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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
三章 狂人の抱く夢
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第七十話

夜の闇を裂いて、少年少女の声が木霊した。重なり合った声は、あるものにとっては鼓舞になり、あるもの達にとっては警鐘となる。先ほど響き渡った声ですでに警戒態勢に入っていたニイドの部隊に、影から現れたソーンの少年少女が襲いかかった。その迫り来る集団の中でも、シノトだけが突出して速い。走る他をものともせず、短い距離にも関わらずどんどんと離していく。


「またかよ!あいつどんだけ速い脚をしてるんだ!」


誰かの声を背に受け、シノトはなおも駆け続ける。村が近づくにつれ、見張りも次第にシノト達に気づいた。


「敵だ、て――――――」


敵の叫びが声になる前に、ある程度加減した打撃で兵士の意識を吹き飛ばす。そのあまりの速さと夜の視界の悪さのせいで目測を誤った兵士は、それをモロに食らって地面にのびることになった。


「敵襲!各自武器を取れ!」


やっと誰かがそう叫ぶ頃には、シノトが見張りを倒して四人目を数えるというところだった。もちろんシノトだけではない、すでに相当数の人数が村に侵入している以上それ相応の人間は倒されている。もちろんこうやって誰かか叫んだということは仕留めきれなかったものがいるとこういうことになるのだが、逆を言えば今の今まで誰も失敗していなかったということだ。それはつまり子供達の安全がある程度保証されているということでいいことなのだが、シノトはそれを知っていても浮かない顔のままだった。


バレたということで吹っ切れたのか、シノトはすれ違う兵士達を気絶させながら村の中心に一直線に向かった。もはや村の中はニイドの兵士で溢れかえっている。誰しもが武器を手に侵入者を撃退しようと目つきを鋭くさせていた。だが、その中に一人もシノトを傷つけられる武器を持つ者がいない以上、シノトが彼らを恐れる理由はどこにもない。その足に一切の迷いはなく、地面に横たわるものの数は増えていく。シノトが通った道は、人が邪魔で足場を探すほどまでになっていた。


ふと、シノトの伸ばした手が止まった。道を曲がり、出会い頭を叩こうとしたところで動きが止まる。伸ばそうとした腕の先には何もなく、その代わりシノトの腰より少し上くらいに頭のある少女がシノトを見上げていた。


「・・・・・・ええっと――――――」


「お隣失礼しまーっす!」


シノトがなにか声を掛けようとする前に、少女は風のように駆けていきあっという間にその姿を消した。まるで友達の家にあそびにいくようなテンションだったが、それは彼女だけではない。ここに来ている子供達は皆こういうものだった。戦いの場には似使わない明るい声が耳に残ったのか、顔をしかめ耳を抑えながらも次の場所へと足を運んだ。











気づけば、シノトはこちらに背を向ける相手を追いかけていた。劣勢と見たのか、相手はほうほうの体で逃げ始めている。少なくない数が夜の向こうに消えていくのを見て、シノトは足を止めた。


シノトが今ここにいるのは、子供達が殺されるのを防ぐため、そして殺すのを防ぐためであった。レベルアップだかなんだか言われたことは、もうシノトの頭には残っていない。ただそれだけのためであったため、シノトは誰も殺していなかった。子供達も、気絶したものまでは殺さないだろう。そう思っていた。


消えていくいくつもの背を眺めながら、シノトは不意に不思議に思う。子供達はこういっては何だが、非常に殺気立っている。だから逃げる相手を誰ひとり追いかけないことはシノトにとって実に不思議だった。


なぜなのか、それを考えていると後ろの方から音がする。振り返ると、そこにはある種地獄のような光景が広がっていた。


「何やっているんだ!」


シノトは、思わずというかほぼ反射的に手近にいた少年の肩を突き飛ばした。少年がバランスを崩し、その手からは血に濡れた剣が跳ねる。剣ははねる前に兵士の背中をさらにえぐるが、横たわった兵士は跳ねることすらしなかった。見ればひと目でわかる、刺し傷はひとつじゃない。少年が普通の剣で鎧を何度もさし貫けるということにも驚くところだが、シノトにそれを気にする暇はなかった。


顔を上げれば、視界の範囲内で同じようなことがいくつも起こっていた。黙々と止めを刺していくもの、喜々として首をはね回しているもの、少年、少女、誰もがためらいもなく、動かぬ相手に剣を突き立てている。理由を考える暇はなかった、シノトは素早く動き、少年達の手から剣を取り上げていく。戦場で剣を取り上げることは彼らの身に危険が及ぶ確率が跳ね上がるが、敵が見当たらなくなった以上ひとまずその心配はなかった。ひとまず目に入ったものの剣を全部取り上げて地面に落とすと、そこに子供達の非難が集中する。


「いいところなのに邪魔をするなよ、そんなに横取りされたのがいやだったのか!」


「ほとんど倒してるくせに、とどめさしてないのが悪いんだ!どうせ手柄を横取りされたのに怒ったんだろ!」


「俺達と行動してまでそんなに手柄が欲しいかよ!」


「このクソ野郎!」


「私の剣を返して!」


四方八方から飛んでくる子供特有の容赦のない言葉に、シノトは耳をふさぐことをこらえて子供達を睨みつける。子供達はその鋭い視線に一瞬怯みこそしたものの、その結果言葉はさらに過激になった。声を聞きつけた集まった子供達も便乗して、非難の声は大合唱となっていく。


「殺す必要はないだろ!敵が動かないなら縛ってしまえば捕虜にもできるのに、無駄に殺してなんになるんだ!」


負けじと、シノトも声を張る。数の暴力に押されまいとするその声は、しかしどこか彼が発することによって空虚なものに聞こえた。


「もし捕虜になって、それがいいことなんですか?」


「身代金と交換できるでしょ。」


誰かの言葉に、シノトは反射的に答えた。声の方を向けども、誰の言葉かは分からない。今度は背後から聞こえた。


「身代金と交換して、それで?のうのうとそいつを国に返すんですか?」


「その通りだけど。」


「それで、そいつはどうなるんです?ちゃんと罪を清算するために死にますか?全財産を没収されますか?当然、犯した罪を考えればそうなりますよね?」


子供特有の高い声に、シノトは答えることができなかった。声のもとを探して視線を動かすと、ある少女と目があう。少女の口が動いた。


「お兄さん、あなたおかしいです。それが分かっててなんでそんなことをするのか、私はちっとも理解できません。本当に国王様に認められてここにいるんですか?」


「・・・・・・とにかく、殺すのはダメだ。」


シノトはもはや誰に言っているのかもわからない、吐き捨てるようにそう言うと武器を紐でまとめ、足早に去っていった。残った子供たちを、授業終わりのような騒然とした空気が包み込む。


「あいつなんかおかしいよな。一人だけ年齢が離れているのもそうだけど、行動が怪しすぎて浮きまくってるんだけど。」


「集団行動には向かない性格してるよな。」


飛び交う言葉の中に、シノトをよく思う言葉はなかった。しかしそれも当然のこと、彼らは自分達が当然と思うことを止められたのだから、意志の弱くない彼らに反感を持たない人間は一人もいない。段々と高まる感情の中、だからこそ次の言葉は誰の耳にも鮮明に聞こえていた。


「実は俺、戦士の人に言われてたんだけどさ。あの人暗殺の計画出てるみたいだぜ。」


その言葉に子供たちが集まったことを、シノトは知らなかった。

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