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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
三章 狂人の抱く夢
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第六十八話

ニイドが攻めてきてから丸一日が過ぎていた。杖をついて崩れた大門の場所までやってきたシノトは、そこでレバと出会う。戦いが終わったばかりだというのに修復のために飛び交う声の中でも、レバの声は何故か鮮明にシノトの耳に届いていた。


「ああ、シノトさん昨日はお疲れ様です。足の調子はどうですか?」


「痛みは随分引きましたよ。もうすぐでちぎれそうって怪我だったのにこんなに早く治るなんて、魔法は相変わらずすごいですね。」


「それは良かった、魔法班を連れてきて正解でしたよ。」


満足そうにするレバのとなりを通り、シノトは昨日戦場になった場所を眺めた。山を背にした街の前は平原となっており、草はかなりの割合が踏み潰されている。だがそれはかなりの人間がここにいたという証拠なので何ら変なところもないのだが、所々が赤く塗りつぶされた平原にはいつの間にか穴のようなものが、いたるところにあいていた。


「作戦通りに行ったみたいですね。街の中を見ていると随分と攻め込まれたようですが、これも織り込み済みだったんですか?」


「いえ、ここまでやられるとは思いませんでしたよ。一時期はかなり危なかったですしね。」


作戦というのは、トンネルの中を通って相手を挟撃するというものだった。シノトは前に盗賊団にあったときに知っているが、彼らは仕掛けを隠すのが得意だ。平原にはいたるところに隠し穴があって、兵士達はどこからでもいきなり現れることができる。穴が空きっぱなしなのは、まだ仕掛けを直していないからだろう。


しかしこの作戦は前線を維持できていないと決行しない予定のものだった。シノトが見る限り街の中まで攻め込まれた跡がある中で、よく決行したものだと思う。


「なにか予定と違ったことがあったんですか?」


「まあ、そうなんですけど――――――」


「予定より遅れたことは謝ろう。だがこちらもこの慣れない土地の中にいたのでな、どうしても別働隊と合流するのが遅れてしまったんだ。」


シノトとレバの会話の途中、そこに割り込んでくるものがいた。聞き覚えのあるその声の方をシノトが見ると、やはり見覚えのある人間がいる。シノトの声は懐かしさに自然と明るくなった。


「シェルさん、話には聞いていたけど本当に来たんですね。」


「前は済まなかったな、まだ私は自分の判断に迷いがあったのだ。今ではもう目的ははっきりしている。しっかりとお前の味方だと名乗ろう、シノト。」


突飛にシェルが手を差し出すと、シノトもその手を取った。


「さて、戦争も終わりましたしこっちの勝ちでいいですよね。シェルさんはどうするんですか?」


「いま逃げ帰っている軍を追いかける形で国に帰り、二つの国の中継をしようと思う。これからが大変だな。」


シェルの言葉に、シノトは一瞬笑顔になりかけたが、その逆立つ金髪を目にしてなにか思い出したのか急にしんみりとした。


「・・・・・・テクノバーンさんは、死ななくちゃいけなかったんですかね?」


シノトの言葉に、シェルも少し目が険しくなる。そう、あのときテクノバーンを殺した人間のうち一人はシェルだったのだ。言いたいことは分かっているのか、シェルは誇張気味に笑いかけた。


「やつの聖剣は、ニイドの国の選民思想の象徴だった。すべてを斬るあの剣は国の力の象徴であり、それゆえ深い信仰を持っているものも少なくない。だが、それが傲りとなってしまうこともある。――――――傲りさえなくなってしまえば、髪の色で人を差別するようなことはなくなるだろう。」


「そうであればいいんですけどね。」


シノトの言葉は、しばらくの間どこか寂しく宙を漂っていた。











シノトの不安は、別の形で実現することになった。それは軍関係者が集められた会議で、シェルがローグの街を出て言ったあとのことだった。


「では掃討作戦の計画を始めよう。」


「ちょっと待ってください、逃げた相手を追いかけてなんになるのですか!」


何のために集められたのかとシノトは不思議に思っていたが、蓋を開けてみれば予想よりも斜め上にひどい話に思わず声を荒らげる。しかしその声に反応したのはレバだけで、それ以外は皆平然としたままだった。


「反対する者は?」


その声に、シノトは立ち上がった。流石に今度は無視することもできないのか、シノトは一身に注目を集める。どこか冷ややかなものが大半を占めているのは、決して気のせいではない。だがその中でもシノトは胸を張っていた。


「俺の願いは、平和を作ることです。」


「これが平和につながる。」


「俺は反対しますよ?」


「そうだな、だが怪我をしているお前が、我々に勝てるとでも?」


アトラス王の言葉に呼応するように、数人が剣を抜いた。その剣全てがこうなることが分かっていたかのように、紫色に輝いている。シノトの視線が鋭くなると、タイミングを見計らって咳払いが聞こえた。次に視線が集まったのは、レバの元だ。


「我々も反対します。」


「確かに、君達には感謝している。だが我らの仲間が蹂躙された過去の報い、邪魔をするというのなら容赦はない。君達だけでは我らに勝てない、そうだろ?」


最初こそ威勢は良かったレバだったが、アトラス王の言葉は本当のことらしくそれ以上何も言うことはなかった。レバは言いたいことこそあったが、率いてきている以上兵士を無駄に死なせるわけにはいかないのだろう。


「戦闘は子供達に任せる。主力は一人も逃さないように広がっていけ。」


アトラス王がそう言った途端、にわかに場が殺気立つ。殺気の元は、もちろんシノトだった。臨戦態勢に何人かが腰を浮かせる中、アトラス王はシノトを嘲笑する。


「そうか、お前は子供が戦うことに異議があったな?よくわからない奴だ、何がそんなに不満なんだ?」


「人はなるべく死なないのがいいと思います。」


憮然とした態度を取るシノトの言葉に、大勢が笑いだした。笑っていないのは、シノトとレバだけだ。笑うものの中には大げさに机を叩くものもいて、その音はまるでシノトを非難しているようでもあった。


「傑作だな!よりにもよってお前が言うとは!」


「無駄に死にますよ。」


「ここで死んだらそれまでということだ。そもそもそんな簡単に死ぬような奴は我が軍には子供とていない。それに、ここで生き残ればいいレベルアップになるとは思わないか?彼らの人生には栄光が待っているだろうな。」


シノトがまた立ち上がると、それに合わせて数名が腰を浮かせる。しばらく両者の間でにらみ合いが起こったが、折れたのはシノトの方だった。ため息をつきながら席に座るが、まだ視線はアトラス王に向けたまま離さない。


「・・・・・・俺も行きます。」


「まあいいが、手をかける邪魔をするなよ?下手なことをすればお前が死ぬ事を忘れるな。」


アトラス王の忠告に、シノトは了解も拒絶もせずただ黙ったまま深く席に座り直していた。

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