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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あおむし残酷物語

作者: 結城藍人

※「残酷描写あり」は保険じゃありません。また「グロ描写」もあります。ご注意ください。

昼休みにママから写メールが来た。件名は「大漁」。

写真を見てみると、1歳半の次女が虫かごを持っている。


この次女、以前に「母をたずねて三千粍」という短編のネタにしたことがあるのだが、卒乳のタイミングを失してしまい、1歳半になったのに、まだ母乳を飲んでいる。

最近は、親の言うことを理解するだけでなく「抱っこ」ぐらいは言うようになり、「これをママに持っていってね」くらいの簡単なお手伝いくらいはできるようになったのだが、母乳には執着があるようで「おぱい~!!」と叫びながらママのブラジャーをずらして胸にかぶりつく事がしばしばある。

閑話休題。


はて、虫かごなんてウチにあったかな?

などと思いながら、もう1枚ついていた写真を見ると、緑色のかわいらしい青虫が写っていた。

なるほど、これを捕まえたのね。

1匹なのに「大漁」かい! とツッコんだものの、結構大きそうな青虫なので、そう書きたくなる気持ちは分からなくもない。


次女も、4歳になる長男も、絵本の「はらぺこあおむし」(エリック・カール作)が大好き。既に絵本は卒業した6歳の長女も、昔は好きだった絵本で、今では弟妹に読み聞かせている。

なるほど、これから青虫の観察をさせるのも良いかもしれない。


退社時間に、今度は電話が来た。青虫に食べさせる葉っぱが欲しいという。


「葉物野菜でいいんじゃない?」


「ネットで調べたら、農薬ついてるの食べさせたら死んじゃうんだって。青虫を拾った公園にある木の葉を取りに行きたいから、早く帰って来て」


「了解」


そんなに農薬ついてる野菜、人間だって食べたくないぞ、と思いつつも、それなら無農薬有機栽培の野菜を買えば良いかな、と思って駅前の自然食品のお店に寄ったところ、有機無農薬のキャベツは普通のキャベツの2倍お値段!

