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狂ったリクツの絶対正義  作者: 狂える
二章 狂人は新しい夢を見た
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第五十四話

剣を向けられているにも関わらずテクノバーンは相変わらず余裕たっぷりに、シノトの手元で光る紫色の剣を見て笑った。


「何だ、やっぱりわかってたんですね。というかわかっててくれて安心しましたよ。」


「どういうことですか?」


「どういうって、魔食い石ですよねその剣。それだけが勇者の体を傷つけられる、僕達は随分と探すのに苦労しましたよ。」


シノトはそういったわけじゃないが、テクノバーンは勘違いしてうんざりとした顔をした。どうやら見つけるまで相当苦労したようだが、シノトは知る由もない。話はここで一旦終わったのか、テクノバーンもシノトの方に剣を向けた。


「前はチクキー殿がとどめを刺しましたが、今度はどうかな?君には期待していますよ。」


シノトがそれになにか言い返そうと息を吸って――――――そこで目前にまで紫色の物体が迫っていた。


シノトはぎりぎりで弾いたが、はじかれた剣は不思議な軌道を描いてテクノバーンの手元に収まる。魔法のようなその曲芸に舌を巻く暇もなく、シノトを続いて重い剣戟が襲った。鞭のように歪な軌道も、定規で一本線を引いたように力強くまっすぐな一撃も、シノトはかろうじてではあったが全て防いでいく。金属のぶつかり合う音が幾重にも重なり、しかしシノトはすぐに下がることはできなかった。子供がいたのだ。幸いなことに自分で見の危険を感じて逃げてはくれていたが、それでも安全なところまではシノトも自由な動きができずただ後手に回るしかなかった。


だが、そのうちその場をひときわ賑わせていた金属音が止んだ。それはただ決着がついたからではなく、単にテクノバーンが攻める手を止めたからだった。


「・・・・・・前は手加減してたけど、やっぱりいい腕してるよ君は。シェルとの手合わせでもここまでもたなかった。ここにくる以前はさぞ高名な戦闘集団に加わっていたんじゃないかな?」


「褒められても嬉しくないですよ。」


シノトはテクノバーンの動きに注意しながらも、後ろに下がる。しかし会話は挟まれても、気を抜く余裕はシノトにはなかった。


不意、一瞬で間を詰めたテクノバーンは横に剣を薙ぐ。だがこれにはシノトもしっかり反応した。クロノゴの時にも見せた、来るであろう剣の軌道に沿わせるように剣を降る。剣先に集中して、一回で決める――――――そしてシノトの世界は回った。


シノトにははじめ何が起こったのかわからなかった。それも当然、いきなり天地が暴れてもその理由なんて誰にもわからないものだ。だがテクノバーンが剣を握る反対の手に鞘を見たとき、そして軸足を横薙ぎに襲った衝撃の検討がついたとき、シノトは蹴りをまともに受けて吹き飛ぶ。シノトには普通の怪我が負えないためその衝撃こそ分からなかったが、耳に響く瓦解の音と土煙の向こうに見える部分的に照らされた箇所、体半分が埋まった石壁でそれがそれ相当のものであることを察した。


しかし土煙で向こうから見えていないからと、その時シノトは一瞬気を抜く。おかげで空を裂いて飛んでくる剣に反応するのがギリギリになった。ぎりぎり体を逸らしたことで難は逃れたが、顔の横に剣が突き立った時にはシノトも肝を冷やす。あわててシノトはいつでも武器を振るえるように体制を整えた。


しかし考えてみれば、武器をこんなふうにあっさり手放すものだろうか。普通の兵の前ならともかく、シノトには普通の武器は通用しない。そう簡単に変えのきく武器ではないはずなのだが、そこまでシノトが思ったとき剣はひとりでに抜け落ちる。手遅れだった、シノトが慌てて剣をつかもうとしたが、それをすり抜けて剣は煙の向こうに消えていった。


「外れたか。なかなか運がいいですね。」


煙が晴れていく向こうで、テクノバーンは無事なシノトの姿を見て笑みを浮かべた。しかしさすがのシノトもそれが安堵からくる表所でないことぐらいはわかっているらしく、すぐに立ち上がる。テクノバーンは、なぜだかシノトを待っていた。


