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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
三章 狂人の抱く夢
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第七十五話

人になぜ曇天なのかと聞けば、たいていは笑って別の話を始めるだろう。


あるいは昨日火事があったからというかも知れない。


あるいは昨日の夕日があまり輝いていなかったからというかも。


猫が顔を洗ったからという人も言うだろう。


カエルが鳴いているのを聞いたからと答える人もいるかも知れない。


でもきっと、そこに竜が集まっているからと答える人間は誰もいないだろう。






空には、見渡す限りに雲が漂っていた。雲の下から見ても地平線までそれは無限に続いているようで、空と陸を明確に隔てている。そしてその雲を作り出した本人達は、雲の上に横たわりながら地上の様子を観察していた。


「・・・・・・いささか、人の域を超えてはいませんか?」


雲を作り出した本人―――――――ソーンの人間が神と崇める竜達、その中でも一番古い歴史を持つ竜は、雲に遮られているはずの地上の風景がまるで見えているかのような口ぶりだった。だがこの雲達は竜本人が作り出したもの、視界を遮らないように透かすことも、特定したものだけに透けて見えるようにすることなどは造作もないことだ。そして神と崇められるその生き物の上で、話しかけられた少女は飛びそうになる麦わら帽子を抑えながらも、一緒になって地上の様子を眺めていた。


「なにか不満でもあったの?」


「いえ、しかし本当なのですか?あの建造物を勇者が作り出したという話は。勇者の姿はかなり離れたところにあるようですが。」


「ならその距離から作ったんでしょ?」


何も不思議なことはないと、そう言うかのように少女の声は憮然としていた。少しの間言葉を失っていた竜は、しかしまだ質問を重ねる。


「彼は神にでもなったというのですか?なにかの形を変えるでもなく、ましてや魔力の気配すら全くなかった。全くの無から物を作るのなら、それは神の技ではないですか。」


言外にそんなことはありえないと、竜はそういっている様だった。竜の疑問になぜだか微笑を浮かべた少女は、歌うようなささやき声を雲海に響かせる。それはまるで、どこか誇らしげでさえあった。


「私達はね、夢を叶えたいのよ。そのためなら、この命を捧げることどころか世界だって変えてみせる。それが神様にしかできないことなら、私達は神様にだってなろうとするわ。」


「人のみで神になることがあると?」


竜の言葉に、少女は笑いだした。なにかまずいことでも言ったのかと竜はまた口をつぐむが、その誤解はすぐ後に少女自身のほうから解かれる。


「もちろんそんなことはできないわ。私達は人として生まれてきたんだもの、たとえ悪魔の面を持っていたとしても、聖人のような面を持っていたとしても、人であることには変わりがない。あの力だって、一面であって彼が神になったわけではないわ。でも神様みたいでしょう?」


少女の言葉に竜はうなり声で答えていた。まだ納得がいかない様子ではあったが、それを待たずして頭の上に乗っていた少女は腰を持ち上げる。


「さて、作ったはいいけど動けない本人に代わって、私達が働きましょうか。この世に再び降臨する準備はいい?」


「それは別にかまわないのですが、本当に大丈夫なのですか?神がまた我々の前に現れる可能性はあると思うのですが。」


どこか不安そうな竜の言葉を、少女は笑い飛ばす。快活なその笑い声に、竜は驚いた。


「それについては信頼できる人達が付きっきりでやってくれてるわ。さあみんな、私達に続きなさい!」


少女の言葉に、竜は一瞬遅れて体をうねらせた。頭から雲の中に突っ込むと、それに続いて次々にあまたの竜が地上に姿を現す。そうやって今までほとんど人の前に姿を現さなかった竜が、戦場に大勢現れることになった。











「ほう、あれがソーンの人間が信望する神か。」


謎の建物が突然現れ、それに続いて巨大な生き物が雲を裂いて現れる。そんなすぐ向こうで起きている現象を眺める老人がいた。その老人が超常的な景色に感嘆の息を吐いていると、その後ろから切羽詰まった声がする。


「タリウス様、敵が近くまで迫っています。一旦距離を取ってください。」


「お前の目は節穴か、シェルよ。あの突然現れた建物がどうやらあちらの進行を止めているようではないか。ならば一生に一度お目にかかれるかどうかのこの現象、じっくり観察しないでどうする。」


「議員がわざわざ観察することではないでしょう」


シェルの呆れ混じりの言葉にも、タリウスという老人は目の前の風景を書き写す手を止めない。それどころか、そのまま普通に会話まで始めていた。


「私は確かに元議員としてお前とともにここに来たが、研究者であることはいつも忘れてはいない。当然あれも記録させてもらう。だが、あれの存在が本当だというのなら我らの神もやはり実在しているのだろうか、どう思うかね?」


「それは国に帰ってからでもいいでしょう、早く逃げてください。正直、あれを相手にしたら私でもそう長く持ちません。あの大きさにあの量、その気になればあっという間に軍は蹂躙されるでしょうし、話に聞けば勇者の体を傷つけられる武器をさずけたのは彼らだという話ではないですか。」


「その話は聞いていないが、なるほど。これは一大事なようだな。」


しかし口ではそう言いながらも、老人の手はせわしなく動き続け足は地面に縫い付けられているように動かなかった。だが業を煮やしたシェルが実力行使に出ようと一歩踏み出したとき、老人の手は止まる。やっとその気になったかとシェルが安心したとき、それはシェルの脳裏にも響いた。



『地上に住む数多の人間よ、まずは私達の話を聞いてもらおう。』



タリウスの耳には聴き慣れたニイドの言葉に聞こえたが、どこか変な訛りが有り本人が別の人間に通訳させているような違和感があった。


それはともかく、この声の主はあの空を舞う竜のようで、戦いをやめて帰るようにという内容だった。


「不思議な言葉だな、いやこれは魔法か?シェル、君にはどう聞こえた?」


「どうやら我々に危害を加える気はないようですが、まだ油断はできませんね。」


「なに、相手をすると手ごわいのだろう?面と向かって敵対されているよりかは大分ましだ。それにあの突然現れた建物との関係も気になる、ここは素直に帰ることにしようかの。」


ちょうどスケッチも終わったしの、そういってタリウスはスケッチブックを閉じる。満足そうなタリウスの表情を見てシェルはため息を付かざるを得なかった。











両軍が国に帰ってまもなく、各国のもとに竜が現れた。彼らは国の王達に言った、これからは戦争をしてはならず、どうしても争わねばならないことがあるならソーンとニイドの間にできた円形闘技場にて決めるようにと。半ば威圧的なその言葉に反発するものもいたが、結局は三つの国全てが首を縦に振ることになった。


それに伴い、円形闘技場の運営をする人間も各国からそれぞれ出されることになった。ニイドからは戦争に反対して国を追われていた議員と兵士達が、ガルバレイからは何人かの将校と志願したもの達が、ソーンからはまだ他国に憎しみを持っていない子ども達が選ばれる。最初こそわだかまりがあったが、そういう目的のために選ばれただけあってすぐに打ち解け合い、間もなくしてきちんとした制度も出来上がった。


どこかに不満を持つ者こそまだいるにはいるであろうが、神を信望するもの達にとってその存在は偉大なものであり、そしてその力は畏怖ともなる。きっと表立って逆らうようなことをする者はいないだろう。


戦争はこうしてなくなった。そして、一年が経った。

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