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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
三章 狂人の抱く夢
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第六十四話

突如現れた煙は、前にシノトも見たことがあるものだった。テクノバーンが先に魔法を唱え終えていたのか、それとも魔法の効果なのか、判断のつかないシノトだったが、とりあえず相手もこちらの位置を特定できないと踏んだのかさして慌てた様子を見せない。――――――だがそれが甘い考えだと気づいたのはすぐ後のことだった。


煙を引きちぎるように現れたテクノバーンが、横に一閃。紫の光が空を切る。そこにいると確信がなければできない完全な不意打ちに、だがシノトの剣はすんでのところでそれを打ち上げた。火花が散り、シノトが反撃しようと狙いを定めるとテクノバーンはまた煙の中に紛れる。


相手がどうやら慣れているらしいことを今の一合で理解したシノトは、すぐさま煙の中からの脱出を試みた。


しかし駆け出そうとした瞬間、その目前にいきなり剣が現れ――――――シノトはそれを分かっていたようにくぐり抜ける。しかし反撃するでもなく、そのまま大きく跳び煙の中から出た。シノトがすかさず土を少し足元からすくい上げたところで、テクノバーンの方が煙の中から歩いて出てくる。


「よくかわしましたね。タイミング、速度ともにここ一番の出来だと思ったんですが、勇者殿もついに魔法が使えるようになりましたか?」


「周りの視野が狭くなった中で、相手がいつ来るのか分からないならこちらで機会を作ったほうがわかりやすいですしね。それにしてもなるほど魔法でしたか。道理で。」


シノトが頷いている間、テクノバーンが一足跳びに近づく。すると、それを読んでいたのか距離が半分に縮まったところで、シノトはその手に持った土をばっと目の前に蒔いた。


しかしテクノバーンが目の部分を腕でかばうことで、目潰しは失敗に終わる。次の一手は右か、左か。限られた視界の中で判断せざるを得なかったテクノバーン、その真正面からシノトは剣を振り下ろした。


ちょうど目をかばった腕の死角になる角度、最短の動きで振り下ろされたそれは、しかし目標に届く寸前でその獲物を取り逃がす。一瞬早い判断のおかげで、横に逃げたテクノバーンは難を逃れた。続く切り返す剣に、テクノバーンは自分の剣を盾にしてそれを防ぐ。


打ち合う剣に、一瞬両者の動きが止まるが、テクノバーンの腹部にシノトの足が腕の隙間を縫うようにして伸び、その体を浮かせた。


浮いたテクノバーンの腕を掴み、シノトはそのまま半回転して投げ飛ばす。ろくに抵抗もできず、しばらく上昇を続けたテクノバーンだったが、そのうちその体は落ちていく。落下点には、シノトが駆け寄っていた。シノトが剣を振りかぶり、落ちてくるテクノバーンに切りつけようと狙いを定めたとき。その耳に頭上からテクノバーンの声が届く。


「――――――ふわっと跳んで浮き上がり、ととんと弾んで羽になる―――。」


それが聞こえるが否や、嫌な予感がしたシノトはあわてて後ろに下がる。直後にシノトの陽炎をテクノバーンが両断した。シノトは距離をとったが、油断なく剣を構える。彼の目には、ふわふわと空に浮く逆さまのテクノバーンの姿が写っていた。


「身動きのできない空に僕を放り投げたのは良かったけど、時間をかけてくれたのは助かりましたよ。」


テクノバーンはそう言って微笑むと、再度シノトに迫る。さきほどと違い不規則な動きをする相手に、シノトの対応は少し遅れ始めた。先程までより更に予測のつかない動きまで混じり始めたテクノバーンに、シノトは歯噛みして―――――――一瞬の隙を突き、テクノバーンを地面に叩きつける。


体制を立て直させる気は、シノトにはなかった。叩きつけた剣が防がれるのを見ると、空いた手で腰から剣を抜き、滑るように振り下ろす。既に持っている唯一の剣でシノトの右手の剣を防いでいるテクノバーンに、その一撃を防ぐ術はない。


しかし、剣を振りきったシノトは逃げるようにその後、テクノバーンから距離を取っていた。違和感に従ったゆえの行動である。見れば、シノトの左手の剣は刀身が綺麗に無くなっていた。今までにどんな衝撃を受けても折れる兆候すら見せなかった剣がだ。まっすぐな断面は、それが何かで切られたことを意味していた。


「勇者殿、やはりあなたにはこれを使わなくてはいけないのですか。」


物憂げなテクノバーンの呟きに、気づけば彼も両手にそれぞれ剣を携えていた。片方はシノトも手にしているような、刀身が紫色の両刃の剣。だがもう片方に握られているのは、眩いばかりの黄金色を放つ刀身を持った剣だった。しかし一見はただ塗装されただけの剣、今までの経験ならそれはシノトに害を与えるはずはないのだが、それを見たときシノトは自然と鳥肌が立っていることに気づく。


「・・・・・・なんですかね、それ。一体どこから出てきたんですか?」


シノトはできるだけ声に震えが乗らないように努めたが、それにどれだけ効果があったのかはわからなかった。それをあざ笑うように、テクノバーンはゆっくりと笑みを深めていく。


「君を殺す剣です、それくらい知っていてもいいでしょう。そう、この剣は――――――聖剣って、言われているんです。」


テクノバーンの言葉には、なぜかどこかにしみじみとした感情が含まれていた。

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