「そうですね、俺はとても幸運です。これまでもそうでしたし、これからもずっとそうです。」


「そうだね、幸運だ。その幸運ついでにだけど、僕と一緒に来ませんか?」


意趣返しのつもりだったが、しかし返す言葉のテクノバーンの突然の提案にシノトは押し黙った。シノトはテクノバーンを値踏みするように眺め、その次には苦いものを口にしたかのような表情になる。当然といえば当然だった。


「俺、あなたにはあまりいい印象がないんですけど。」


「それはそうだろうね、なんせ初めてあってすぐに殺し合いなんてしたんだし。でもあれは国王様直々の命令でね、無視するわけにはいかなかったんだ。」


「今はそうではないと?」


呆れたような物言いに、テクノバーンは大仰に肩をすくめてみせた。


「評議員と国王様の総意としてここには来ているから、前よりも拘束力は高いね。でも君は手配されているとはいえ、この遠征は君を殺すためだけに実行されたものじゃないから、君を必ず殺さなくちゃいけないってわけでもないんだよ。」


テクノバーンがそういう間、ごく自然な動作でシノトは足元の手頃に砕かれた石を拾い上げる。テクノバーンが話終わった途端、その石はテクノバーンに飛んでいった。ほとんど無動作で投げられた石は姿を霞ませてテクノバーンの頭を砕かんと迫ったが、テクノバーンはさして苦もなくその石を弾き飛ばす。無表情のシノトに親しみを持たせるように、テクノバーンは笑った。


「答えをせかないでよ。それによく考えて、君が前の戦争で死ななかったのは相手が普通の人間で、しかも君の弱点も敵に知られてなかったからだ。いくら君とはいえこの条件抜きで今まで無事はありえない、君だってそこまで自分を過大評価しているわけじゃないだろ?賢い君なら、人一人にできる限界だって知っているはずだよ。」


「あなたたちを相手して一回生き延びたんです。ありえないということはないんじゃないですか?」


「じゃあいまここで死ぬよ。」


その瞬間、テクノバーンの笑顔は別の意味を持った。シノトは鋭敏に感じ取り思わず剣を握る手に力を込めたが、自分から動こうとはしない。しばらくの膠着状態の後、結局唸り声を上げたのはテクノバーンだった。


「召喚された君に黒人と縁なんてないはずだろ、なんで戦う?髪の色が似てるからって同情でもした?それとも一緒にいたあの子供になにか吹き込まれたとか?」


テクノバーンは理由らしきものを指折り数えようとしたが、すぐに思い浮かばなくなり開き直ってシノトに向き直る。直接聞かれたシノトは特に迷う様子も見せず、テクノバーンを真っ直ぐに見返した。


「人に平和をもたらすこと、それが今の俺の夢。あなた達が勝ってしまうと平和ではなくなるそうなんでね、理由なんてそれだけですよ。」


至極当然とばかりにそうのたまうシノトに、テクノバーンはため息を重ねる。


「確かに黒人達にとっては穏やかな世界じゃなくなる、それは確かでしょう。でもそれがどうしました?黒人がいなくなれば僕達は争う必要がなくなる、これって平和になるってことじゃないですか?」


「随分勝手な解釈ですね。一方的な平和なんて独裁的なものに過ぎません。俺も、そして俺にそれを願った彼女もきっと、そんな世界は望んでないでしょう。」


シノトのきっぱりとした言い方に、ついに諦めがついたのかテクノバーンは再び大きなため息をつく。次の言葉は、半ばうわ言のようだった。


「君とは仲良くなれそうだと思ったんだけどな。君も僕も、くだらない運命に縛られて人なんて殺すことになったんだ。」


「俺は俺の意思で殺しました。運命なんかのせいにはして欲しくありませんね。」


テクノバーンは気難しそうな顔をすると、今にも頭を掻きそうなくらい頭を振って考えを振りほどこうとする。さんざん悩んでいる様子にどのタイミングで飛び出そうかとシノトはにじり寄っていたが、テクノバーンは不意にその動きを止めた。シノトも警戒して動きを止める中シノトとテクノバーンの目が合う。シノトの目に映るテクノバーンの瞳には、彼らが初めて会った時のような輝きが取り戻されていた。


「そうか・・・・・・本当に残念だよ。」


その言葉に余韻を残すことなく、また一つ建物の壁に穴があいた。

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