さすがに、青虫に人間より良い物喰わせる気にはならず、買わずに家に帰った。


「この青虫ちゃんはねえ、公園ではーちゃんと遊んでたら、木から落ちてきたの」


「かわい~」


「あおむし、あおむし!」


帰ってみると、案の定、子供たちは青虫に夢中。そして、それ以上にママが青虫を気に掛けていた。

元気が無いからと言って、虫かごに水に濡らしたティッシュを入れてみたところ、少し元気になったという。

虫かごには、葉っぱも一応入っているが、食べていないらしい。


と、ママが妙な事を聞いてきた。


「太い方と細い方、どっちが頭かな?」


「普通は太い方が頭だと思うよ」


「でもねえ、細い方を先頭にして動いてるのよ」


そう言いながら、スマホの動画を見せてくる。見ると、確かに細い方が頭のようだ。


「なるほど、こっちが頭らしいね。そういう青虫もいるのかな」


などと言いながら、家にある子供向けの昆虫図鑑をパラパラとめくっていたら、偶然その青虫そっくりの絵を発見した。


「おーい、これじゃないのか?」


「あ、本当、そっくり! これ、何て名前の蝶?」


「モモスズメ」


「雀?」


「そう。そして残念ながら、蝶じゃない。スズメガという蛾の一種だ」


「蛾!?」


当然、幼虫の絵の横には成虫の絵もある。


「…可愛くない。どうして~、どうして蛾なの~!? こんなに可愛い青虫ちゃんなのに~!」


蛾だと知ってテンション下がりまくりのママ。


「さなぎも可愛くない…元気も無いみたいだし、葉っぱも食べないし、可哀想だから明日になったら元居た所に帰してあげようか」


あっさりと掌を返して、リリースしようと子供たちを説得するママ。まあ、気持ちは分からなくもない。

子供たちも同意したので、翌日、ママが長男を幼稚園に送った後で元居た公園に帰すことにした。


そして翌朝、まず最初に家を出る長女が青虫ちゃんにお別れを言う。このとき、7時40分。

少しフンはしているが、やはり葉っぱは食べていない。確かに、元の所に帰してあげた方が良さそうだ。

次女がいたずらしないように、高い本棚の上に虫かごを載せる。


長女が出かけたあと、今度は長男の歯磨きや着替えをした。このとき、8時20分。改めてママが長男に青虫ちゃんとのお別れをさせようと本棚の上から虫かごを下ろし…


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ママが虫かごを放り出した。

食卓の上に横倒しに転がる虫かご。


「どうした!?」


「怖い! 自分で見て!!」


リビングから寝室に逃げ出して叫ぶママ。

一体何事か、と思って虫かごをのぞいてみると、そこには…


体全体が覆い隠されるくらい大量の白い小さなウジのような虫にたかられている青虫の姿があった。


「寄生虫か!?」


ジガバチの類は、青虫に卵を産み付けて、やがて体内で孵った幼虫が青虫を体内から喰い荒らすという話は以前に読んだことがある。ただ、その話だと蜂が出てくるのは青虫がさなぎになってからだったし、出てくる蜂も1匹だけだったと思うのだが、この青虫はこんなに大量に寄生虫の卵を産み付けられていたのだろうか?


疑問には思いつつも、見ていて気持ち悪いので、パニック状態の女房を落ち着かせるためにも、とにかくこの青虫と謎の幼虫をまとめて捨てることにした。


「虫かごごと捨てて! 二重に包んで!!」


そこまでしなくても…などと思いつつも、気持ちは分かるので指示通りにスーパーのレジ袋で二重に包んでゴミ捨て場に捨てに行った。我が家のある町のゴミ分別は、プラスティックやビニールも燃えるゴミで良いので、そのまま捨てられる。


「小さな虫、残ってない? 虫かごからこぼれてない? 逃げてない?」


「大丈夫、こぼれてないよ。一匹も残ってないって」


そこまで言うと、ようやくママも安心したようだ。


「どうしてよ~」


嘆くママに、自分の推論を述べる。


「たぶん、木から落ちてきた時点で、もう寄生されてたんだろう。あまり元気が無かったのも、葉っぱを食べなかったのも、寄生されてたからじゃないかな」


「そうかもね…」


そんな事をしているうちに出勤の時間になったので、会社に向かうことにした。


昼休みに、ふと思い立ってネットで調べてみたら、あの小さな白い虫は、やはり寄生虫のコマユバチだったらしい。

ただ、そのことが書いてあったサイトの記事では、何と驚くべきことに、あれだけ大量のコマユバチの幼虫に体内から喰い破られていたのに、それでも青虫は生きていたのだという。


…ということは、あの青虫ちゃんは、まだ生きていたのだろうか。そこまで細かく見ないで捨ててしまったのだが、今となっては確かめようもない。


その晩、家に帰ってからママにやはり寄生虫だったらしいと話すと、ママもネットで寄生虫のことを調べていたらしい。


「青虫が寄生される確率は50%もあるんだって」


そこで、あの青虫ちゃんが、まだ生きていたかもしれないと言ったのだが、ママは首を横に振ってこう答えた。


「それでも、苦しいでしょ。それに、すぐ死んじゃうよ。私、人間で良かったよ。あんな死に方はしたくないもの」


なお、長男には「青虫ちゃんは病院に行った」と説明したらしい。長女には、学校から帰ったときに「寄生虫にやられて死んじゃった」ときちんと伝えたそうだ。もう長女は、そういう事もしっかり分かる年だと判断したのだろう。


それにしても、あの光景を長女が直接見ないで済んだのは良かったと正直思う。わずか数十分の差で、トラウマになるような光景を見せるところだった。

ちなみに、長男の方は、ママが虫かごを放り出したときに、そのまま一緒にリビングから出ているので、虫かごの中は見ていない。


「自然って厳しいよね」


子供たちが自然の厳しさを実感できた…というよりも、むしろ親の我々の方が、その事を実感した出来事だったのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] エッセイランキングにあったので、何気なく読んでしまいましたが、これ、ホラーでもよさそうな……(||゜Д゜)ヒィィィ! 本文の→1匹なのに「大漁」かい!…………本当に大量だったという……………
[一言]  まあ、良くあることですよ(笑)  私は小さい頃は自然に毎日接していたので、イロイロ目にしたものです(自主規制)  しかし、蛾というのは芋虫から蛹になって成虫になるという、男の子の憧れカブ…
[一言] 自然の掟とはいえ、なまじ知識があるだけに 声にならない悲鳴が出ましたわw 寄生虫はマジ怖い。 刺身とかにも潜んでますしね。
2016/06/18 07:37 退会済み
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