逆罪だって。はは、笑える。
さすがにまだ子供を処刑するのは忍びないから、そうだ島流しにしようっていうその発想がぶっ飛んでるよね。さすが異世界。
幼い子供を島流しにするっていう発想が処刑するより残酷だってことに何故気付かない。
「あ〜ひとりごと、ふえそう」
後ろは海。前は森。私を乗せてきた船は遥か遠くに。私の年齢は推定五歳。母親は父親と処刑された模様。本当にどうして子供一人だけ残した。もしかしてあれかな。あの邪神が自分に会うまで私が死なないようにしてるとか、ない、よね……?
あ、やだ。ちょっとものすごく不安になってきた。こわい。
さっそくぶつぶつ独り言を呟きながら森の中に入る。
2度目の人生で身につけたチートは現在も続いてる。よほどのことがない限り、チートな魔法で処理できる。
ここは無人島らしく、獣しかいないって船の男たちが言ってたけど、それはそれで好都合。
……あれ?むしろ島流しにされて正解だったんじゃない?
自給自足生活できるし、ここにいれば人もこないから神子として担がれることもないし、なによりあいつから逃げられる可能性高いし。ちょっと寂しいけど、そのうち慣れるだろうし。
ここが天国!
そう思って裸足で駆け出そうとしたとき、上から大きな影が私を覆った。
「「お・か・あ・さ・ま〜〜〜〜!!」」
サッとその影を避けてそのまま森に逃げ込む。
やだ、なんなの。バレるの早い。
「リシュが準備するの遅れたせいでお母さまに逃げられたじゃない!」
「ボクじゃなくてミシュのせいでしょ!あんな大きな声出すからお母さまがびっくりしたんだよ!」
「なによ!リシュだって大きな声でお母さまの名前呼んでたじゃない!」
「ミシュに付き合ってあげたの!だからミシュのせい!」
「違うわよ!」
「違わない!」
「「ムカつく!!!」」
木の後ろから二人を観察する私。
そろそろやばい。この二人がこんなところで喧嘩なんてしたらやばい。
居場所がバレるし、この島が吹き飛ぶ。
「ミシュラン、リシュラン、けんかはやめて」
「「お母さま!!!!」」
渋々ながらも二人の前に出ると、思いっきり抱き着かれそうになったので、すんでのところで逃げる。
二人はそのまま砂浜にダイブした。
ミシュランとリシュランは双子の姉弟。
産んだのは確か52回目の私だ。
私とあの邪神との間には何人か子供がいる。不本意です。やめてほしい。
子供は私の血が濃い場合は比較的まともだし常識的だからいいけど、あいつの血が濃いときは最悪だ。あいつと一緒になって私を追いかけ回す。総じてマザコンなのだ。寿命だって私の血が濃い子供たちの倍の倍くらいあるから本当最悪。こわい。
ちなみに双子はまだマシな方。馬鹿だからなんとか言いくるめればちょろい。
「お久しぶりです、お母さま!!」
「十年と一ヶ月と二十二日と五時間二十六分ぶりです、お母さま!!」
「……そんなにたつの」
そしてずっと数えてたの……。
自分の娘にドン引きしながら、しゃがんでなにか期待するような目で私を見つめる双子の頭を撫でてやる。そうすると蕩けるような笑顔に変わった双子に私も自然と頬が緩んだ。
でも、成人済み男女が幼女に頭撫でられて極上の笑みを見せる構図ってやばいよね。
「お母さまを見つけたのがあたしたちなら、人間たちに拘束されずにすぐにお父さまの元へ行けるわね、お母さま」
「お父さまもずーっと待ってたんだよ。お父さまは力が強すぎるせいでお母さまを捜せないことをすごく悲しんでたんだから」
にこにこと私に笑いかける同じ顔が二つ。どことなくあいつの顔に似てるその二つに、私もにっこりと笑った。
「ぜっっっっったいにいや」
「「えっ」」
そんなきょとんとした顔をされても、嫌なものは嫌です。
邪神の神子は準成人するまでは自由だ。準成人になる10歳までは親元で暮らして、そこから成人として認められる16歳まで神殿で暮らす。神子を選ぶのはもちろん邪神です。方法は至ってシンプル。見るだけ。
10歳になった子供には神殿に来るように決められてる。これは世界中でそうなってる。
それを邪神が見る。それだけ。邪神には私の魂が見るだけでわかるんだって。こわい。すごいじゃない。こわい。
さてこの制度、誰が制定したかって長女である。4回目の私と邪神の間に生まれた長女はまともだった。まともだったからこそ、父親の頭のやばさに気付いた。
邪神は私を捜すことに自分の持てる力を全て使うのだ。そして見つけられた私の年齢が成人未満でも監禁しようとする。幼女監禁ってやばいよね。精神年齢が大人でもR18指定ものはよくないよね。
邪神が自分の持てる全ての力を使うことも世界に負担がかかって魔獣やらなにやらが溢れ出す。それに加えて、幼女な母親に苦労はかけさせられない。ということで出来た神子制度なのだ。
ちなみに長女の上に長男がいるけど、長男の頭の中は邪神寄りのマザコンだからヤバイ。近親相姦はさすがに無理です、ハイ。
ちなみに長女も長男もまだまだ元気だと思う。長女はまともだけどマザコンなのが残念なところ。
なにが言いたいかっていうと、神子制度は必ず邪神に捕まるのが決まってるとはいえ、私を保護するための制度なのである。
保護されなかったら幼女のままでR18指定ものになってた可能性あるからね。あはは。笑えない。
邪神は必ず見つかると思ってるから静かに待ってるのであって、あの神子制度がなかったらさっさと私を(執念で)捜し出してたと思う。
私だって馬鹿じゃない。きっと神殿に保護を求めればいいことはわかってる。
だけどさ、だけどさ、
「もう100回目だし、たまにはいきぬきしたいのよ…….」
世間的には死んだことになってる(島流しされた幼女の生存率は基本ゼロ)し、このまま行けば当分は自由に過ごせる。
私がもうこの世界に生まれたことはわかってるだろうけど、絶対に見つかると思ってる邪神はおとなしく「待て」してるだろう。
つまり今回だけでも邪神から逃げてもいいんじゃないかなって。私はそう思うのですよ。
さすがに100回目。私だって邪神を嫌ってはいない。むしろ……ごにょごにょ。だけど最初は敵だったんだから、私のプライド的ななにかが素直にさせることを許さない。
キリのいい100回目だし、これはきっと可哀想な私を思ってのチャンスだと思うんだよ。……素直になるための。
というわけで。
「ねえ、リシュ、ミシュ。すこしのあいだだけでも、わたしといっしょにくらして?」
「「喜んで!お母さま!!」」
やはり双子はちょろかった。