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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
三章 狂人の抱く夢
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第七十四話

そこは奇妙な場所だった。近代的なのか、それとも魔法のようなのか、視界いっぱいにはテレビのように映像が映し出されている。しかも見覚えのあるそれは、シノトの記憶にもある、いやそれはシノトの記憶そのものにも見えた。いくつもの努力とも言いなおせる徒労の映像の前には、それがただの映像であることを証明するように誰かが座り込んでいる。その誰かは、シノトを見ると口を開いた。


「おや、来たか。」


シノトはその人物を見て、なにか引っかかりがあるのか顔をしかめた。何かを思い出せそうな、記憶力が無駄に良いためそんな予感に初めての戸惑いを見せるシノトは、その言葉もたどたどしい。


「ここは、君は・・・・・・・リントくん?」


「魔法の世界の空気はどうだ?と、こんなことに文句を言われても俺は何もしないがな。それと俺とあいつは別人といってもいい、間違えるなよ?」


少し顔をしかめるその男の顔を見ていると、シノトも徐々に思い出してくるものがあった。様変わりこそしてはいても、どこか似た雰囲気を感想に抱いたことまで鮮明に思い出したシノトは、一度深呼吸をする。そこの空気は苦くもなく甘くもなく、これ以上にないくらいに何も感じることはなかった。


「前にも来ましたねここ。もしかして死後の世界ですか?」


「残念ながらそれは違うな、ここは俺が作った魔法の世界だ。そして俺がここにいるのは、残された力の調整者としてここに意識を分けているから。まあといっても今のお前を全快させるだけの力は残っていないが、死なない程度には適度に治してやろう。」


男にそう言われ、そこでシノトはまだ自分が死んでいないことを知った。だがそうなるとシノトにも疑問に思うことがある。シノトの記憶では、シノト自身瀕死に近い重傷を負っていた。今まで縁のなかったはずのものがシノトを治す理由は見当たらない。


「なぜそんなことを、というかあなた方は一体誰ですか?」


「俺のことより自分のことだろ。どうだ、お前の夢は見つかったか?」


話をそらされた気がしたが、シノトは話を聞きやすくするためにもそれに答えた。


「ええ、見つけましたよ。もしかしたら怒られるかもしれませんが、あとは方法だけです。」


「無謀に見えるものでも、その姿が見えていればあとは現実を理想に沿わせるだけだ。そうか、見つかったんだな。」


男の言葉は、どこかしみじみとしていた。どこか話を聞くような雰囲気ではなくなったことでシノトが押し黙っていると、男の目に力が戻ってくる。その奥に感じる力強さに、シノトも思わず体が強張った。


「さて、お前が抱いた夢は神にも叶えられない夢だ。当然人に生まれたお前が叶えることはできない、それを人は夢という。儚く散って、すぐに現実を見ることになるか?」


男の言葉を否定するように、シノトの目つきが鋭くなった。自然と四肢に力を漲らせるシノトを見て、男も満足そうに頷く。


「強く願うことだ。全てを凌駕するくらいにな。それさえできれば、世界は変わる。」


「願うだけでは何も叶いませんよ?」


シノトの言葉は、どこか挑発的であった。既にかすれ始めていた世界の中でも、その言葉を受けた男の表情ははっきりとしている。


「そうだな、だがお前はそうではないだろ?」


最後までしつこく残っていた男の表情も消え、そして世界は再び閉じてしまった。











その兵士は、平原を走っていた。鎧を着ていることを考慮してもありえないほどの速度を出しているが、兵士は一人だけではない。そこに並ぶように駆ける兵士達の目的は一つ、今まさに向こうの方で構えている敵を殺すためだった。


兵士には代議名分があった。一緒に昔学んだ仲間を殺され、故郷を焼かれ、敵によって無残な姿になった同国の民たちを見てきた。しかもあろう事か敵はもう一度こちらに攻め込み、そして今陣取っているそこも兵士達の国の中であった。


許せるはずがなかった。食料で豊富な国はまたたく間に飢えた人間が増え、兵士の家族も皆不幸になった。だがこれもまだいい方、兵士の仲間には親戚一同が皆死んでしまったものもいた。敵は、ソーンの国に多大な不幸をばらまいていた。


もはや兵士達、ソーンの国の人間全ての望みはひとつだった。我らを不幸にしたニイドに制裁を、奴らが犯した罪にふさわしい断罪を。仲間を大勢殺した奴らは、その命を持ってでしか償えない罪を犯したと、国の滅亡だけでは済まさない、その全員を処刑されて当然と。未だにニイドが裁かれていないのは、罪の神を崇めるソーンの人間にとっては特に、激怒すべきものでもあった。


その兵士の視界の端にも、他の兵士が走る姿が見えていた。先頭を走る兵士には見えていないが、当然いま平原には雪崩が駆けるがごとく黒い軍団がニイドの軍に迫っていることだろう。まだ距離こそあれ、そんなものは運動能力に優れる彼らにとってはないものに等しい。


兵士はもうすぐで敵を血祭りにあげることができると思い、地が沸き立つような興奮を覚えていた。高ぶった感情は、兵士の視界にありえない光景をかぶせてみせる。彼の友が、故郷が、無残な姿に変わった光景が薄らと向こうに透けて映った。幻覚は彼に、敵を殺せと叫ぶ。兵士には是非もない、それに答えるかのように大地を踏みしめる力も強くなる。


「止まれ、止まるんだ!」


そんなさなか、味方の声は感情の高ぶった兵士の耳にも届いた。しかし聞こえたはいいが、止まる理由が見当たらない。敵との距離はまだ離れているし、敵が弓を構えたからといって止まる理由もない。しかし確かに後方から聞こえたその声に兵士が足を止めようとしたその時、兵士の目の前に、それは魔法のように現れていた。


まず何よりも目を引いたのは、そこに刻まれた文字だった。無機質な石の板に掘られていたのは、今は亡き兵士の親友の名前だった。降ったのか生えたのか、突然現れた人間大のそれに兵士はなんとなく足を止める。彼は気づいてこそいないが、平原のいたるところ、いや今では所狭しと並べられたそれにソーンの殆どの兵士が足を止めていた。


兵士が石に掘られた名前に少し見とれて、そしてそこから顔を上げれば既にニイドの軍は見えなくなっていた。視界に映る金色は既になく、その代わりに巨大な建物がいつの間にかそびえ立っている。見上げるようなそれに兵士が視線を上げると、それを待っていたかのようにその時、空を覆っていた雲が突然裂けた。

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