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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第五十五話

ソーン国でも一番歴史の古い王都ローグ。長いあいだ変わることのなかったその歴史ある風景は、今や見るも無残なものになっていた。正門にほど近いところにあった建物はそのほとんどが原型をとどめておらず、今や土埃さえも立っていない。動く人の姿は驚く程少なく、今やその総数は片手で足りるほどでありそれ以外の人影は皆倒れていた。血を流しているものもいる。どちらにしろだが、彼らはもう二度と動くことはないだろう。その中でも数少なく、その二本足で瓦礫の山に立っていたリザルトは、ひと仕事終えたということで一息ついていた。


「隊長は随分と派手にやってるみたいだな。」


遠くで立ち上る新たな土煙を見て、どこか他人事のようにそうつぶやく。見ているだけで気が済むような質ではないのか、彼は向こうに行こうかとも考えていた。しかし命令で彼はここを離れるわけには行かず、行き場を失った足は自然と今もせっせと仕事をしている同僚のもとへ向かう。


「手持ち無沙汰みたいですね。暇ならこれ崩すの手伝ってくれますか?」


その身に似使わない巨大な鎚を繰り、この国の名所の一つでもある巨大な門の風通しをよくする作業をしていたチクキーは、リザルトを見とめるなり呆れたようにそんなことを零す。しかしリザルトは彼女のように大きな建物を壊すに適した獲物を持ち合わせてはおらず、作業に参加したところで大した差がないということは二人共分かっていた。それに現状時間がかかるとは言え、手が足りている以上それを手助けする気はリザルトにはない。リザルトがその旨を伝えようとしたところ、それを遮るように新しい人影がその場に新しく現れた。


「きつかった・・・・・・僕は魔法専門なんだから、肉弾戦は苦手なんだよ。」


その人影は、全身が真っ赤に染まっていた。少年の姿に見合わぬその姿は、しかしその原因となる血は少年のものではなく、少年が単にその手のことに手馴れていないせいであった。ブルータルという名前に見合わないかもしれないが、彼は人の拷問に適した人材ではあったが争いごとはあまり得意ではないようだ。


「おうお疲れ。しかし連中やけに逃げ腰じゃなかったか?人数が途中からぐっと少なくなったのは多分隊長の方に人数回されているせいなんだろうけど、どうにも今まで見た中で特に引け腰すぎてな。気味が悪かったぞ。」


しかしそうは言いつつも、リザルトもその理由に見当が付いていた。前の大戦で大々的に兵を失ったソーンは、当然のことながら兵が足りていない。前の戦争で優秀な人間が大勢死ねば、残った人間が前のものに見劣ることは必然的なことであった。しかしそれでもそのことを口にしたのは、気を緩め始めている子供たちの気を引き締めるためである。しかし注意のはずで言った言葉は思いのほか、落ちてきた彼らのもうひとりの仲間によって現実のものになったと知らされた。


「敵の増援だ。えらく気の入った奴らが来るぞ、気をつけろ。」


右目を隠す眼帯が特徴的な彼の名前は、ライズ。元は研究者であったが、今では勇者に選ばれた一人としてここにいた。周囲の警戒のため高いところにいた彼の言葉に、リザルトはため息をつく。


「まるで他人事だな全く。しかしもうそろそろ頃合だろ、技術者様は隊長呼んで来てくれ。俺は坊主と敵をもう少し食い止めておくから、手早く頼むぞ。」


「待って、私も参加する。」


リザルトがその言葉に振り向くと、ちょうど作業を終わらせたチクキーがそこにいた。思ったよりも早かったなとリザルトは感心したが、その時チクキーの後ろに見える巨門がひとりでに崩れ落ち、瓦礫の山に変わったのを見てその感想を取り消す。確かに立派だった巨門の姿はもはやどこにもなかったが、そのかわりそれ相応の瓦礫が山のように積み重なっている。勇者の体を持つリザルトたちならば何ら問題はないだろうが、普通の人間では飛来する矢を交わしながらこれを登るのは苦労するだろうことは容易に想像できた。


「おいおい、これ壊しすぎってやつじゃないか?俺達が撤退する分にはいいが、どうにもこれだと普通のやつらは登るので一苦労だぞ。」


「私にやり直せって言うの?」


「うん、まあ・・・・・・この際いいか。敵さん来たし、それ片付けたあとでまたな。」


ギロリと睨まれたことと、さらに街の奥の方から新たな人影がこちらに向かってくるのを見てリザルトはこの話を一旦保留することに決めた。一方で新たに現れた人影は、リザルト達の少し先で足を止める。


「我こそは戦士団員ツァリア!」


「同じく団員ヨルキュア!金の悪魔よ、きさまらに決闘を申し込む!」


現れたのは、巨漢の男二人組だった。リザルトと比べて少なくとも頭一個以上は大きなふたりは、肩に背負っていた巨剣を地面に下ろす。叩きつけたわけでもないのに地面に刺さったそれに恐怖を感じたのか、ブルータルが苦い顔をする。


「トラスタの守衛長みたい、なんでああいう人たちってたくさんいるんだろ。」


恐怖を感じたわけではなかったらしい。


「俺は嫌いってわけでもないが、それはともかくとうとう戦士まででてきたな。これは少しは気を引き締めないと、もしかしたら不覚を取るかもしれないな?」


「その口閉じて手を動かしてくれたら、そのもしかしてもなくなりますよ。」


リザルトはその場の年長者として鼓舞するためにそのことを口にしたつもりだったが、チクキーは面白くなさそうにそんなことを返していた。











軽くはない瓦礫の粒が嵐のように舞い、その中をシノトとテクノバーンが動き回っていた。不意に動きを止めたシノトがその勢いのままに剣を振り、嵐の中で瓦礫を弾きテクノバーンに打ち出す。一つ一つが普通の人間なら当たり所が悪ければ死ぬようなものばかりだったが、テクノバーンは何事もないかのようにその中を真っ直ぐに走ってくる。シノトが驚きを表情に表す中、その体で瓦礫の数々を弾いてきたテクノバーンは剣を振りかぶり、シノトもそれを受け止めようと刃の原に手を当てた。続けてくる衝撃、それにシノトはなんとか踏ん張る。だが直後に続けて襲った蹴りまでは受け止められず、また飛んでいく。シノトが止まるには、建物二つが土埃に変わる必要があった。


シノトは泥と砂利の粒にまみれながらも、まるで寝坊した高校生のように起き上がった。シノトが周りを見渡しても、そのテクノバーンの姿は見当たらない。注意を割きながら辺りを見渡すと、その目に映るのは元の形を保っていない建物たちばかり。民家もあっただろう、店のようなものもあったかもしれない、だが足元に生活の名残を感じさせるものが転がっているのを見て、シノトは眉をひそめた。ちょうどその時、シノトの少し向く先の方にテクノバーンが現れる。どこからともなく飛んできたとは思えないほどに軽やかな着地音を立てた相手に、シノトはため息をついた。


「もしかして、わざとですか?」


「なにが?」


楽しげに笑うテクノバーンにもう一度言おうとして、シノトはそこでそれが無意味だと気づき首を振った。二人の戦いで、もうすでに多くの建物が崩れていることは周りを見れば明らかだ。いくら隙を作るためとは言え、被害ばかりが増す現状ではあまりシノトに選択肢はなかった。


「お?」


シノトの雰囲気が突然変わったことに対するテクノバーンの興味も排除して、シノトは集中する。もちろんこれまで使わなかったところからなるべく避けたいことではあったのだろうが、これ以上の被害と天秤にかけてのことだったのだろう。その一振りこそを必殺とするため、両手で持つには少し短いその剣をさらに強く握る。


「これはこれは、やる気になってくれようで――――――」


言葉は途中で途切れた。テクノバーンが会話に気を遣う一瞬、それだけあれば十分。常識をはるかに超えたそれは人の反応できるものではない。油断の間を一瞬にして詰め、次のひと振りはまさに文字通り必殺。その剣は光となって影を切り落とす。


――――――だが、その結果はテクノバーンの片腕を深く斬りつけるだけにとどまった。しかもテクノバーンは怪我を痛がる様子を見せず、その表情には激しい怒りが現れている。


「――――――おまえ!」


「これをかわされると後がなかったんですが、さすがのあなたでも軽減が精一杯だったみたいですね。片手でも続けますか?」


もちろん、シノトはそれを望んでいた。そうでなければこんなに挑発的なことをわざわざ言わない。だがその挑発に乗りテクノバーンが剣を片手に立ち上がったとき、二人の間に割って入るものがいた。眼帯をつけた男――――――ライズは、シノトの方を向きながらテクノバーンの剣を持つ手を取る。


「来て正解だったぞ。さて隊長、一度撤退を。」


「・・・・・・・。」


テクノバーンは今にも飛びかからんばかりの形相だった。表情だけではない、シノトから見ても明らかに剣を持つ手に力が入っている。だが、テクノバーンはそれでも後ろに一歩下がった。


「逃がしませんよ。」


「逃げ切れないとこちらの計算が狂うんでね。それに俺、戦いは得意じゃないんだ。」


シノトは慌てて間合いを詰めたが、それとほぼ同時にテクノバーンを中心に土煙が立ち込める。ただの煙でないことは一目瞭然だった。少し先も見えないほどに異常に高密度であり、なによりも自然のものではない彼らの髪の色に染まったその煙にシノトは慌てて後ろに下がる。続き急いで煙の外に出たが、そこでテクノバーン達を逃がした事を悟った。慌てて周りを見渡すと、遠く向こうひときわ大きな音が聞こえる。


「向こうか!」


シノトは抜き身の剣を手に、門の方へ走っていった。

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